ホーム > インタビュー&レポート > 「観終わった後に、「あいつ今頃何してるんだろう?」と思って もらえるお芝居をしたい」品川ヒロシ監督が人気ヤンキー漫画を 主演・倉悠貴、醍醐虎汰朗、水上恒司ら共演で実写映画化! 映画『OUT』で主演を務めた倉悠貴インタビュー
──倉さんとヤンキー映画というのはなかなかイメージがなかったので驚きました。
出てなさそうですよね(笑)。
──井口達也役のお話を聞いた時はどのように感じられましたか?
ヤンキーか、と。憧れはありましたが、僕の人生で、絶対に話がくるはずないと思っていたので驚きしかなかったです。小中学生の頃に『クローズ』シリーズが大ヒットして観ていたので、これを俺がやるのか、と。でも、挑戦してみたいという気持ちはあったので、飛び込みました。
──原作者の井口達也さんは品川監督とも関わりのある方で、監督にとっても思い入れのある作品だと思います。そういう作品での主役というのはいろんなプレッシャーがあったのではないでしょうか。
『ドロップ』もそうですが、井口達也という役は今まで何人か演じてらっしゃるので、僕が井口達也を演じる意味も考えました。漫画も大人気なので、やはりプレッシャーはありました。
──そのプレッシャーにどう立ち向かったのでしょうか。
僕が達也をやることに意味があるんじゃないかと。達也は、「狛江の狂犬」と言われ、荒々しく暴れまわって、暴力的でちょっとクレイジーなところが魅力的なキャラクター。でも今回は、達也が我慢することを覚えて、更生していく葛藤や、友だちや家族に対しての愛みたいな、人間らしいところを僕は表現したいと思いました。品川さんも、そこを期待してるとおっしゃってくれていたので、そう思いながら演じていました。
──我慢しなければいけないというジレンマを抱えた役でしたが、達也を演じるうえで気をつけたことは?
手が出そうだけど出ないところが面白いと思ったので、ぐっと我慢しているような表情はすごく意識しました。あとは、出会っていく仲間や、おじちゃん、おばちゃんの心に触れて、達也はある意味、大人になっていくように感じたので、その変化も意識していました。
──特に、杉本哲太さん演じるおじちゃん、渡辺満里奈さん演じるおばちゃんと達也の焼肉屋さんでのシーンはグッときました。
水上くんが演じた要に「こういうことに巻き込むのはやめてね」と言う、おばちゃんの台詞がすごく印象に残っていて。すごく朗らかに言っているのに、目はガチなんですよね。そこに温かみを感じましたし、愛情に触れて達也が変化していく展開は気に入っています。最初はこのふたりが達也を引き取ることを迷っていたのもリアルですよね。品川さんは不良のことを良いようには扱わないんです。悪いことをしてますし、社会からはみ出しているのは間違いないので。不良を肯定しないというのも本作の魅力だと思います。
──そんな達也が出会う仲間のひとり、阿倍要を演じた水上恒司さんは今までのイメージと違って驚きました。
僕もびっくりしました。本読みの時に、既にあの声できたので。塩梅ってあるじゃないですか。えっ!? そっちできたか、と驚きましたが、完成作を観ると馴染んでいたので、あの時から全体を見てやっていたんだと思ってすごいと思いました。
──達也と要の関係性は本作の肝だったと思います。水上さんとどのように関係性を築いていかれたのでしょうか。
要は絶対に達也をこっちの世界に踏み込ませないという思いが核としてあって、達也は(そっちの世界に)行きたい気持ちもありつつ、堪えているという、凸凹した関係性ですが、そこがハマる瞬間があって。脚本を読んで、要と達也のラブストーリーじゃないかと思ったぐらい素敵な関係ですよね。水上くんはそれを見越してなのか、僕に対しての当たりがすごく強くて(苦笑)。
──当たりが強いんですね(笑)。
撮影中だけかな? と思っていたら、今もそんな感じです。
──今もですか(笑)? 倉さんは違うんですね。
僕はよく言われますが、(その役になっているのは)本番中だけなので。でも、そんな水上くんが僕の支えになりました。
──達也は最初から仲間だったわけではなく、彼らと出会って関係性を築いていくので、その過程が見られるのも面白いですよね。
桃太郎みたいな(笑)。
──総長のあっちゃんを演じた醍醐虎汰朗さんとも初共演だったと思いますが、いかがでしたか?
