ホーム > インタビュー&レポート > 「コミュニケーションについて もう1度考え直すきっかけになってほしい」 監督の長井龍雪、脚本の岡田麿里、 キャラクターデザインの田中将賀が集結し、 永瀬廉、坂東龍汰、前田拳太郎らが声優を務めたアニメーション映画 『ふれる。』長井龍雪監督インタビュー
──『ふれる。』というタイトルになったのはどういう経緯があったのでしょうか。
人と人とを繋ぐことを端的に表す意味の「ふれる」がまずあって、大まかな物語を決めた少し後で「ふれる」という生き物自体が出てきました。そこから、生き物の名前としての「ふれる」と、触れる、触るという動詞的な意味合いを両方持たせたかったので、岡田さんが「。」をつけたんだと思います。
──タイトルをつけるのは難しいイメージがありますが...。
(岡田さんと田中さんと)3人で作ってる作品は、岡田さんが最初に(仮)とつけていたタイトルが、そのまま(仮)が取れるパターンが多いですね。
──『空の青さを知る人よ』も『心が叫びたがってるんだ。』もですか?
そうですね。
──そう考えると、『ふれる。』というタイトルはすごくシンプルですよね。
青春3部作が終わって、少し違った雰囲気の作品にしようと思っていたので、その辺りも加味して岡田さんがつけてくれたんだと思います。
──今回は東京が舞台になっています。
東京というよりも上京というキーワードが最初でした。秩父が舞台のお話を1回閉めて、次は何をしようと。自分たちも3人とも地方から上京して仕事をしているので、それと絡めて。じゃあ、上京してみようか、と。すんなり東京に決まりました。
──東京を舞台にすることで難しかったことや、逆にやりやすかったことはありましたか?
人の多さも含めて、改めて情報量の多い町だと感じました。のどかな秩父の風景とはガラッと変わって。ただ、取材はやりやすくなりました。より身近な場所になったので、高田馬場周辺は何度もスタッフ一同でぐるぐる歩きました。
──ロケーションからはどんなことを感じられたのでしょうか。
冒頭の走り回るシーンは、歩き回って「ここら辺かな?」と言いながら、「川が多いから落としてみるか」というように、現場を見ながら考えていきました。
──上京がキーワードになったことに伴って、大人の男性が主人公になったということでしょうか。
そうですね。あとは、オーダーされなくなったというのもあります。アニメのメインターゲットは10代だというのが根強く残っていて、以前までは主人公が高校生でというオーダーが多かったんですが、最近はあまり言われなくなったんです。そして、前の作品が高校生と30代だったので、間にしてみようと。
──青年3人をメインにしたことで挑戦できたこともあったのでしょうか。
飲酒できる年齢というのもテーマでした。劇中、お酒を飲むシーンがあるんですが...。
──バーのシーンがすごく新鮮でした。
今まではそういう場所に行ける主人公ではなかったので。お酒を飲める場所の雰囲気やお酒を飲んでちょっと楽しくなってるところは、楽しく描けました。それと、3人の共同生活は思った以上に描いてて楽しかったですね。僕も田中さんも岡田さんも、上京してすぐの頃にみんなルームシェアをしていた経験があって。その頃のことをみんなで思い出してたら、楽しかった思い出がどんどん出てきて。それが反映されていると思います。
──秋の声優を務めた永瀬廉さんですが『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』の時とは全く違う声で驚きました。
「さすが」としか言いようがないです。役柄に合わせて自分で研究して声を当てていくのが抜群にうまかった。
──世を拗ねてるような雰囲気もすごく出てました。永瀬さんも含めて3人ともオーディションで選ばれたんですよね。
はい。永瀬さんはオーディション原稿をすごく読み込んでくれて、細かいニュアンスの拾い方が最初から上手かったです。
──誰が誰の声をやってるか認識せずに見たんですが、エンドロールを見るまで坂東さんの声がわかりませんでした。坂東さんと諒のキャラクターもあまり一致しなくて。
意外とプライベートの印象は一致してるように感じます(笑)。最近、やってらっしゃるシリアスなドラマを見てる方は坂東さんのこの面はなかなかイメージにないかもしれないですね。でも、オーディションでは最初からこういう感じで当ててきて。
──そうなんですね。
どういうものが求められてるのかをちゃんと考えて、自分なりの答えを持ってオーディションに挑んでくれました。坂東さんもすごくうまかったですね。
──前田さんはお3方の作品がすごく好きで、研究してオーディションに臨まれたとお聞きしました。
めちゃくちゃ研究してました。しかも、ご本人がおっしゃってたんですが、いわゆるアニメにおける優太くんみたいなポジションのキャラが他にどんなのがあるか調べて、どういう感じでお芝居するのか研究されたみたいで。僕も驚きました。
──コロナ禍を経て、ひとりずつ声をあてる現場もある中、今回は3人でアフレコをしたとお聞きしました。
忙しい方たちでしたが、なるべく3人で一緒にとお願いしてスケジュールを合わせてもらいました。
──それは、3人の空気を作ってほしいという意図だったのでしょうか。
そうですね。この3人が仲良く見えないことには、この話は始まらないので。リアルな部分から3人の仲がいい空気を出してもらうために、そういう場を作らせてもらって。思惑通りと言ったら変な話ですが、3人ともすごく仲良くなってくれて。初回の収録の時からすごくいい空気でお芝居してくれました。
──そんな空気が作品からも伝わってきました。
最後の方、秋が叫ぶ場面があって何テイクかやっている時に、「3人で確認させてください」ってブースから出てきて。永瀬くんの芝居を聞いて、ふたりが「いいんじゃないの」って。部活をやってる男の子みたいな雰囲気で。見てるこっちが嬉しくなっちゃうぐらいの楽しい雰囲気でした。
──3人は幼馴染という設定ですもんね。
リアルで幼馴染なんじゃないかと思うぐらいでした。それは作品の中に全部詰まってると思います。
──物語の大体の流れは監督と岡田さん、田中さんの3人で作られているのでしょうか。
大枠は岡田さんが出してきて、それをみんなで見ながら意見を言い合って、岡田さんに拾ってもらって、また広げていくという流れですね。今回は、最初に岡田さんが出してきた共同生活する3人の男の子というイメージから始まって、意見を言い合ってそれを広げていきました。
──「ふれる」という生き物についても?
