ホーム > インタビュー&レポート > 「岡田さんと剛さんがこの役をやったら絶対に 観たことのない映画になる」韓国の秀作サスペンスを 主演・岡田准一×共演・綾野剛で藤井道人監督が日本で映画化! 映画『最後まで行く』藤井道人監督インタビュー
──まずは、監督のオファーを受けた時はどのように感じられましたか。
ちょうど『新聞記者』が公開されて、『余命十年』に入っていた時期だったと思います。自分が好きなジャンルはアクションやノワール、喜劇なのに、なかなかそういう作品が日本映画では難しい。そんな中でこういう映画を作ろうとする気骨のある人たちがいることに感動して。企画書を読んでめちゃくちゃ面白かったので、すぐに「やります」と言いました。
──韓国版の『最後まで行く』を観た時の印象は?
オファーを頂いた時は観ておらず、最初は完成して答えのあるものを観るのは...と躊躇しましたが、敬意を込めて観させていただこうと。観てみると素直に面白くて、すごく韓国映画っぽい。原作にも剛さんのやった矢崎のようなキャラクターはいますが、意外とその人の背景は全然描いていない。主人公1本の筋で最後まで行った映画だと感じました。その良さは活かしつつも、自分がこの映画を新しくオリジナル映画だと思って作るには、いろんな人たちがみんなで最後まで行くようなイメージでできたらと考えました。
──その際に一番大事にしたことは何だったのでしょうか。
どうやったら映画館でこの映画を楽しんでもらえるのかを念頭に置いて作りました。スリリングでハラハラして、2時間の間、絶対に「長いな、このシーン」と思わせないように。そこからA面B面という構成が生まれて、ガラッとギアチェンジして巻き込むように最後まで行くような、そういう構成を意識しました。
──岡田准一さんと綾野剛さんの共演によって、さらにスリリングでハラハラする展開になっていました。
完全に勝算がありました。工藤と矢崎を岡田さんと剛さんでやったら絶対に観たことのない映画になると。20代、30代とかっこいい役者として駆け抜けてきたふたりが、みっともなく殺し合う姿って誰も見たことないですよね。誰も見たことのないふたりを見せられる自信がありました。こんなに輝いているふたりがこんなに埃まみれになっている。だったら、観客が自分の人生を埃まみれだと感じていても許せるんじゃないかと。これより下はないという風にふたりを見てもらえる映画にしたかったんです。
──特に岡田さんはアクションに定評があって、常にスタイリッシュなアクションを披露していましたが、今回の四つん這いで戦うシーンは本当に泥臭くて。そんな岡田さんのアクションは初めてでした。
そうですよね。まさに泥仕合(笑)。実は、その泥臭いアクションシーンは岡田さんからの提案で。この映画ではトカゲが鍵になっているんですが、トカゲのようにふたりが這いつくばっている状態をどうやったらアクションに入れられるだろうかと岡田さんが考えてくださって。ふたりが殴り合う場面でも、岡田さんが「かっこいいアクションにもできるし、泥仕合にもできるけど、藤井くんの好きな方でアクションを組んでみるよ」と言ってくださったので、「泥仕合は大好物です」と(笑)。
──見どころとなるアクションシーンはたくさんありますが、その中でも、お墓でのアクションシーンは格別でした。撮影許可を取るのも大変だったのではないでしょうか。
あのお墓は無縁仏というか、いわばお墓のお墓なんです。使われなくなった墓石たちを祀っている場所なので、実際のお墓ではなくて。お墓のシーンは映画の中の柱なので、どこにしようかと探したんですが、なかなかいいロケ地の候補が見つからず。僕が「愛知県 お墓 変わってる」と検索したら出てきたんです。
また、そこの方がすごくいい方で。「お墓の上でアクションしたいんです」とお願いしたら「1回手を合わせていただければ」と。ポスタービジュアルも、そのお墓の横にモトクロス場を持ってらっしゃるので、そこで埃をたきながら撮影させてもらいました。ロケ勝ちだったと思いますし、本当にあのふたりのアクションが素晴らしかったです。
──岡田さんに工藤役をオファーすることはすぐに思いつかれたのでしょうか。
ちょうど僕は『木更津キャッツアイ』世代なので、10代の頃からテレビや映画で岡田さんを見ていて。だからこそ、日本映画界を牽引する岡田さんといつかチャレンジしたいという気持ちは以前からあったので、ダメ元で。聞くだけはただなので(笑)。それぐらいの気持ちでしたが、快諾していただけて嬉しかったです。
──綾野さんとは『ヤクザと家族』などの作品でもご一緒されていましたが、本作ではまた新たな綾野さんを見ることができたのではないでしょうか。
見たかった剛さんをたくさん見ることができました。剛さんはすごくストイックな映画人なんです。『ヤクザと家族』では悲哀、「新聞記者」では苦悩する官僚の役、「アパランチ」では飄々としたピカレスク・エンタテインメント。次は狂った剛さん、クレイジー剛を撮りたいと思って。剛さんが「40歳になって俳優第2章が始まる」と話していたんですが、僕から俳優第2章でプレゼントしたのがクレイジーな役でした。
