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3作目となる原田眞人監督×岡田准一タッグ作!
ヤクザ組織の人間関係から目が離せない
クライム・エンタテインメント
映画『ヘルドッグス』原田眞人監督インタビュー

深町秋生の小説『ヘルドッグス 地獄の犬たち』を基にした、クライム・エンタテインメント『ヘルドッグス』が、9月16日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開される。岡田准一演じる復讐心だけで生きる狂犬のような男・兼高が、ヤクザ組織への潜入捜査を行い、やがて坂口健太郎扮する制御不能な危険な男・室岡とタッグを組み、のし上がっていく姿を描く。

『燃えよ剣』に続く、原田眞人監督と3作目のタッグとなる主演の岡田准一を、坂口健太郎、松岡茉優、北村一輝、大竹しのぶらが取り囲む豪華な布陣にも注目だ。そんな本作の公開を前に、原田眞人監督が作品について語った。

──脚本を作る際はどのように考えながら書いてらっしゃいましたか?
 
ヤクザ組織の抗争の描写をどこまで簡略化できるのかを一番考えました。小説の場合は徐々に情報が出されていくのですが、映画ではできないと思ったので、最初の方で簡略化した情報を出さなければいけないと考えました。
 
──原作に書かれた多くの情報を簡略化するのはなかなか難しそうです。
 
そこで、兼高の心の枷となるものをダイレクトに少女の殺害事件とリンクさせるようにしました。実際に兼高が目撃して、自分に何かできたことがあるのに、それをしなかったがために大切なものを失ってしまった、そこから一気に突っ走れば後はいけるだろうというアプローチが見えてきて楽になりました。
 
──阿南と兼高の出会いのシーンを早めに入れたのもそういう理由からだったのでしょうか?
 
映画化を企んだ当初、舞台は海外でした。兼高はそこまでするのかと思わせるために、フィリピンかタイの刑務所に収監されているマッドドッグを殺すためにわざわざ罪を犯して出月(兼高の本名)が入ってくる。皆が見ている前でマッドドッグを殺し、捕まって独房に入れられていた出月が覆面の一団にさらわれて、殺される寸前のところで阿内が現れ、「第二の人生だ」と、ブリーフィングをするような出だしでした。
 
──すごく面白そうなオープニングですね。
 
コロナで海外ロケができなくなってしまって、全部日本にしなければいけないと言われた時は少しがっくりしましたが、最終的にはロケ場所も見つかりました。コロナで悩んだこともありましたが、岡田さんのスケジュールに合わせて1年延びたおかげで、(坂口)健太郎も体力作りと肉体改造もできて、殺し屋のルカを演じた中島亜梨沙も一生懸命、岡田道場でトレーニングに励んでくれたので。プラスの方が大きかったですね。
 
──原田監督の作品と言えば毎回ロケ地に驚かされますが、今回も素晴らしいロケ地でした。特にオープニングに使われた廃屋のホテルは原作以上でした。
 
原作通りの場所を探しても、やはり原作の面白さが出る場所がなかなか見つからなくて。そこで、廃屋図鑑なども調べながらユニークな廃屋を探しました。現場に行ってみたら思っていた以上に良かったですね。なんでこんなところが残されていたの? と思うぐらい。タイトルバックも何もかもここで撮りたいと思いましたし、他のシーンも撮れるのではないかと思って、そこからイメージが膨らんでいきました。
 
──映画のもうひとつの主役と言えるほど素晴らしい場所だったと思います。中盤に登場する作りかけで放置された建物も雰囲気がありました。
 
そうですね。建設途中にバブルが弾けて放棄されていたり、駄目になったホテルというのはそうそうざらにあるものではないのですが、よく見つけてきましたよね。実はあの建物はゴルフ場のコースの真ん中に建っています。ゴルフ場は見せないようにして撮りましたが、ゴルフ場はゴルフ場として別のシーンで使っています。設定としては全く別の場所ですが、実はすぐ傍で撮っていました(笑)。
 
──今までの原田監督の作品を観ていても、ロケ地にこだわってらっしゃると感じていましたが、やはりロケ地は重要な要素ですね。
 
役者のキャスティングと同じぐらいのウェイトをロケーションキャスティングにかけています。自分の映画を作る時に、役者では多少妥協することがあってもロケ場所で妥協することはありません。
 
──監督は以前から短期間でキャスティングしていないとおっしゃっていましたが、今回も以前から考えてらっしゃったのでしょうか?
 
今回のキャスティングには25年かかっています(笑)。
 
──25年ですか!?
 
