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『この世界の片隅に』にも通じる死と生を題材にした普遍的な物語
のん、門脇麦、大島優子が三姉妹に扮した
映画『天間荘の三姉妹』真木太郎プロデューサーインタビュー

髙橋ツトムの漫画「スカイハイ」のスピンオフ作品「天間荘の三姉妹」を、北村龍平監督が実写映画化した『天間荘の三姉妹』が、梅田ブルク7ほか全国にて上映中。天界と地上の間にある三ツ瀬という町の温泉旅館「天間荘」を舞台に、人の生と死、家族や近隣の人々との繋がりを温かな目線で描いていく。

のんと門脇麦、大島優子が三姉妹を演じ、のんが三女のたまえ、門脇が次女のかなえ、大島が長女ののぞみ、そして彼女らの母親役を寺島しのぶが演じている。『この世界の片隅に』をプロデュースしたことで知られる真木太郎がプロデューサーを務めた。そんな本作の公開に合わせて、真木太郎プロデューサーが作品について語った。

──『この世界の片隅に』に続いての、のんさんとのタッグとなりました。

『この世界の片隅に』でのんさんと出会いました。あの映画は彼女のお芝居がとても良かったですよね。それで、次はのんさんと実写映画をやりたいと思って、題材を探していました。

──では、この作品をプロデュースしようと思ったきっかけは?

北村監督と僕はかなり古い付き合いで、北村監督と髙橋ツトム先生はもっと古い付き合いです。それで、「天間荘の三姉妹」を北村監督が読んでいたので、監督から「読んでみて」と言われたのが、のんさんと実写映画をやりたいと思うより前だったと思います。ただ、読んだ当時は原作が長いので、これを映像化することは簡単に想像できませんでした。

──原作に惹かれた理由は何だったのでしょうか?

髙橋ツトム先生が東日本大震災をきっかけに原作を書かれたように、この物語のベースには東日本大震災がありますが、僕はこの物語を普遍的なものとして捉えていました。コロナはもちろん、他の災害で人が亡くなることもあるし、大きな出来事でなくても人が亡くなることはありますよね。この映画を作っている時に、いろいろ考えていると自分の死んだ両親のことをふっと思い出すこともありました。そこで、身近な人が亡くなることは誰もが経験することだと感じました。

──そのようにお聞きすると、真木さんが同じくプロデューサーを務めた『この世界の片隅に』にも通じるものがありますね。

確かに。『この世界の片隅に』は戦争によって日常が非日常になる構造でした。しかし、現代でも何らかの非日常はありますよね。大きな災害に限らず、仕事がうまくいかないとか学校で友だちとトラブルになったとか小さな非日常もある。日常の中で非日常を思うことが、オーバーに言うと生きている実感になるという、『この世界の片隅に』で伝えたかったことに通じているように感じました。

──改めて、そのどちらの作品にも出演しているのんさんの魅力とは?

『この世界の片隅に』はアニメーションなので、のんさんは声だけで、動きは監督やアニメーターの方が作ったお芝居ですよね。だから、後から声を入れていますが、声を入れるとアニメの動きも変わったように見えました。それが彼女の才能じゃないかと。観客がものすごく自然に受け止められるキャラクターを作ることができる。でも、才能だと言うと彼女は反発するんです(笑)。

──才能ではないと?

彼女は、キャラクターをものすごく読み込んでお芝居をしています。それこそ、『この世界の片隅に』の時に、これこそ"すずさん"だと思ったので、「いたこみたいだ」と言ったんです。"すずさん"はまさにこういう声でこういう話し方だと思って、「乗り移ったみたい」と言ったら彼女に「ちゃんと考えてやっているんです」と怒られました(笑)。それくらい説得力があるというか、自然で、誰が見ても"すずさん"だし、この映画ではたまえちゃんですよね。

──三姉妹の母親を演じた寺島しのぶさんも素晴らしかったです。

スケジュールやご本人の意向など、いくつかのパズルがだんだんはまっていくのがキャスティングですが、その中で寺島さんの名前があがって。僕は個人的に寺島さんが好きだったので、ぜひ寺島さんで、と。

──父親役の永瀬正敏さんも味わい深い存在感がありましたし、写真を撮るシーンもすごく印象的でした。

原作の父親はギターを弾いているので、永瀬さんはギターを練習しますと言ってくれました。でも、永瀬さんは普段から写真を撮っているので、だったらカメラマンにしようと、そこだけ脚本を書き換えました。写真を撮るシーンによってぐっと家族が近づいたと思いますし、原作よりも家族の絆が強くなったと思います。