僕は、あっちゃんをやりたいと思っていたので、羨ましさもありました。最初は醍醐くんも「キレた時の目をどうしよう?」って困ってたみたいで。醍醐くんが言うには、僕とふたりで飲んだ時に、僕が酔っぱらって目が怖かった瞬間があって、それを参考にしたと。アクロバティックなアクションがあそこまで出来る俳優はなかなかいないと思うので、刺激になったと同時に悔しい気持ちになりました。
──飛び蹴りをリアルでやっていたのはすごかったですね。
出来ないですよ、あんなの。
──倉さんは本格的なアクションは初めてですよね?
内心では達也でよかったと思いました。泥臭いのが今回の達也の魅力だと思っていて。熱くて泥臭くて必死で、でも絶対に負けないという気持ちだけは強いという部分は僕に合ってたんじゃないかと思います。
──品川さんと一緒にジムに通われていたそうですね。
クランクインの1ヶ月前ぐらいから、水上くんと醍醐くんと、監督含めてみんなで通い始めました。上半身だけでしたが、休みなくやりました。撮影中も現場にダンベルやベンチプレスが置いてあったので、やってましたね。
──やっぱりアクションシーンは大変でしたか?
大きな立ち回りが3つあるので、とにかく必死でした。何回も繰り返して練習しましたが、他の映画と比べてもアクションシーンが長尺なので、大変でした。最後の立ち回りのシーンは、2日間かけてアクションだけを撮影しました。寝る時間を削ってアクションの練習をして、食らいつくような気持ちで必死にやりました。
──2日間ずっとアクションの撮影はしんどそうですね。
どんどん体力的にも疲れてくるので、後半はリアルに身体が傾いたりしてて(笑)。本当に疲れてて、ふらふらだったので。それもリアリティーに繋がったんじゃないかと思います。
──必死な感じが伝わってきました。
お芝居で台詞ごとにロジックがあるように、アクションにも同じように、こうパンチがきたら、こう動くというロジックがあるんです。そのロジックから品川さんが説明して、実際に動きを見せてくれて。ダンスのようにならないように、アクションに関しても一切妥協なく撮ったのでいいものになったと思いますし、アクションをしている時はみんないい顔をしているんですよね。
──完成した映画を観た時はどのように感じられましたか?
漫画になるところは、実際の撮影ではわからないことなので驚きました。意外と似てるんじゃね? と思ってみたり(笑)。CGやワイヤーを使っているところはどんな映像になっているのかわからなかったんですが、完成した映画を観ると、やはり品川さんは映画への思いが強い方だと感じました。みんなで歩き出すシーンなど、僕らが観てきたヤンキー映画の定番もありつつ、2時間9分、飽きないようにちゃんとエンターテイメントとして楽しめる作品だと思いましたし、これこそ、今求められている映画なんじゃないかと思いました。
──登場人物のキャラが立っているので、観終わった後で話すのも面白そうですね。
観た人それぞれに推しのキャラクターがいると思います。青春、ヤンキー、ちょっとアングラな世界も入っていて、いろんな側面がある映画ですよね。コメディっぽいところもすごく面白いと思います。
──初めて達也がボーリング場に行くシーンがすごく面白くて、達也がキムチを持っているのがツボでした。
あのシーンは大変でしたね。台詞も結構長いですし。3日前ぐらいに台詞が追加されて、台詞量が1.5倍ぐらいになったんです。
──3日前ですか?
リハーサルでどんどん足されて(苦笑)。本番は円形レールをひいての1発撮りで、面白いシーンになったと思います。庄司さんのシーンもいくつかアドリブが入っていますし、品川さんならではの"間"が、コントにならずに映画として昇華されているのが面白いと思います。
──倉さんは今まで芸人さんと共演されることはあまりなかったと思います。オープニングの大悟さん演じる少年院の教官とのシーンも面白かったですが、芸人さんとの共演はいかがでしたか?
芸人さんとの共演は今回が一番多かったですね。やっぱり、芸人さんは"間"のとりかたが上手だと思います。(シソンヌの)じろうさんとは2回目の共演だったんですが、勉強になることがたくさんありました。この映画は、コメディもアクションも面白いですが、一方で焼肉映画という側面もあって。
──そうですね。めっちゃ美味しそうに食べてましたね(笑)。倉さんだけ食べてなかったんじゃないでしょうか?
ほんと美味しそうに食べてましたよね。僕は撮影中もちょっと意地悪なのかな? と思うぐらい食べさせてもらえなくて。ちょっと悶々として、達也と同じようにイライラしてました(笑)。みんな、美味しそうに食べるんで。水上くんが焼肉食べてるところなんてCMですもんね(笑)。
──確かに。あのシーンは長かったですよね。
長回しで網に置くところから撮っていたので、すごいと思いました。品川さんも「異世界居酒屋「のぶ」」というグルメドラマを撮ってらっしゃるので、食事シーンにはこだわったとおっしゃってました。この映画を観た方の8割ぐらいは、映画の後に焼肉に行くんじゃないかと。
──そうかもしれないですね。
僕の中で、食事が綺麗に映っている映画はいい映画だと思っているので、いいなと思いました。
──エンドロールに続きを思わせるような描写がありましたが、もし続きがあれば...?
