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映画祭史上最大規模の出品本数を得て開催される
大阪発の映画祭《第17回大阪アジアン映画祭》
ミルクマン斉藤さんによるどこよりも詳しい作品紹介【前編】

大阪から優れたアジア映画を届ける《第17回大阪アジアン映画祭》が、3月10日(木)よりいよいよ開幕。20日(日)まで梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、大阪・福島のABCホールで開催される。昨年も「特別注視部門」で上映された『ブータン 山の教室』が、劇場公開され、日本時間の28日(月)に開催されるアカデミー賞でも国際長編映画賞にノミネートされるなど、本映画祭で上映された作品が後に劇場公開され、ヒットするのは映画ファンなら周知のはず。17回目を迎える今回は、計77作品と映画祭史上最大規模の出品本数で開催。そんな多種多様な作品について、過去に同映画祭で審査委員も務めたこともあり、毎年映画祭に通っている映画評論家のミルクマン斉藤さんが、暉峻創三プログラミング・ディレクターにインタビュー。世界初上映の23作品を含め、ほとんどが日本初上映となる作品だけに、このインタビューは必読です!まずは、オープニング&クロージングとコンペティション部門から。

──なんでも今年は大阪アジアン映画祭(以後OAFF)史上最高となる77作品が上映されるということですが、まずオープニングもクロージングも日本が絡んだ映画ですね。
 
暉峻:どちらも海外の監督が日本を題材にして、日本映画界のトップクラスも力を合わせた作品ですね。国境を越えて製作するという現象はどんどん目立っていくでしょう。
 
──まずはオープニングの『柳川』ですが、監督のチャン・リュルは中国生まれの朝鮮民族、いわゆる朝鮮族の監督として韓国語映画を多く作ってきましたが。
 
『柳川』

 
暉峻:そういうことを全く感じられない、今回は完全に中国映画ですね。無茶苦茶これ面白いですよ。柳川を題材にしてこんな映画が撮れるんだと。水路の町・柳川ならではの風景の美しさがまずありますが、もうひとつの注目ポイントとしてオノ・ヨーコのおじいちゃんの家の門っていうのがあるんです。先祖がそこの出身で、柳川に屋敷を構えていて門だけ残っているんですけど、これがどう生かされているのかというのが超見物なんです。
 
──もともと風景を撮るのが上手い監督ですしね。
 
暉峻:これだけドリーミーな風景を撮るのに、今回は大スター映画なんです。池松壮亮くんとか中野良子さんとか。中野良子は中国的には超大スターですから。
 
──高倉健との『君よ憤怒の河を渉れ』(’76)が中国で大ヒットして以来、ですね。
 
暉峻:それなのに、大スター映画っぽい作りにはならず、相変わらずの“どインディー映画”で。そこも素晴らしい。一切自分のスタイルをなくしてないんですよ。ニー・ニーの素の姿のようなものも出ていて。彼女は日本ではそこまで知られてないと思いますけど、ますますこれで人気が高まるでしょう。
 
──で、クロージングが『MISS  OSAKA(原題)』。ずばり大阪アジアンにふさわしい(笑)。


『MISS OSAKA(原題)』

 

暉峻:出来過ぎなくらい。監督はデンマーク人のダニエル・デンシックって人なんですけど……『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でロシアの細菌学者を演じたデイヴィッド・デンシックって知っていますか? 監督は彼のお兄さんなんです。舞台はノルウェイから始まるんですが、ほとんど大阪が舞台で。更にこのタイトルには二重の意味がありまして、もちろん一つは「大阪の女」という意味。もう一つはミナミに「ミス大阪」って老舗キャバレーが実在するんですね。古き良き時代のキャバレー文化を感じさせる店内装飾の。ほとんどの日本人はそういうのを知らないと思うんですけれども、この映画で外国人によって知らされることになるっていうのも面白いところですね。
 
──毎回絶対に新しい発見のあるコンペティション部門ですが、今回はどうですか?
 
暉峻:今回は超豪華ラインナップで、どれも落とせなくて、危うくコンペ部門だけで20本になっちゃいそうで。時間数とかを計算して泣く泣く諦めた映画もいっぱいあるんですけれども。その中で今回はふたつのタイプがあって、ひとつはすでに国際的に名を轟かせている監督の映画。もうひとつは、まだ監督の名前は世界に轟いていないけれど、ここで発見されるべき新人の作品。割と世界に名声があるというなら、例えば『ノー・ランズ・マン』っていうバングラデシュのエース監督、モストフ・サルワル・ファルキ作品。インドやアメリカの資本が入っているんですが、何といっても一番の売りはプロデューサーがA.R.ラフマーンなんですよ。
 

