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血筋の物語と思春期に若者が自分の殻を破り、
世の中を知る成長譚を交錯させたシリーズ第3弾
映画『牛首村』清水崇監督インタビュー

清水崇が監督を務め、2020年2月に公開し大ヒットを果たした『犬鳴村』に続き、「恐怖の村」シリーズ第2弾として 2021年2月に公開された『樹海村』。それらに続く、「恐怖の村」シリーズ第3弾『牛首村(うしくびむら)』が2月18日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開される。富山県魚津市に実在する北陸の心霊スポット、坪野鉱泉を舞台に、未知なる恐怖に襲われる女子高校生らの姿を描く。国内外でモデルとして活躍中のKoki, (「o」の上に「‐」が正式表記)が、映画初出演にして主演を務め、恐怖に襲われる双子姉妹を一人二役で演じている。その他、萩原利久、高橋文哉、芋生悠、大谷凜香、莉子らに加え、松尾諭、堀内敬子、田中直樹、麿赤兒らベテラン俳優も共演し、恐怖に隠された切ない血筋の物語を作り上げている。そんな本作の公開を前に、清水崇監督が作品について語った。

──まずは、恐怖の村シリーズ第1作目となった『犬鳴村』の始まりから教えていただけますでしょうか。
 
特にオカルト好きというわけでもない東映の紀伊プロデューサーから「犬鳴村って映画になると思う?」と相談がありまして。「犬鳴村」という名前が忌まわしそうでいいと。「犬鳴村」というのは、福岡の山奥の立入禁止状態になっている旧犬鳴トンネルにまつわる都市伝説で、トンネルの向こうに犬鳴村という村があって、行ったら戻って来られない、村人に襲われるなど、インターネットに根も葉もない噂が書き込まれているんです。単なる都市伝説を映画に?…と最初は戸惑いましたが、自分なりに練ってみようと…。それが『犬鳴村』の始まりです。
 
──『犬鳴村』があそこまでヒットして、シリーズ化されるとは思ってらっしゃいましたか?
 
シリーズ化されるとは思っていなかったです。シリーズ化に関して相談もなく東映さんに“村”と括られてしまい、都市伝説は湖や海、山など色んな場所にあるのに、村にしなきゃいけないの!? とは思いました(笑)。正直、「一言断ってくれれば」と(笑)。大変でしたが、三部作を作るのは面白かったです。本当は『犬鳴村』がヒットしたらご褒美企画として、紀伊プロデューサーとコメディ映画を作る予定でした。でも『犬鳴村』が東映さんの期待を上回るヒットになって、すぐに『樹海村』を作ることになりました。そこは商業映画を手掛けている立場なので理解しています(笑)。こういう事が重なり、いつの間にやらホラーが得意な監督イメージになってしまったのですが。
 
──毎回、実在の心霊スポットを題材に物語を作っていくのは大変だったのではないでしょうか?
 
そもそも病院や学校、トンネルなどどこであろうと立入禁止にされ、廃止、放置された場所というのは噂が立ちやすいし、若者がたむろしたり、肝試しの場所になりがちで。インターネット時代になって、勝手に心霊スポットと言われる場所が増えました。中には実体験もあると思いますが、どこまで本当かわからない根拠のない噂が多い。そういう心霊スポットと言われている場所に突撃する動画は山ほど上がっています。それを老舗映画会社の東映さんが映画にして、プロの映画監督である僕が同じ事をやるのも芸が無いし、商業娯楽映画として成立させるには、ちゃんとドラマを盛り込みたいと思ったので、試行錯誤して血筋が絡む話にしました。
 
──血筋が絡むホラー映画というのは日本ならではの映画のように感じました。
 
血筋は逃れようがないですよね。自分が知らないだけで実は…みたいなことが根底にあるようなホラー映画を前々からやりたかったのと、紀伊さんの「『犬神家の一族』のような日本の因習めいた怖さの映画を蘇らせたい」という趣旨にも当てはまるかと思って。日本は歴史がある割に、ほとんどの人が自分は純粋な日本人だと勝手に思っていて、自分のルーツを探る人があまりいない。そこで、根も葉もない噂の都市伝説と血筋を絡ませることを思いつきました。この三部作は血筋の物語であり、三作とも若者が主体で、思春期に自分のルーツを知って自分の殻を破り、世の中を知るという成長譚でもあります。 
 
──前々から血筋を題材にした映画を作りたいと思っていたのはなぜですか?
 
僕は、『地獄』という神代辰巳監督の映画が好きで。主人公が知らない代々にわたる血筋の怨念を描いていて、それがすごく恐かった。また、歳を重ねるに従って、血筋にまつわる、今まで知らなかった事実に自ずと気づくことや不思議な偶然が起こることがありまして。それはたぶん、誰でも各家庭であるんじゃないかな。自分でそういう目に見えないことが恐いと感じたのもきっかけですね。日本の因習の恐さと血筋は切っても切れないですし、実は祖先が起こした過去の過ちが未だに尾を引いて…と考えられなくもないですよね。
 
──本作で双子を題材にしたのはなぜですか?
 