──綾野さん演じる矢崎がイライラしている時に、瞼の下をピクピクしていたんですが、演技であれを何回もやってしまう綾野さんはすごいと思いました。
剛さんと、ある種の異常性を表すような矢崎の癖をつけたいという話をしていて。神経質さを表す癖としてチックがいいんじゃないかと。剛さんはめっちゃ上手いんです。でも最近、剛さんとご飯を食べていた時に、「他にどんな技を持ってるんですか?」と聞いたら、剛さんが別のドラマか映画で歯ぎしりをする役をやっていて、歯を削ってるらしいんです。だから、歯ぎしりがめっちゃ上手くて。ギリギリギリギリって(笑)。知ってたらお願いしてたのに! と思いました。剛さんは役のために何でもやっちゃう人なので、いろんな技を持ってるんです。
──岡田さん演じる工藤はシリアスとコミカルの狭間にいるようなキャラクターのように感じました。真剣なのに、どこか可笑しくて笑ってしまうような。
岡田さんには「僕らが障壁を準備するので、観ている人を笑わそうとかそういうのは一切考えなくて大丈夫です」と言いました。「ただ、与えられた壁に動揺していただければというか、リアルにリアクションをとってもらえれば、大そうな壁を用意するので(笑)」と。岡田さんは、笑わそうとしているわけではないんです。
──そうなんですよね。真剣なのが一番面白いというか。
そうですよね。笑わせようとしてないはずなのに、ふたりを蚊帳の外から観るとすごく笑えるんですよね。スクリーンで観ていて、こっち側にいる以上は誰も襲ってこないので(笑)。そういう感覚を大事にして作りました。
──限界まで追い込まれていく岡田さんも新鮮でした。監督の中で追い込まれる岡田さんを見たいという気持ちがあったのでしょうか。
見たかったですね。キュートな岡田さんが追い込まれるところを見たいと思いましたし、岡田さんを追い込む機会って映画の中でしかないですから(笑)。どんな表情が見られるんだろうとワクワクしていました。
──改めて岡田さんの凄さみたいなものは感じられましたか。
岡田さんは完璧なんです。演技もアクションも。スタッフや映画に対する姿勢も人格者ですし。本当に映画のことを考えて先頭に立ってくれる。僕は映画が駄目だったら自分の責任だと思っていますが、今回は同じように思ってくれている人がすごく多くて。それは岡田さんだけでなく、剛さんも。そんな風にリスペクトし合う環境の中で映画を作ることができたのは幸せでした。
──本作は韓国版のラストとは異なる終わり方になっていますが、どのように考えられたのでしょうか。
ここまで人物を掘り下げることができたのであれば、もっといけるなと思いました。加えて、年が明けるまでの96時間ノンストップ・エンタテインメントと謳っているので、だったらどこまで行けるんだろうと考えて作っていました。
──年末の96時間という設定がよりこの映画をスリリングなものにしているように感じました。このアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
これはプロデュースチームと脚本チームで脚本を作っている中で出てきたと思います。どれだけ工藤に負荷をかけられるかというのがミッションだったので、死体をどうするかだけでなく、時間的な制限を入れてみたらどうなんだろう? など、いろんなことを考えた中で一番良い塩梅だったのが、年の瀬の大騒動でした。
──年の瀬という設定が、検問や葬儀にまつわる理由など、様々な出来事の説明として納得できる要素になっていました。
結婚式だけは悩みました。でも、彼らは上級国民ですから(笑)。
──確かに、年の瀬に結婚式!? と思う部分はありましたが、あの結婚式のシーンの綾野さんは最高でした。
あのシーンはめちゃくちゃ笑いながら撮ってました。
──先ほど、A面B面という構成で、ガラッとギアチェンジして巻き込むようにとおっしゃっていましたが、どんどん映画に入り込む構成にしたかったということでしょうか。
そうですね。どうすれば観客がハラハラしてくれるだろうと悩んでいた時に思いつきました。僕は、同じプロットラインだったら韓国版を観ればいいと思ってしまうタイプなので、同じスタート地点なのに、日本チームはこんな映画になったんだ! という風に驚いてほしくて。
それは、映画の体感時間が昔とは違うことも理由だと思っています。配信や倍速で見られることが増えていますが、視聴環境は観客が選ぶものなので観客のそういう行動を否定したくなくて。劇場で観てもらいたいですが、家で配信で観ても倍速する暇がなかったと思うような展開にしたいと思いました。
──観る環境はどんどん変化していると思いますが、作り手である監督はどんな風に捉えてらっしゃるのでしょうか。
