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足立紳が20年越しの企画を自ら映画化!
池川侑希弥(関西ジャニーズJr./Boys be)が
初主演を務めた少年たちの青春映画
映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』足立紳監督インタビュー

2023年10月期の連続テレビ小説「ブギウギ」の脚本を担当する足立紳による小説「弱虫日記」を、自らが監督を務め映画化した『雑魚どもよ、大志を抱け!』が、3月24日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開される。昭和末期のとある地方の町を舞台に、小学6年生の少年たちの葛藤と成長を逞しく描き出す。

関西ジャニーズJr./Boys beで活躍中の池川侑希弥が映画初主演を務め、田代輝、白石葵一、松藤史恩、岩田奏らが共演し、小学6年生の少年たちの日常を瑞々しく演じている。そんな本作の公開を前に、足立紳監督が作品について語った。

──20年越しでの映画化とお聞きしましたが、この脚本を映画化したいと思った一番の理由は何だったのでしょうか?

20年間ずっと、映画にするんだという強い思いを持っていたわけではありませんが、やっぱり相米(慎二)さんに褒められたことが一番大きいかもしれません。

──どのように褒められたのでしょうか?

そもそも、相米さんはすごく話す方ではないので、直接言われてはいないんです。相米さんのマネージャーさんから、「足立くんがこの前相米に渡したシナリオを相米がいいって言ってるから、ちょっと相米に預けない?」という電話がかかってきたんです。相米さんが映画にしてくれるのかどうかはわかりませんでしたが、相米さんがそんな風におっしゃってくれたことがすごく嬉しかったんです。

──それは嬉しいですね。

僕は、相米さんにくっついている間に、やっぱり映画はすごい人たちが作るものなんだと挫折を感じていて。そんな挫折と、「相米慎二に褒められた」という小さな自信の両方を味わったからこそ、この脚本への思いが強く残っていたんだと思います。

──相米さんから褒めてもらえたのはこの脚本だけだったのでしょうか。

いろんな脚本を見せていましたが、唯一褒められたのがこれでした。

──だからこそ、折に触れてこの脚本への思いが蘇ってきていたのでしょうか。

そうですね。この脚本への思いはずっと自分の中にあって。一時は、離れられなくなってしまって、このシナリオばかり直していたこともありました。妻にも「やばいよ。いつまでそれにすがりついてるの?」と言われるぐらいでした。

──脚本から小説になって映画化に至るまでに、だいぶ紆余曲折があったんですね。

自分の中では、もう自主映画でやるしかないと思っていました。2021年に飛騨でロケハンしていた時は、自分のお金をメインにした自主映画でやろうと考えていました。その後から協力していただける方が増えて、今のような形で映画化することになったんです。

──劇中の町並みは、本当に昭和の町のように見えましたが、飛騨だったんですね。

あんな町並みが残っているんですよ、飛騨には。

──飛騨での撮影はどのように決まったのでしょうか。

僕は岐阜県へ行ったことがなかったんですが、プロデューサーの坂井さんが何県か周ってロケハンしてビデオに撮ってきてくれたんです。その中で飛騨が一番、自分の生まれ育った鳥取県に雰囲気が似ていたので、まず飛騨に行ったら、自分が生まれ育ったところと空気感から何から全てが、こういうところだったと感じて。尚且つ、町の一部に昭和の雰囲気が残っているのではなく、本当に町全体が昭和の雰囲気なんです。

──多少CGで消したところはあると思いますが、昭和の町にしか見えませんでした。

多少パラボラアンテナを消した程度ですね。車は現代のものなので入れないようにしましたが、後はカメラをどれだけ動かしても大丈夫でした。ちょっとこっちに動かしてしまったら今っぽい建物が入ってしまうとか、そういうことが全くないので、子どもたちを右往左往させてものびのびと撮影できました。

──特にオープニングの子どもたちがいたずらをするシーンは、ワンシーンワンカットを何回か続けることによって、子どもたちの普段の生活と住んでいる場所がわかるようになっていました。

それもありますが、ワクワク感が出ると思ったんです。子どもたちがひとりずつ増えていって、いたずらをしていく。おっしゃるように、長回しだとカメラがくっついていくことによって町が丸々入るので、切り取るのではなく、そこに住んでいる人間ごと町を撮るような感覚でした。

