「映画史に残る数々の美しいラブシーンに匹敵するシーンになった」
映画『夕方のおともだち』村上淳&菜葉菜インタビュー
『ファンシー』など数多くの作品が映画化されている山本直樹による同名漫画を基に、廣木隆一監督が映画化したラブストーリー『夕方のおともだち』が2月4日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて順次公開される。SMクラブに通う、一見真面目な男・ヨシダヨシオと、彼の前から突如消えた伝説の女王様、そして現在の女王様ミホの不思議な関係を映しだす。市の水道局に務め、一見真面目だが筋金入りの“ドM”な一面を持ち、数年前に姿を消した伝説の女王様ユキ子を忘れられずにいるヨシオを村上淳が演じ、そんなヨシオに町で唯一のSMクラブで“女王様”としてお仕置きをするミホに菜葉菜が扮している。そんな本作の公開を前に、村上淳と菜葉菜が作品について語った。
──まずは、映画の成り立ちについて教えていただけますでしょうか。
村上淳(以下、村上):廣木さんから、どうしても淳と菜葉菜ちゃんでやりたい作品があると言われまして。「是非やりましょう」と。その後で「ちょっとハードかもしれない」と言われたけど、廣木さんには絶対的な信頼があるので「もちろんやります」と。
──それは、廣木監督だからでしょうか?
村上:この人だから絶対こうだというよりも 、自分に響くか響かないか。 野性的な直感ですね。僕は記録や記憶に残ることよりも、作品を残したいというエゴの方が強くて。 それは映画館で学んだことで。 我々が名画座で観る作品は、数十年前に作られて、今もスクリーンで輝いている。そういう作品に、僕は生涯で一本出られたらいいと思って俳優を続けているので。
──菜葉菜さんは廣木監督から本作の依頼を受けてどのように感じられましたか?
菜葉菜:私は、廣木監督のファンでもあり、同時にムラジュンさんのファンなので、おふたりとご一緒できることがすごく嬉しかったです。ムラジュンさんは役者としての厳しさは保ちつつも、本当に優しい。まだ私がそんなにお仕事をしていない頃から分け隔てなく接してくれて、すごくフランクに話しかけてくださって。映画もすごくたくさん見ていて、とにかく役者魂がすごい。私もこういう風に生きなきゃいけないと役者として尊敬しています。撮影前は緊張していましたが、それよりも、廣木監督とムラジュンさんとご一緒できるという嬉しさが大きかったです。廣木作品のヒロインをやることが私の目標だったので、公開まで長い年月がかかりましたが、ずっと実現してほしいという思いで待っていました。
──撮影まで7年かかったとお聞きしました。
村上:公開までで言うと10年かかっています。 撮影したのは3年前の10月です。
菜葉菜:コロナもありましたしね。
──そんなにかかっているんですね。
村上:この7年間一瞬たりともモチベーションが下がることなく、菜葉菜ちゃんが強く思ってくれたから実現できたんだと思います。
──本作はラブシーンも多いですが、本当に美しいラブシーンでした。
村上:結果的にあれだけハードなことをハードに見せないのは廣木さんの技量ですね。 カメラを置いて見ているだけなのに(笑)。もちろん、細々と魔法のような演出は入りますよ。僕は濡れ場が多い役者人生で、これからもそうだと思います。でも、 あれだけ美しい濡れ場というのは、珍しいですね。
菜葉菜:1番?
村上: 1番ではないかな (笑)。
菜葉菜:ひどくない? 嘘でも1番って言えばいいのに。私はムラジュンさんが1番って言っているし、それぐらいいいシーンになっていると思っているのに。
村上:1、2を争う、にしよう(笑)。
菜葉菜:じゃあ、許します。
村上:僕は『ラスト、コーション』の過激なラブシーンを観て、めちゃくちゃ悔しかった。ロウ・イエの『スプリング・フィーバー』やウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』。映画史に残る、数え切れないほどの美しい濡れ場、要はラブシーンですよ。 僕は今回、これらに匹敵するような、ここまで美しいラブシーンが撮れたのは幸運だと思っていて。それは菜葉菜ちゃんの功績です。菜葉菜ちゃんの美しさだけではなく、人間らしい要素が映っていて、カメラワークがそれを邪魔しないからだと思います。
──ちなみに、1、2を争う作品というのは?