エンドロールは僕らの願望なので、口コミやSNSでどんどん広げてもらって。続きをやりたい気持ちは、キャスト、スタッフ含めて全員が持っていると思います。もしかしたら達也は今後、あんまり出てこないかもしれませんが。今回は1ヶ月ぐらいしか準備期間がなかったので、もうちょっとほしいですね(笑)。でも、やります!
──倉さんは、『窓辺にて』の今泉力哉監督や、『こいびとのみつけかた』の前田弘二監督など、同じ監督に呼ばれて、2作目では大きな役を演じる傾向があるように感じています。
有難いと思っています。監督にリピートしてもらえるのは、なかなかないことなのですごく嬉しいです。しかも、好きな監督にリピートしてもらっているので、俳優冥利につきますよね。
──倉さんは大阪で育ってらっしゃいますが、言葉の苦労はありましたか?
苦労しますね。『夏、至るころ』の時は駆け出しで時間もあったので、ひたすら毎日音源を聞き続けて。北九州に2週間ぐらい住んでいたので、教えてもらいながら。その時は割とすんなりといきました。去年やった台湾のドラマは、中国語だったので、耳で覚えるしかなくてしんどかったですね。次の作品が岡山弁なので、今も苦労してます。
──大阪弁から違う方言になるのは、やはり難しいのでしょうか?
大阪のイントネーションは独特で。福岡や岡山の言葉は、ベースは標準語に近いんです。標準語はできますが、「や」とか「じゃ」とかを言う時は関西弁になりたくなっちゃうみたいで。結構苦労してます。
──これまで様々な役を演じてらっしゃいますが、演じる上で倉さんが一番大事にしていることは何でしょうか?
僕は、自分と全く繋がりのない人はいないと思っていて。基本的に、演じる人物は人間なので、感情があることは共通してますし、僕の中にも大体の感情はあるので、それを大きくする感覚です。今回の達也だったら、怒りや生き辛さが大きな要素で、それは僕の中にもあるから、それを膨らませるような。元々、近しいと感じる役ももちろんありますが、その人物に近寄っていくと、あっちも近寄ってくれるような感覚があって。苦労する時もありますが、そこがうまく馴染んできたら、生きてる人物として成立すると思ってます。
──今回はすんなりといけたのでしょうか。
原作ものはともすればキャラクターっぽくなりがちなので。特に、主演をやる時はキャラクターっぽくなりたくないという思いもあって。説得力がなくなってしまわないように、地に足をつけて生きている人間だと思ってもらえるように意識しています。僕が思ういい映画は、観終わった後に、「あいつ今頃何してるんだろう?」と思う人物がいる作品なんです。
──すごくよくわかります。
そういうお芝居ができたらすごくいいなと思います。
取材・文/華崎陽子
(2023年11月16日更新)
▼11月17日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開
出演:倉 悠貴 醍醐虎汰朗 与田祐希(乃木坂46) ⽔上恒司
與那城 奨(JO1) ⼤平祥⽣(JO1) ⾦城碧海(JO1)
小柳 心 久遠 親 山崎竜太郎 宮澤 佑 長田拓郎 仲野 温
じろう(シソンヌ) 大悟(千鳥) 庄司智春(品川庄司)/渡辺満里奈 杉本哲太
原作:井口達也/みずたまこと『OUT』(秋田書店「ヤングチャンピオン・コミックス」刊)
監督・脚本:品川ヒロシ
【公式サイト】
https://movies.kadokawa.co.jp/out-movie/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/260702/index.html
くら・ゆうき●1999年12月19日生まれ。大阪府出身。学生時代に地元の大阪でスカウトされ、その年のドラマで俳優デビュー。『夏、至るころ』(2020)で映画初主演を務め、その後も『うみべの女の子』(21)や『窓辺にて』(22)など出演作が続く。NHK連続テレビ小説「おちょやん」(21)では主人公の弟役を演じ、大きな話題を呼んだ。2023年は、ドラマ「犬と屑」で地上波ドラマ単独初出演を果たし、『禁じられた遊び』(23)、『こいびとのみつけかた』(23)が公開され、今後も『コーポ・ア・コーポ』(11月17日公開予定)、『市子』(12月8日公開予定)など出演作の公開を控える、注目の若手俳優。