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「過去に悩みや孤独を抱えていた人の現在と未来を
照らしてくれる作品です」八目迷の同名デビュー小説を
鈴鹿央士&飯豊まりえW主演でアニメーション映画化
『夏へのトンネル、さよならの出口』飯豊まりえインタビュー

デビュー作にして第13回小学館ライトノベル大賞のガガガ賞と審査員特別賞のW受賞を果たした八目迷の同名小説を基に、『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』を手がけた田口智久が監督を務め、アニメーション映画化した『夏へのトンネル、さよならの出口』が、梅田ブルク7ほか全国にて上映中。田舎町であるトラウマを抱えながら父親と暮らす少年・カオルと、クラスになじめない転校生の少女・あんずが、欲しいものが手に入ると言われている不思議な“ウラシマトンネル”について調べるひと夏をノスタルジックに描く。

映画やTVドラマをはじめ声優としても活躍が目覚ましい飯豊まりえと『蜜蜂と遠雷』の鈴鹿央士がW主演を務め、過去の傷を抱えながらも表面的には飄々として見える少年・塔野カオルと、芯が強そうに見えながらも自分に足りないものを感じている花城あんずに息を吹き込んでいる。そんな本作の公開を前に、あんずの声を演じた飯豊まりえが作品について語った。

──まずは、脚本を読んだ時はどのように感じられましたか?
 
過去に囚われていたふたりが“ウラシマトンネル”と出会ったことで、救われていくような物語ですよね。小さなお子様も大人の方も楽しめる作品だと思いましたし、私はこの物語をすごく好きだと感じました。
 
──容姿端麗で頭脳明晰なあんずのキャラクターをどのように声で表現しようと思われましたか?
 
原作と脚本を読ませていただいた時に、少し大人っぽくて、高校時代に同じクラスにいたらちょっと一線を引いてしまうだろうなという、あんずのイメージが自分の中でできていきました。そんな女の子の印象を残したかったので、通常よりは低いテンションで演じていました。
 
──普段の飯豊さんの声と声優の時の声はだいぶ違うように感じました。
 
普段とは違う声にしようと意識しています。声を聞いて私の顔が浮かぶのはあまりよくないと思っているので。アニメの時は特に意識していますが、ドラマや映画の時も役柄によって声は変えています。
 
──声優の仕事は以前からやりたいと思ってらっしゃったのでしょうか?
 
元々アニメが好きで声優さんに憧れていたので、声優をやってみたいと思っていました。普段は映像のお仕事をしているので、アニメ好きの皆さんに安心して観ていただけるように真剣に向き合っています。少しずつですが最近は声優のお仕事も増えてきた中で、観た方から「安心して観られます」と言っていただけることがあると、ほっとしています(笑)。
 
──声優をやりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
 
声優の梶裕貴さんと共演させていただいたのがきっかけです。声だけでいろんな方を魅了して、多彩な表現をされているのを目の当たりにして、すごいと思いましたし、また梶さんとお芝居をしたいと思いました。
 
──それはどんな形での共演だったのでしょうか。
 
朗読劇でした。映像の仕事をしている私とアニメーションで声の仕事をしてらっしゃる梶さんが、コラボレーションすることでどんな化学変化が起こるのかという試みでした。異色の試みでしたが、映像とアニメのテクニックが融合したような感覚で非常に勉強になりました。
 
──梶裕貴さんと共演するのは映像ではなかなか難しいですよね。
 
だからこそ貴重な体験でした。その後で、梶さんが育ててもらったとおっしゃっている音響監督の三間(雅文)さんに私も出会って、そのご縁で声優のお仕事が楽しいと思うようになりました。梶さんと音響監督の三間さんに出会ったことは私の中ですごく大きな出来事でした。
 
──梶さんのどういう部分に魅了されたのでしょうか。
 
低い声も高い声も変幻自在で、声が綺麗で、聞き取りやすくて。でも、声を聞いたら梶さんだとなぜかわかる。梶さんの声がすごく好きなんです。初めての声優のお仕事の時に山寺宏一さんと共演させていただいたのですが、梶さんや山寺宏一さんと同じ作品に出演させていただいたことは、非常に貴重なご縁を頂けたと感じています。
 
──鈴鹿さん演じるカオルの声はどのように感じられましたか?
 
リハーサルの時点まであんずの声をどういうテンションで演じるのか迷っていたのですが、鈴鹿さんのちょっと儚げで優しい雰囲気のカオルの声を聞いて合わせていきました。普段の鈴鹿さんの声とはまた少し違って、カオルの声に合っているなと思いました。
 
──アフレコの時はもう映像は出来上がっていたのでしょうか?
 
アフレコの時はまだ映像がなく、私たちの声に合わせてアニメーションが作られたので、割と実写に近い感覚でした。ただ、絵はまだ線だけのような状態で、かなり想像力を膨らませないと声が平坦になってしまうので、そこは難しかったです。だから、今回鈴鹿さんとふたりでアフレコができたのは助かりました。
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──本作は映像美も見どころのひとつだと思いますが、飯豊さんは初めて完成作を観た時にどのように感じられましたか?
 
