インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 地下アイドルの姿を通してコロナ禍の社会を描いたドキュメンタリー 『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』田辺ユウキ監督インタビュー

地下アイドルの姿を通してコロナ禍の社会を描いたドキュメンタリー
『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』田辺ユウキ監督インタビュー

2017年に東京、大阪で期間限定公開され、大阪では連日満席を記録した、「大阪で一番売れてないアイドル」を自称する地下アイドルくぴぽを追ったドキュメンタリー映画『くぴぽ SOS!』シリーズの第2弾『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』が、12月16日(土)より、大阪・十三シアターセブンにて1週間限定で先行公開される。地下アイドルたちの目線を通して、世界中が激動の最中にいた2020年から2023年の出来事を捉えている。

本作がドキュメンタリー映画監督デビューとなった、芸能ライターの田辺ユウキが監督を務め、まきちゃん率いるくぴぽをはじめ、少女模型(しょうじょまねきん)や、すでに存在していないアイドルたちも多数出演している。そんな本作の公開を前に、田辺ユウキ監督が作品について語った。

──まずは、まきちゃんとの出会いについて聞かせてください。

10年ぐらい前、地下のお笑いイベントの大喜利に僕が出ていた時に、まきちゃんも出てたんです。まきちゃんは、くぴぽをやる前はバンドとお笑い芸人だったから。共通の知人も多かったので、そこから親交が生まれて。そしたら、2014年に突然、女性アイドルをやると言い出して。その頃はフェミニンではあったけど、男性として認識してたからびっくりして。

──それはびっくりするかも。

それから、まきちゃんが女の子の友だちとグループを組んで活動し出したけど、その頃は熱々の食べ物食べるとか芸人ぽいことをやっていて。だから、お客さんはほぼゼロで、物販の売上もほぼなし。でも、僕はそういうパフォーマンスが面白いと思ってしまったから、たまに僕がやっていた音楽イベントには、常にくぴぽを呼んでたかな。それから親交が深まって、1作目の『くぴぽ SOS!』に繋がっていくんです。

──そこから、地下アイドルに注目するようになった理由は?

「地下アイドルって、なんでやってるんだろう?」っていうのがスタートでした。大阪の地下で活動してるグループのひとつって、本当にひと握りのカケラみたいなものですよね。それに、地下アイドルが売れる可能性ってめちゃくちゃ少ないんです。

──売れるというのは、メジャーになるとかそういうことでしょうか?

メジャーもそうだし、武道館に行くとか、みんなが売れたと認めるような。でも、そこまで行くのはほとんどない。じゃあ、なんでアイドルを続けているのか? その裏返しでなぜアイドルを辞めるのか? そこが興味深かったし、なんで地下アイドルが存在してるのか? と考えてしまって。

──そもそも論ですね。

地下アイドルって、土日は絶対にライブで、しかも1日に2、3本。東京をはじめいろんな場所に遠征するとなると、金曜日の夜中にスタッフの車で移動して、土曜日の朝方着いて、ライブをやって、終わって、日曜日の夜中に車で帰ってきたら月曜の朝で。その足で仕事や学校に行って。平日でも仕事や学校に行きながらライブをしたり、レッスンを受けたりして。

──めっちゃ忙しいですね。

スケジュールがめっちゃ過密で。そこまでしてなんでやるんだろう? しかも、売れる可能性は極めて低いのに。そこまでやることに対する興味から、地下アイドルって面白いと思うようになったんだと思います。

──1作目のプロデューサーを務めることになった経緯は?

それは、面識のあった石岡正人監督から京都精華大学の学生たちと何かやりたいと相談を受けたことがきっかけで。メンバーの入れ替わりが頻繁すぎる、くぴぽという地下アイドルがいて...と紹介したら、興味を持ってくれて、映画を作ることになったんです。1作目はなんでくぴぽは出入りが激しいんだろう? という内容だったけど、結局は辞める理由も入る理由もまきちゃんなんです。

──それは、本作を観ても感じました。

1作目を観た人の感想は、まきちゃんを好きか嫌いか、誰が正しいか誰が間違ってるかみたいなのが多くて。大阪の地下アイドルという狭いコミュニティの中で、さらに売れてないグループというすごく小さなものを題材にして、しかもそこの内部事情を描くとかなり閉鎖的になってしまう。1作目は内部事情に寄りすぎていたので、今回は1作目を否定するところから始めて、誰もが正しいし誰もが間違ってるし、誰が正しいなんてないということを描こうと。

──そこにコロナが襲ってきたんですね。

コロナの時って、いろんな人がコロナに対していろんな意見を言ってたじゃないですか。それは正しいかもしれないし間違っているかもしれない。でも、結果的に、コロナをきっかけに人が分断されることが多くなった。それを見てると、地下アイドルの状況と似てると思って。それが、この映画で地下アイドルを通してコロナ禍の社会を描いた理由でした。

──思ってたよりも、切り口がジャーナリスティックでした。

この映画を観る人は、くぴぽやアイドルがどう描かれているかを期待していると思いますが、僕はそれには一切興味がなくて。誰が観ても面白くて楽しめる、娯楽映画を作りたかった。くぴぽの内部事情を描いたところで、ファンしか喜ばないですよね。それだったら、ファン向けのDVDを作ればいいのであって、映画にする必要はないと思うんです。

──内部事情も映っていましたが、さらっとしてましたね。

誰かが辞めるのも入るのもくぴぽの変わり映えのない日常なので。その日常と、コロナ禍に何回も緊急事態宣言が出て、何年これが続くんだろう? という、しんどさという意味での変わり映えのなさと重ねています。コロナがあったことで、いろんな人が生死を身近に感じたと思うんです。生命はもちろん、仕事の面でも。その一方で、この映画には、まきちゃんみたいに生きてることにしんどさを感じる人がいたり、目標や未来が見えないから20歳で死のうと思ってたと言うアイドルの子がいたり。

──なぜ本作を田辺さんが監督することになったのでしょうか?

