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オープニングは鬼才ポール・バーホーベン監督の『ベネデッタ』に!
井上昭監督追悼特集では中村梅雀、柄本佑、安藤サクラら豪華ゲスト
も来場。《第14回京都ヒストリカ国際映画祭》見どころ紹介

世界でも類を見ない歴史にフォーカスした映画祭として根強い人気を誇る第14回京都ヒストリカ国際映画祭(以下ヒストリカ)が、2022年10月29日(土)から11月6日(日)まで京都文化博物館(3Fフィルムシアター/別館)と一部オンライン(公式動画配信サービス MIRAI<ミレール>https://mirail.video/)で開催される。

昨年11月に開催予定だった第13回がコロナの影響で今年の1月に延期され、1年で2度の開催となったヒストリカ。同映画祭プログラムディレクターの高橋剣氏は「今回のテーマは『歴史映画はリアリティを超えて』。今回は、コロナ以前の形で開催できるようになってきました」と語る。多彩なトークゲストを招き、映画製作の背景や、時代劇の未来をさぐるヒストリカの見どころを、部門ごとに紹介しよう。

■ヒストリカスペシャル(シアター上映のみ)
~京都撮影所で時代劇を撮り続けてきた名匠、井上昭監督追悼特集~

historica2022-2.jpg井上昭監督

今年のヒストリカスペシャルは、大映、松竹、東映などで作品を撮り続け、今年1月9日に逝去(享年93歳)された時代劇の名匠、井上昭監督追悼特集を開催する。

時代劇専門チャンネル(ヒストリカ協賛の日本映画放送株式会社がコンテンツ制作、運営)の作品より、井上監督が最晩年に手がけた鬼平犯科帳シリーズの外伝(『鬼平外伝 熊五郎の顔』『鬼平外伝 正月四日の客』)や、藤沢周平原作の秀作中編(『小ぬか雨』『冬の日』)を上映する。

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『殺すな』中村梅雀、柄本佑、安藤サクラ (C)「殺すな」時代劇パートナーズ 藤沢周平(R)

さらに、井上監督の遺作で、亡くなられた直後の劇場公開となった『殺すな』上映後には、同作出演の中村梅雀、柄本佑、安藤サクラの3名がスペシャルゲストとして登壇。特に柄本佑と安藤サクラが夫婦共演する機会は非常に貴重で、それだけこの作品への思い入れが伺えるトークとなりそうだ。

 また黒澤明監督に師事した歴史映画の達人、小泉堯史監督の最新作『峠 最後のサムライ』上映後には、小泉監督にご登壇いただき、世界の若手クリエイターが京都で時代劇を作るフィルムメーカーズラボの参加者に向けてのマスタークラスを開催する。

「今回のヒストリカの特徴はマスタークラスを一般観客の方にもご参加できる形にしていること。小泉監督をはじめ、ヒストリカ・フォーカスでは三池崇史監督、塩田明彦監督もご来場予定です。クリエイターたちと共に、映画づくりの真髄を学ぶ機会になれば嬉しいですね」(高橋氏)

■ヒストリカ・ワールド
~普遍的な人間の不可思議さを大胆に描く最新歴史映画を日本初上映!~

近年、女性を新たなアプローチで描く歴史映画が多数紹介してきたヒストリカワールド。今年は実話をベースにした女性が主人公の超話題作『ベネデッタ』『チャイコフスキーの妻』が登場!普遍的なジャンル映画『オールドヘンリー』『薬屋のメルキオール』と全4本がラインナップしている。(『オールドヘンリー』『薬屋のメルキオール』のみシアター上映後に、オンライン配信)

<オープニング上映>『ベネデッタ』(フランス・オランダ)R18+~バーホーベンがタブーに挑む
イザベル・ユペール主演作『エル ELLE』のポール・バーホーベン監督が、17世紀初頭のイタリアで奇跡を起こす女と言われ修道院長にまで上り詰め、歴史上初のレズビアン裁判を受けた実在の女性、ベネデッタ・カルリーニと彼女に翻弄される人々を描く衝撃の歴史サスペンス映画。昨年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門でも話題を呼んだ作品を2023年の劇場公開に先駆け、日本初上映する。

