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「親子というのは延々と続いていくんだと感じた」(役所)
「どうしても役所さんと菅田くんの親子で映画にしたかった」(監督)
門井慶喜の同名直木賞受賞作を役所広司&菅田将暉共演で映画化!
『銀河鉄道の父』主演・役所広司&成島出監督インタビュー

門井慶喜による同名直木賞受賞作を映画化した『銀河鉄道の父』が、5月5日(金・祝)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開される。2023年に没後90年を迎える文豪・宮沢賢治の生涯を父親の視点から、家族をめぐる物語として描き出す。

役所広司が、厳格であろうとするも賢治をどうしても甘やかしてしまう父・政次郎を演じ、菅田将暉が親泣かせに我が道を行く宮沢賢治に扮している。そのほか、森七菜、坂井真紀、田中泯らが出演し、『八日目の蝉』の成島出が監督を務めている。そんな本作の公開を前に、主演を務めた役所広司と成島出監督が作品について語った。

──監督が原作を読んで映画化したいと思われたそうですが、どの部分に一番惹かれたのでしょうか。

監督まず、すごくびっくりしたんです。過去の宮沢賢治さんを題材にした映画では、政次郎さんはものすごく厳しい父親として描かれています。2時間の映画の中で1回笑ったか笑わないかぐらいで、最後に1回だけ褒める。(宮沢賢治さんの弟である)清六さんが「最後に父が褒めて、賢治兄さんがようやく父さんに褒められた」という言葉を残しているので、それが定説なんです。そこから逆算してドラマを作っている印象がありました。

──でも、門井先生の本はそうではなかった、と。

監督:ところが、門井先生が調べたら実は...というのがこの映画の原作です。政次郎さんは明治の時代にイクメンのはしりで、親バカだったと。180度違いますよね。それに、関西の人が書いた本だからクスクス笑えて面白い。読み終わった瞬間に、これは役所さんで映画にしたいと思いました。

──役所さんで映画にしたい理由は何だったのでしょうか。

監督:役所さんには僕の初監督作品である『油断大敵』で主演してもらいましたが、ユーモアのあるお芝居が本当に上手いんです。クスクスっと笑えるような人物を役所さんにやってもらうと最高で。役所さんとまたそういうものをやりたい、何よりも僕がそういう役所さんを見たいと思っていました。だから、この原作を読んだ時に絶対的な自信を持って役所さんしかいないと思いました。

──役所さんは監督からオファーをもらった時はどのように感じられましたか。

役所:監督がユーモアのある作品を好んでいることは、脚本家時代の『大阪極道戦争 しのいだれ』や『シャブ極道』などに色濃く出ていましたよね(笑)。この映画の登場人物はみんな面白味のあるキャラクターでしたし、ユーモアもある。特に政次郎さんは自分でも気づかない愛嬌を持っている。どちらにしても成島監督から声がかかったので、もちろんやるつもりで原作を読ませてもらいました。

──役所さんと監督は『油断大敵』の前の、監督が脚本を書かれていた頃から交流があったんですね。

役所:監督は、助監督時代の飲み会の時に「僕はもうすぐデビューしますから、その時は出てください」って言ってきたんです。監督は覚えてないかもしれないけど(笑)。

監督:覚えてます。役所さんは「いずれね。でも、監督にならない方がいいよ」って。それは、せっかく脚本を書けるんだから脚本家として...という意味でした。僕は市川森一さんのシナリオがすごく好きで、それを写して脚本を覚えました。その話を役所さんにしたら市川森一さんとすごく近しいとわかって。そういう好みが一緒だから僕の本を気に入ってくださったんだ、と。

役所:監督は脚本を書けるのに、監督をやるときは書かないんです。結構直すんですけど(笑)。

──そうですよね。

監督:それは印税があるからです。僕が脚本を書き始めた頃は印税収入も大きかったので。監督を連名にすると半分持っていかれるんです。僕は自分が脚本家の時に、ちょこちょこ手を入れて連名にされたことがものすごく頭にきていて。自分が連名にされるのが嫌だったので、自分では絶対にやらないと。だから、実際には共作のようなことはやっていますが、やっぱり脚本家には脚本1本で背負ってもらいたいんです。

──なるほど。脚本家さんと脚本を直すことはあっても、クレジットは脚本家さんひとりでということですね。

監督:リレーのファーストランナーと同じで、初稿を完成させるのはものすごくきついんです。できたものを直したり調整する、第2走者第3走者というのは割と楽なんです。そして最後のアンカーが、役所さんたち俳優部です。ファーストランナーと最終ランナーは本当にきついです。だから脚本はなるべく、ファーストランナーをやった人の単独の名前でやりたいと思っています。

