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「声優はその俳優の印象さえ変えてしまうから
声の音色はとても大切です。だからこそ責任重大ですね」
10年以上ニック・フューリー役の日本版声優を務める
映画『マーベルズ』竹中直人インタビュー

『アベンジャーズ/エンドゲーム』などを手がけるマーベル・スタジオによる人気シリーズ『マーベルズ』が、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中。無類の力を持つアベンジャーズ最強のヒーロー、キャプテン・マーベルが新たな物語を通して成長する様を描く。

キャプテン・マーベルを演じるブリー・ラーソンをはじめ、サミュエル・L.ジャクソン、ドラマ『梨泰院クラス』のパク・ソジュンら豪華キャストが共演する、マーベル・スタジオ劇場最新作だ。そんな本作の公開を前に、『アベンジャーズ』から10年以上、ニック・フューリー役の日本版声優を務める竹中直人が作品について語った。

──10年以上前のことになりますが、オファーがあった時はどのように感じられましたか。

声優の仕事は昔から憧れていたので、とても嬉しかったです。しかも、大好きな俳優サミュエル・L.ジャクソンの声ができるなんて! と思いました。

──現在まで10年以上、ニック・フューリーの声を担当されていますが、当初はこんなに長く務めることになると思ってらっしゃいましたか。

それは思ってもいませんでした。実写版の吹き替えはとても難しいんです。アニメーション作品の吹き替えの方が気分は楽なんですよ。実写版は演じる俳優が既にリアルに存在していますよね。その俳優のイメージが、吹き替えを担当する声優によって大きく変わってしまいます。だからとても緊張します。この俳優だったらこの人の声! というイメージがありますからね。

サミュエルの声は、『アイアンマン』では手塚秀彰さんがおやりになっています。そのイメージが強いのではないかととても心配でした。でもそんな心配もありつつ声優は大好きな仕事なので、収録の現場はとても楽しかったです。

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──サミュエル・L.ジャクソンの声ですもんね。

サミュエルは大好きな俳優です。サミュエルの声を誰が担当するかによって、サミュエルの印象が全く変わってしまいますからね。サミュエルのお芝居さえも変えてしまうので責任重大です。

──前作の『キャプテン・マーベル』では、若い頃の声を出さなければいけなかったんですよね。

サミュエルはCGで若くなっていますから、どこまで声を若くするか結構悩みました(笑)。

──高めの声を出すようなイメージでしょうか?

少し高めの声にすることも考えましたが、そうするとニックの存在が軽くなってしまう。ぼくにとってニックの基本的なイメージは、黒のロングコートに黒い眼帯を付けた姿です。そのスタイルから生まれてくる声の音色がありました。でもそれが、若くて髪の毛があって、眼帯もしていないニックだと声のイメージはかなり変わります。実際のサミュエルの声の音色に合わせると逆に変な感じになってしまう...。決定となる音色にたどり着くまではテストを繰り返し、時間がかかりました。

──いい塩梅の声を見つける作業という感じでしょうか?

最初の『アベンジャーズ』の時もそうでした。僕は一応、いろんな声が出せるので試してみました。でも当時のプロデューサーとディレクターが、ニック・フューリーの声は竹中さんのままで行きましょうと言って下さったんです。

─ディズニープラスで配信されている「シークレット・インベージョン」は、歳を重ねたニック・フューリーの声でした。

「シークレット・インベージョン」でのニックはかなり歳をとった感じで老いもテーマでした。だから老けた声にするのかどうかという話にもなりました。いろんな時代のニックが登場するので、どれも声が違って大変です(笑)。でもそれを工夫しながら決めていくのが楽しい作業なんです。

──声優は、声の塩梅と、そこに感情を乗せる作業を同時に行わなければいけないですが、身体を使って演じるのとはまた違った難しさがあるのでしょうか。

僕は、吹き替えの時は演じる役者に合わせて動きますね。微妙な首の動きも合わせたりします。そうでないとリズムがつかめない。細かい息づかいもすべて吹き替えないといけないので。

──簿妙なところまで合わせてらっしゃるんですね。本作を観られた時はどのように感じられましたか。

いつもクールなニックが、今作では3人の女性ヒーローに振り回されて意外にもお茶目でした。今までの『アベンジャーズ』なら、アクの強いヒーローたちに囲まれて常に冷静沈着でしたからね。

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──女性3人に振り回されているニックは、他の作品では見られないですよね。

ですね。3人のヒーローのひとりであるカマラの家族がめちゃくちゃ面白いんです。その家族が可愛くて可笑しくて(笑)。『アベンジャーズ』は結構残酷なシーンもありましたが、今回は色合いが今までの作品とは違い、色彩表現がすごく印象に残っています。

──確かに、『アベンジャーズ』と比べると全然色合いが違いました。

『アベンジャーズ』は基本的に重めですよね。クリストファー・ノーラン監督が『バットマン』シリーズを手掛けたことで、ヒーローの世界観を大きく変えたと思います。『007』にも影響を与えていますよね。ヒーローは単純なヒーローではなく、闇を抱えている。

──そう考えると、本作はみんな抱えているものはあっても明るいですね。

楽しそうですよね。それに、上映時間が2時間弱っていうのがすごい。今までのマーベルだったらあり得ないです。高齢者は2時間を超える映画にはドキドキするんです。トイレの心配ですね(笑)。

──ここ最近はずっと3時間ぐらいの作品が続きましたもんね。

それに、エンドロールの最後まで待ってないといけないですからね。だから今回の作品は今までの作品よりも観やすいんじゃないかな。

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──竹中さんは、どんなところにマーベルの魅力を感じてらっしゃいますか?

