ホーム > インタビュー&レポート > 「いつだって願いという最大の魔法は、自分の内側にある」 ディズニー100周年を記念したミュージカル・アニメーション 映画『ウィッシュ』ヒロイン・アーシャ役日本版声優 生田絵梨花インタビュー
──ディズニー100周年記念作品である本作でヒロイン・アーシャの声を務めることが決まった時は、どのように感じられましたか?
ディズニー映画の吹き替えをやることはずっと私の夢でした。100周年という節目の作品であることに加えて、私も普段、星を眺めることや星に願うことを大切にしているので、この作品に携わりたいと強く思っていました。決まったと聞いた時はすごく嬉しかったのですが、サプライズで発表を聞いたため、あまりの嬉しさにフリーズしてしまいました(笑)。
──普段から星に願いをかけてらっしゃったんですね。
そんな綺麗な感じではなくて(笑)。夜空や星を眺めるのが好きで、自分が煮詰まった時に綺麗な星を見に行きたいと思って出かけることもあります。星は普遍的なものだから、いつもそこにある。星に願っても叶うわけではないですが、星を見るだけで気分をリセットできるんです。誰にも言いたくない気持ちを抱えている時などは特に、星を眺めることで自分と向き合う時間を作っているんだと思います。
──元々、ディズニーの作品はお好きだったのでしょうか。
小さい時からずっと見ていましたし、歌も大好きでした。その頃は夢を見させてもらっているという感じでしたが、自分がミュージカルに出させてもらえるようになってから、こういう仕事があるんだと知って。共演者の方がディズニーの声優をやってらっしゃったりしているのを見て、自分もいつかやれたら、と目標になりました。
──生田さんが以前、テレビの番組でディズニーの歌を歌ってらっしゃったのを見た記憶があるのですが...。
ディズニーの楽曲を歌番組で歌うのもひとつの夢でしたし、歌い手としてすごく憧れがありました。初めて歌わせていただいたのが「パート・オブ・ユア・ワールド」でしたが、それが5年ぐらい前です。今年の夏にはディズニーシーのマーメイドラグーンで歌わせていただいて。だから、「パート・オブ・ユア・ワールド」には特に思い入れが強いですし、『ウィッシュ』まで連れてきてもらったような感覚もあります。
──5年前から繋がっていたんですね。本作では、台詞が入っている歌をはじめ、難しそうな曲ばかりでしたが、歌ってみていかがでしたか?
歌詞も、台詞が音にのっているような感覚だったので、しゃべっているような歌い方ができればと思っていました。これまではずっと、譜面の音符を見て音をとっていたんですが、今回は音符に囚われずに、いかに自由に歌えるか、テンポやリズムを揺らせるかという方が楽曲にとって大事だと思ったので、譜面を見ずに耳だけで音をとる練習をしました。
──普段とは違う方法で歌うということは、ある意味チャレンジだったということでしょうか?
慣れている方法とは違ったので、そういう意味では新しい試みではありましたが、発見もありました。こっちの方がよりナチュラルに心情のままに歌えるように感じて楽しかったです。
──ナチュラルに心情のままに歌うというのは?
『ウィッシュ』の譜面は、アリアナ(・デボーズ)さんが歌ったものを譜面におこしたものなんです。でも、アリアナさんはその譜面通りに歌っているというよりも、ご自身の感受性やグルーブ感を大事にして歌ってらっしゃるんです。それを思うと、こうでなければいけないとかこれが正解だと決め込むのではなく、自分がどう感じて、音の中でどう語るかを大事にしたいと思ったんです。音符や音程に囚われすぎると自由がきかなくなると思いました。
──公開に向けて、テレビやイベントなどで生田さんが歌ってらっしゃる姿を拝見しますが、毎回、違っていることもあるのでしょうか?
あると思います。最近は、その瞬間にしかない歌が歌えたらと思っているので、大幅には変わりませんが、ちょっとしたため方や、言葉のスピード感は番組や場所ごとに違うと思います。
──「ウィッシュ~この願い~」では、「~あきらめることは~ない」と断言する部分がありますが、あの部分を歌うのはすごく難しいように感じました。
「~あきらめることは~ない」という部分を皆さんがカラオケなどで歌う時は、タイミングは私の通りじゃなくていいと思うんです。自分の気持ちいいタイミングで、すぐ言ってもいいし、めっちゃためてもいい。そういう自由さがあるのは、今回の楽曲ならではで、ジュリア・マイケルズさんの音楽の特性が反映されているように感じました。
──アーシャの歌は、今までの生田さんの歌声のイメージとは違って、低い声の歌もありました。
私は元々、低い声が得意ではなくて。アーシャをやりたいと思って練習していくうちに出るようになった音域があって。自分の声に新たな発見がありましたし、成長させてもらえました。アーシャは深い優しさやエモーショナルな強さが必要なので、その声色を課題にして、オーディションまでボイトレをしていました。
強く強くと思うと力みになって堅い声になってしまうのが、アーシャの歌の難しいところで。アーシャに必要なのは伸びやかさや解放感だと思うので、ただ強いだけでなく、伸びをどうやって出していくのかが難しくもあり、たくさん研究したところでした。
──本作では、デュエットやアンサンブルで歌う曲もありましたが、そちらはいかがでしたか?