──それが出来たのも飛騨だったから、ですよね。

ロケ地としてあまり知られていないと思うので、もったいないですよね。昭和の時代の物語を作るときはみんな苦労しているはずなので。飛騨と出会ったのはこの作品にとってすごく大きかったです。

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──子どもが線路を走るシーンや列車のシーンもすごく印象的でしたが、あのシーンも飛騨で撮られたのでしょうか。

普段は体験運転などのイベントをやっている廃線で撮影しました。だから、ああいうシーンを撮ることができたんです。

──放置されていた線路ではないんですね。

何かに利用している線路なので、今も使っているように見えるんです。そういう点でも、今は線路に入って撮影することがなかなか出来ないので、飛騨で撮影できてラッキーでした。生きた線路では絶対にあんなことはさせてもらえませんし、列車が走っていない時間帯でも駄目と言われますから。多分、この映画を観て「えっ?何これ?」と思って飛騨へロケに行く人たちが増えるんじゃないかと思います。

──監督は飛騨の火付け役になるかもしれませんね。

線路を走っているシーンもそうですし、列車の窓から顔を出すシーンも撮れないので。それも飛騨だったから撮れたシーンですね。列車の中で煙草を吸うシーンも普通だったら許可が出ませんから。

──飛騨と出会ったから撮れたシーンがたくさんあるんですね。子どもたちがいたずらをするシーンは、監督の実体験なのでしょうか。

実体験です(笑)。学校でオオサンショウウオを飼っていて。やっぱり小学校の5、6年生ぐらいになると、引っ張り出したくなるんですよね(笑)。なんとか捕獲しようとしていたんです(笑)。

──実体験を活かして脚本を書かれたんですね。

そうですね。いたずらに限らず、実体験や実在の人物が登場しています。

──主人公・瞬の親友・隆造を演じた田代輝くんは堂々としていて、まさに隆造という感じでした。

オーディションで隆造役はこの子しかいないと感じました。映画の中で田代くんがやっている、ほぼその通りの演技をオーディションでも見せてきたので。隆造役に関して言うとずば抜けていました。彼は僕の小説(「弱虫日記」)を読んでいたらしいです。だから、オーディションには絶対に隆造役をやりたいという気持ちで来たと言っていました。最終的に、瞬役の池川くんと演技をしてもらって、ふたりのバランスを見て決めました。

──瞬役の池川侑希弥くんはどのように決まったのでしょうか。

良い意味でオーラがなく、こちらの目も見れなくて。その感じが瞬っぽいなと思って池川くんに決めました。もうひとつ、原作を読んで書いてもらった作文がとても素直だったんです。

──瞬は監督の分身なんですよね。

それにしては顔が良すぎますが(笑)。僕も小学生の頃はこういう可愛らしい顔でした(笑)。

──みんな特徴のある顔をしているのがいいですよね。

まず、台本に書かれてあるキャラクターに外見が合うところから選んだので、それぞれ個性が際立った感じになっているんだと思います。

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──ちなみに、映画監督を志している西野くんも実在の人物なのでしょうか。

彼だけかなり創作が入っています。あんな映画好きの子はいなかったです。

──映画好きな西野くんを仲間に入れたのは、監督の映画愛も込められているからでしょうか。

そうかもしれないですね。小学校6年生ぐらいから「ロードショー」という映画雑誌の読者の映画評のコーナーに投書を送り始めて、中学2年の時に初めて『オーバー・ザ・トップ』という映画の映画評が載ったんです。その時に選者だった映画評論家の内海陽子さんが、この映画をすごく褒めてくださって。「まさかあの子が映画の道に本気で来るとは思わなかった。当時から読みづらい字を書いていた」と(笑)。

──少年の友情物語というと『スタンド・バイ・ミー』や『ぼくらの七日間戦争』などがありますが、そういう作品に対する憧れのようなものもあったのでしょうか。

自分なりの、少年の友情物語を描きたいとずっと思っていました。『ぼくらの七日間戦争』は子どもながらにもワクワクしましたが、そのワクワクの中に友情なのか愛情なのかわからない微妙なところというか、こいつのことが大好きだからこいつにふさわしい自分でいたいという、そういう純粋な気持ちを描きたいという思いがありました。

