ホーム > インタビュー&レポート > 「コトーにとって和田さんは一番の理解者です」(吉岡) 「このふたりには似たところがある」(筧) 吉岡秀隆と筧利夫が語るコトー先生と和田さんの信頼関係 映画『Dr.コトー診療所』吉岡秀隆&筧利夫&中江功監督インタビュー
──今までも何度か続編のアイデアは出ていたと思いますが、今回、映画を作るに至った経緯を教えていただけますでしょうか。
中江功監督(以下、監督):何度か続編の話は上がっていて、出ては消え、出ては消えを繰り返していました。3、4年前に続編の話が浮上して、吉岡さんとも話をしたと思います。その後、コロナになって、会える時に会える人とやれることをやっておこうという気持ちが強くなって、吉岡さんに「(続編)やらない?」と提案しました。
──吉岡さんは、中江監督と会うたびに続編のお話は聞いてらっしゃったのでしょうか?
吉岡秀隆(以下、吉岡):なんとなく、ちょこちょこと、「志木那島の人は元気なのかな?」とか「コトー先生は往診中かな?」と言われていました。
──返事はどんな風に?
吉岡:「どうしてますかね」、「往診時間ですよね」と。
──(笑)。今まで吉岡さんの中で「Dr.コトー診療所」の続編に気持ちが向かうことはあったのでしょうか?
吉岡:ないです、ないです。
──2006年のドラマで終わったという感覚だったのでしょうか?
吉岡:終わったと言うよりも、やりつくしたし、これ以上はもうできませんという思いと、コトー先生がこの島にいて、島民の家族にもなれたし、医者は家族をオペできないという一番の難問もクリアできたので、後は島民の健康をコトー先生が守っていくのだろうな、と。だから、その後のドラマは生まれないでほしいと思っていました。
──では、3、4年前に監督から続編の話を聞いた時もすぐにやろうとはならなかったのでしょうか?
吉岡:10年以上も経っているのに、なんで今更? と思いました。コトー先生が島民の家族になって、めでたしめでたしで終わったのだから、そっとしておいてあげたらいいのに、と。映画かドラマを作ることになったら、また誰かが病気になるしかないので。
──それでも、やはり続編を作ろうという気持ちになったのはどうしてだったのでしょうか?
吉岡:コロナになって、監督と命の話や、今コトーをやる意味などについて随分話をしました。何よりも、普通は台本を渡されて出演するかどうか考えますが、今回は台本もなく、コトーに与えられたテーマが一切決まっていないので、すぐに「やります、やります」とはならなかったです。特に、コトーは撮影が過酷で、地図もないのに山に登れと言われても遭難するしかないので。今回は、五島健助に何を背負わせるのか随分話した上で、やっとそういう気持ちになっていきました。
──具体的にはどのような話をされたのでしょうか?
監督:続編を作る上で離島医療の現実を描くことは避けて通れないだろうな、と。コトー先生が赴任して20年経って、先生がいることが島民にとって当たり前になっているというのは危険なことなので。その話は入れた方がいいと。先生に何かあったらということを誰も考えずに、というよりは、現実のこととして考えないようにしていたことが浮き彫りになって、コトーに何を背負わせるのか、それによって周りの人がどういう影響を受けるのかというのは吉岡さんと随分話をしました。
──筧さんは、続編の話を聞いた時はどのように感じられましたか?
筧利夫(以下、筧):僕は、3年前に「教場」というドラマに出た時に、中江さんから続編の話を聞いて、「出ますか?」と聞かれたので、「出ますよ」と。
監督:皆には「やるかもよ」と、声をかけていました。
──吉岡さんは、『男はつらいよ お帰り 寅さん』でも23年ぶりに満男を演じてらっしゃいましたが、今回、コトー先生を演じるのは16年ぶりです。以前演じた人物を時間が経って再び演じるというのは、また違った難しさがあるのではないでしょうか?
吉岡:今回のコトーもそうですが、僕は、作品は監督のものだと思っています。『お帰り 寅さん』は、山田洋次監督が寅さんやさくら、博やおいちゃん、おばちゃんたちに会いたいのだろうなと思いましたし、あの世界にもう1度戻りたいという思いが強くなったのだろうなと思いました。
──なるほど。
吉岡:満男にも23年の月日が経っていて、正直、できるかな? という思いもありましたが、その23年の時間が一番大事だと山田監督がおっしゃっていたので、山田監督のご指導の元、満男はこうであってほしいという皆の思いを抱えながら、寅さんを探す旅に皆で出ていたような感覚でした。
──それは本作でも同じだったのでしょうか?
吉岡:コトーに関しても、同じように中江監督がまた志木那島に行きたいのだろうな、また皆に会いたいのだろうな、というのはすごく感じていました。
──コトー先生を演じる感覚というのはすぐに思い出せたのでしょうか?