テレビ、ドラマ、映画というのは僕が生まれる前からあったもの。そのしきたりやルール、フォーマットというのは決められていて、それを僕らが勉強してきました、映画はこう、テレビはこうだと。その一方で配信は、僕が生まれてから出てきたプラットフォームです。
僕は、配信によって映像の可能性が一気に広がったような気がしています。型に囚われないというか。すごくポジティブに捉えていますし、映画を映画館で観る意味を再認識できた気がします。だから、これは配信だけで観てもらいたくないな、劇場でしっかり観てもらいたいと、映画を作っていてより強く思うようになりました。
──監督は映画を作りながら、Netflixでドラマシリーズも手掛けてらっしゃいます。異なるプラットフォームで作品を作っているからこそ思うこともあるのではないでしょうか。
どのプラットフォームでも同じ論法で作ることは、ラーメン屋でカレーを出すようなものだと思うんです。映画はスクリーンで自分と対話するもので、テレビはもっと見方に多様性があって、ながら見する人もいれば、しっかり見る人もいる。配信になると、途中で消すこともできるし、自分の好きな場所で見ることができる。配信はすごく束縛度が低いと思います。だからこそ、配信に求められているものへのレベルは高いと思っています。同じものを同じように同じ作り方で作っていても駄目だというのは常々感じています。
──『最後まで行く』というタイトルには強い響きを感じます。監督のお話を聞いていると作品名がまさにスローガンのようになっていたのではないでしょうか。
スローガンになってましたね。これを言っておけばOKというように、みんなで合言葉のように「最後まで行きましょう」と言っていました。コロナ禍だったので、2回に分けて撮影したんです。特に群衆を映すシーンはルール的にも安全面的にも撮影できなかったので。そういう意味では難産な撮影環境でした。でもそんな中でも、みんながこの映画を信じていたから、また集まって撮影することができました。
──今回、『最後まで行く』を作ったことで監督にとって良かったと感じてらっしゃることは何だったのでしょうか。
大学時代はコメディが大好きだったんですが、僕自身が商業映画はこうだと思い込んでしまって、作品にユーモアが欠けていたことを自覚していました。
僕がすごく尊敬しているアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督も、『バベル』や『BIUTIFUL ビューティフル』を撮ったかと思えば、急にユーモアを手に入れて『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を撮って、それが行き過ぎて『バルド、偽りの記録と一握りの真実』になって。自分にもユーモアが欲しい、ユーモアって何だろう? と考えていた時にこの映画を撮れたことは、自分がすごく成長できたと感じています。
──本作はコメディではないのに、すごくユーモアを感じました。
笑いは映画を作る上ですごく難しい要素なので。笑っていいのかわからないけど面白いってすごくいいラインだと思うんです。僕は「はい、笑って」と言われると笑えないタイプなので。自分のやり方でやって届くんだと自信も持てましたし、人の愚かさを喜劇という目線で演出することを、初めて商業映画でできたのは財産になったと思います。
取材・文/華崎陽子
(2023年5月24日更新)
▼TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
出演:岡田准一 綾野剛
広末涼子 磯村勇斗
駿河太郎 山中崇 黒羽麻璃央 駒木根隆介 山田真歩 清水くるみ
杉本哲太/柄本明
監督:藤井道人
脚本:平田研也 藤井道人
【公式サイト】
https://saigomadeiku-movie.jp/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/273186/index.html
ふじい・みちひと●1986年8月14日生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014)でデビュー。以降『青の帰り道』(18)、『デイアンドナイト』(19)など精力的に作品を発表。『新聞記者』(19)では日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。以降、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、「アバランチ」(21/CX)、「新聞記者」(22/Netflix)と話題作が公開。2022年に公開した『余命10年』は興行収入30億円越えの大ヒットを記録した。2023年も『ヴィレッジ』が公開されるなど、次回作の公開が待たれる日本屈指の映画監督。