ホーム > インタビュー&レポート > MOROHAアフロ、映画初主演。 『さよなら ほやマン』は“めちゃくちゃ芯を食ってる”。 全力で届けたい作品、渾身のインタビュー
"阿部アキラ"としてリリックを書き、役に入っていった
――まず庄司監督からオファーがあった時のお気持ちを聞かせてください。
「監督はずっとMOROHAのライブを見ててくださって、先にメールで"映画のオファーをしたいんです。ライブ後楽屋でご挨拶できませんか"というお話をいただいて。そんな嬉しいお話があるんだな、どんな人かなと思ってライブが終わって待ってたら、台本をしっかり持って楽屋に来てくださって。"ライブを見て改めてやってほしいと思いました。ぜひご検討ください"と渡された台本に、でっかく"ほやマン"と書いてあって。"もろB級じゃねえか"と。"B級でいきなり主演はちょっとな"と思ってる顔を見て、監督が"中見て判断してください"と言われて、中身を読んだらタイトルがほやマンである理由と、すごく人間ドラマが描かれていて、これはなるほど、MOROHAの楽曲で表現していることに通ずるなと思ったので、俺にオファーが来た理由も分かるし、本自体が素晴らしかったので、ぜひやりたいなという気持ちになりました」
――映画の中では震災というセンシティブな内容にも触れられていて、監督ご自身が宮城県石巻市出身というところで、より強い想いがあったと思いますが、そこにはどう向かわれましたか?
「震災というものに対して向き合う時、俺はいつもそうなんですけど、今年も3.11に福島でCANDLE JUNEさんの復興イベント(『SONG OF THE EARTH 311 -FUKUSHIMA 2023-』)でライブしたんですね。あまりにも起こった出来事がデカすぎて、やっぱりステージに立つ前はめちゃめちゃ考えちゃうんです。俺はその時東京にいて、被災してなくて当事者じゃない。そういう人間が1段上に立って何を伝えられるだろう。一瞬、"励ます"みたいなことを思った時にぶるっとして、"いやいや、どの立場で気持ち悪いこと考えてんだ"と思ったりするんですね。でもステージに立たなきゃいけない、さあどんなライブしたらいいんだっけ、とぎゅっと考えていくと、最終的には客席にいる1人にとっては、大切な人がいなくなってしまった日なんですよね。震災となると大きすぎて、たじろいで何もできなくなってしまうんだけど、大切な人がいなくなってしまった日だとすれば、俺にもそういう経験がある。つまり俺らがいつもライブハウスでしているライブの客席にいる人たちも同じく、皆にそういう経験がある。ということは、いつもと同じライブを力いっぱいやればいいんだという気持ちになった時、初めてステージで物が言えるようになるんです」
――なるほど。
「だからそういう感覚でこの役とも向き合いました。俺は被災してないけれど、アキラと同じように大事な人を失ったことはあるよ、となると、アキラの気持ちが少し近くなる」
――アキラという人物を自分に落とし込んでいくプロセスは、どんな感じでしたか?
「アキラになってリリックを書いてみましたね。それはすごく面白かったな。逆にそれができるってことはやれるなとも思ったし、今後の指針にもなるなと思いましたね。仮にこれからオファーをありがたくいただける時があるとすれば、その役になりきって自分が歌詞を書けるかどうか。それができるなら、俺の中にその要素があるということだから。で、やっぱり書けば書くほど彼のことがよく分かるし、俺の中でアキラがどんどん細分化されていく。監督のイメージとすれ違わないようには気を付けなきゃいけないんだけどね」
――書いた歌詞を監督に見せたりは?
「しなかったですけど、会話の中ですり合わせていきましたね」
――歌詞を書いて役に入るのは、初めてのことですか。
「初めてです。そもそも役に入ること自体が初めての経験だったので」
――小型船舶免許を取得したり、素潜りのスクールに通われたそうですが、撮影開始のどれぐらい前から準備されました?
「2~3ヶ月前ぐらいからやり始めましたね」
――歌詞を書いたのは?