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──写真になったことによって、より物語が締まったのではないでしょうか。

今はデジタルが多いですが、アナログの写真は絆の象徴とも言えますよね。東日本大震災の時も写真を洗って持ち主に返す運動がありましたが、写真というのは誰かを思い出すきっかけになるものだと思います。スマホの中に残っている写真でさえ、遡ると懐かしく感じますよね。

──確かにそうですね。

そういうことに気づくことが、非日常に気づくスイッチになるのではないかと。写真は絆のツールになっていると思います。

──劇中の天間荘のロケーションも素晴らしかったです。高台にある旅館で、部屋から海が見えて、まさに原作のイメージ通りでした。

あれは小樽にある旅館です。スタッフがだいぶ探して、結果的にあそこになりましたが、原作者の髙橋ツトムさんに聞いたら、「俺もあそこをモデルにして書いたんだよ」と。

──たまたま原作のモデルになった場所で撮影することになったということでしょうか?

偶然です。事前に聞いていたら最初に行っていましたよ(笑)。

──『この世界の片隅に』から本作に至るまでの間に感じていたことを本作に込められたのでしょうか?

特に、映画のことで言うと、どこを切っても同じ金太郎飴のような映画が多いように感じています。有名な原作を有名な役者さんと有名な事務所、そしてテレビ局や出版社、そして配給会社が組む、テレビスペシャル的な映画が多いですよね。そうじゃないものがほとんどない。それは世の中全体がそうで、失敗を恐れて減点法で物事が決まっていくことが多いのではないかと。『この世界の片隅に』だって、当たったから成功例のように言われていますが、そもそもはお金が集まらないからクラウドファンディングをやったんですから。

──そうでしたね。大ヒットした印象が強いので、クラウドファンディングをされていたことを失念していました。

プロデューサーの仕事の半分はお金を集めることですが、『この世界の片隅に』は営業に行っても、全員に当たらないからやめろと言われましたから。ドキュメンタリーみたいなアニメで地味だし、今更戦争のことをやっても...と。当たらない要素しかないと。でも、ドキュメンタリーみたいなアニメだったからこそ、"すずさん"は本当にいるんじゃないかと思ってもらえたのだと思います。

──それでも真木さんは『この世界の片隅に』を公開しなければいけないと思ったんですよね。

それは、使命感です。監督に惚れちゃったから。これはやらなきゃいけない、と。

──『この世界の片隅に』で戦争の中の日常を描いたように、本作では東日本大震災のことやその後の日常も描かれています。

この作品は、コミュニケーションの映画だと感じています。家族という人間の集まりの中でのコミュニケーションは、当たり前ですが大事なことだと。故人とのコミュニケーションは墓参りに行くのでもいいし、昔の思い出を懐かしむのでもいい。それは亡くなった人ではなく、しばらく会っていない人でもいいと思います。ふと思い出すことも非日常じゃないですか。観た方がこの映画から少しでもいいのでそういうことを感じてくれて、心が動くきっかけになって、前向きになってもらえたらと思います。

取材・文/華崎陽子




(2022年11月 8日更新)


Check
真木太郎プロデューサー

Movie Data


(C) 2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

『天間荘の三姉妹』

▼梅田ブルク7ほか全国にて上映中
出演:のん  門脇麦 / 大島優子
高良健吾 山谷花純 萩原利久
平山浩之 柳葉敏郎 中村雅俊 / 三田佳子
永瀬正敏 寺島しのぶ 柴咲コウ
原作:髙橋ツトム「天間荘の三姉妹-スカイハイ-」
監督:北村龍平

【公式サイト】
https://tenmasou.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/238646/index.html


Profile

真木太郎

まき・たろう●1955年5月23日、岐阜県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、1977年に東北新社へ入社。ホームビデオ時代に伴い洋画の買付や映画の製作・配給業務に従事するとともに、『機動警察パトレイバー the Movie』(1989)など、アニメ作品の製作にも携わる。その後1990年、パイオニアLDCに入社。大ヒットアニメ『天地無用』(1992)シリーズなどをプロデュースした経験から、1997年に業界では珍しい作品企画・プロデュース専門会社である株式会社ジェンコを設立。『千年女優』(2002)、『東京ゴッドファーザーズ』(2003)などを手掛ける。2016年に製作した『この世界の片隅に』がミニシアターでは異例となるロングランと大ヒットを記録した。