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映画『名も無き世界のエンドロール』
主演・岩田剛典&佐藤祐市監督インタビュー

第25回小説すばる新人賞を受賞した行成薫の同名小説を、『キサラギ』や『累-かさね-』の佐藤祐市監督が手掛けたサスペンス映画『名も無き世界のエンドロール』が、1月29日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国で上映される。複雑な家庭環境で育ち、10年もの歳月をかけて表社会と裏社会でそれぞれ成り上がった幼馴染みのキダとマコトのふたりが巻き起こす、壮大な計画をスリリングに描き出している。岩田剛典と新田真剣佑が初共演を果たし、ヒロインを山田杏奈と中村アンが務めた話題作だ。そんな本作の公開を前に、穏やかで優しい性格でありながら、裏社会で交渉人として暗躍する主人公のキダに扮した岩田剛典と佐藤祐市監督が、リモートで作品について語った。

――まず、本作は、10年前と現代という時代を行き来する複雑な設定になっていて、ミステリーの要素もあります。撮影は苦労されたのではないでしょうか?
 
佐藤祐市監督(以下、佐藤監督):撮影中は、シーンごとに、今日のシーンはこの年代で、こういう心持ちで、今は何を目指しているのか、どんな目標を持っているのか、それとも目標を見失っているのか、ワンシーンごとに岩ちゃん(岩田剛典)ともまっけん (新田真剣佑)とも心情を確認しながら、作っていきましたし、そこにすごく集中していました。
 
――岩田さんは、どのようなことに気を付けて演じてらっしゃいましたか?
 
岩田剛典(以下、岩田):この物語自体がキダの目線で進んでいくので、お客さんの気持ちをキダに乗せて、キダと同じような気持ちで観てもらえるように、そして、物語の軸をしっかりと伝えられるようにすることが、キダを演じる上で大事なポイントだったので、それを意識して演じました。
 
――撮影に入る前からお互いのことはご存知だったと思いますが、岩田さんにとっての佐藤監督、佐藤監督にとっての岩田さん、それぞれの印象は撮影の前後でどのように変化されましたか?
 
岩田:最初と比べても印象はそんなに変わってないですね。とにかく、パワフルな方なので(笑)。衣装合わせの時からすごくパワフルでした。でも、基本的にずっとふざけてらっしゃるので(笑)、僕はいいんですが、女優さんは真面目な話をしている時にいきなりふざけられるので、真面目な話のテンションで突っ込めないじゃないですか(笑)。たぶん、リアクションに困っていたんじゃないかと思います(笑)。
 
佐藤監督:すいませんでした(笑)。僕は、岩田さんがキャスティングされると聞いてから監督のオファーを受けたんです。岩田さんのことは直感的にいいなと思って、一度ご一緒したいと思っていたので、お会いしたら、すごく優しい人だなと感じました。滲み出る優しさみたいなものがあって、今こうやってお話していても、こんなバカな監督を優しく受け止めてくれるじゃないですか(笑)。この作品にとっても、キダという役を岩ちゃんが演じることで、単純な優しさではなくすごく丁寧な優しさみたいなものが醸し出されていると思うんです。岩ちゃんは、いい奴と言うか、そりゃモテるよな、と思いました(笑)。
 
岩田:結局、そこに落ち着くんですね(笑)。
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――キダとマコトのキャラクターをはじめ、柄本明さん演じるキダの組織のトップ・川畑も、原作の世界観が映画に踏襲されているように感じました。特に、柄本さんと岩田さんの共演シーンは痺れるものがありました。本作を映像化するに当たって特に気を付けたことなどありましたでしょうか?
 
岩田:柄本さんはプロフェッショナルですね。実際に対面して演じてみると、本番の柄本さんの集中力やパワーにはとんでもないぐらい圧倒されました。段取りとは全く違う芝居に感じるぐらいの迫力があって。柄本さん演じる川畑は、この作品のキーパーソンでもあるんですが、脚本で読んだ川畑のイメージよりも、柄本さんが演じたことによって、『名も無き世界のエンドロール』の世界観が出来上がったと、あのシーンで感じました。それは柄本さんのパワーですし、言葉では言い表せない雰囲気を身にまとってらっしゃいますよね。原作を映像化するに当たっては、小説の中でビジュアル的なことも文章で表現されているので、原作ファンの方には、なんとなくイメージするキダ像やマコト像がある中で、映像化にチャレンジするので、慎重にはなりました。キダとマコトの印象の作り方から監督と一緒に相談して、衣装部やメイク部などスタッフの皆さんと共に作り上げていきました。まっけんが演じたマコトが清潔感漂うエリートというキャラクターなので、逆にキダがスクリーンの中でどういう風に存在すれば、マコトとキダの違いをわかりやすく見てくださる方に伝えられることができるのかをまず考えていました。
 
佐藤監督:僕が一番、気を付けたのは脚本を作る段階でのシーンの並べ方ですね。シーンを何回も並べ変えて作りましたし、脚本の試行錯誤にすごく時間を使いました。どういう風にお客さんに伝わるのか考えることに、一番神経を使いました。そのシーンごとのキャストたちの感情を表現するレベルなど、すごく小さなことかもしれませんが、それによってキダとマコトの友情をどういう風に表していくのかということがこの映画の肝だと思っていたんですが、実はキダとマコトのふたりのシーンは多くないので、ふたりのシーンはすごく大事で、そこに漂う信頼感は大切にしていました。何も言わずとも分かり合っている部分と、ちゃんと言葉で表現している部分と反目する部分と受け入れる部分など、複雑な話だと思っていたからこそ、シーンごとの表現の強さには一番神経を使いました。
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――今、監督がおっしゃったように、キダとマコトの、ベタベタしすぎず、つかず離れずだけどその根底には確固たる信頼関係があるという距離感を表現することは、すごく難しかったのではないでしょうか?
 