「歌詞というと少し遠いけど、頻繁に書いてました。アキラとして日記を書くような感覚ですね。例えばアキラが台本にない部分でどんな暮らしをしてるのかなとか、台本になる前の年齢、例えば学生時代をどんなふうに過ごしていたんだろうとか。台本を読んで遡ると、"俺の高校時代とほぼ一緒な気がする。でも環境的には海だしな、ちょっと違うのかな"とか。そういう感じでしたね」
撮影中、自分とアキラが混じり合った瞬間。ドキュメントに近い部分もあった
――アフロさんは長野県の青木村出身で、過去のインタビュー記事でも"閉塞感がすごい"とおっしゃっていましたが、そんな記憶をリンクさせながら役作りをされたのでしょうか。
「そう思いますね。何か歯がゆいんですよね。(地元を)出たいなと思ってる10代の時、都会から大人がやってきて、"あ~、老後はこういうとこで暮らせたらいいなぁ"って、俺の前で言うんですよ。それは結構生々しく覚えてる経験ですね。だから老後という言葉を言わないようにしてます。あの時俺、トラウマ級にムカついたから」
――外から来た人が言う言葉ですもんね。
「でも怖いことに、向こうは褒め言葉で言ってんだよね」
――私も田舎出身なので、そのお気持ちすごく分かります。では、アキラが長男で家族からの言葉にがんじがらめにされている感じも共感できますか?
「めっちゃ分かる。うちもやっぱりおじいちゃんは、"お前は長男なんだから"と言って。でもその鎖みたいなのを解いてくれたのは、母親や親父だったの。"お前はそんなこと気にしなくていい。おじいちゃんはああやって言ってるから、お前は怒らせないように頷いててもいいけど、自由に生きていいんだからね"とずっと言ってくれてたので」
――本当に当て書きに近いレベルだったということですね。どのぐらいで馴染んでいった感覚がありましたか?
「馴染んだのは"ここ"って覚えてないんだけど、確実に混じり合った瞬間はあって。後半、"俺はまた皆でここで暮らしたかっただけだ"というセリフを言うシーンがあるんですけど、自分が前に作ったMOROHAの『ネクター』という曲、家族が散り散りになっていく話なんですけど、その曲で俺が思ってたことと、アキラが発するその言葉があまりにもシンクロして。アキラが言ってんだか俺が言ってんだか分からなくなったタイミングがあったんですよね。その時まさに気持ちが言葉より前に行ってしまって、"あ。"って言葉がつっかえたんですよ。気持ち的にはちゃんとやれたんだけど、噛んでしまったからNGだろうなと思ったら、監督にもそれが伝わっていて。"今のはすごく生々しい、気持ちの吐露の必要なつまずきだったからこのままがいい"と言って、そのまま活かされてます。その瞬間はアフロというか、俺の本名の"滝原勇斗"がアキラを追い抜いて、そこに混乱して噛んだみたいな感じでしたね」
――ちなみに撮影の順番は?
「俺がほぼ素人だから、難しい順番にしないようちゃんとストーリー通りにしてくれてた。とってもありがたかった」
――順番が変わると撮影は難しかったりしますよね。
「でしょうね」
――役者のお知り合いの方とそんなお話はされました?アドバイスというか。
「東出(昌大)くんが"もし合宿が必要だったら山までおいで"と言ってくれて。結局タイミングが合わなくて行けなかったんですけど。あと(竹原)ピストルさんに"役者のギャラってどのぐらいですか"って連絡したんです。したらね、小さくたしなめられて。"アフロ、そういうもんじゃないんだよ。台本が良くて自分がやりたいと思ったらやるようにしてるよ"と言われて、すいませんと言って。撮影後に"ピストルさん終わりました。楽しかったです。やりきりました"と送ったら、"ギャラいくらだった?"って」
――ハハハ。
「そんなおちゃっぴーなやり取りもして。楽しかったです」
――宮城県網地島で合宿形式で撮影されたということですが、振り返ってみるとどんな3週間でした?
「ものすごく人と接しましたね。アキラのお父さん役の方が、役者じゃなくて実際の島の漁師さんなんです。漁のことを色々教えてもらって、父親と息子ほど年は離れてないけれど、心通じ合うような会話がたくさんあって。その人との会話で方言が自然に体に入ってきたり。だからほんとにドキュメントに近い部分もめちゃめちゃありましたね」
芯食ってるものが好みじゃない人も、そりゃいるんだな
――特に難しかったシーンはありますか?