──政次郎さんを役所さんにと思われるのと同時に、宮沢賢治は菅田将暉さんでと思われたのでしょうか。

監督:そうですね。おふたりは同時でした。賢治さんは純粋な心と荒ぶる魂の両方を持っている人なので、それを今体現できる、この世代の俳優というと菅田くんしか思いつかなかった。どうしてもこのふたりの親子で映画にしたいと最初に思いました。

──役所さんは菅田さんとの共演は初めてだったと思います。

役所:菅田くんもそうですが、宮沢家の家族の中では田中泯さん以外、全員初めてでした。

──田中泯さんとは昨年公開された『峠 最後のサムライ』に続いての親子役でした。

役所:泯さんはそんなに年離れてないって言ってましたけど(笑)。

──菅田さんのことはどんな風に見ていらっしゃったのでしょうか。

役所:昨年亡くなった青山真治監督の『共喰い』で初めて菅田くんを知って。いい俳優さんだと思ったので、よく見ていました。いつか会える日を楽しみにしていました。僕は宮沢賢治という作家のことはあまり詳しくなくて。あまり読んでもなかったんです。でも、この作品に携わって原作や資料を読ませていただいて、改めて宮沢賢治の良さと素晴らしさに触れて、賢治役に菅田くんはぴったりだと思いました。

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──菅田さんと一緒にお芝居をされてどのように感じられましたか。

役所:菅田くんは皆さんご存知のように素晴らしい俳優さんなので。台本なんてすぐに覚えて、パパッとやるようなタイプなのかなと思っていたんです。でも、空き時間にはずっと台本をめくりながらブツブツ言っていたので、それは意外でした。菅田くんでもこれだけ努力するんだ、と。

──菅田さんは役所さんとの共演は念願だったとおっしゃっていました。

役所:今の若い俳優さんはみんな上手ですからね。自由自在で。だから、自分もついていかなきゃいけないと思っています。いい俳優さんと仕事をする時はいつも刺激を受けたいと思っていますし、そのエネルギーによって自分もレベルアップしていきたいと思っています。これから彼らの時代になっていくわけですから。「おやじ、俺の足を引っ張るなよ」と言われないように頑張りたいですね(笑)。

──そんな菅田さんだけでなく、宮沢賢治の妹・トシを演じた森七菜さんも母親役の坂井真紀さんも素晴らしかったです。

監督:この映画は家族の物語なので女性陣もポイントなんですが、すごくいいハーモニーだったと思います。女性の目から見た賢治の姿、要するに妹から見たお兄ちゃん、母から見た賢治の視点も入れて複合的に描きたかった。父親目線が主軸ですが、母親の目線や妹の目線が入ることによる重層感が重要だと思いました。

役所:宮沢家は女性ふたりが影の大黒柱ですから。

──本作で役所さんは、田中泯さん演じる喜助の前では息子としての政次郎、賢治の前では父としての政次郎と、息子と父の両方を演じていらっしゃいます。それぞれの立場を演じることで何か感じるものはありましたか。

役所:喜助が死を前に狂乱するシーンはワンカットで撮ったんですが、あのシーンで親子というのは続いていくんだなと思いました。台本を読んでいる時以上にそう感じましたね。政次郎にも喜助という父親がいて、政次郎にも賢治という言うことを聞かない息子がいる。延々と親子というのは続いていくんだと泯さんの狂乱のシーンで感じました。

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──あのシーンを長回しで撮ることは撮る前から決めてらっしゃったのでしょうか。

監督:撮る前から決めていたわけではありませんが、リハーサルでお芝居を見ると皆さん素晴らしいので、切りたくなくなっちゃうんです。だから、ワンカットでいこうとついついなってしまう。切るのがもったいなくて。

──そのシーンで、トシが喜助に「綺麗に死ね」と言う場面は、泯さんの狂乱とも合わせて前半のクライマックスとも言えるシーンでした。

監督:原作では、トシがおじいさんに手紙を書くんです。その後に地の文で「要は綺麗に死ねとトシは言っているのである」と書いてあるんです。これを手紙ではなく台詞としてやってみようと。あのシーンはすごく悩みましたが、さすが森七菜さんでした。

──先ほど役所さんは宮沢賢治さんにあまり触れてこなかったとおっしゃっていましたが、この作品に出演したことで何か変化はありましたでしょうか。

役所:宮沢賢治に興味が沸きました。彼の言葉や文章、物語はこの映画に携わったことでより深く胸に沁みましたし、彼の書き留めたものになんとなく近づけたような気がして、感動するところもありました。

──監督は本作を撮ったことで宮沢賢治さんの印象などは変化しましたか?