「ベネデッタの呼び起こすことが本当に奇跡なのかどうか、サスペンスとして目が離せなくなっていく。一体何者なのかという謎と、彼女が同性愛者であることが呼び起こす混乱など最後まで惹きつけられる必見作です」(高橋氏)

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『チャイコフスキーの妻』

『チャイコフスキーの妻』(フランス・スペイン)R18+~『LETO-レト-』監督が描く、名作曲家の陰で生きた妻の運命
今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門を騒がせた衝撃作が登場!監督はロシア演劇界の鬼才で、日本公開された『LETO-レト-』『インフル病みのペトロフ家』のキリル・セレブレンニコフ。19世紀を代表するロシアの作曲家、ピョートル・チャイコフスキーをその妻アントニーナの視点から描く。

「通説では悪妻と呼ばれていますがアントニーナも作曲家の卵で、結婚前はチャイコフスキーに惚れ込んでいたそう。チャイコフスキーは同性愛者であることを偽装することと、持参金目当てで結婚するわけですが、結婚生活はどんどん破綻し、『ブラック・スワン』のようにアントニーナの精神が壊れていってしまう。今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選ばれた唯一のロシア映画です」(高橋氏)

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『オールドヘンリー』 (C) HARDIN LLC 2021

『オールドヘンリー』(アメリカ)~『許されざる者』の世界観
演劇界で活躍しているティム・ブレイク・ネルソンがプロデューサー、主演を務める古き良きアクション時代劇。テレビドラマで活躍したポッツィ・ポンチローリ監督が確かな手腕で、片田舎に息子と引っ込んだかつての無法者のところに舞い込んでしまう許されざる者の物語を描く。


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『薬屋のメルキオール』 (C) Robert Lang

『薬屋のメルキオール』(エストニア・ドイツ・ラトビア・リトアニア)~軽やかな謎解き映画
19世紀、エストニアの首都タリンで薬屋を営むメルキオールは、死者と話すことができる能力を見込まれ、ある殺人事件の調査を依頼されるが...。エストニアの人気推理小説を映像化。美しいタリンの街並みも必見!

「ベネディクト・カンバーバッチ主演のテレビドラマ『SHERLOCK/シャーロック』に影響を受けている映画人は非常に多く、その流れの一つに位置付けられる作品です」(高橋氏)


■ヒストリカ・フォーカス

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『阿修羅城の瞳』 (C)2005「阿修羅城の瞳」フィルムパートナーズ

~Beyond Reality 空想時代劇から、時代劇のビジョンを描く~

国内の名作に新たな光を当てるヒストリカ·フォーカス、今年のテーマは「Beyond Reality HISTORICA 空想時代劇の系譜」だ。1990年代からはじまった画像処理技術の進化は世界的な歴史映画リバイバルを導き、2020年代に新フェーズを迎えた。大河ドラマにもゲームエンジン(ゲームを作るためのソフトウェア)が使われるなど、時代劇の作り方そのものが大きな変革期にある今、改めて架空のリアリティを見せてきたな時代劇の系譜をたどり、1958年から2017年まで全9作品を特集上映する。(シアター上映のみ)

「ゲストと共にそれぞれの時代の技術を考察し、今後、時代劇が飛躍するためのビジョンを描く試みです。10月30日は、時代考証学会との共同企画(『阿修羅城の鐘』『夜叉ヶ池』『魔界転生』)で、京都の映画史と日本の芸能史をはじめ、多彩なゲストと共に考察を重ねるトークを開催します」(高橋氏)

●『旗本退屈男』『オペレッタ狸御殿』~歌と踊りはリアリティを超える鍵!