「自分の頬を引っぱたくシーンがね、やっぱり"何で?"と思って。何でそんな感情になるんだろうと。その解釈はすごく呉城さんと話し合いましたね。"どういう気持ちの動線でそうなってんだろうね"とか」
――どのように腑に落として演技されたんですか?
「"理屈に合わない"という言葉が出てくるんですけど、それを最初にやるのがあのシーンじゃないかって。だから衝動的に自分の頬を叩く。そこに理由は要らないのかもしれないねって」
――作中のどこが1番印象に残ったかと言われたら、私もこのシーンが出てきます。
「作品を通して見た時に俺もそう思えたし、もちろん力いっぱいやりきったんだけど、撮ってる最中は良いシーンなのかどうか確信はなかったですね。そこは監督あっぱれだなと思いました」
――すごい台本ですよね。
「すごい台本ですよね。賛否ありますね」
――賛否ありますか。
「うん、賛否ある。めちゃくちゃ芯食ってるんですよね。映画の見方ってほんと色々あるんだなと思うけど、俺も音楽では芯食いたいし、映画でも芯食ってるものが好きだけど、芯食ってるものが好みじゃない人もそりゃいるんだなって。それはめっちゃ面白かった」
――非日常を見たいということでしょうか?
「芯をかすめるぐらいの感じで後味を残して、自分で膨らますとか。音楽と一緒だなと思った。そういう意味で賛否がある。だから俺たち的には100点満点だけど、皆にとっての100点満点かどうか分からない。でも彼らにとっての100点満点を作る気はなかった。ただのすれ違い。だからこそ、作品がたくさんあるんだなと思うよね」
――逆に撮っていて楽しめたシーンはありますか?
「もうずっと楽しかった。浜辺でシゲルと俺が揉み合うシーンを台本通りやろうと現場に行ったら、カメラワーク的に無理だって話になって、どんどん日が沈んでいっちゃうから時間もあまりなくて。"じゃあこういう流れにしよう"となると、"でもそれじゃ気持ちの繋がりがうまくいかない"みたいな感じで、俳優部と制作部で話し合って。最終的には大ベテランの助監督も入って、皆で頭フル回転して、"じゃあこういう心の動きでやってみようよ"と言ってやったのがハマって。それがすっごく楽しかった」
――全員で一丸となって作り上げた。
「日が落ちると撮影が1日伸びるでしょ。そうすると全員のギャラや宿泊費が制作費に乗っかったりするし」
――リアルな部分もありつつ、だからこそ本気でやれたと。
「そうそう。めっちゃ衝撃的だったのが、俺が水にびしょびしょに濡れるシーンがあるんだけど、夜で寒かったから監督が"OKです"と言った瞬間に、ヘアメイクさんたちがワッと来て俺の体を拭いてくれて。でも皆さんも結構濡れてるのよ。皆が風邪引いちゃうと大変だから、"俺そんなに寒くないんで、皆さん暖とってください"とちょっとカッコつけて言ったら、ヘアメイクのお姉さんがね、"あのね、あなたのことが好きでこれをやってるわけじゃないの"って。"私たちが風邪引いても撮影は進むけど、あなたが風邪引いたら撮影止まるんだよね。そうすると皆に迷惑がかかるから、こうやってるんだよね。だからあなたの今仕事は体を温めることでしょ"と言われて、そうだと思って」
――プロですね。
「好きでやってるわけじゃないんだって。それも印象的だった」
――でもおっしゃってることはすごく分かります。
「そう。めっちゃ芯食ってる。そういう競技なんだなと思った」
――では、1番見て欲しいシーンは?
「俺のお尻が出るとこじゃないですか。ギリギリセーフ。俺びっくりしたの。"アフちゃんまだお尻綺麗だね"って。でもギリギリよ。あれ以上汚くなってたらNGでしたね」
島の人や、共演者との交流
――撮影時間以外は島の方たちとお話したり?
「釣りしたりしてね。楽しかったな」
――島の方との思い出に残ってるエピソードはありますか?
「とにかく方言や漁師の言葉を体の中に入れたくて。分からない言葉が出てきたら逐一聞いてたんですね。役作りで漁師の見習いの仕事をしてる時、港に着いたらリーダーの漁師さんが1番若手の漁師に、"イサオ!"と言ったんですよ。そしたら"はい"って若手の漁師がワーッと走っていったんです。"どういう意味ですか"と聞いたら、"缶コーヒー微糖を買って来いって意味なんだよ"って」
――へえ!