吉岡:難しいです。この五島健助は。すぐにいなくなっちゃう。不思議な人で、周りからはコトー先生、コトー先生と慕われていますが、僕は五島健助の持つ医師としての悲しみみたいなものをきちんと理解しないと周りからコトー先生には見られないと思っていました。いきなりコトー先生を演じようとすると、すぐにいなくなっちゃう人です。
──つかめないんですね。
吉岡:つかめないです。この方だけは全くつかめない。ドラマをやっていた30代の時もそう思っていました。この人すぐにいなくなっちゃうって。そういう意味では演じるというのとはまた違う感覚があります。
──そんなコトー先生を一番近くで支える和田さんを演じた筧さんは、16年ぶりに診療所に戻ってみていかがでしたか?
筧:時間が経っていても、同じ服を着て手術室に行くと手伝いますよね、自然と。
吉岡:(笑)。
筧:大したことをやっていませんし(笑)。手術の前に「よろしくお願いします」と言うのが肝なので。まぁ、今回も相変わらず、4時5時までやりましたけど。
監督:(苦笑)。
筧:相変わらずやるんだなと思いました。
──4時5時? 相変わらずということはドラマの時も?
筧:僕は5時ぐらいで終わっていましたが、先生は8時とか9時までで。シャワーだけ浴びに帰って、寝ずにそのままとか。
吉岡:1回帰らせてくださいって。シャワーだけ浴びて着替えてもう1回1日を始めないと、終わらないと思って。
──インタビューなどで、撮影が過酷だというコメントを目にしていましたが、本当に過酷だったんですね。
筧:確かにドラマの時はそうでしたね。撮影期間も長かったですし。今回は、楽しかったですよ。やっぱりやるんだ、と(笑)。
吉岡:(笑)。
筧:やっぱり1回や2回ではOK出ないんだって(笑)。
監督:(苦笑)。
筧:スタッフさんも楽しくなっていましたもん。誰も嫌な顔なんてしないで、ニコニコしながらセッティングし直していました。
──本作ではコトー先生の自転車が電動自転車になるなど、この16年の間の変化も描かれています。撮影時に変わったなと感じたことはありましたか?
吉岡:僕の体力と集中力、瞬発力と感受性は確実に衰えました。それはオペのシーンひとつとっても、昔は32、3歳で、今回は50歳をこえています。医師にも旬があると昔聞いたことがあって、このことだったのかと感じました。30代後半から40代の10年が医師としてピークで、そこから先は目も見えなくなったり、手が覚束なくなったりする。経験値が増えたとしても出来なくなることもあると聞いていて。今回、50歳を過ぎて手元も見えないし、針も見えない。こういうことだと感じました。
──確かに30代と50代の体力は大きく違いますね。
吉岡:はぁはぁ言っているとすぐに酸欠みたいになって、そうなると手元がどんどん見えなくなっていく。リアルな部分とお芝居の部分を分けることが、昔ほどは瞬時にできなくなっているなと感じました。やはり、皆さん昔を知っているから。僕ももう50歳なのだというのをもうちょっとわかってくださいと思う部分はありました(笑)。
──(笑)。
吉岡:だから、劇中の「ここまで医者を擦り減らしていいのかよ」という判斗先生の言葉は嬉しかったです。「ここまで役者を擦り減らしていいのかよ」と代弁してくれているような気がして嬉しい部分もありました。
筧:これは本音です。
吉岡:(笑)。
──今回は、電動自転車になっていましたが、坂を上ってみていかだでしたか?
吉岡:多少はましになりましたが、上りは負荷がかかるので。上りの途中からこいでくれと言われて、電動自転車だから楽だろうと皆思っていますが、上りは上りで負荷がかかりますから。そこは、わかってくださいよと思っていました(笑)。立ちこぎでも上れなくなった坂でも、電動自転車だから大丈夫でしょとおっしゃいますが、坂道は坂道だし、負荷はかかりますよ、と(笑)。足がプルプルしてくるのもわかりますし。
──そんな大変な撮影を経て、間もなく映画が公開されますが、本作の続編が映画で製作されると発表された際は大きな反響がありました。
監督:僕は、映画だけでも観てもらいたいと思って作ったので、それが伝わるのかどうか今でも緊張しています。ドラマを見ていない人が観るとどう感じるのかが気になっています。
吉岡:今回、過去の映像を一切使っていないというのは強みだと思います。この人はこういう役でこんな風に成長しましたというように、過去の映像を映して相乗効果を得るような作り方もありますが、そこを中江監督は真っ向勝負のやり方で、この人たちは志木那島でずっと生きてきたんだ、過去なんて見せるかと。この作品を観て、過去のドラマを見直しても絶対に負けないという自負がある上で、この作品単体で十分成立しているのはすごいと思います。
筧:ファンの方の反響はすごいですよ。皆さん、主題歌を聴いただけで泣き、公式Twitterの昔の写真で泣いて。僕もTwitterで追い打ちをかけるように写真を出していますから。
吉岡:(笑)。
──16年ぶりにコトー先生を演じて、吉岡さんはどのようなことを感じられましたか?