岩田:ワンシーンでその信頼感を、表情だけで表現するというのはほぼ不可能ですが、底抜けに明るい10年前のパートがあるので、そのシーンが効けば効くほど現代パートの見え方が変わってくると思いましたし、現代パートの中でも、あまりベタベタするシーンはないんですが、マコトからのドッキリが大きな意味を持ってくれたと思っています。大人になってからのキダはすごく鋭いんですが、ドッキリがあるからこそ、その中にも、マコトの前だと昔と変わらないあどけなさが出ているので、そこでマコトとの信頼関係を表現すればいいと思っていました。そういうシーンにすごく助けられたと思います。
 
――本作の中で、キダとマコトのもうひとりの幼馴染みであるヨッチ(山田杏奈)の口癖である「1日あれば世界は変わる」という台詞が印象的でした。
 
佐藤監督:現代社会を生きるほとんどの人が、実は小さなコミュニティの中で生きていると思うんです。その中でも、この映画のマコトとキダとヨッチは、もっと狭い世界で、全員が生い立ちにある不幸を背負っていて、傷を舐め合っていると言うと語弊があるかもしれませんが、だからこそ強く結びついていて、より小さな世界で3人は暮らしているんだと思うんです。僕は、「1日あれば世界は変わる」という台詞もそうですし、キダが最初のシーンで言う「神様なんていねぇよ」という言葉が、彼らの小さな世界を表現するうえで活きてくる台詞だと思っていました。社会や周囲から、3人は外れてしまっているからこそ、そういうことを言えるんじゃないかと思いました。特にヨッチは女の子だから、男の子より客観的に物事を捉えているので、「どうせ変わっちゃうんだ、何もかも」というネガティブな気持ちが彼女の中にはあるんだろうなと思いながら撮っていました。撮っている時(2019年夏)は、3人の世界を表現するための言葉だったんですが、こういう時代になってしまって、この台詞が引っ掛かるというのは、誰もが少なからず抑圧された中で生きているからかもしれないと感じています。
 
岩田:この映画の根底には、命の儚さや尊さがメッセージとしてあるように僕は感じています。この映画は、キダとマコトの半生を2時間で観る作品だと思いますし、命の使い方や人生について描いた作品なので、話す立場になると、宣伝文句がすごく難しい作品だと感じているんですが、こういうテーマだからこそ、頭を空っぽにして映画館で楽しんでほしいと思います。
 
――映画を観終わった後で、冒頭シーンを観ると、違う意味を持って心に迫ってくるものがあると思います。先日、冒頭シーンが公開されましたが、あの映像を見ると、もう1度観たくなるんじゃないかと思いました。
 
岩田:本編を観終わった後では、あのシーンの意味が全く変わると思います。この作品は2回観ると全く印象が変わる映画だと思います。
 
佐藤監督:ぜひ、劇場で2回観てください。
 
取材・文/華崎陽子



(2021年1月26日更新)


Check

Movie Data



(C)行成薫/集英社 (C)映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会

『名も無き世界のエンドロール』

▼1月29日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:岩田剛典、新田真剣佑、
山田杏奈、中村アン、
石丸謙二郎、大友康平、柄本明
監督:佐藤祐市

【公式サイト】
https://www.namonaki.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
https://cinema.pia.co.jp/title/185705/


Profile

岩田剛典

いわた・たかのり●1989年3月6日、愛知県生まれ。三代目 J SOUL BROTHERSのパフォーマーとして2010年にデビューし、2014年にEXILEに加入。俳優としても活躍し、映画初主演作『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016)では、第41回報知映画賞新人賞、第40回日本アカデミー賞新人俳優賞・話題賞を受賞。主な出演映画に、 『HiGH&LOW』全シリーズ(2016/2017)、『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(2018)、『去年の冬、きみと別れ』(2018)、『AI崩壊』(2020)、『空に住む』(2020)、『新解釈・三國志』(2020)などがある。「シャーロック」(2019)など、TVドラマでも活躍。


佐藤祐市

さとう・ゆういち●1962年、東京都生まれ。2007年に発表した『キサラギ』で、第50回ブルーリボン賞作品賞、第31回日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞し、自身も第31回日本アカデミー賞優秀監督賞、第12回新藤兼人賞銀賞など、数々の映画賞に輝く。その後も、『シムソンズ』(2006)、『守護天使』(2009)、『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(2009)、『ストロベリーナイト』(2013)、『脳内ポイズンベリー』(2015)、『累 -かさね-』(2018)、『ういらぶ。』(2018)など、様々なジャンルの作品を発表し続けている。