監督がこだわっていた、最初の曇り空から、だんだん映画のトーンが上がっていくところがすごいと思いました。カオルとあんず、ふたりの気持ちが健やかになっていくにつれて心境とリンクするように色彩が変化していくことに感動しました。
 
──本作のノスタルジーを感じさせる映像はアニメーションならではの魅力だと感じました。飯豊さんはアニメーションの魅力をどのように感じてらっしゃいますか?
 
アニメーションならではの、現実ではあまり見たことのないような美しい映像は魅力のひとつだと思います。本作で空が青から紫、赤へと変わっていく様や、“ウラシマトンネル”でも、トンネルの中に入ると夏なのに落ち葉が広がっているなど、そういう世界観はアニメーションならではだと感じました。
 
──ファンタジックな物語が受け入れられるのもアニメーションの魅力ですよね。
 
この映画は今を捨ててでも取り戻したいものを“ウラシマトンネル”に探しに行く物語。1日トンネルの中に入ると6年経ってしまうように代償があるところは、いろいろなことを考えさせられると思います。過去に悩みや孤独を抱えていた人の現在と未来を照らしてくれる作品だと思っています。
 
──代償があることがわかっていても“ウラシマトンネル”の中へカオルが入っていた時に、外の世界で生活しているあんずの心境はどのように考えて演じてらっしゃいましたか?
 
あんずは、初めて“ウラシマトンネル”で現実世界と断絶されているのを感じた時に、カオルのことを失いたくないと思って気になり始めたのかなと、私は解釈しました。ふたりが共に行動し始めた後も、ふたりの距離が縮まるような大きなアクションはなかったですよね。一緒に過ごす時間が増えて少しずつ距離は縮まったけど、お互いをそこまで知ることなく離れてしまって、恋なのか友情なのかわかっていなかったと思います。
 
──確かに、そうですね。
 
eillさんの「プレロマンス」(本作の挿入歌)の最後の方に「これが恋だとしてもこれが恋じゃなくてもふたりだけの世界がここにあればいい」という歌詞があるのですが、それがあんずの感情なのかなと思いました。恋とか友情という言葉はどうでもよくて、自分のことを知ろうとしてくれて思ってくれている相手がいれば、過去の孤独や悩みを照らしてくれる。だから、ふたりでいられる時間があればいいと。あんずは、ふたりの思い出があればいいと思っていたように感じました。
 
──カオルとあんずがお互いの孤独を感じて、お互いがかけがえのない存在になっていく姿は胸に響くものがありました。
 
きっと、観た方にも、いい思い出があるだけでも、今をちょっと頑張ってみようかなと思ってもらえるのではないかと思います。あんずもカオルも孤独を抱えていて、他者と触れ合うことができて救われた瞬間があったのではないかと感じました。
 
──飯豊さんにとって、アニメーション映画で声優として主演を務めるというのは、ひとつの目標だったのでしょうか?
 
目標とまで考えたことがなかったです。本当にどんな役でもやらせて頂きたいと思っていました。名前がついていない役でもやりたいと思っていました。アニメの声優、まして主演なんて夢のまた夢だと思っていましたし、そこまで考えたこともなかったので、チャンスをつかめたことはすごく嬉しかったです。
 
──遥か先のことだと思っていたものが叶ったんですね。
 
プロの声優さんがたくさんいる中で、まだ経験も少ない自分が主演させて頂けるとは思っていなかったので恐縮ですね、本当に。今回、オーディションで選んでいただけたことは自信に繋がりましたし、頑張ろうと思いました。
 
──ゆくゆくはディズニー映画の声優さんが目標でしょうか?
 
そうですね! ジブリの声優さんもチャンスがあれば是非やらせて頂きたいです! どんな役でもチャレンジさせて頂ければと思っています。
 
取材・文/華崎陽子



(2022年9月14日更新)


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Movie Data




(C)2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会

『夏へのトンネル、さよならの出口』

▼梅田ブルク7ほか全国にて上映中
声の出演:鈴鹿央士 飯豊まりえ
原作:八目 迷「夏へのトンネル、さよならの出口」(小学館「ガガガ文庫」刊)
主題歌・挿入歌:「フィナーレ。」「プレロマンス」eill
キャラクター原案・原作イラスト:くっか
監督・脚本:田口智久

【公式サイト】
https://natsuton.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/231995/index.html


Profile

飯豊まりえ

いいとよ・まりえ●1998年1月5日生まれ、千葉県出身。2012年の女優デビュー後、数多くのドラマ・映画に出演。現在、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」、主演を務める「オクトー ~感情捜査官 心野朱梨~」(読売テレビ制作・日本テレビ系)に出演中。そのほかの主な作品は、映画『いなくなれ、群青』(19/柳明菜監督)、『シライサン』(20/安達寛高監督)、『くれなずめ』(21/松居大悟監督)、「岸辺露伴は動かない」(20-21/NHK)、「君と世界が終わる日に」(21-22/NTV)、「恋なんて、本気でやってどうするの?」(22/フジテレビ系)など。また、雑誌「Oggi」専属モデル「MORE」レギュラーモデルとしても活躍中。 声優としての出演作品も多く、『劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉』(19)、『名探偵ピカチュウ』(19)、『トムとジェリー』(21)など。