『ノー・ランズ・マン』
nolandsman.jpg(C) CHABIAL
 

──え~、そうなんですか! インド映画好きにはおなじみだけど、今やアカデミー授賞式の音楽を担当したりもするインドのポップスター。
 
暉峻:もちろん音楽も担当していて。しかも主演がナワーズッディーン・シッディーキー。
 
──いまやインド映画を代表する大スターですよね。『デーヴ・D』や『ローマをさまよう』など、OAFFとも縁が深い。
 
暉峻:そう言う超豪華な面子でそろえられたのがコンペに入っている。同じような豪華路線で言いますと、アニタ・ムイ(80~90年代の大スター)の伝記映画『アニタ』。数字的にも香港映画史上ナンバー1ヒット作になるであろう大ヒット作ですね。それだけでなく、ブルース・リーとかジャッキー・チェンとかチョウ・ユンファとかチャウ・シンチーとか、香港映画の記録的ヒット作は歴史的にだいたい男優が中心になって作られてきた。そこに女優が中心の物語がトップに上り詰めただけでも、この映画祭で扱う理由があると思うんですね。
 
『アニタ』


 

──ルイス・クーやラム・カートンやミリアム・ヨンなど脇は大スターが固めていますが、肝心のアニタを演じる女優さん、僕はまったく知らないんですよね。
 
暉峻:そうなんです。このルイーズ・ウォンって女優、この映画でデビューしたんですけど、ピカピカの新人とかではなくて、微妙に年を食っている(笑)。ちょっと売り方を間違えると、その人生経験がマイナスにさえ語られかねなかったような人で。その辺も異例中の異例なんですが、アニタ・ムイ本人の歩んできた人生経験を満点の説得力で演じきった。香港ってすごい口コミ社会なので、本当に映画の出来が良ければ、必ずしもスターが出てなくても大ヒットできるというのがあったんですけれども、これはそれの最新版ですね。
 
──アニタ・ムイをよく知っている世代はもはや結構な年齢になっていると思うんですが、それが若者にもウケたというのが興味ありますね。
 
暉峻:いま香港人って中国の締め付けがあって、アイデンティティーを揺るがされ続けているじゃないですか。そこの部分で、この映画は香港人が抱えているものにぴったりと嵌まったんでしょうね。表向きに反中国的な要素は何も無いんですけれども、香港人がこれを見たら、今自分が抱えている揺らぎみたいなものに火を付けられるみたいなところがある。この映画に泣ける人なら香港人だという、そのぐらいの共感が生まれていると思うんです。ちなみに日本からは中島歩が近藤真彦をモデルにしたと思われる役を演じています。役名は変えられていますが。
 
──今回のコンペは香港映画が多いですけど。ちょっと変わり種がマレーシアとの合作『野蛮人入侵』。懐かしいなあ、タン・チュイムイ監督。マレーシア・ニューウェイヴを代表する監督のひとりでしたが、久しぶりですよね。


『野蛮人入侵』


 

暉峻:そうです。10年ぶりの監督作。しかも知っている人には堪らないのが、監督だけではなくて主演もして、アクション女優を演じている。彼女を知っている人にとっては大期待の作品ですね。
 
──ジェームス・リーとかピート・テオとか、あの世代のクリエイターも出演しているみたいで。
 
暉峻:タイトルはいかにもアクション映画っぽいですが、実際にはいつものタン・チュイムイを発揮した作品ですね。もう一つ有名な名前では『ママの出来事』のキーレン・パン。『29歳問題』(OAFF上映題『29+1』)の監督ですね。物語の中心はママを演じるテレサ・モーなんですが、その息子役とママがマネージャーとして育てる新人歌手役が香港のアイドルグループ「MIRROR」のメンバーで。OAFFが世界初上映になるんですけど、本国でえらい騒ぎになっているようで。映画祭トレーラーのヒット数が普通じゃないくらい伸びています。


『ママの出来事』
mama.jpg(C) Emperor Entertainment (Hong Kong) Limited  the Government of the Hong Kong Special Administrative Region 2022
 

──今、香港の映画館がコロナで閉まっているからですかね。香港国際映画祭も開催されてないし。
 
暉峻:それももちろんありますが、最近香港の映画人がOAFFを重視してくれるようになって。注目作をワールドプレミアで出してくれようとするところがいろいろ出てきているんですよ。『はじめて好きになった人』は監督がふたりいますが、ほぼどっちも新人監督で。女性同士の同性愛を描いた作品なんですが、今年はそうした方面の題材が多いのもひとつの特徴ですね。


『はじめて好きになった人』



──今年は、ってここ数年の傾向ですよね。シスターフッドものが多いのも今やOAFFの特色かと(笑)。

『ビッグ・ナイト』



暉峻:あと、ビッグネーム系でいうと『ビッグ・ナイト』もフィリピンではかなり有名なジュン・ロブレス・ラナ監督作。これは歴史あるメトロ・マニラ映画祭のグランプリを含め大部分の賞をかっさらった映画です。OAFF的にはコンペの審査委員もやってもらったユージン・ドミンゴさんが主演女優というのもあります。監督はエジプト人だけれど、今年のアカデミー賞でヨルダンからの代表作となった『アミラ』もあります。(その後、アカデミー賞出品は撤回)。

『アミラ』
amira.jpg

──監督のモハメド・ディアブは、なんでもマーベルドラマ『ムーンナイト』に抜擢されたとか。
 
暉峻:いま仕上げ中のようで忙しすぎて、今回のOAFFのオンライン・インタビューにも応じられないという。色々と注目作を撮ってきた人ですが、ここで描かれている内容はちょっとしたスキャンダルになって。現地ではこんな映画公開するべきはないとか盛り上がっちゃって。おそらく政治的な理由で刑務所に入っている男がいて、その娘がアミラなんですが、ずっと刑務所に入っているのに、なんで娘が生まれるんだ? その父親は誰なんだ?ってことを巡って展開するストーリーで。
 
──ではもうひとつの路線、ここで発見されるべき新人の作品というのは?
 