──それと同時にそれぞれの劣等感も描いています。

劣等感は誰しもが持っていると思います。隆造にしても、かっこいいだけではなく、隆造なりの苦しみを抱えながら生きているように描きたいと思いました。それは、僕自身が小学校の時に周りの友だちを見て感じていたことがあったからです。

──どんな風に感じてらっしゃったのでしょうか。

いろんな環境の中で生きている子が多かったんですが、それを友だち同士で遊んでいる時は微塵も出さないんですよね。小学生の男子だから、友だち同士で遊んでいる時はめちゃくちゃ楽しいので。でも、僕はバイバイする時に心の中で「こいつ結構きついところにこれから帰らなきゃいけないんだな」と思っていたんです。だから、そういうところをちゃんと描きたいと思いました。少年といえども、ちゃんと見るところは見ていると思うんです。

──友だちの家に行った時に子どもたちが、それぞれの家の雰囲気を感じて、友だちを思いやっている何気ない描写がいいと思いました。

そうなんですよ。ちょっと思いやっているんですよね。

──監督は、監督作は3作目ですが、たくさんの脚本も手掛けてらっしゃいます。今まで書いた脚本で自分が映画化したかったと思っている作品もあるのでしょうか。

ありますね、それは。そう思っているシナリオライターの人は多いんじゃないかな。シナリオライターの偉い方が言っていましたが、シナリオライターには2種類パターンがあると。文学的なところ、文字から入ってシナリオライターになった人と、映像から入ってるけど、現場の雰囲気や大勢で撮ることに負けてシナリオライターになっている人がいると。

──(笑)。

やはり映像から入ってきて、本当は演出したいと思っているタイプのライターさんたちはみんな、本当は俺が撮りたかったと思ったことはあると思います。

──この作品に関しては、絶対に自分で撮りたいと思ってらっしゃったのでしょうか。

そうですね。これに限らず、監督をしている作品は全部そうです。もちろん、脚本作の中には、俺が撮りたかったとか、俺が撮った方が面白かったんじゃないかと思うものもありますが(笑)。脚本を書いている段階では、自分で撮るぐらいのつもりで全身全霊をかけて書いていますから。

──そうですよね。全身全霊をかけて書いた脚本なんだから撮らせてほしいと思いますよね。

脚本を書いてください、監督はこの人で行こうと思っていますというオファーや企画が多いですが、それでも面白いものを作るという気持ちは一緒です。でも、誰が撮るか決まっていなくて、もしかしたら足立さんに...と言われたら、撮らせてくださいよ、とは思います。

──この映画の脚本を相米さんに褒められたとおっしゃっていましたが、この作品を観た時に、相米監督の『ションベンライダー』を思い出しました。本作にも永瀬正敏さんが出演されていますが、それは『ションベンライダー』からの繋がりでしょうか。

もちろんそうです。大人になった永瀬さんに出ていただけたらと思いました。永瀬さんとはこの映画が初めての仕事でしたが、何かの映画祭で一度だけご挨拶したことがあったんです。僕が相米さんのところにいたことをご存知だったようで、「いつか何か一緒にやりましょう」とエレベーターの中で少し話したぐらいでしたが、今回、実現できて良かったです。

取材・文/華崎陽子




(2023年3月22日更新)


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Movie Data


(C)2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

『雑魚どもよ、大志を抱け!』

▼3月24日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開
出演:池川侑希弥(Boys be/関西ジャニーズ Jr.) 田代輝 白石葵一 松藤史恩 岩田奏 蒼井旬 坂元愛登
臼田あさ美 浜野謙太 新津ちせ 河井青葉 /永瀬正敏
原作:足立紳『弱虫日記』(講談社文庫)
監督:足立紳
脚本:松本稔/足立紳
主題歌:インナージャーニー「少年」(鶴見 river records)

【公式サイト】
https://zakodomoyo-movie.jp/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/247552/index.html


Profile

足立紳

あだち・しん●1972年、鳥取県生まれ。相米慎二監督に師事。脚本を手掛けた『百円の恋』が2014年に映画化され、高く評価される。その他、脚本を手掛けた作品として『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(17)、『嘘八百シリーズ』、『アンダードッグ 前編・後編』(20)など。監督・脚本を手掛けた作品は『14の夜』(16)、『喜劇 愛妻物語』(20)。脚本を手掛けたドラマ「拾われた男」はBSプレミアムとディズニープラスで現在配信中。また、2023年10月からのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」の脚本も控えている。