ホーム > インタビュー&レポート > 「この作品は自分の人生の宝物になった」(唐田) 「この作品を経験して自分の今後が楽しみになった」(剛力) ダンプ松本の知られざる物語を白石和彌が総監督を務めて実写化した Netflixシリーズ「極悪女王」国民的アイドルとなった クラッシュ・ギャルズの長与千種とライオネス飛鳥を演じた 唐田えりか&剛力彩芽インタビュー
──女子プロレスラー役のオーディションには高いハードルがあったと想像しますが、どこに魅力を感じてオーディションを受けようと思われたんでしょうか。
唐田えりか(以下、唐田):私は、長与千種という人物に強く惹かれたのが1番の理由です。加えて、白石和彌監督や脚本の鈴木おさむさん、さらにはNetflixという場、全てに魅力を感じました。これは絶対、面白いものになるはずだと思いました。
──ハードルは感じなかった、と。
唐田:この役をやりたいという、シンプルな思いでオーディションを受けました。
──長与千種さんのことは元々ご存知だったのでしょうか。
唐田:当時のマネージャーさんに、私には長与千種役が合うと思うと言われて。過去のインタビューの記事などを色々調べていくうちに、長与さんを演じたいとすごく思うようになりました。
──剛力さんは、どのような思いでオーディションを受けられたのでしょうか。
剛力彩芽(以下、剛力):私は、鈴木おさむさんが企画・脚本で白石和彌が監督と聞いて、絶対面白いと思ったからです。また、ちょうど環境の変化があって、20代最後で撮影期間中に30歳になる節目の時でした。環境が変わって、何か新しいことに挑戦したい、今までやったことのないものに挑戦したいと思っていた時に、ちょうどこの話をいただきました。
──なるほど。
剛力:増量もトレーニングもありますし、条件もありましたが、挑戦するならここまで振り切った方が、やりがいもあるし楽しそうだな、と。
──楽しそうという思いが勝った、と。
剛力:勝ちましたね(笑)。
──増量もすごく大変だったと思いますが、プロレスに関することで何が1番大変でしたか。
剛力:私は食事ですね。
──食べることが?
剛力:食べることが大変でした。元々、小食な上に、カロリーの低いさっぱりした食べ物が好きだったんです。
──野菜とか。
剛力:そうですね。油を使ったものよりもおひたしとか油を使わない料理が好きだったんです。モデルをやる上ではラッキーだったんですが、今回はカロリーをとらなきゃいけなくて。それがすごく大変でした。
──たくさん食べなきゃいけないですしね。
剛力:最初は、なんでも食べられる。やったー!という感覚だったんですが、1週間ぐらいしか続かなくて。何を食べても同じ味が...(笑)。それに加えて私は運動が好きだったので、気持ちがトレーニングにばかりにいってしまって。でも、食べ続けないと運動で消費してるから痩せちゃう。食べなきゃいけないのが1番大変でした。
──アクションの練習は楽しんでできたんですね。
剛力:もちろん、大変なことはありましたが、楽しかったです。技ができるようになるとすごく嬉しくて。一方で、食事のハードルはなかなか高かったですね。
──食事の方が大変だったんですね。唐田さんもでしょうか?
唐田:私も食べるのは大変だったんですが、私はオンとオフ、気持ちの切り替えが大変でした。家に帰った後もずっとハイで。元々、切り替えが下手なんですが、夢の中でもプロレスをしてました(笑)。
剛力:わかる(笑)。
唐田:ベッドの上で、プロレスの試合中みたいに後ろにバンって手をついて起きたことがあって。夢を見てても疲れるなって思いました(笑)。
剛力:寝るのがめんどくさくなったよね?