ひとりずつのレコーディングだったのですが、私は最初の方で。まだ他の方が声を入れてない状態で歌っていたこともあって、完成した曲を聞いた時は純粋に感動しました。後でスタッフさんに聞くと、福山さんとデュエットした「輝く願い」という楽曲は、福山さんが私の声を聞いて、どうしたらこの声に対して寄り添えるのかと考えて、早く切ったり、伸ばす音を調整したり、ミュージシャンの耳ですごく緻密に計算してくださったそうなんです。だからこそ、こんなに感動するんだと感じました。
──別録りとは思いませんでした。息ぴったりに歌ってらっしゃるので驚きました。
キングが合わせてくださいました(笑)。
──福山雅治さんのヴィランぶりには驚きましたが、生田さんはどのように感じられましたか?
福山さんの声の深さや低音域によって、ヴィランの怖さや嫌な感じがしっかり伝わってきました。怖さもありますが、きっとみんな好きになっちゃうキャラクターだと思います。それは、王のキャラクターもありますが、福山さんだからこそだと思います。
──完成披露の時に、福山さんは声が枯れたとおっしゃってましたね(笑)。
動き過ぎて筋肉痛になったともおっしゃってました。
──筋肉痛ですか(笑)? やはり、声を録る時は動いた方が声を出しやすいのでしょうか?
私は、声が出しやすいというよりは、心情やテンションをリンクさせようとすると、勝手に身体が一緒に動いちゃうんです。台詞も表情筋を同じように動かして収録していました。
──アーシャは、周囲の人を大切に思う普通の活発な女の子のように感じました。生田さんはアーシャのキャラクターをどのように感じられましたか?
すごく親近感を持てるキャラクターですよね。みんながアーシャになれるような存在だと思うし、だからこそ、100周年のヒロインに選ばれたんだと思います。アーシャは、特別な能力を持っているわけではないし、特別な魔法をかけてもらうのでもないんです。いつだって願いという最大の魔法は、自分の内側にあるというメッセージが、作品からもキャラクターたちからも存分に感じられると思います。
──確かに、アーシャには特別な力があるわけではなかったですね。
スターも魔法はかけてくれますが、願いを叶えてくれるわけではないので。現実の世界でも自分の願いを自分だけで持っていても、すぐ挫けてしまったり自信が持てなかったりしますよね。そういう時に、誰かに願いを伝えたり、応援してくれる存在が周りにいることが、願いを叶える上で大切なことだと思うんです。その象徴がスターだと思いますし、この作品自体がそういう存在になっているんじゃないかと思います。だから、すごく現実世界ともリンクする作品だと思います。
──これまでのディズニー作品のことを示唆しているような台詞もあって、100周年ならではのオマージュを感じました。
私は、「ウィッシュ~この願い~」を歌う時に映る星が、『ピノキオ』に出てくる星の絵とそっくりなので、あそこは『ピノキオ』のオマージュかな? と思いました。そんな風に過去の作品との繋がりや思いが継承されているのもこの作品の見どころだと思います。たくさんオマージュが散りばめられていて、たぶん、ディズニーファンの方でも1回では気づけないぐらい細かく描かれていると思います。アーシャの7人の仲間たちも、白雪姫の7人のこびとの性格を反映していたり、頭文字をとってキャラクターの名前にしていたり。色合いも参考にしてるそうなんです。
取材・文/華崎陽子
(2023年12月14日更新)
▼12月15日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
声の出演:生田絵梨花(アーシャ)、福山雅治(マグニフィコ王)、山寺宏一(バレンティノ)、檀れい(アマヤ王妃)、鹿賀丈史(サビーノ)、大平あひる(ダリア)、蒼井翔太(ガーボ)、青野紗穂(ハル)、落合福嗣(サイモン)、岡本信彦(サフィ)、宮里駿(ダリオ)、竹達彩奈(バジーマ)
監督:クリス・バック、ファウン・ヴィーラスンソーン
【公式サイト】
https://www.disney.co.jp/movie/wish
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/255472/index.html
いくた・えりか●1997年1月22日生まれ。ドイツ・デュッセルドルフ出身。乃木坂46のメンバーとして活動し、2021年に卒業。「レ・ミゼラブル」などミュージカルで活躍し、2019年には第44回菊田一夫演劇賞を受賞。以降、「四月は君の嘘」「GYPSY」に出演し「MEAN GIRLS」で単独主演を務める。舞台の他、ドラマ「PICU 小児集中治療室」「こっち向いてよ向井くん」、映画『コンフデンスマンJP-英雄編-』(22)『Dr.コトー診療所』(22)などに出演。NHK総合テレビの音楽番組「Venue101」でMCを務めるなど、活躍の場を広げている。