ホーム > インタビュー&レポート > 柚月裕子の警察ミステリー小説を杉咲花主演で映画化 萩原利久、豊原功補、安田顕ら豪華俳優陣もキャストに名を連ねた 映画『朽ちないサクラ』原廣利監督インタビュー
──原監督と言えば、5月に『帰ってきたあぶない刑事』が公開されて、6月に本作が公開されますが、2ヶ月連続で監督作が公開されるんですね。
ありがたいですよね。ほぼ同じ時期、2021年の12月ぐらいにオファーをいただきました。こんなありがたいことはなかなかないなと。ずっと撮影しては編集して、みたいな感じでした(笑)。
──映画を拝見してから原作を読みましたが、原作の要素が全て入っていたように感じました。オファーを受けて、原作を読んだ時はどのように感じられましたか。
僕は小説を読むのに時間がかかる方なんですが、『朽ちないサクラ』は1日で読めたんです。次がどうなるのかずっと気になって一気に読みました。
──すごくわかります。
その感覚が忘れられなくて。公安の裏がわからないのがすごくいいと思ったんです。不穏な空気が漂ってることが文字から伝わってきて、これは映画にしたら、スピーディーで重厚なサスペンスミステリーになるだろうと思ったので、やってみたいと思いました。
──読んでいる時に具体的な映像は思い浮かんだのでしょうか。
小説だと桜の描写がありませんが、読んだ時に、絶対桜を撮りたいと思ったんです。桜の映像を混ぜ合わせて、泉の心情とともに桜がどんどん咲いて、いつの間にか桜=公安というか、それに囲まれてるように見せたいと。桜はすごく綺麗なものだけど、泉にとっては違って見えることが表現できれば、作品として奥行きが出ると思ったので、桜の描写を入れたいと強く思いました。
──最初は蕾で、徐々に芽吹いて、咲き始めて、満開を迎える桜が随所に挟まれていたのが印象的でした。CGではなく、リアルな桜を撮るのは難しかったのではないかと思いますが...。
桜は全部本物です。CGは一切使ってないです。
──ほんとですか?
はい。もう桜の花びらですらも本物です。
──すごいですね。さすがに少しは使ったんじゃないかと思ってました。すみません...。
夢のシーンに桜の木が出てきますが、あれも本物なんです。引きは全部本物で、カットバックの時、後ろがちょっとだけ白くなってて、ほぼボケてるんですが、あれはCGです。ほんとに少し足したぐらいです(笑)。
──それはすごいですね。
桜を撮るためにスケジューリングしてもらいました。2023年は暖冬だったので桜の開花が早まってしまったので、スケジュールを組み替えて撮影しました。
──特に、桜がある川辺のロケーションが素晴らしかったです。先ほど監督がおっしゃった、桜=公安のイメージそのものでした。
その中を泉が進んで歩いていく姿を撮りたいと思ったんです。あそこは、僕もすごく好きなシーンです。
──公安という言葉は聞いたことがあるけど、何をしてるところかよくわからないというのが正直なところでしたが、本作を観て公安の怖さを感じました。
僕も、原作を読んだ時に見えない存在という部分が怖いと感じました。フィクションなんだけど、すごくリアリティがあって。そういうところも映画にしてみたいと思ったところです。
──その怖さをまさに体現するのが、安田顕さん演じる富樫です。安田さんはたまに怖い役もありますが、基本的にはいい人の役が多いですよね。本作でも最初は、すごくいい上司っぽい。この怖さは、観直してもらうことを想定して撮ってらっしゃったんでしょうか。
2回、3回観たらもっと面白いと思います。あんなことやってたんだと気づくこともあると思うので。
──そうですよね。
そこは、安田さんと裏のルールみたいのものを決めていました。富樫はどういう人間だとか、ミスリードをいかに敷いていくか。怪しい人ではなく、いい人として出していこうと。そこは意識してました。
──豊原さん演じる梶山との対比がすごく巧みでした。梶山はわかりやすい捜査一課の刑事で、富樫はちゃんと部下のことも考えている優しい上司という。そういうバランスみたいなものは考えてらっしゃいましたか?
実は逆なんですけどね(笑)。梶山がすごくいい人で、富樫は...。撮る上では、もちろん考えていたんですが、あんまりやりすぎるとバレるなって(笑)。でも、なんとなくバレてませんでしたか?