監督:すごく変わりました。父親像が180度変わったことで、かなり見方が変わって。大谷翔平は賢治さんと同じ花巻出身ですが、彼の二刀流に対して反対する人もたくさんいたと思います。賢治さんも彼と同じで、結局、この政次郎さんという父親が全部受け入れたから、宮沢賢治という才能が花開いたんだと。彼の才能がひとりで走っていったんだと思っていましたが、父親と家族の存在、そして花巻という場所がすごく大きなものだったんだと感じました。

──今年の1月に公開されたおふたりのタッグ作『ファミリア』に続いての父と息子の物語になりました。

監督:監督としては、『油断大敵』も役所さん演じるやもめの父親が主人公でしたし、『聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実』も戦争ものですが、父親としての五十六を重点的に描いています。それはたぶん僕の中に、父に対する何かがあるんだと思います。

──そして、監督の作品で父親を演じてもらうとすれば役所さんに、と。

監督:そうですね。

──家族映画が続いたことに何か思うところはありましたか。

役所:家族の物語でなくても、家族が描かれていなくても、人を演じる時には必ず家族のことが背景にあります。戦争に行く人やヤクザの手入れをする刑事を演じるにしても家族はその人物の基本だと思っています。今回の『銀河鉄道の父』のように真っ向勝負で家族の物語を作ることは僕にとっても初めてのことでしたが、素晴らしい俳優さんたちと一緒に家族の物語を作ることができたので、すごく頼もしかったですね。

監督:『ファミリア』とこの映画の公開が続いたことは偶然ですが、この作品を企画した時はコロナもなくて。この2本に携わっている最中にコロナになって、家族と死別する時に会えないし手も握れないような状況になって、宅急便のように骨だけが帰ってくる。そんな日が来るなんて思ってなかったですよね。さらにはウクライナで戦争が始まって、駅のホームでウクライナに残る父親と、赤ちゃんを抱いた母親の別れの場面を見て、第二次世界大戦の映像かと思ったら今朝の映像で。そんなこと全く想像できなかった。結果的にそんな中で公開を迎えることになって、家族が一緒にいられるだけで実は奇跡で、どれだけ幸せなことなのかと改めて考えるようになりました。

取材・文/華崎陽子




(2023年5月 1日更新)


Check

Movie Data



(C)2022「銀河鉄道の父」製作委員会

『銀河鉄道の父』

▼5月5日(金・祝)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:役所広司
菅田将暉 森七菜 豊田裕大
坂井真紀 / 田中泯
監督:成島出
原作:門井慶喜「銀河鉄道の父」
主題歌:いきものがかり「STAR」

【公式サイト】
https://ginga-movie.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/256762/index.html


Profile

役所広司

やくしょ・こうじ●1956年、長崎県生まれ。1995年に『KAMIKAZE TAXI』(95/監督:原田眞人)で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。96年『Shall we ダンス?』(監督:周防正行)、『眠る男』(監督:小栗康平)、『シャブ極道』(監督:細野辰興)で国内主演男優賞を独占。東京国際映画祭主演男優賞を受賞した『CURE キュア』(97/監督:黒沢清)、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『うなぎ』(97/監督:今村昌平)など、国際映画祭への出品作も多い。2012年には、紫綬褒章を受章。近年では『三度目の殺人』(17/監督:是枝裕和)、『孤狼の血』(18/監督:白石和彌)、『峠 最後のサムライ』(22/監督:小泉堯史)、『ファミリア』(23/監督:成島 出)などに出演し、『すばらしき世界』(21/監督:西川美和)では、シカゴ国際映画祭最優秀演技賞、キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞を受賞。今後は、Netflixシリーズ「THE DAYS」が23年6月1日配信予定、23年7月期TBS日曜劇場「VIVANT(ヴィヴァン)」に出演予定。また、ヴィム・ヴェンダース監督によるプロジェクト「THE TOKYO TOILET Art Project」の映画にも出演予定。日本を代表する俳優として活躍している。


成島出

なるしま・いずる●1961年、山梨県生まれ。1994年から脚本家として活躍した後、役所広司を主演に迎えた初監督作『油断大敵』(2003)で藤本賞新人賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。『八日目の蟬』(11)は日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞など10部門を受賞する。その他、『フライ,ダディ,フライ』(05)、『孤高のメス』(10)、『ソロモンの偽証 前・後編』(15)、『ちょっと今から仕事やめてくる』(17)、『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(19)、『いのちの停車場』(21)など数々の話題作を手がける。役所広司とは、『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(11)、『ファミリア』(22)に続くタッグとなる。