村上:亀井亨さんの『病葉(わくらば)流れて』で、二人が豆粒にしか見えないぐらいの超ロングショットの濡れ場です。廣木さんのフィルモグラフィーの中でも『ヴァイブレータ』なんか、とてつもなく美しいですよね。同じくピンク映画出身の瀬々(敬久監督)さんも臆さないんです。女性が現場で裸になるということに。今は編集で逃げることもできてしまうので、編集なしであそこまで美しいシーンを撮れたのはすごいことですよ。今回が1番だけど、『病葉流れて』のことをふっと思い出しちゃった(笑)。
菜葉菜:じゃあ、1番で(笑)。
村上:僕が今まで悔しいなと思ってきた美しいラブシーンに匹敵するものを撮ることができたのは、菜葉菜ちゃんの勝ちですよ。竹原ピストルくんの「カウント10」という大好きな曲に「ぼくは“人生勝ち負けなんてないんだ”という人の人生に心を動かされたことは、一度たりとも、無い。」という歌詞があって。勝ち負けから逃げることも曖昧にすることも簡単だけど、勝ち負けを判断するのは自分。 あのシーンがあるからこそ釣りのシーンまでもラブシーンに見えてくる。『夕方のおともだち』は、どこを切り取ってもラブシーンなんです。
──おふたりが演じたヨシオとミホの関係性は、恋愛と言うよりも人間愛のように見えました。
村上: 僕が相手から欲しいものは恋や愛じゃなくて信用と信頼です。その上に関係性が築かれれば関係は長持ちする。愛とか恋の感情の上に関係性が築かれると、感情は冷めるので。若い頃は収入や知名度の差、 中年期は価値観のズレなどで関係性を築くのが難しくなりますが、それを超えた先に真の信頼関係があると僕は思っていて。菜葉菜ちゃんのそういう時期と、3年前のこの映画の撮影時期が重なった気がします。
菜葉菜:廣木さんもさっき同じようなことをおっしゃっていました。撮影まで7年かかったけど、「歳を重ねて7年後になったことは菜葉菜にとって良かった」と。私は早くやりたいと思っていましたが、3年前にミホを演じることが出来て良かったです。
──タイミングも良かったようですが、おふたりの息もぴったり合っていましたね。
村上:菜葉菜ちゃんは感情の手数がちょうど良かったです。何テイクかやっていくと、演技や感情の手数が減っていくんです。菜葉菜ちゃんとは初日から相性が良かったですね。廣木組や瀬々組など僕がよく呼んでもらえる監督は、自分がびっくりする程、スクリーンにちゃんと自分が映っているんです。その人物になろうとしているのではなく、役にシンクロしている。それが演出だと思っています。大事なのは、いい監督ではなくいい演出家であることです。
──女王様やドMという役柄を演じること、そしてSMを映画の題材として扱うということについてはいかがでしたか?
村上:題材として扱わせていただく以上、SM界の方にも認めてもらえるような内容にしないといけないという責任感から逃げるつもりはないです。でも、ボンテージを着てムチで年上の俳優をひっぱたく、菜葉菜ちゃんとAZUMIちゃんの方がきつかったんじゃないかな。 ひっぱたかれる僕の方が「もっとやっていいよ」と言うのは簡単ですから。(菜葉菜ちゃんは)「ほんとですか?」って叩いてきましたけどね(笑)。
菜葉菜:「ありがとうございます」って叩いていました(笑)。
村上:でも、そういう関係で良かったと思います。
──ミホがヨシオに向かって言う「あんた死ぬよ」という台詞にはすごく愛情を感じました。
菜葉菜:そう言ってもらえて嬉しいです。原作のヨシオにはそこまで感じなかったですが、ムラジュンさんを通すと、ヨシオがすごく愛しく思えて。私は嫉妬深くてミホのような母性もないので、自分とミホはかけ離れていると思っていましたが、ムラジュンさんに「ミホの優しさは菜葉菜ちゃんに元々あるものが出たんだと思う」と言われて、すごく嬉しくて。ヨシオに対してミホが感じている愛しい気持ちを100%わかるとは言えないですが、理解できる部分もありました。
村上:菜葉菜ちゃんは、ミホという人物を理解しようとすることを諦めない。そこがすごく大事で、そうやってわかろうとすることや疑問を持ち続けるところに、既に母性は生まれている。 そういう菜葉菜ちゃんだったからこそ、廣木さんも僕も遠慮なくぶつかれました。今回は全部が上手くいったんだと思います。映画ってこうあるべきだなと、現場にいる皆が思った作品なので、それを皆さんに観てもらいたいと思っています。
菜葉菜:廣木さんもさっき、「やりたいことを全部やった作品だ」っておっしゃっていたので、改めてそういう作品に出られて良かったと思っています。
取材・文/華崎陽子
(2022年2月 3日更新)
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