最初から岡田さんの中にイメージはあったんですが、みんなで話すうちに象徴としての「ふれる」という生き物が出てきました。
──「ふれる」という生き物が出てきて、世界に異変を起こすようなことも想像しました。
最初から、秋と「ふれる」の繋がりを強調したいと思っていたのもありますが、この映画は3人の話で、世界をどうこうする話は出てこないんですよね。上京、東京と謳ってますが、新宿区からあんまり出ないですし(笑)。
──そうですよね(笑)。
こじんまりまとまってしまうのは、ある意味持ち味なのかな、と。
──終盤のグラウンドのシーンはすごく印象的で、想像を広げる描写だと思いました。どのようにイメージが沸いてきたんでしょうか。
高田馬場周辺を本当にぐるぐる回って歩いて、落合中央公園へ行った時に、こんなところでこんな風になったら面白いよねというアイデアから始まりました。
──実際の場所で。
そうですね。照明の写真をいっぱい撮って。あのシーンはビジュアルイメージから入りました。
──「ふれる」のビジュアルもすぐにイメージができたのでしょうか。
「ふれる」の形自体は、「ふれる」には触れない、触れたら痛いものというのと、針のイメージでした。後は、心理学用語の"ヤマアラシのジレンマ"(人間同士が互いに仲良くなろうと心の距離を近づけるほど、互いに傷付けあって一定距離以上は近付けない心理を指す)という言葉と、トゲトゲのイメージが出てきて。すると、田中さんが打ち合わせの最中に「こんな感じ?」とすらっと描いてくれて。それがそのまま「ふれる」の形になりました。
──繋がるというアイデアは、どのように生まれていったんでしょうか。
最初はもっと単純なテレパシーみたいな話だったんです。そこから、アクション要素のように使えないか、と。そうしたら、感情も伝わるんじゃないかという話からどんどん膨らんで。結局、コミュニケーションの話になっていくのは、今まで作った作品もそういうテーマでしたし、そこに興味があるからだと思います。
──言葉でコミュニケーションすること自体が減ってますもんね。
2019年に前作が公開された後すぐにこの企画が始まったんですが、打ち合わせが密になり始めたら、一気にコロナ禍になってしまって。対面の打ち合わせがどんどん減って、リモートになって。リアルに何かを伝えることがどんどん希薄になっていった感覚が作品の中に入っていったと思います。
──今回も3人でお作りになられましたが、次も3人でと思ってらっしゃいますか?
やらせていただけるなら、いつまでもと思っています。構えずに仕事ができる3人なので。何も言わなくても、次あったらいいね、という気持ちはあります。『ふれる。』に関しても、やろうと決めて始まってないので。
──そうなんですね。
「次、どんなのやりたい?」という話をしていたところに、ちょうど映画関係者の方がいらっしゃって「是非やりましょう」と仕事になったので。3人とも別々に、いろんな仕事をやってますが、いつでもまた戻ってこられる感覚です。
──ある意味、お3方も幼なじみみたいですね。
そうですね(笑)。離れたとしても友達だから、関係性は変わらないという感じで続けていけたらいいと思ってます。
──小学生から大人になっていく中の環境の変化で、友達と離れていく時は絶対あると思うんです。でも、その過程を、ある意味肯定してくれる作品でもありますよね。そこには、監督と岡田さん、田中さんの関係性も入ってるんだと聞いていて思いました。
そういう気分も入ってると思います。この作品は、自分たちもコミュニケーションについてもう1度考え直すきっかけになりましたし、お客さんにもそういうきっかけになってくれたらと思う作品になりました。
──監督自身も考え直すきっかけになったと。
実際、僕がこんな風にできるかと言えばできないですが(笑)。でも、建前は大事だと思ってるタイプなので。本音をぶつけ合ってたら、ただの喧嘩にしかなりませんから(笑)。
──わかります(笑)。
本当に仲の良い友達でも、たまに心を開いて話すのはとてもいいことだと思います。それがたとえファンタジーだとしても、コミュニケーションはとった方がいいと思ってみんな過ごしてほしいと思います。
取材・文/華崎陽子
(2024年10月 3日更新)
▼10月4日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:永瀬廉、坂東龍汰、前田拳太郎
白石晴香、石見舞菜香、皆川猿時、津田健次郎
主題歌:YOASOBI「モノトーン」
監督:長井龍雪
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン:田中将賀
【公式サイト】
https://fureru-movie.com/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/314644/index.html
ながい・たつゆき●1976年1月24日生まれ。2000年にアニメーション業界入りをし、フリーランスで活動している。『ハチミツとクローバーII』(2006)で初監督。『とらドラ!』(08)で脚光を浴び、2011年に自身初となる完全オリジナルアニメーション『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で芸術選奨新人賞メディア芸術部門を受賞。2013年に映画化され、『心が叫びたがってるんだ。』(15)とともに大ヒットを飾る。『あの花』『ここさけ』と、2019年に公開された『空の青さを知る人よ』を含めた青春三部作が完結し、今作は5年ぶりに公開される新作のオリジナル劇場アニメーションとなる。