「尾藤イサオさんっているじゃないですか。方言でも漁師言葉でもなく、ただの流行りだった(テレビ朝日木曜ドラマ『警視庁アウトサイダー』の小道具で話題になった)。"じゃあ無糖を買う時は(武藤)敬司ですね"と俺が言ったら、すんごい喜んで」
――ハハハ。島の方とは撮影後もお付き合いはあるんですか?
「うん。海の家の設営を手伝うと言って、こないだも行ってきた。『オールナイトフジコ』という番組に出た時は"昌佳丸"という、漁師の人たちの船がプリントされたTシャツを着てメッセージを送って」
――共演者の方とはいかがでしたか?
「黒崎に関してはものすごい才能があるし、キャリアはそんなに長くないんだけど、ずっと映画に携わるぞという意気込みで生きてきた人間なので、明らかに先輩。作中では俺の方がお兄ちゃんだったけど、裏では結構彼が俺に色んなこと教えてくれて。多分音楽だったら、一回り以上年下の男の子の話なんか素直に聞けないけど、自分がこの現場ではぺーぺーだってことをちゃんと自覚してるから、めちゃくちゃ素直に聞くわけですよ。そうするとね、すごいのよ。吸収率が。ものすごい進化していくのが自分でも分かって。だからいくつになってもこの素直さを続けていられたら、ずっと成長できるんだなと思った」
――やっぱり素直さですか。
「大事だね。全て彼の言う通りにしたわけじゃないんだけど、言われたことを1回その通りだと思って信じてやってみる。それでもやっぱり自分のプランの方が合ってるとなったら、より確信を持って自分のプランにいけるじゃないですか。でも本当に彼のプランの方がしっくりくる時もあったし。彼は素晴らしいですよ。絶対に日本の中で数えられる俳優になる人だと思います」
――呉城さんはどうでした?
「呉城さんはね、実は撮影に入る前、死ぬほどカラオケで台本読みを手伝ってもらって。これまだ監督にも言ってないんですけど、稽古の2時間前ぐらいに集合して、その日の稽古のセリフをお互いさらって。呉城さんはずっと役者として活動してる人なので、正直本読みの必要はないんだけど、俺の読みをすごく助けてもらって。どちらかと言うと呉城さんは"完璧だよ。できてるから自信持ってやったらいいよ"という方向でフォローしてくれて、本当にありがたかった。それも経験のなす技だなと思ったね」
――春子役の松金よね子さんは、現場ではどんな方でしたか?
「何より忘れられないのが、稽古場で皆で練習して、監督に"OKこれでいこう"と言われた時、俺たちは"今の記憶を絶対に忘れないようにしておこう"となるんだけど、松金さんが、"でも同じ演技はどうせできないからね"と言って、監督が"え!?"みたいな。監督も今回初の長編映画だったので、すごく作り込んでしっかり形にしなきゃと思っていたところの、肩の力を抜く一言というか。松金さん曰く、"島の空気もその時で違うし、場所やロケーションが変わるから、絶対同じものは2回できないんだよね"って。俺からすると、ある程度はちゃんと固めておいた方がいいけど、余白は作っておいた方がいいんじゃないかな、というニュアンスだったんですよ。その言葉にすごく助けられましたね」
――春子は葛藤を抱えながらも皆の力を抜いてくれる素敵な役柄でしたが、それを地でいってらっしゃるというか。
「そういう感じでした。その後ライブも見に来てくれて。今、エミネムとMOROHAが好きらしいです。もともとミック・ジャガーや忌野清志郎さんといった、ロック好きの人なので」
あらゆる角度で説明して、色んな人生を掬ってあげるのがラッパーの仕事
――個人的には、作品を通して視線の描かれ方が印象的でした。美晴が新聞記事を見つける時の抜きのシーン、アキラが穴を覗くシーン、雨の中を走るアキラの顔がアップになるシーン。心に残る場面がたくさんあったなと。
「グロいよね。何か分かる、その感じ。監督がやろうとしたんでしょうね」
――照明も効果的で、のめり込む感じがありました。
「穴を覗き込むシーンは自分でも気に入っていて。"あの顔ができるんだな"と思って、何か分かんないけど、自分の顔が好きになりました」
――SPICEのさだまさしさんとの対談記事で、さださんが"安心を得ると鋭さがなくなる"というお話をされていたと思うのですが、それこそ冒頭は借金があって、自己犠牲的で、家族にがんじがらめになって、中盤も悲壮感が漂う、安心ではない状態のアキラの表情と、自分の本音が分かり、自分で船を運転して沖へ出ていく清々しい安心を得た表情が、状況と対比しているなと思いました。