双子や三つ子については未だに根拠や原因は解明されていませんし、こうした未知の部分は昔から世界中で恐れてきた歴史や風潮があった。今でもそうですが、特に日本は島国なので閉鎖的と言うか、内弁慶。害はないのに見た目などで判断されてしまうことは、今でもありますよね。コロナに関しても、何の根拠もなく怖がる人もいれば、陰謀論だと言っている人もいて。さらには自分たちとは考え方が違う人を排除しようとする。特に今回は、役者陣やプロデューサー陣にも話さずに撮影していましたが、僕の中で“もうひとりの自分”という裏テーマがありました。
 
──“もうひとりの自分”というのは?
 
思春期に近づくにつれて、今までは自分本位だった考え方から我慢するようになって、こうなりたいという理想を追い求めるようになる。そこで、理想の自分と現実の自分が生まれ、他人の目を気にするようになって、本当はこうしたいと思っている自分とできない自分が存在するように。また、今はSNSがあるので、誰でも別人になって発信できるので、SNS上の自分と本当の自分、自分も知らない他人から見られている自分が分離してきている気がしていて。そういうことを表すために、鏡や硝子、水溜りなどで間接的な表現を増やして、本筋ではもうひとりの自分、双子がいるというストレートな展開を描きました。
 
──“もうひとりの自分”から双子のアイデアが生まれたんでしょうか?
 
いえ、双子になったから“もうひとりの自分”という裏テーマが生まれました。実は第二弾の『樹海村』の時に初期の脚本で双子のお婆さんが出てくるシーンを思い付いていましたが、「それだけで別の映画にできるのでは?」と三宅プロデューサーから言われて、『樹海村』の時には削除し、とって置いたんです(笑)。3作目があったらそれをやろうと。双子のホラーというアイデアから、現代のSNS文化にも通じる、他人の異なる意見を受け入れるのか拒絶するのか、それとも偏見を持つのか、そういう感覚を入れてみたいと思いました。
 
──双子の奏音と詩音を一人二役で演じたKoki,さんは、本作が初めての映画出演で主演を務められました。清水監督の作品のヒロイン役でデビューされる方は初めてではないでしょうか。
 
僕は24年ぐらいホラー映画ばっかりやっていますが、初めてですね。『魔女の宅急便』の小芝風花も細かく言えばデビューでは無かったですし。僕自身も初々しい気持ちで、彼女と一緒に挑戦するという感覚でした。偶然ですが、彼女が他の人よりも世間に存在を知られていることも面白い挑戦になると思いました。ある意味、逃れられぬ血筋の元に生まれたプレッシャーも、他者にはわからない思いも抱えてきているでしょうから。今回の裏テーマは彼女にぴったりだと。
 
──『牛首村』の製作が先に決まってから、主演がKoki,さんに決まったんでしょうか?
 
『牛首村』を作ることが決まってから、主演を探しました。今回は、三宅プロデューサーからKoki,さんを提案されましたが、僕はモデルの子ですよね? というぐらいの感覚でした。一度会ってみたら、彼女から勝気さと素直さと純粋さを感じて。お芝居が心配だと伝えると、「もちろんわかっています。当然です」と受け止めていて、「その上で選んでいただいて、一緒にやらせていただけるならぜひお願いします」と。その姿勢の真摯さとストイックさにかけてみようと思いました。演技は100点満点中70点で御の字だと思っていたら、結果的には、120点でした。
 
──Koki,さんに初めて会われた時はどんな印象を持たれましたか?
 
実際に本人に会った時も、等身大の18歳らしいところと、18歳にしてはしっかりしすぎている部分を持ち合わせていて、たぶん自分の中で色々な葛藤がありながらも、弱音は吐かないし、強がっても見せない純粋さが彼女の魅力だと思いました。キラキラした学園モノではなくデビュー作にホラー映画を選んで飛び込んでくれたのも嬉しかったです。
 
──この三部作では、若い俳優さんがメインの役どころを演じてらっしゃいますが、『犬鳴村』では石橋蓮司さんや寺田農さん、『樹海村』では國村隼さん、本作では麿赤児さんとベテラン俳優さんがしっかりと重要な役柄に鎮座してらっしゃいます。
 
そこは重要視しています。ホラー映画と言うだけで馬鹿にして観に来ない方がたくさんいらっしゃいますし、若い人向けだと思われることが多いので。ベテランの俳優さんにも共演していただくことで作品の脇を締め、また若手の俳優陣や僕自身も緊張感を取り入れたい思いがあります。映画好きや大人は「この人が出ているならしっかりしている映画なのかな」と勝手に思ってくれるんです。僕は麿さんの暗黒舞踏を見て、『呪怨』の白塗りのお化けを思いついたので、本作の麿さんは光栄でしたし、前からご一緒したいと思っていました。
 