吉岡:この人は常に医者として成長するのだと思いました。今回、「患者さんの気持ちをわかったつもりでいたけれど、自分は...」と自戒するシーンなんて、監督曰くどこまで医者バカなのだと(笑)。でも、この人の優しさの根底にはこれがあると感じました。患者さんの気持ちがわかったのは医者としてのステップアップですし、自分が今までやってきたことがまだまだだったと感じているということは、まだまだやろうとしているんだ、この人は、と思いました。患者さんに「大丈夫ですよ」と言えるのは、根底に優しさがあるからですよね。
──コトー先生の優しさの裏には強さがあると思うのですが、吉岡さんはどのように感じてらっしゃいましたか?
吉岡:頑張れば頑張るほど、この人が切なく見えるというのは和田さんが常に代弁してくれていました。この人がいよいよ行ってしまうなという時は、和田さんが自分の昔の夢を語ったり、「それもええかもしれんけどな」と言ってくれたりして、男同士の切なさのようなものを感じていました。このふたりはどこか孤高の存在なので。
──確かに、コトー先生と和田さんの間にはふたりだけに理解できている何かがあったように感じました。
吉岡:和田さんは、コトーがどこかに行ってしまうのではないかというのを見抜いているし、五島健助というひとりの男の悲しみも和田さんだけは理解してくれている。だから、恋人が島に来た時だって「行かなくていいのか」と、そういう時だけ敬語ではなくなる。コトーにとって和田さんは一番の理解者だし、僕はコトーよりも和田さんが好きです。コトーの一番の理解者でいるのはすごく大変なことだろうなと感じていました。
──今回も和田さんは全部わかっていましたもんね。
吉岡:わかっています(笑)。
筧:そう見えたら幸いです。全ては監督の編集手腕です。やっている時は僕なりの思いがありますが、それをどう料理するかは監督の手腕なので。
──和田さんにしか見えないコトー先生の一面があるんですよね。
筧:そうですね。ちょっと似たようなところがあるんじゃないかな。
吉岡:(頷く)
筧:和田さんが実はどういう人なのかよくわからないんですよね。
吉岡:謎ですよ、このふたりは。バックボーンが見えないし、和田さんとコトー先生だけ家族を見せていない。だから、ふたりでヤシガニラーメンを食べているんです。
撮影/河上良
取材・文/華崎陽子
(2022年12月27日更新)
▼TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
出演:吉岡秀隆 柴咲コウ
時任三郎 大塚寧々 高橋海人(King & Prince) 生田絵梨花
蒼井優 神木隆之介 伊藤歩 堺雅人
大森南朋 朝加真由美 富岡涼 泉谷しげる 筧利夫 小林薫
原作:山田貴敏「Dr.コトー診療所」(小学館)
監督:中江功
脚本:吉田紀子
主題歌:中島みゆき「銀の龍の背に乗って」
【公式サイト】
https://coto-movie.jp/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/244823/index.html
よしおか・ひでたか●1970年8月12日、埼玉県生まれ。子役として『八つ墓村』(1977)で映画デビューし、『男はつらいよ』シリーズ、ドラマ「北の国から」シリーズなどで活躍。主演を務めた『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ(2005~12)では日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を2度受賞。主な映画出演作に、『八月の狂詩曲』(91)、『博士の愛した数式』(06)、『Fukushima50』(20)、『峠 最後のサムライ』(22)、『川っぺりムコリッタ』(22)など。
かけい・としお●1962年8月10日、静岡県生まれ。大阪芸術大学時代に「劇団☆新感線」に参加。卒業後は「第三舞台」の看板俳優として活躍。主な出演作に、映画『踊る大捜査線』シリーズ、『THE NEXT GENERATIONパトレイバー首都決戦』シリーズ、舞台『飛龍伝』『ミス・サイゴン』など。主な映画出演作に『この空の花 長岡花火物語』(12)『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』(22)など。
なかえ・いさお●1963年6月13日、宮城県生まれ。「Dr.コトー診療所」シリーズ(03・04・06)で演出を手掛ける。主な監督作品に『冷静と情熱のあいだ』(01)、『シュガー&スパイス 風味絶佳』(06)、『ロック ~わんこの島~』(11)など。「教場」シリーズ(20・21)でも演出・プロデュースを手掛けている。