「それはもうまさにその通りで。冒頭でほやの説明があったじゃないですか。おたまじゃくしで泳ぎ続けている間は脳みそがあるけど、岩場に定着すると脳みそが溶けてなくなる。多分安心していない状態が、おたまじゃくしの状態だと思うんですよね。だから実は冒頭は安心してる顔なんじゃないかなと思って。作品の流れ的にそういう顔はしてないし、もちろん借金取りから電話がかかってきたりするんだけど、あれはあれで安定してたと思うんですよね。"何となくずっと漁師やってくんだろうな、金はねえけどどうしようかな"って」
――ああ、自分の人生が決まっている。
「そうそう。違う願望はあるけど、"まあこんな感じだろうな"と思ってたところに美晴がやってきて、海を泳ぎ回るようになって、色んな顔を見せるようになる。で、最後の最後にもう1度溶けてなくなって、迷いがない顔で船を出す感覚なんですよね」
――まさにほやの一生という。
「繰り返すほやだよね。ほやから幼体に戻って、またほやに戻るというか」
――確かに言われてみたら。
「さださんの言ってるのは、常におたまじゃくしの状態でいろってことでしょ。ミュージシャンが陥りがちだけど、"幸せになっちゃいけない"という考えね」
――満たされない部分があるからこそ作品ができるという。幸せな時は曲を書くのが苦手だという方が多いですね。アフロさんは?
「俺はね、そんなことないと思う。その尖りのベクトルをどこに持つかだと思う。逆にそういうのを真に受けてるミュージシャンに対して、"そこに囚われてるのって丸いんじゃないの?"とも思う。ロックミュージシャンの生き様に影響受けて信じ込んでんの。"お前、どれだけオリジナルの自分の人生に自信ないんだよ。丸い人生だな"みたいなことも言えるし。それはあらゆる角度で説明して、色んな人生を掬ってあげるのがラッパーの仕事だと思ってるから。逆のことも言えるしね。あまり"これだ"って決めないで、自分も心地良く生きたらいいんじゃないかって、俺は俺に思ってる感じです。生き方1つだよね」
映画はこんなに人のせいにできて、人のおかげだと思える仕事なんだ
――撮影が終わった時、"生まれ変わった気分だ"とおっしゃった、その真意というのは?
「何でそんなこと言ったんだろう。でも生まれ変わった気分だって思ったんだよな。で、監督がそれを聞いてすごい喜んでたんだよな」
――監督も、活力に溢れて晴れやかな気持ちだったと。
「あれかもね。さっきの話じゃないけど、もう1度ほやに戻ったわけじゃない。ほやから始まっておたまじゃくしになって、ほやになる。けど、最初のほやと最後のほやは別のほやでしょ。そういう感覚があったのかな。同じ場所に戻ってるようで、螺旋状でちゃんと上に上ってるみたいな。ちょっとこじつけてるかな?もうちょっと手触りのある感覚があったような気がするんだけどな」
――"生まれ変わった気分だ"は、自然と出たんですよね。
「うん。でも新しい感覚を得たかも。こんなに人のせいにできる仕事はないなと思ったし、こんなに人のおかげだと思える仕事なんだとも思った。音楽はもうちょっと自分の責任だし。俺とUKという2人だけの演者で、ワンマンライブではどうにか2時間持たせるわけじゃない。それに対して映画はカメラマン、照明、美術、音声、色んな人が力を併せて
作るでしょ。その素晴らしさもあるけど、自分たちがやってることの素晴らしさもあって。それはつまり俺たちが完全にハンドルを握っている。相方と責任感を半分こしてる。もちろんPAさんや照明さんはいるけど、正直俺たちの占めるパーセントがめちゃめちゃデカいよね。でも映画は役者の占めるパーセントって相当低い気がする。関わる人たちの仕事量が半端じゃないから。そういう現場を知った時に、生まれ変わったような気がしたのかもしれないな。新しい感覚を手に入れた、みたいな意味かもしれない」
――改めて本作に参加してみて、思うことはありますか。
