ホーム > インタビュー&レポート > 「創立100周年に相応しいマスターピースの作品で 声優を務めることができて光栄です」 不朽の名作『リトル・マーメイド』を実写映画化! 映画『リトル・マーメイド』アリエル役 プレミアム吹替版声優・豊原江理佳インタビュー
──オーディションを経てアリエル役の声優に決定するまではどのような心境でしたか?
オーディションは吹替のお仕事が初めてで慣れていないこともあって、ガチガチに緊張していて自分の思いを伝えることもできず、終わった時は駄目だったと思いました。オーディションが終わって決まるまでに1ヶ月くらいあったので、その間はソワソワしていました。そして、サプライズで「決まりました」と。
──その時の記事を見ましたが、最終面談で呼ばれたらサプライズだったんですよね。
そうなんです! まだ決まっていなくて、本国の方とリモートで面談と聞いていたら、決まりましたとサプライズをしていただいて、びっくりしました。
──先ほど、吹替、声優のお仕事が初めてだったとおっしゃっていましたが、いつかやってみたいという気持ちはお持ちだったのでしょうか。
ディズニーさんの吹替の仕事はいつかやりたいと思っていたので、念願が叶いました。
──今までのディズニー作品の中で憧れていた役はあったのでしょうか。
アリエルは小さい頃から何度も見ていたので、今まで受けたオーディションの中で一番やりたいと思っていました。「絶対にやりたいのでオーディション受けさせてください」と自分から事務所に言いました。
──そうだったんですね。
去年の秋ぐらいに、ハリー(・ベイリー)の歌が流れていた、短い予告編を見たのが最初で、たまたまオーディションのタイミングが合ったんです。本当にご縁だと思います。ハリーの声を聞いた時に、絶対にアリエル役をやりたい! と思ったので、ここに全てを賭けるぐらいの気持ちでオーディションを受けました。
──ハリーの声は透明感もあって躍動感もある、特別な声ですよね。
本当に人魚なんじゃないかと思いました(笑)。唯一無二の不思議な声ですよね。上手いだけでなく透き通っていて。
──そんなハリーが歌う「パート・オブ・ユア・ワールド」を豊原さんも歌ってらっしゃいますが、歌でありながら台詞のような部分もあって、歌だけ台詞だけとも違う難しさがあったと思います。
演技歌唱を求められました。今までのミュージカルの現場だと、どれだけ気持ちを込めても声はブレないようにと言われることが多かったんです。ちゃんと音程をとって声量も出すことは崩さずに、その中での表現を求められることが多くて。気持ちのままで歌ってくださいと言われたのは初めてだったので、いいんですか? と驚きました。
──難しく感じた部分はありましたか?
映画版のアレンジがハリーの歌唱力に合わせた、とても難しいアレンジだったので(笑)。だんだん息がアップアップして、最後に向けてキーが上がっていくので、なんでここで上がるの!? と思いました(笑)。
──ハリー・ベイリーの歌唱と同じアレンジになってるんですね。
ハリーが歌っている通りに楽譜が書かれているんです。フェイクまできっちり書かれていました。
──他の声優さんの声はどのように感じられましたか?
収録はひとりずつだったので、お会いしてないのですが、私が衝撃を受けたのはスカットル役の高乃麗さんです。声に命が宿っているように感じましたし、声優さんってすごいなと思いました。人間ではない、鳥のキャラクターなのにしゃべっているように聞こえて。感動しましたし、声の可能性も感じました。
──声の可能性というと?
私は今まで声と表情と身体も使って表現していましたが、声優の方たちはそれを声にぎゅっと凝縮して表現してらっしゃるので。アリエルは途中で声を失うので、台本には半分ぐらい「息」って書いてあるんです(笑)。息のバリエーションの多さにも感動しました。いろんな息があってすごく面白かったですし、好奇心の方が勝って収録中も楽しかったです。
──舞台では息だけでお芝居することはないですもんね。
新しい武器というかアイテムを手に入れたような感覚です。
──息もそうですが、声だけで表現するのは難しかったのではないでしょうか。
難しかったです。自分で台詞を聞くと棒読みに聞こえることもあって苦戦しました。人との距離感を表現するにも、近距離と離れているのでは全然違いますが、ただ声の大きさを変えればいいわけではなくて。人との距離感を声で表現するのは難しかったです。
──字幕版の『リトル・マーメイド』を観た時はどのように感じられましたか。
ハリーがすごく可愛いと思いましたし、ティーンエイジャーだなと感じました。等身大で、プリンセスプリンセスしていないですよね。現代のリトル・マーメイドというか。話し方を全然プリンセスに寄せてない感じも可愛いし、反抗期の描写にも共感できました。それに、セバスチャンとフランダーとスカットルがすごく愛おしかったです。
──アニメーション版の『リトル・マーメイド』は観てらっしゃいましたか?