──なんとなく、ですが。富樫は優しいだけの人じゃないな、と。
少し感じてもらうのはいいと思いましたが、あんまり出しすぎてもよくないとは思ってました。とはいえ、豊原さんにはそういう役がすごく合うと思ってたので。
──そう思われたきっかけはあったんでしょうか。
僕が印象深かったのは、BABEL LABELの藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』での、舘(ひろし)さんと対峙する現代のヤクザ役ですね。すごく怖かったのを覚えてます。
──確かにあの役は怖かったですね。BABEL LABELと言えば、監督が所属するきっかけは何だったのでしょうか。
藤井さんとは日芸の映画学科で先輩、後輩の仲で、一緒に自主映画を撮ってました。卒業してから藤井さんはフリーで、僕は会社に入って。でも、家が近かったので、よく飲み行っていて、「僕も自主映画撮りたいから会社辞めます」って言ったら、「じゃあ一緒にやろう」って。そこからBABEL LABELが始まった感じです。
──藤井監督と本作について、何かお話はされましたか?
相談してました。圧倒的に経験のある人なので、商業映画を撮る時にどういう思いで撮るのかなど、先輩として聞いていました。
──藤井監督の映画は観てらっしゃいますか。
『青春18×2 君へと続く道』は観ました。素晴らしかったです。すぐにLINEしました。清原(果耶)さんとシュー・グァンハンさんがすごく良くて。本当にあのふたりに恋しそうになりました(笑)。
──わかります!本作の杉咲さんもすごく良かったです。今回は、あまり感情を表現しない役柄だったと思いますが、杉咲さんとは泉という役についてどのような話をされたのでしょうか。
泉は親友が亡くなってるので、軽々しく言葉を発したり、全てを表に出しづらいと。出したくないではなくて、泉の気持ちとしては出せないと思うんです、と。僕は少し心配していたんですが、いざ撮影になったら、すごくしっかり表現できていて。その後もふたりで話して、敢えて台詞も言わない方がいいんじゃないかとか、リアクションだけでいいとか、杉咲さんはそういう調節を丁寧にしてくれました。素晴らしい役者さんだと思います。
──杉咲さんも安田さんも、言葉で語らない心情描写が多かったと思うんですが、おふたりにはどのようなお話をされましたか。
僕はおふたりに目線の使い方を意識してほしいと思っていたんですが、それはおふたりとも言わずもがなで出来ていたので。監督の頭の中にキャラクターのイメージはあった方がいいと思うんですが、それはあまりはめこまないようにしてます。まず、俳優部が感じ取ったものの中でどういう芝居が出てくるか。それを見せてもらってから、色々話す方がいいと思っているので。
──現場の空気とか...。
そうですね。いろんな人と芝居して空気感を作っていくことが大事だと思いますし、それでガチガチになりすぎると独りよがりになってしまう可能性もあるので。みんなで作っていく感覚を大事にしたいと思ってます。
──萩原さんは磯川にぴったりでした。
好青年の役がすごく似合うし、いやらしくないんですよね、利久くんは。
──そうなんですよ。泉との先輩後輩の関係の中でも、磯川が好意を持ってるだろうというのはわかるんですが、そこにいやらしさがないというか。
ないんですよね。すごく爽やかで好感が持てますよね。
──泉と磯川には、いつか一緒に歩めたらいいなと心から思いました。
そうなんです。"いつか"でいいんですよね。今じゃなくていい。
──だから、ふたりのそういう関係を見せなかったことが、すごく嬉しかったです。
ああいう時に、そういう関係が目に入っちゃうとノイズになっちゃうんですよね。
──わかります!本作はジャンル分けするのが難しい作品だと思いますが、何か参考というか、頭に思い描いてた映画はありましたか。
うーん...。あんまり似たような作品もなかったですが、プロデューサーの遠藤さんと話していたのは『殺人の追憶』ですね。真実が見えない、わからない感じが。ポン・ジュノ作品で言うと『母なる証明』も、最後までわからない怖さがありますよね。それを真似したわけではなく、なんとなくのトーンのイメージはあったかもしれません。
──『帰ってきたあぶない刑事』は踏襲するものがあったと思いますが、本作はそういう踏襲するものは何もない状態で作られたと思います。どういう思いで作ってらっしゃったのでしょうか。
