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「贅沢な経験をさせてもらった」
発達障がいを持つ画家と雑誌編集者の恋物語
映画『はざまに生きる、春』主演・宮沢氷魚インタビュー

観客の心を揺さぶる企画を募集する“感動シネマアワード”で大賞に輝いた作品を映画化した『はざまに生きる、春』が、5月26日(金)より、シネ・リーブル梅田ほか全国にて公開される。周囲に遠慮して思っていることを口にすることができない雑誌編集者の小向春が、思ったことをストレートに口にし、嘘がつけない発達障がいを持つ画家の青年・屋内透と出会い、心を寄せていく様を瑞々しく描く。

2023年も『レジェンド&バタフライ』や『エゴイスト』などへの出演が話題を呼び、『エゴイスト』でアジア全域版のアカデミー賞、第16回アジア・フィルム・アワードで助演男優賞を受賞した宮沢氷魚が主演を務め、小西桜子が小向春を演じ、葛里華が初監督を務めている。そんな本作の公開を前に、宮沢氷魚が作品について語った。

──まずは脚本を読んだ時の印象についてお聞かせください。

僕が所属している事務所が実施した"、感動シネマアワード"という企画が立ち上がったのは3年ほど前でした。僕が読ませていただいた作品の中で一番記憶に残ったのがこの作品でした。監督の葛里華さんの登場人物に対する愛が文面から感じられて。自分がこれから演じるかもしれない役に、こんなにも愛が込められているのであれば、この人物に命を与えてあげたいと思ったのが第一印象で、この作品を選んだきっかけでした。

──登場人物に対する愛というのはどんな部分から感じられたのでしょうか。

僕が演じた屋内透くんと小西桜子さんが演じた春ちゃんの関係性の描写に温かみを感じました。物語がすごく繊細に描かれていると感じて、信頼できる監督だと思いましたし、監督の思いに応えたくなりました。

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──屋内透さんという人物を演じるにあたって、宮沢さんはどのようなイメージで演じられたのでしょうか。

彼には発達障がいを持っているという特性はありますが、屋内透くんにはそれだけではなく、純粋さや好きなものに対する情熱が誰よりも強いこと、絵を描く才能などの要素があるので、そちらを軸にしたいと思いました。いつも通りの役作りの中で、そういうところからキャラクターを作って、ある程度完成した後でアスペルガー症候群の特性を持っているという要素を加えて作り上げました。

──本作を観ていて屋内透さんは本当に純粋で真っすぐな人だと感じました。演じるうえで何か意識されたことはあったのでしょうか。

僕は透くんほどピュアでもないですし、正直でもないので(笑)。透くんは複雑なことを考えるのが苦手なので、思ったことを伝えて、やりたいことをやって、感じたいように物事を感じるから、そんな風にいれたらいいなという、ある意味自分の理想から想像を膨らませて、ピュアさというか真っすぐさを表現したつもりです。僕も透くんみたいにピュアでいられたらいいなと思います。

──約束は絶対に守る屋内透さんを見ていて、約束しても守っていないことや言ったのにやっていないことが私たちの日常には溢れていることを実感しました。

めちゃくちゃありますよね。「今度ご飯行こうよ」って言ったのに行ってないとか。「連絡するね」って言って連絡してないとか。

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──その通りですよね。宮沢さんは実際に屋内透さんを演じてみてどんな風に感じられましたか?

僕も言ってることとやっていることが全然違うときはあります(笑)。「今度みんなで集まろうよ」って言って集まらないなど、口だけだなと感じることは多々あります。でもその一方で透くんは、それを言ったら傷つけてしまう、と思うようなことも言ってしまうので。それが透くんの良さでもありますが、正直であることは良いことですが時に人を傷つけてしまうこともある。

──そうですね。

だから僕は、嘘はついていいと思っています。あくまでも僕個人の意見ですが、人を傷つける嘘は駄目だけど、人を守るため、時には自分を守るための嘘は必要だと思います。透くんの真っすぐさはすごいと思いますが、人を傷つけてしまう時もあることをわかった上で、悪気があるわけではないので、彼の本当の思いを理解してあげることが必要だと思いました。春ちゃんだからこそそんな透くんを理解できると思いますし、その逆も然りだと思います。

──屋内透さんを演じることに難しさは感じられましたか?

hazama_sub.jpgもちろん難しさはありました。どんどん物語が進んで、春ちゃんが透くんに好意を持ってくると、透くんとしてはフラットなのかもしれませんが、演じている僕としてはどんどん思いが膨らんでいくんです。それを抑えるのが大変でした。でも、透くんには大きい変化はないかもしれませんが、春ちゃんに出会って変わった部分も確実にあると思うんです。変わりかけているけどストッパーをかけているところが、ある意味リアルな僕の感覚に似ていたので、それをうまく使いながら透くんの日常生活とバランスをとりながら演じていきました。