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『旗本退屈男』 (C)東映

日本映画最盛期の夏休みオールスター作品『旗本退屈男』では、元・東映太秦映画村社長の山口記弘さんをゲストに迎え、京都の映画衣装や日本画壇で活躍した甲斐庄楠音氏が作り上げた同作のキャラクターを衣装の面から考察する。
また、『オペレッタ狸御殿』では振付師、ダンサー、映像作家の吉開菜央さんを迎えてトークを開催する。

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『ブレイブ -群青戦記-』 (C)2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会 (C)笠原真樹/集英社

●『里見八犬伝』『ブレイブ -群青戦記-』~驚愕アクションの真髄に迫る!
『里見八犬伝』では、深作欣二監督作に出演多数の東映京都撮影所に所属する名殺陣師、菅原俊夫さんを迎えて、熱のある同作のアクションを語っていただく。最近のアクション映画の中でも出色の作品と高橋氏が太鼓判を押す三浦春馬出演の『ブレイブ -群青戦記-』ではアクション監督の奥住英明さんにそのアイデアについて語っていただく。


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『無限の住人』 (C) 沙村広明/講談社 2017 映画「無限の住人」製作委員会

●『どろろ』『無限の住人』~名監督によるマスタークラスを体験!
ニュージーランドオールロケを敢行、アクション監督に香港のチン・シウトンと壮大なスケールで描いた大ヒット作『どろろ』では、塩田明彦監督を、木村拓哉主演の大ヒット作『無限の住人』では三池崇史監督を迎え、京都フィルムメイカーズラボのマスタークラスとして開催。

「海外から参加した新進監督たちと共に日本の時代劇の次のビジョンを得るきっかけにしていただければ嬉しいですね」(高橋氏)

■生誕100年を迎えたボローニャの鬼才、パゾリーニの『アポロンの地獄』を
 4K復元上映!
 イタリアの新鋭とカムバックサーモンプロジェクト

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『アポロンの地獄』 (C) Cineteca di Bologna

ボローニャ復元映画祭―チネテカ・ディ・ボローニャ提携企画では、今年生誕100年を迎えるボローニャが産んだ鬼才、ピエル・パオロ・パゾリーニの1967年作『アポロンの地獄』を4K復元版で上映する。また、パゾリーニとボローニャに関する論文の準備のため、現地を訪れ、彼が街に残した足跡を辿るエミリオ・マッレーゼ監督のドキュメンタリー映画『若き海賊―ボローニャのパゾリーニ』も上映する。(いずれもシアター上映後に、オンライン配信)


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『隠れ家』 (C) Lumen Films S.r.l.

ヴェネチア国際映画祭の人材育成プログラムと提携したビエンナーレ・カレッジ・シネマ提携企画では、静かで穏やかな田舎を舞台に、若い二人の脆く危うい季節を描くベアトリーチェ・バルダッチ監督の『隠れ家』(R15+相当)を上映する。(いずれもシアター上映後に、オンライン配信)

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『マリッジカウンセラー』 (C)2022「マリッジカウンセラー」フィルムパートナーズ

「カムバックサーモンプロジェクト」では、「フィルメーカーズラボ」の時代劇ワークショップに参加経験がある前田直樹監督の『マリッジカウンセラー』が登場!昔ながらの結婚相談所の仲人たちの奮闘を笑いと涙を交えて描くハートフル・コメディを、ヒストリカで凱旋上映する。

■前夜祭で中国アニメも!

historica2022-12.jpg『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』 (C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd

10月22日には「プレイベント~中国アニメ映画への招待~」を開催。フル3DCGアニメーションの中国・アメリカ合作『白蛇:縁起』、そして日本でのヒットも記憶に新しい中国国産アニメーション『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』をいずれも吹き替え版で上映。アニメ・特撮評論家の氷川竜介さんがゲスト来場予定だ。

最後に「ヒストリカという映画祭自体がマスタークラスです。そこで話される話題や、ヒントになる言葉を、ぜひ皆さんに持ち帰っていただきたいですね」と映画祭の魅力を語った高橋氏。昨年から始まった映画監督、西尾孔志さんのオンライン・トーク企画「夜のヒストリカ」を含め、多彩なプログラムと作品を考察するゲストのティーチインから、時代劇の新しい楽しみ方や可能性を見つけてほしい。
ハッシュタグは、#時代劇はパワーだ!


取材・文/江口由美




(2022年10月14日更新)


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《第14回
 京都ヒストリカ国際映画祭》

▼10月29日(土)~11月6日(日)
京都文化博物館(3Fフィルムシアター/別館)とオンライン(MIRAI<ミレール>https://mirail.video/)で開催

公式サイト
https://historica-kyoto.com/