「マジで皆に見てもらいたい。プロモーションがめっちゃむずいのよ。MVってすごいなと思うのはさ、アルバム15曲ぐらい入ってる中の1曲だけど、もう本質をさ、全編を見せられるわけじゃない。映画は予告編で本質見せちゃったらネタバレじゃない?だから映画の本質って、お金を出して確認してもらうしかないわけよ。じゃあその判断材料は何かって、有名監督や有名俳優が出てるか、そういうところが軸になるから、我々は弱小中の弱小になっちゃうわけよ。どうやって皆に信じてもらうか。だから応援してくださった人たちに喜んでもらえるような結果が出せたらいいなと思いますね。"あの映画私が売ったんだよ、俺が売ったんだよ"と言ってくれる人をたくさん増やして、どうにか大きな予算のある映画に対抗したいと思ってます」
――良いですね。
「だから俺に戻っても、『さよなら ほやマン』が続いてるのよ。YouTubeを世界に届けるためにアキラがもがいてたように、この映画をどうにか知ってもらうために、もがいてる。チラシを配って、ポスターもたくさん作ろうと言って250枚発注したら、誤発注して2500枚も刷っちゃって。マジで『さよなら ほやマン』の世界だよ」
――アキラのリリックは世には出ないんですか?
「アキラではないんだけど、俺、あまりに島の人たちを好きになったし、撮影クルーに対しての感謝がめちゃめちゃあったから、こっそり宿舎で曲を作ってて。シゲルと美晴のパートも書いて、3人で1曲作ったんだ。一般リスナーの方に受け入れてもらえなくてもいいと思って作ったから、さっき言ったイサオの話も歌詞に入ってて。話の下敷きがないと何言ってるか分からないけど、事情を知っている身内だけが聴いて喜べばいいやと思ったから、ためらわずに入れて出来上がった楽曲。the chef cooks meという大好きなバンドのシモリョー(vo&key&prog)さんにトラックを作ってもらったの」
――シモリョーさんに。
「気持ちが溢れて"とにかく作ってほしいんです"と言ったら、"よく分かんないけど分かったよ"と言ってくれて。その代わり"海の波の音録ってきて"と言われて、だから最初に入ってる波音は網地島のもの。それにメイキングを撮ってた子が映像をつけてくれて、MVみたいになった。クランクアップの時に、俺が船に乗ったタイミングで皆さんに"ありがとうございました"ってワッと送って。聴く?聴く?じゃあ映像と合わせて聴いてください」
――(視聴し終わって)めちゃくちゃ良いですね......! ぜひ公開してください。最後に、記事を読む人へメッセージをお願いします。
「美晴は日本地図にダーツを投げて、刺さったのが網地島だったから島に来たんです。つまり皆さんは、実はこのページを見ている時点で、もう"ほやマン"をダーツで投げ当ててるのと同じことです。出会ったことに何かを感じていただいて、何かのご縁なので、どうか映画を観てほしいなと思います」
(C)2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
Text by ERI KUBOTA
(2023年11月 2日更新)
▼11月3日(金・祝)より大阪ステーションシティシネマほかにて全国公開
出演:アフロ(MOROHA) 呉城久美 黒崎煌代
津田寛治 松金よね子
監督・脚本:庄司輝秋
音楽:大友良英
エンディングテーマ:BO GUMBOS「あこがれの地へ」(EPIC RECORDS)
アニメーション:Carine Khalife
【公式サイト】
https://longride.jp/sayonarahoyaman
▼11月11日(土) 熊谷市立文化センター 文化会館
▼11月19日(日) LIVEHOUSE CLUB B-FLAT
▼11月21日(火) Live House Beta
▼11月23日(木) LOVE FLASH FEVER
▼11月25日(土) PENNY LANE24
▼12月1日(金) NAO Studio KAZOO HALL
▼12月3日(日) vanvan V4
▼12月9日(土) 仙台Darwin
▼12月11日(月) the five morioka(Live Music Venue)
▼12月13日(水) 酒田hope
▼12月15日(金) KUMAMOTO Django
▼12月17日(日) STUDIO DO!
▼2024年1月13日(土) LINE CUBE SHIBUYA