──その『呪怨』に出ていた奥菜恵さんは『犬鳴村』と『牛首村』に、『犬鳴村』のアッキーナ役の大谷凜香さんは3作全てに登場してらっしゃいます。
 
全く別の世界観、別作品ではあるものの、シリーズとして何らかの共通項を残したいという遊び心です。『樹海村』の時はユーチューバー役が必要だったので、(『犬鳴村』の)アッキーナでいいんじゃない?と(笑)。実は、大谷さんは『樹海村』で別の役のオーディションに応募してくれて。でも、既にユーチューバーの役に決め込んでいたので、事務所に伝えてもらいました。実は、次の新シリーズも既に動いていますが、その作品でアッキーナをどうするか悩んでいるところです(笑)。
 
──そういう遊び心が隠されていたんですね。
 
それ以外にも、よく見ていただくと今回のユーチューブ配信のシーンに、『樹海村』で主役だった「ジーニー」をはじめ「昼顔」「タルピオット」など、過去作に出てきたメンバーがコメントで参加しています。
 
──最後に、『アンテベラム』や『マリグナント』など、ここ数年ホラー映画のような売り方をされている外国映画が増えてきたように感じています。清水監督はどのように捉えてらっしゃいますか?
 
アメリカでもヨーロッパでも、約20年前にJホラーと言われていた作品を観ていた人たちが斬新なものを作っているように感じています。例えば2020年にヒットした『ミッドサマー』は、隠れた名作『ウィッカーマン』に似ていますが、あの作品はアリ・アスター監督ならではのテイストになっていると感じました。そういう斬新な手法やこの監督ならではのセンスを活かした作品が日本では、近年見当たらなく、寂しいですね。
 
──日本でもホラー映画にもう少し光を当ててほしいですね。
 
ホラー映画は馬鹿にされがちですが、差別されてこそのジャンルだと僕は思っているので、いいんです(笑)。逆に市民権を得てきてしまったからこそ、“こんなの観てしまったら…”といった得体の知れない怖さの感覚は失われてしまいました。作り手も演じ手もちょっとまだホラーを馬鹿にしている感じが抜けきれない。
 
ホラー映画を見ないまま大人になって、苦手だと言っている人が多くて、苦手な人ほど勝手に“ホラーって血まみれで恐いだけ”といったイメージで思い込んでいるように思います。恐さは血や暴力だけではないですよね。僕も痛いのは苦手ですし、中学生くらいまでそう思っていました。でも、自ら作って怖さを楽しむ娯楽に昇華するような行為は人間ならではの贅沢な嗜好でもあるし、喰わず嫌いにならず観ていただけたら幸いです。
 
 
取材・文/華崎陽子



(2022年2月18日更新)


Check

Movie Data



(C) 2022 「牛首村」製作委員会

『牛首村』

出演:Koki,
萩原利久、高橋文哉
芋生悠、大谷凜香、莉子
松尾諭、堀内敬子、田中直樹、麿赤兒
監督:清水崇

【公式サイト】
https://ushikubi-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
https://cinema.pia.co.jp/title/187537/


Profile

清水崇

しみず・たかし●1972年7月27日、群馬県生まれ。大学で演劇を専攻し、演出家・大橋也寸、脚本家・石堂淑朗に師事。同郷の小栗康平監督作『眠る男』(1996)の見習いスタッフで業界入り。小道具、助監督を経て、自主制作した3分間の映像を機に黒沢清,高橋洋監督の推薦を受け、1998年、関西テレビの短編枠で商業デビュー。東映Vシネマで原案・脚本・監督した『呪怨』シリーズ(99)が口コミで話題になり、劇場版(2001/02)を経て、サム・ライミ監督によるプロデュースの元、USリメイク版“The Grudge”:邦題『THE JUON/呪怨』(04)でハリウッドデビュー。日本人初の全米興行成績№1を獲得。続く“The Grudge 2”:邦題『呪怨パンデミック』(06)も全米№1に。その他『輪廻』(05)、『魔女の宅急便』(14)などホラーやスリラーを中心に、ファンタジーやコメディ、ミステリー、SFなどに取り組む。また、『キョンシー』(13/香港)、『バイオハザード:ヴェンデッタ』(17)など国内外でプロデューサーも兼任。理論物理学の最先端“ひも理論”にエンタメ要素を用いた3Dドームによる科学映画『9次元からきた男』(16)が現在も日本科学未来館にて上映中。近作に14人の監督と組んで短編50作の総合監修を務めた、スマホ専用のタテ型ホラーコンテンツ「スマホラー」、『ホムンクルス』(21)など。本作は『犬鳴村』(20)、『樹海村』(21)に続く〈恐怖の村〉シリーズ3作目となる。