唐田:なりました。気持ちが敏感だったというか、ずっとハイでした。
──試合のテンションで寝られなくなるのもありますし、歓声がずっと耳の奥に残りますよね。普通の状態では寝られないと思います。
唐田:私、姉さん(剛力)に「眠れないんです」って言ってましたよね。姉さんにいい香りのするものをいただいて、それを手に塗って、いつもその香りを嗅いで寝てました。
剛力:「リラックスできるよ」って。私はそういうのはあまりなかったんですが、試合のシーンの日は母親と電話でしゃべって発散するというか、テンションが高い時は多かったかも。喋り終わったら寝るんですけど(笑)。
──テンションが高くないとやってられなかったんじゃないかと思います。
剛力:アドレナリンが出まくってましたね。特に、試合のシーンは1日じゃ撮影が終わらないですから。
──そうですよね。
唐田:髪切りも1ヶ月かけて撮りました。
──そうだったんですね。あのシーンは、試合のテンションの中で、髪を切らなきゃいけないので、ゆりやんさんはもちろんですが、唐田さんも大変でしたよね。
唐田:エキストラさんが何千人もいてくださって、カメラの台数も、いつも以上に置いてあって。試合のシーンは常に緊張感がすごいのですが、あのシーンはその何倍も緊張感があって、失敗できない怖さがありました。もちろん私は髪を切ることも覚悟して準備していましたし、大丈夫だと思っていたんですが、少し気を抜いたら逃げてしまいそうな瞬間があったんです。
──そうなりますよね。
唐田:長与さんはいつも側にいてくださったんですが、そのシーンの撮影の時にダンプさんや鈴木おさむさんなど、いろいろな方が応援に来てくださってて。撮影直前、その人たちとひとりひとり握手をしてパワーをもらって「行ってきます」と言って臨みました。私は、そんな風にみんなのパワーをもらって、あの場に立てましたが、ゆりやんさんの方が意外と怖かったんじゃないかと思いました。
剛力:確かに。
唐田:失敗できないのはもちろん、凶器を手にしてるわけですから。彼女も、あのシーンが終わった後に、震えと涙が止まらなかったっておっしゃってましたが、本当にすごいシーンを撮りきったという感覚はありました。
──あのシーンも、最初に入る「これは私の、私たちの戦いの物語だ」というナレーションに繋がっていたように感じました。この作品は、女性たちが昭和という時代と戦う、シスターフッドの話だったんじゃないかと思いました。おふたりはあの時代やプロレスを体験して、どのように感じられましたか。
剛力:飛鳥さんは自分がやりたいプロレスができなかった葛藤や悔しさがあったと思いますが、それでも自分のやりたいことを貫こうとしていたと思うんです。貫くというのは難しいことですが、そういう姿はかっこいいと感じました。
──そうですね。
剛力:お芝居をしている時にどんどん輝いていくダンプと千種を見ていても、同じように感じました。どんな時代でも、自分のやりたいことを貫いている姿は美しいと思います。
唐田:姉さんは20代最後で挑戦したいと思っていて、ゆりやんさんもアメリカに行く前で。私もそうでしたが、この作品に出てる人全員が人生の一部を注いだ作品なんです。
剛力:確かにそうだね。
唐田:なかなかこんな現場には出会えないと思うんです。準備期間でも週5日トレーニングがあって、逃げる人がいてもおかしくないようなハードな練習だったんですが、それをみんな耐え抜いて、どんどん強くなって、仲間になっていく感覚がありました。この作品は自分の人生の宝物になったと思いますし、みんなからもらうものがたくさんありました。この熱量を持ったまま、自分も次のステージに行きたい、自分を更新していかなきゃいけないと思いました。
──まさに青春ですね。入団したばかりの頃からどんどんビジュアルもやることも変わって、お互いが成長していく過程に立ち会っていたように見えました。お互いや周囲の変化はどのように見てらっしゃいましたか。
剛力:みんな、いつの間にかできなかったことができるようになってるんです。負けず嫌いの人たちが集まってたので、できるまでやるんです。すごくかっこいいと思いましたし、こっちも影響を受けて、やりたいと思うようになりました。本当に成長させてもらったと思います。私たちは撮影前期、後期と呼んでるんですが、後期の方が、みんなプロレスラーらしくなってました。
唐田:そうでしたね。
剛力:空気が違ったよね? 改めて、みんなで頑張って撮影していこうという空気もあって、みんながお互いのことを見守って励まし合ってました。