『おひとりさま族』


 

暉峻『おひとりさま族』っていう韓国の作品、監督はこれがデビュー作なんですけど、何事もひとりでやった方が楽だ、って思っているヒロインの話なんですね。昨年劇場公開された『チャンシルさんには福が多いね』(OAFF上映題『チャンシルは福も多いね』)みたいな感じで、日本でもすごく共感を得られると思うんですけれども。あと韓国では『ブルドーザー少女』ってのがあって。厳密な意味では日本で言うブルドーザーは映らないんだけど、日本では普通ブルドーザーとして見られていないものがブルドーザーとして出てくる。それでもこれは『ブルドーザー少女』と呼ぶ以外ない映画なんです(笑)。


『ブルドーザー少女』
bulldozer.jpg

──なんだそりゃ(笑)。それは言わない方がいいんですね。
 
暉峻:そうです(笑)。
 
──主演がキム・ヘユンなんですね。『殺人鬼から逃げる夜』のあの女の子。


『徘徊年代』


 

暉峻:あと、『徘徊年代』って台湾映画があります。監督は全くの新人ですが、自分としてはすごく驚いた映画で。まだ若い人なんですけど、いきなり風格がホウ・シャオシェンの『悲情城市』くらいあって。台湾の歴史を相当踏まえてかなり長い年代を語っているんですけど、主人公は台湾に住んでいるベトナム人なんですよ。別に社会派という訳ではないんですが、『悲情城市』が持っていたようなリアル性のようなものがそのまま感じられましたね。あと新人作では、中国の『宇宙探索編集部』。題材からして素晴らしい作品で、中国のUFOとかを信じている青少年たちを夢中にさせた「宇宙探索」って雑誌が実際にあったんですね。


『宇宙探索編集部』


 

──ああ、「ムー」みたいな。
 
暉峻:そこの編集部を題材にしているんです。インドの『シャンカルのお話』もこれがデビュー作。育ちが良い娘と、その娘に対していろんなお話を聞かせるシャンカルという使用人とのふたりの関係を描いた作品で、感動的ですね。


『シャンカルのお話』


 

──今回も女性映画が多いですよね。
 
暉峻:そうですね。毎年のように言われてはいるんですけれども、今年はますます多いかもしれないですね。まず監督が女性である比率も高いですし、作品を中心になって引っ張るのが女性という作品も多いですね。モンゴルの『セールス・ガール』というのもかなり注目で。いろんな国際映画祭が好んで招待してきた「大平原で遊牧民で」っていうモンゴル映画のイメージとは全く違う作品なんです。今回海外初上映ではあるんですけれども、もともと映画祭向けの映画ではなく、モンゴルで商業映画として劇場公開されていただけで。これも少女が主人公ですが、都会の生活を描いていて、彼女がアダルトグッズショップで働くことになって、そこでのいろんな出会いとかを語っている。


『セールス・ガール』



──カザフスタンの『赤ザクロ』は、OAFF2020で上映された『マリアム』の女性監督ですね。

『赤ザクロ』



暉峻:今回の上映には希少性があって。113分バージョンで見られるのは大阪が最後になるかもしれない。その後90何分バージョンというのが作られて、映画会社はそれが最終版という位置づけらしいんですよね。それとコンペには今回唯一日本から『世界は僕らに気づかない』があります。飯塚花笑監督自身がトランスジェンダーであることも反映されていて。主人公はゲイの設定になっているけど、男同士のラブストーリーで、お母さんがフィリピン人だっていう要素もあって、OAFF的にも相応しいと。

『世界は僕らに気づかない』

それに今回、昨年『いとみち』でグランプリと観客賞のW受賞を果たした横浜聡子特集があるんですが、彼女のTVドラマ「ひとりキャンプで食って寝る 第7話 西伊豆でコンビーフユッケ」の脚本を飯塚花笑が書いているんです。これは横浜監督本人が「圧倒的に迷うことなくやりたい」と言ってきて、それで決まったんですよ。
 
 
取材・文/ミルクマン斉藤


後編はこちら

 




(2022年3月 9日更新)


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暉峻創三プログラミング・ディレクター

Event Data

《第17回大阪アジアン映画祭》

会期:2022年3月10日(木)~20日(日)
会場:梅田ブルク7、ABCホール、シネ・リーブル梅田、国立国際美術館
[問]大阪市総合コールセンター(なにわコール)
■06-4301-7285

【公式サイト】
http://www.oaff.jp