北村一輝と25年前に一緒にご飯を食べた時に「次は一緒にやろうね」と言っていたのに、時間が経ってしまって。
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──北村さんが原田監督の作品に出るのが初めてだとお聞きして、びっくりしました。
 
本人も今か今かと待っていたらしいです。彼もいい味を出してきていたので、土岐役にキャスティングしました。大竹(しのぶ)さんも20数年前に会って話す機会があって、「次は一緒にやろうね」と言っていたのに時間が経ってしまって。そういう人たちが今回はピタッピタッとはまってくれました。
 
──本作は監督にとって念願のフィルム・ノワール作品でした。
 
そうですね。フィルム・ノワールという言葉に対する拒絶反応が映画会社にはずっとありましたから。今はあまり聞きませんが、僕も何本かフィルム・ノワールは駄目と言われました。とにかくノワール=興行成績は限りなくデッドという公式がありましたから。今、こんなに公にノワールと言えることに驚いています。でも、この作品がヒットしないと駄目なんです。やっぱりノワールは駄目だってことになってしまうから。
 
──フィルム・ノワールならではとも言える夜のシーンの“黒”が印象的でした。
 
今は機材も良くなってきているので、大きなライティングをしなくてすむようになっていますが、まだまだいろんなことができるのではないかと思っています。上手くいかなかったところも上手くいったところもありますが、夜の撮影へのこだわりというのは絶えずあります。でも、現代劇は時代劇よりは遥かに楽ですね。
 
──本作の夜のシーンを観ていると、ヤクザに追われることになった男とペルー人のタクシー運転手の逃避行を描いた『KAMIKAZE TAXI』の延長線上にあるように感じました。
 
『KAMIKAZE TAXI』は1994年の作品です。あの時は3時間の映画を撮っていたのに、お金もなくて(笑)。いろんな苦労がありましたが、あの時点で『KAMIKAZE TAXI』を撮ることができて良かったと思っています。
 
──その『KAMIKAZE TAXI』では役所広司さんが主演でした。原田監督は役所さんとも何作か撮ってらっしゃいますが、本作の主役・岡田准一さんとも3作目になりました。回数を重ねるごとに岡田さんへの信頼度は高まる一方でしょうか?
 
役所さんに対する信頼ももちろんありますし、今後彼にやってもらいたいと思っている作品もあります。岡田さんはやっぱり特別ですね。ただ、岡田さんが後何年これだけの動きができるのか。というのは本人が言っていますから。「忍者ものをやるなら早くやってください」と言われています。そういうプレッシャーはありますね。
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──では、すぐに取り掛からなくてはいけませんね(笑)。
 
後5年ぐらいは大丈夫だと思いますよ。それに彼はアクション俳優ではなくて、演技の中にアクションを組み込んでいるので、その比重が変わってくるかもしれませんが、まだ何十年もやってくれると思います。
 
──確かに、岡田さんのアクションからは人間関係が透けて見えるように感じます。
 
基本的にこの映画の全てのアクションは、アクションを見せるための仕掛けではなく、人間対人間、生きている人間のぶつかり合いというのを意識しています。派手なカーチェイスもないですし。健太郎の方のアクションは距離の長さというか流れを意識した、面としては大きなアクションになっています。一方、岡田さんがやっているのは限られた空間の中でのインパクトの強いアクションです。いわば小さな空間の中での瞬時のアクション。そういうコンセプトでやっていました。
 
──監督がおっしゃった、坂口さんの階段を降りていくところから始まるアクションには驚きました。
 
あのシーンは何回も何回も、何ヶ月もリハーサルをしてきて、よくあれだけやってくれたと思います。身体のいろんなところに傷を作っていましたが、ひと言の文句も言わずに何度もやってくれました。
 
──坂口さんはもちろん、本作では登場人物それぞれの狂気を宿した、怒りを内包した眼が印象的でした。眼の演技はどのように演出してらっしゃるのでしょうか。
 
健太郎の場合は、大勢で大貧民をやっているシーンで、「仲良くやっているけど、ひとりひとり殺すとしたら、どういう方法で誰から殺していくか考えながらやってほしい」と伝えました。そこで出演者のひとりがアドリブで「人を殺すような目つきで見ないでくださいよ」と言ったんです。眼が狂気に走っているわけではなくて、心構え、気の問題だと思います。
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──本作は人間関係が面白い映画だと感じました。
 
どんなジャンルの作品でも人間関係は大事ですよね。今回、原作を読んで面白いと思ったところはひとりひとりのバックグラウンドがしっかり描かれていることでした。だから、極道たちはカラフルだけど、警察はあまり色を出さないようにしました。原作では阿内の家族が出てきますが、人間臭いことを警察側にやらせちゃいけないと。原作のその部分は全てシャットアウトして、阿内はいつもクールに控えているキャラクターにしたので、余計にヤクザの人間関係の構図が目を引くと思います。
 