『アベンジャーズ』シリーズは俳優たちひとりひとりが、常にみんな引き立っているんです。『アベンジャーズ/エンドゲーム』の時も、ちょっとしか出てこないヒーローでも、みんなちゃんと目立っています。プロデューサーと監督の愛情がひとりひとりの登場人物に注がれているのが、マーベルの素晴らしさだと思います。

──本作ではグースに振り回されるニックも面白いですよね。

グースとのシーンの声も難しいんですよ。僕も猫を飼っているので、猫の名前を呼ぶシーンが難しかったです。「グース、グース」と呼びかけると僕の日常の声になりすぎちゃって。吹き替えの仕事は本当に難しい。でもそれが面白いんです。

──何作もニック・フューリーの声を担当されていても、新たな挑戦が待っているような感覚でしょうか。

新たな挑戦というより、全部ゼロに戻る感覚です。全部ゼロに戻して、また新たに集中して作品に向かいます。自分が演じているわけではないから、不思議な感覚です。サミュエル・L.ジャクソンの中に入る感じって言うのかな。特に今回は、『キャプテン・マーベル』で若い頃のニックの声をやって、「シークレット・インベージョン」でちょっと老け込んだニックの声をやった後だったので、吹き替えとはいえ、発声が少し変わったんじゃないかな。

──なるほど。竹中さんはアニメーション映画の声優も務めてらっしゃいますよね。

アニメーションの時はもっと自由になるんです。アニメーションは実写ではないので、俳優のイメージがないですよね。アニメの吹き替えの現場は線画だけの時もあって、全然出来上がっていないものを想像しながら声を合わせていきます。その作業も楽しいです。ところが実写の場合は、サミュエル・L.ジャクソンという俳優がお芝居をしています。サミュエルはメジャーな俳優なので、「竹中の声はサミュエルに合わない!」と言われたらそれで終わりです。だからとても緊張します。

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──竹中さんにとって吹き替えというのは身近なものだったのでしょうか。

それは子供の頃から身近ですよ。日曜洋画劇場など、テレビで放送されるドラマや映画は吹き替えなので。この人いい声だなと思ったら調べていました。野沢那智さん、小林清志さん、山田康雄さん、富山敬さん、小池朝雄さん、露口茂さん、睦五朗さんが印象に残っています。その頃から吹き替えの仕事はすごいと思っていました。

──幼い頃から吹替版に馴染んでらっしゃったんですね。

僕は、ショーン・コネリーが好きだったので、ショーン・コネリーの声を若山弦蔵さんがおやりになると、映画館で観ていたショーン・コネリーの声と違うんですよね。徐々に慣れましたが、最初は戸惑いました。クリント・イーストウッドも映画館で観ていた渋い声とは違っていましたが、山田康雄さんの声に慣れるんですよね。声優の仕事は俳優のイメージを変えてしまいますからね...。

──それぐらい声は大事だということですよね。

テレビでのピーター・フォークの声優は小池朝雄さんでした。ぼくはそれで慣れていたので、映画『カリフォルニア・ドールズ』を映画館で観た時、ピーター・フォークの声が全然違っていたんです! これはピーター・フォークの声じゃない! と思いました。でも、本当のピーター・フォークの声なんです。それと同じで、皆さんそれぞれにサミュエルのイメージがあると思うんです。根強い吹き替えファンの方もいらっしゃいますからね。吹き替えは本当に大変なお仕事だとしみじみ思います。

取材・文/華崎陽子




(2023年11月17日更新)


Check

Movie Data



(C)Marvel Studios 2023

『マーベルズ』

▼TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
出演:ブリー・ラーソン/イマン・ヴェラーニ/テヨナ・パリス/サミュエル・L.ジャクソン/パク・ソジュン 他
監督:ニア・ダコスタ

【公式サイト】
https://marvel.disney.co.jp/movie/marvels

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/248212/index.html


Profile

竹中直人

たけなか・なおと●1956年生まれ、神奈川県出身。1983年のデビュー以来ドラマや舞台、映画など多数の作品に出演し、1996年にNHK大河ドラマ「秀吉」で主演を務め、高視聴率を記録する。『シコふんじゃった。』(92/周防正行監督)、『EAST MEETS WEST』(95/岡本喜八監督)、『Shall we ダンス?』(96/周防正行監督)では日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞するなど、多数の受賞歴を持つ。声優としても活躍し、『シュレック』シリーズでは“長ぐつをはいたネコ”の声を、2012年の『アベンジャーズ』からサミュエル・L・ジャクソン演じるニック・フューリーの声を担当。役者以外に映画監督としても活動しており、主演も務めた初監督作『無能の人』(91)は、ヴェネツィア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。そのほかの監督作に『東京日和』(97)、『サヨナラCOLOR』(05)、『ゾッキ』(21)、『零落』(23)などがある。