──ある意味、皆さんが全日女子プロレスのレスラーになってたんですね。
剛力:部活というか(笑)。誰もがプロレスラーとして本気でやっているように感じました。
──飛鳥さんのプロレスの代名詞といえば、ジャイアントスイングですが、よくできましたよね。
剛力:唐ちゃん(唐田)が回ってくれたので(笑)。
──回る方も大変ですよね。
唐田:息が合わないと難しいですが、回ってしまえば、私は全部姉さんに任せていたので。
──そうですよね。任せるしかないですもんね。
剛力:最初の一回しがうまくできれば遠心力で回ってくれるんですけど、私の軸がしっかりしてないと、どんどん振り回されちゃうんです。
──あれは、絶対やらなきゃいけないことでしたもんね。
剛力:そうですね。飛鳥さんの得意技なので。飛鳥さんは平均回数10回で、最高回数25回なんです(笑)。
唐田:長与さんがめちゃくちゃ驚いてました。女優でこんなにできる人がいるなんて。レスラーの中でもほとんどいないのにって。
剛力:ありがたいですよね。それに挑戦させてもらえたことがすごいと思います。普通だったら、危ないから代役を立てることになると思うんです。
唐田:確かに。
剛力:ジャイアントスイングは、1回やったらしばらく休憩が必要なんです。目も回るし、エネルギーも必要なので。そういうところもケアして、回す前にもメンテナンスをしてくださって。撮影するまでの時間もちゃんと取ってくれるので、すごくありがたい環境だと思いました。
──アクションも演技も息が合うことは大切だと思いますが、アクションも演技と同じような感覚でしたか?
唐田:ほぼ同じ感覚でしたね。撮影しながら、レスラーの人も役者なんだと感じました。
剛力:通じるものがあるよね。
──マイクパフォーマンスなんて、特にそうですよね。
剛力:すごいと思います。リングの上で喋るのはすごく緊張します。
唐田:この間の後楽園ホールのイベントの時、すごく手が震えてて。黙ってる時はまだいいんですが、写真を撮る時にポーズを決めなきゃいけなくて。自分の手が震えてるのを見て、緊張しているのがわかりました。
剛力:震えてた!しかも、リングって360度見られてるじゃないですか。
唐田:それが怖いっていうのもありますよね。
剛力:映像ではカメラ越しだし、舞台でも基本的には正面しか見られないですから。後ろから見られる経験はあまりないんですよね。
──考えてみればそうですよね。
剛力:お客さんに後ろ側から見られることはないので。やっぱり違うよね。
唐田:違いました。
剛力:リングの上ってすごいなって。
──そんな風に女性たちが頑張ってるところを、敢えて言いますが、邪魔するのが村上淳さんと黒田大輔さん、斎藤工さんというあの3兄弟でした。憎たらしく感じさせる佇まいが、お3方とも素晴らしいと思いましたが、お3方との共演はいかがでしたか。
唐田:皆さんすごかったです。私は黒田大輔さんとのお芝居が1番多かったんですが、黒田さんはとても怖かったです(笑)。
剛力:怖かった(笑)。
唐田:お芝居の中でも何をされるかわからない怖さがありました。物を投げられたりもしました。
剛力:本番中に突然ですよ。
──そうだったんですか!? 黒田さんは、すごく優しそうなイメージがあるので驚きました。
剛力:優しそうなイメージありますよね。
──でも今回はすごく怖くて。ほんとに憎たらしかった(笑)。
剛力:おかげさまで、自然とムカついたお芝居ができました。黒田さんは、私たちの最初の試合でレフェリーをやってるんですが、3日間の撮影なのに、2日目で声を潰したんです(笑)。それぐらい、全部本気でやってくださるんです。
唐田:声潰れてましたね(笑)。
剛力:ちょっと出づらくなっちゃって。そんな可愛い一面もあるんだって(笑)。本気のエネルギーがすごくありがたかったです。後は、(斎藤)工さんがちょいちょい挟んでくるんです。
唐田:そうそう。「面白い変な走り方」みたいな。
剛力:ずるいんですよ。こっちはめっちゃ真剣に走ってるのに、急に笑える要素をぶっこんでくるので。笑うのを我慢してました(笑)。しかも、それをちゃんと白石さんもわかってて使ってるんですよね(笑)。
──使ってましたね(笑)。
剛力:あれはずるい。
唐田:ずるいですよね。
剛力:ムラジュンさんは静かに怖くて。いいバランスの3人でした。
唐田:ムラジュンさんが出てくると、急に空気が変わる感じがしました。
剛力:変わった!