──本作からは小西さん演じる春のひたむきさがすごく伝わってきましたが、実際に小西さんが春を演じているのを見てどのように感じられましたか。

脚本を読んでいる時からすごく可愛らしい、優しい女の子をイメージしていたので、誰がこの純粋な女の子を演じられるんだろう? と思っていました。小西桜子さんが演じることになったと聞いて、僕はお会いしたことはなかったんですが、映画やテレビで拝見していて、この方なら春ちゃんに合うんじゃないかと思いました。実際にお会いしたらイメージの何倍も真っすぐで透き通るような魅力があって、この方だったらすごくいい映画になるとすぐに感じました。

──撮影は2年前だったとお聞きしましたが、撮影から年月を経て完成作を観た時はどのように感じられましたか。

2年前に撮っているので覚えていることもあれば忘れていることもあって、懐かしさもありました。でもやはり完成した作品を観ると、このシーン楽しかったな、大変だったなと、一瞬でその時の景色が蘇ってきました。

──『his』や『エゴイスト』、本作でも生きにくさや生き辛さを抱えている役を演じていますが、宮沢さんの中で何か意識していることはあるのでしょうか。

意識的に演じる役を選んでいるわけではありません。『エゴイスト』の時もたまたまそのタイミングでお話をいただいたという感覚です。脚本を読んで、この作品によってたくさんの人が救われたり考え方をより良く変えられるんじゃないかと思うものを選んだ結果、たまたま『エゴイスト』や『はざまに生きる、春』という作品に関わることができたという感覚です。

──傍から見ていると、すごくいい流れの中にいらっしゃるように見えます。

気が付いたらそうなっているので、もし流れがあるのだとしてもまだ実感は湧いていないです。自分はまだそこに追いつけていませんが、本当にいいバランスで作品が続いていることは実感しています。それは意図的にやろうとしても実現できないことなので、僕は目の前にあるひとつひとつの作品に真正面から向き合ってやっていくだけです。それが、もしかしたら僕のわからないところで評価されているのかな? と思っています。

──『レジェンド&バタフライ』への出演も、時代劇に出ることはないと思っていた中でのオファーだったとお聞きしました。

時代劇をやってみたい気持ちはあり、甲冑を着て戦場に出て、刀でアクションをしてみたいと思っていましたが、身長184cm、クォーターなので、僕は出演できないと思っていたので驚きました。戦国時代にそんな人はいませんから。でも、大友監督から「ぜひ木村拓哉扮する織田信長に対峙する明智光秀を演じてほしい」と言われて、驚きと喜びを感じました。史実に基づきながら作っていても、大友さんの作品はそれだけじゃないので、あの世界だったら僕が入っても明智光秀として生きていけると思いました。

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──本作では、映画になるかならないかという段階から携わってらっしゃいますが、それも宮沢さんにとっては新しい体験だったのではないでしょうか。

企画の立ち上げから参加できたのは初めてでした。役者は脚本も完成して、監督もカメラマンも決まって、最後の段階で関わることが多いポジションなので。僕たちも現場で意見を言うことはできますが、選ぶところから参加できたのはすごく贅沢な経験をさせていただいたと感じています。自分で監督しない限りは脚本を選ぶ立場になることは、この先もないかもしれないので楽しかったです。

──この先、またこのような機会があったらいいですね。

基本的に僕たちは与えられてやっと仕事が成立するので、自分がやりたい作品や演じてみたい役を自分で選べるというのは、ある意味すごく幸せなことですよね。脚本や監督、カメラマンさんをはじめとするスタッフさんがいない限り、僕たちは何もできないので。今回改めて、本当にたくさんの方たちが関わってくれてお仕事が成り立っていることに気づきましたし、有難いと思いました。

写真/井原完祐
取材・文/華崎陽子




(2023年5月23日更新)


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Movie Data




(C) 2022「はざまに生きる、春」製作委員会

『はざまに生きる、春』

▼5月26日(金)より、シネ・リーブル梅田ほか全国にて公開
出演:宮沢氷魚 小西桜子
細田善彦 平井亜門 葉丸あすか 芦那すみれ
田中穂先 鈴木浩文 タカハシシンノスケ 椎名香織 黒川大聖 斉藤千穂 小倉百代 渡辺潤 ボブ鈴木/戸田昌宏
監督・脚本:葛里華

【公式サイト】
https://hazama.lespros.co.jp/

【ぴあアプリサイト】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/275859/index.html


Profile

宮沢氷魚

みやざわ・ひお●1994年4月24日、アメリカ・サンフランシスコ生まれ。2017年にテレビドラマ「コウノドリ」第2シリーズで俳優デビュー。その後、ドラマ「偽装不倫」(19)、NHK連続テレビ小説「エール」(20)、映画『グッバイ·クルエル·ワールド』(22)、『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』(22/声の出演)など多くの作品に出演。初主演映画『his』(20)では、第12回TAMA映画賞最優秀新進男優賞をはじめ、数々の新人賞を受賞、映画『騙し絵の牙』(21)にて、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。舞台出演作に「BOAT」「豊饒の海」「CITY」「ピサロ」など。2022年には、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」への出演も話題を呼んだ。2023年には、『THE LEGEND&BUTTERFLY』『エゴイスト』と出演作の公開が相次ぎ、『エゴイスト』でアジア全域版のアカデミー賞、第16回アジア・フィルム・アワードで助演男優賞を受賞した。