小さい頃から好きでした。『リトル・マーメイド』はディズニー作品の中でも音楽の力が強い作品だと思うので、実写版にもアラン・メンケンへのリスペクトを感じました。
──世界では既に『リトル・マーメイド』は公開されていますが、その反響についてはどのように感じていらっしゃいますか。
私は、ハリーに対して賛否があることを全く知らなかったので、初めて見た時は「歌上手いな、アリエルだな」と感じました。収録に入る頃に予告編を見たら、賛否のコメントが溢れていて。アニメーションのアリエルを愛している人たちがこんなにいるんだと思いました。でも、私の中のアリエルの特徴、歌が上手いことや好奇心旺盛なことをハリーは全部捉えていたので、字幕版の本編を観たらそんな心配は吹き飛びました。
──いろんなメッセージが込められている作品だと思いますが、豊原さんはどのように感じてらっしゃいますか。
この映画から、人を形作るものはその人のキャラクターなんだと学びました。何が好きなのか、どういうことに興味があるのか、何を大事にしているのか、どういう性格なのかということがその人を作っていると思うと、人と関わる中でもその人の仕事や年齢、肩書や見た目ではなく、もう1歩踏み込んだところにその人は存在しているんだと、この映画に教えてもらいました。
──なるほど。
私も最初はそういうバイアスをかけながら観ていたことに気づいて、それはこの映画だけでなく、普段の生活でもやっているんじゃないかと。でも、ハリーのアリエルは可愛いし、魅力的以外の表現が見つからないです。
──アリエルの父親とエリックの母親がそれぞれ人間や人魚を敵視する様は、『ウェストサイド物語』や『ロミオとジュリエット』を思い起こしました。
いろんな人魚が出てくるシーンで私は拍手を贈りたくなりました。「ブラボー」って(笑)。世界平和ですよね。いろいろなことを気にすることなんて関係ないし、愛が全てなんだなって。人魚や人間、人種なんて関係なく愛し合うことがこの作品の一番大きなメッセージだと感じています。人魚と人間の愛をテーマにしていることが、自然に現在の社会と重なりました。それは、ファンタジーだからこそ描くことができたのかなと思います。
──そう考えると、ファンタジーの力を感じますよね。
人魚が私たちの知らない世界の生き物だからこそ、想像も膨らみますよね。本当にディズニーの中でもマスターピースだと思いますし、100周年に相応しい作品だと思います。そんな作品の声優を務めることができて光栄です。
──豊原さんにとっても特別な経験になったんですね。
今回、初めて声のお仕事をさせていただいて、今後もご縁があったら声優のお仕事にチャレンジしたいですし、いろいろなことを経験させていただいて、お仕事の幅が広がったと感じているので、アリエルのように恐れずにチャレンジしたいと思っています。私の人生にとって宝物のような存在になったので、この映画はずっと心の中にあり続けると思います。
取材・文/華崎陽子
(2023年6月 9日更新)
▼6月9日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
監督:ロブ・マーシャル
音楽:アラン・メンケン&リン=マニュエル・ミランダ
日本版声優:豊原江理佳(アリエル)、木村昴(セバスチャン)、浦嶋りんこ(アースラ)、海宝直人(エリック)、野地祐翔(フランダー)、高乃麗(スカットル)、大塚明夫(トリトン)
【公式サイト】
https://www.disney.co.jp/movie/littlemermaid
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/255471/index.html
とよはら・えりか●1996年4月8日、ドミニカ共和国生まれ、大阪府で育つ。2008年にミュージカル『アニー』でアニー役を務めデビューし、注目を集める。その後、ニューヨークに単身留学し本格的に演技を学び、帰国後は舞台『ピーター&ザ・スターキャッチャー』(2020)やミュージカル『The Fantasticks』(2022)、『ザ・ビューティフル・ゲーム』(2023)などの話題作に出演。映画『リトル・マーメイド』が声優初挑戦となる。