──男同士の嫉妬や葛藤が描かれているのが面白かったです。
 
男同士の嫉妬というのは本当に面倒くさいものなんですよ(笑)。『クライマーズ・ハイ』なんてまさにそうじゃないですか。
 
──そうなんです! この映画を観て私も『クライマーズ・ハイ』を思い出しました。
 
『クライマーズ・ハイ』は原作を読んだ時から「こういうのあるよな」と感じましたね。僕が影響を受けた、サミュエル・フラー監督の映画『東京暗黒街 竹の家』もそう。あの映画の三角関係の中のひとりは、キャメロン・ミッチェルがやった、ものすごく弱いキャラクターですが、当時はホモセクシュアルな感情は描けないので、そこを薄くしているんです。
 
──なるほど。
 
でも今観ると明らかにキャメロン・ミッチェルが演じたグリフからはロバート・ライアン演じるサンディへの愛情を感じる。その愛情によって彼はロバート・スタック演じる主人公を憎いと思っている。その関係性を今回の十朱と室岡と兼高の3人に反映しました。MIYAVIには「ロバート・ライアンのセクシーな歩き方を研究してほしい」と伝えていました。
 
──元々、MIYAVIさんからはセクシーさを感じますが、今回はさらに色濃く感じました。
 
かっこよさではなくセクシーさですよね。彼は兼高とふたりのシーンでも、寄って目の動きを撮りたくなる。やはり普段からステージパフォーマンスをやっているので、わかっていますよね、見せ方を。僕が演出をつけていても、動かし方のタイミングがわかっていて気持ちいいですし、兼高とふたりの場面は男同士のラブシーンと言えばラブシーンです。
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──MIYAVIさんの手の動きがすごく印象的でした。特に手の中でボールを転がしているシーンが印象に残っています。
 
そうですね。あのシーンがすごく良かったので、美術品を触る時も手で撫でまわすように触ってもらいました。彼は指が綺麗。ギタリストの指ですよね。
 
──一方、北村さんの手はごつごつした男の手でした。
 
手のアンサンブルです(笑)。骨格のアンサンブルかな(笑)。
 
──そんな中、北村さん演じる土岐の愛人・恵美裏というのは原作にはない映画オリジナルの役ですが、映画には不可欠な存在になっていました。
 
やはり男社会の話だけでは面白くないとは思っていました。強い女性の周りを男たちが回っているイメージがあって。それが(大竹演じる)典子ひとりでは弱いと思ったので、兼高と同格になる女性を作りたいと。たまたまその頃読んでいた本にアフリカ象の密猟と闘うふたりの日本人女性のことが出ていて。こういう女性だと思い、そこから恵美裏のキャラクターを作りました。
 
──だから彼女はアフリカ象の密猟に怒りを感じている設定になったんですね。
 
彼女がアフリカ象の密猟について延々と話すシーンを撮りましたが、それを観たプロデューサー他女性陣からは不評で(笑)。「なぜここで彼女が突然怒るかわからない」と女性からのウケが悪くて。それは、僕の中の闘う女性像が前面に出てしまったからだと思います。それで台詞を全部取っ払って写真を見せるだけにしました。その方がインパクトも強くなって彼女の良さも出たと思います。
 
──彼女は原作にないキャラクターなので、兼高との関係性もわからないですし、この先どうなるんだろう?というハラハラドキドキ感がありました。
 
そうですよね。ある意味ではワイルドカード。原作を読んでいる方でも、どういうキャラクター? と考えますよね。そういう要素も楽しんでもらえるといいと思いました。
 
取材・文/華崎陽子
 



(2022年9月15日更新)


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Movie Data

(C)2022「ヘルドッグス」製作委員会

『ヘルドッグス』

▼9月16日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開
出演:岡田准一 坂口健太郎 松岡茉優 ・ MIYAVI ・ 北村一輝 大竹しのぶ
原作:深町秋生「ヘルドッグス 地獄の犬たち」
脚本・監督:原田眞人

【公式サイト】
https://www.helldogs.jp/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/219028/index.html


Profile

原田眞人

はらだ・まさと●1949年7月3日生まれ、静岡県出身。1979年に『さらば映画の友よインディアンサマー』で監督デビュー。『KAMIKAZETAXI』(1995)で、フランス・ヴァレンシエンヌ冒険映画祭で准グランプリ及び監督賞を受賞。その他、『クライマーズ・ハイ』(2008)、『わが母の記』(12)、『駆込み女と駆出し男』『日本のいちばん長い日』(15)など数多くの作品を手掛けている。2017年公開の『関ヶ原』では第41回日本アカデミー賞優秀監督賞、優秀作品賞などを受賞。2018年には『検察側の罪人』、2021年に『燃えよ剣』を公開。『ラストサムライ』(03/エドワード・ズウィック監督)では、俳優としてハリウッドデビューを果たしている。