元々、くぴぽを追いかけていたユリさんが、ある事情で撮れなくなってしまって。元々、僕はプロデューサーとして関わっていたんです。そこからは僕がひとりで引き受けることになって。本当は、2020年1月にくぴぽが東京でのライブを大成功させて、上昇気流に乗っていくところを撮るつもりが、コロナになって、状況が全く変わってしまって。何を撮ろうか模索していたところに、ユリさんが降板することになって。それまでユリさんがどういう映像を撮っていたかもわからないし、その映像を撮った意図や目的もわからなくて。

──本当に、何もかもが変わりましたもんね、コロナの前後で。

でも、撮っていくうちに、みんながコロナを意識して活動していることがわかったので、コロナの状況と重ねることにしました。社会がどうなっているのかをアイドルの目線で撮れば面白いんじゃないかと。でも、エンディングは見えなかったですね。コロナ禍で終わってしまったら、この映画の中では未来がないように見えてしまうので、絶対にそうじゃないものを撮って終わろうと思ってました。

──コロナを経て、「まきちゃんカワイイ」の後の掛け声が「ブサイク」から「カワイイ」に変わってましたね。

あれは結成初期の曲で、当時は「ブサイク」という言葉も全然使えていたのに、今はどうなの? と感じるようになってますよね。それと、まきちゃんが言うには、「まきちゃん推しが「ブサイク」って言えない」と。他にも、「私の推しが「ブサイク」って言われて傷つく」という意見もあるらしくて。そういうのもあって「ブサイク」という掛け声は消えつつありますね。

──映画は2020年から始まっているので、そういう価値観の変化も感じました。

結果的に、世の中の変化も感じられる作品になっていると思います。あるシーンで、くぴぽのメンバーがまきちゃんのことを「価値観が違いすぎる」って小さい声で言ってるんですが、それが、まきちゃんとメンバーたちが物別れした理由だと思って。これも、コロナと一緒で。コロナの時も、結局は価値観の違いが原因で物別れした人がたくさんいたと思うんです。「価値観が違う」というあのひと言はすごく重要だと思いました。

──「価値観が違う」という言葉もそうですが、他にも印象的な言葉がありました。編集で特に意識したことは?

今回、意図的に音楽に頼ってるんです。ライブシーンもそうですし、挿入歌も。僕がライターとして映画を評論する時は、登場人物が考えていることを綿密に描かずに、音楽を流すことでエモーショナルな感情を沸き立たせる手法を使っている作品は、キャラクターの内面をちゃんと描いてないと思ってたし、好きじゃなかったんです。でも、一般的にはそういう描き方で高揚感を高めてるんですよね。

──そういう映画もありますね。

僕はそれを否定していたけど、今回は娯楽映画だから、敢えてそれをやってやろうと。だから、後半は特に音楽に頼って、ライブシーンを強めにしました。自分が拒否していたことを敢えてやろう、と。

──『君の名は。』の大ヒット以降、特に増えましたよね。

実は、予告編の編集も僕がやってるんですが、『君の名は。』をモチーフにしてるんです。テロップの出し方や色合いなんかも。音楽と台詞の重ね方や音楽の入り方も、『君の名は。』の予告編をめちゃくちゃオマージュしたんです。

──それは狭い範囲ではなく広い視野で見てほしいという田辺さんの意図ですよね。初監督はいかがでしたか?

意外と楽しかったかな(笑)。映画ライターから芸能ライターに肩書は変化したけど、映画のライターとして自分なりの映画の見方は身に着けて、分析してたつもりだったし、たくさん映画も観てきたから、編集できたんだと思って。だから、ドキュメンタリー映画だけど娯楽映画でもあって、劇映画っぽい見せ方になってると思います。それは自分がたくさん映画を観て評論してきたからこそできたんじゃないかと。

──それはありますね。

たくさん映画を観てきて、ライターとして分析してきた自分の目を信じて、自分が観て面白いと思える作品を作ったつもりです。

取材・文/華崎陽子




(2023年12月15日更新)


Check
田辺ユウキ監督

Movie Data


(C)KiT ENTERTAINMENT/田辺ユウキ

『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』

▼12月16日(土)より、大阪・十三シアターセブンにて先行公開(1週間限定)
主な出演者:まきちゃん(服部真希/くぴぽ) ほんぼちゃん(くぴぽ) ひめちゃん(くぴぽ) なだれ(くぴぽ) あむ(くぴぽ) しゅり(くぴぽ) まこと(くぴぽ) うの(くぴぽ) ちあき(くぴぽ) 闇氏(少女模型) へいと(少女模型) にっしー(少女模型プロデューサー) 他
監督・製作・撮影・編集:田辺ユウキ

【公式サイト】
https://www.qpposos.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/311640/index.html


Profile

田辺ユウキ

たなべ・ゆうき●1979年生まれ、滋賀県出身。大阪芸術大学芸術学部文芸学科卒業後、出版社勤務を経て2010年にライターとして独立。現在は芸能ライターとして、映像、アイドル、お笑い、舞台などさまざまなジャンルの分析記事、取材記事を執筆している。2017年公開の前作『くぴぽ SOS!』ではプロデューサーを担当。今作『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』でドキュメンタリー監督としてデビュー。まきちゃんとは10年以上の付き合いがあり、くぴぽのことも結成当初から見守っている。