──ラスボス感あったんですね。
唐田:そうですね。
剛力:すごい3兄弟だよね。長与さんもそっくり、ほんとにあんな感じだったっておっしゃってました。
──最後に、この作品を経験して、今も自分の中に残っていることを教えていただけますか。
剛力:プロレスをほぼ代役なしでやらせていただいて、俯瞰で見ることの大切さを感じて、お芝居に対する向き合い方が変わったと思います。プロレスにはお芝居と通じるものがあって、相手との対話や立ち方を考えるきっかけになりました。だからこそ、これから自分がどういうお芝居をしていくのか楽しみです。役者やプロレスだけじゃなくて他のことでも、相手や周りの人がいてくれて成り立つものだと思うので、コミュニケーションの大切さを改めて学びました。
──なるほど。
剛力:後は、純粋にプロレスを好きになりました。この作品をやるまでプロレスは、ほぼ見たことがなかったんですが、この作品を通してプロレスに興味がなかった方も興味を持って、好きになってくれたら嬉しいですね。私もファンになったので、さらに女子プロレスが盛り上がったら嬉しいです。
唐田:その時の自分の精一杯をぶつけまくった感覚です。ぶつけて跳ね返ってきたものが自分の中にたくさん残ってるように感じています。だから、今は自分のエネルギーがパンパンになってるので、これを次に自分が出会う作品にぶつけて、成長できたらと思います。役者人生の中でもこんな作品にはなかなか出会えないと思うので、姉さんと同じで、次、何に出会うか楽しみですし、この仕事をしていく楽しみを見つけられて嬉しいです。
取材・文/華崎陽子
(2024年10月 1日更新)
▼Netflixにて世界独占配信中
出演:ゆりやんレトリィバァ 唐田えりか 剛力彩芽
えびちゃん(マリーマリー) 隅田杏花 水野絵梨奈 根矢涼香 鎌滝恵利
安竜うらら 堀 桃子 戸部沙也花 鴨志田媛夢 芋生 悠
仙道敦子 野中隆光 西本まりん 宮崎吐夢 美知枝
清野茂樹 赤ペン瀧川 音尾琢真
黒田大輔 斎藤 工 村上 淳
企画・プロデュース・脚本:鈴木おさむ
総監督:白石和彌
監督:白石和彌(1~3 話)茂木克仁(4~5 話)
プロレススーパーバイザー:長与千種
脚本:池上純哉
主題歌:Awich「Are you serious?」(Sony Music Labels Inc.)
【作品ページ】
https://netflix.com/極悪女王
からた・えりか●1997年9月19日、千葉県生まれ。高校生の時にマザー牧場でスカウトされる。2015年、ドラマ「恋仲」第1話にゲスト出演し、女優デビュー。2018年、濱口竜介監督作『寝ても覚めても』で映画初主演を飾り、山路ふみ子映画賞で新人女優賞、ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞。『の方へ、流れる』(22)では、遠藤雄弥とダブル主演を務める。主演作『朝がくるとむなしくなる』(23)は、アジア各国でも公開された。第77回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した『ナミビアの砂漠』(24)にも出演。
ごうりき・あやめ●1992年8月27日、神奈川県生まれ。2008年から2013年まで雑誌「SEVENTEEN」(現「Seventeen」)専属モデルとして活躍。2011年にドラマ「大切なことはすべて君が教えてくれた」で本格的に女優デビュー。以後、ドラマ、映画、CM、舞台などで幅広く活躍。2024年は舞台「メイジ・ザ・キャッツアイ」で藤原紀香、高橋礼子とトリプル主演を務め、主演映画『私が俺の人生!?』が公開。10月5日よりレギュラーラジオ ニッポン放送「GaiXer presents 剛力彩芽は未来を編む 」がスタート。また、4度目の上演となる舞台「No.9-不滅の旋律-」が12月21日より開演。