僕は、基本的に作る時は何も参考にしないようにしてるんです。参考にしてしまうと、真似みたいになってしまうので。『帰ってきたあぶない刑事』も、基本的にはファンムービーですが、今までの作品よりは絶対に面白くしたいと思ってました。
──めっちゃかっこよかったです。
ありがとうございます。絶対に負けたくないと思ってたので。だから、参考にしすぎないようにはしてましたね。映画を撮っている時は他の作品を観ないようにしていて。撮影中は絶対に観に行かないですが、撮影に入る前もあんまり行かないようにしてます。引っ張られたくないんですよね。
──そうなんですね。
編集中もなるべく観たくない。編集中だったらギリギリ、本当に観たい作品があったら観に行きますが、避けるようにはしてます。潜在意識を入れたくないんです。今は、この作品と向き合ってるという感覚でいたいので。
──なるほど。劇中、山道を下っていくカーアクションは原作にはなかったと思います。あのシーンで映画に動きが出たように感じました。
『朽ちないサクラ』の原作の良さは、それぞれの会話に面白さがあることだと思うんです。でもそれは文字で表現する小説ならでは。僕はエンタメが好きだから、映像にするなら人が動いたり、物語、映像が動かないと盛り上がってこないというか。泉が真相に迫っていく姿とシーンバックして見せ場になれば、より後半に効いてくると思ったので、あそこは敢えて足そうと思いました。
──警察署の屋上で話すシーンが多かったですが、あれも屋上だったからこそいいシーンになっていたと思いました。ずっと屋内だとやっぱり...。
会議室だと息が詰まるんですよね。そこも原作は文字だから想像できるんですよね。やっぱり室内のシーンが多くなるので外に出たいと思って、敢えて屋上で話すことにしました。
──原作では、居酒屋さんやお店で話しているシーンも多かったですが、映画では移動しながらや外のシーンが増えていました。
そこは意識してました。今で言う"映える"じゃないですが、芝居と画がリンクしてる方が僕は好きなので、"映え"を探してるところもあるかもしれません。画になるところで撮る方が絶対的にいい作品になると思っているので。
──オープニングの殺人のシーンも原作にはなかったですが、あのシーンを入れたのもそういう意図があったのでしょうか。
あれは、この物語を語る上で最初につかみたいというか、お客さんに「これなんだ?」と思ってもらって、不穏な感じを出しつつ、そこから物語を始めたいというのは強く思ってました。オープニングにインパクトがほしかったので。
──女性が主人公の映画を撮るにあたって、何か意識したことはありましたか。
僕は単純に、女性が主人公の作品が好きなんです。異性なので、僕にはわからないというか、自分とは違う。それがどうやったら見えてくるのか毎回追っているような気がしていて。男性を撮る面白さももちろんありますが、女性を撮ってる方が探求心をかき立てられるのかもしれません。男性の気持ちはわかるけど、女性はわからないこそ追い求めたくなるというか。すごくやってて楽しいです。でも、両方楽しいですけどね(笑)。
──ちなみに、本作には続編もありますが...?
どうなんでしょうね(笑)。あるといいですね(笑)。
──泉のこの後がどうなっていくのか見たいと思うラストになってました。
僕としては、あんまり意識してなくて。『朽ちないサクラ』は『朽ちないサクラ』でちゃんと完結させたいと思ってたので。それがどう続くかは...(笑)。
取材・文/華崎陽子
(2024年6月18日更新)
▼6月21日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:杉咲花
萩原利久 森田想 坂東巳之助
駿河太郎 遠藤雄弥 和田聰宏 藤田朋子
豊原功補
安田顕
原作:柚月裕子「朽ちないサクラ」(徳間文庫)
監督:原廣利
脚本:我人祥太 山田能龍
【公式サイト】
https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/322475/index.html
はら・ひろと●東京都出身。日本大学藝術学部映画学科監督コース卒業。2011年BABEL LABEL加入。ドラマ『日本ボロ宿紀行』(19/TX)では監督に加え撮影監督を務める。以降、『八月は夜のバッティングセンターで。』(21/TX)、『真夜中にハロー!』(22/TX)『ウツボラ』(23/WOWOW)などを演出。商業映画監督第1作『帰ってきた あぶない刑事』が公開中。