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北白川派初の時代劇『CHAIN』を世界初上映!
松竹映画100年&スーパーヒーロー前史特集を
シアターとオンラインのハイブリッドで全85本上映
《第12回 京都ヒストリカ国際映画祭》見どころ紹介

今年12回目を迎える歴史をテーマにした世界で唯一の国際映画祭、京都ヒストリカ国際映画祭(以下ヒストリカ)が、10月31日(土)から11月15日(日)まで京都文化博物館(3Fフィルムシアター)とオンライン(公式動画配信サービス MIRAIL<ミレール>https://mirail.video/)で開催される。新型コロナウイルスの影響を受け、秋以降開催される映画祭は感染予防対策を万全にしながらそれぞれが工夫を凝らしているが、ヒストリカは「シアター上映とオンラインを併せて過去最高の全85本をラインナップ」という新しい形の映画祭に挑戦する。当映画祭プログラムディレクターの高橋剣氏は「今年は本来なら時代劇が豊作の年で想定していた企画もあったが、コロナ禍で全く白紙になってしまった。今は人と関わりあうことができず、ゲストをお呼びできない中、この映画祭をどのように残していくか。物理的な制約がないオンラインでのまとまった本数の上映と、それをまとめる特集をキュレーションすることが一つの答えでした」とその経緯を語ってくれた。

ヒストリカお馴染みの部門から、オンラインでの特集までその見所をご紹介したい。

■ヒストリカスペシャル(シアター上映のみ)
~フレッシュな『CHAIN』と松竹映画100年の結晶『たそがれ清兵衛』~

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『たそがれ清兵衛』 (C)2002 松竹/日本テレビ/住友商事/博報堂/日販/衛星劇場
 
京都で貴重なプレミア上映が行われる機会となっているヒストリカスペシャルでは、映画『嵐電』も記憶に新しい京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)映画学科の教授、学生、プロの協働による映画制作を行う北白川派初の時代劇『CHAIN』を世界初上映する。監督は北白川派第五弾『正しく生きる』(15)のベテラン、福岡芳穂。『あゝ、荒野』『宮本から君へ』の脚本家、港岳彦によるオリジナル脚本で、新撰組の伊藤甲子太郎惨殺事件に絡んでいく若い隊員たちを描く幕末青春群像劇だ。
 
もう一本は山田洋次監督が初めて挑んだ本格時代劇『たそがれ清兵衛』をオープニング上映する。上映後は山田監督によるトークショーを開催予定だ。

「山田洋次さんは大船撮影所でも時代劇を撮っていますが、『たそがれ清兵衛』という傑出した時代劇を撮るに至ったのは京都の撮影所に足を踏み入れ、物語の磁場に触れたから。時代劇の職人たちと真剣勝負をすることで出来上がった作品であり、今回、松竹映画100年が生んだ一つの結晶と映画ゼロ年の若手スタッフが参加した『CHAIN』を並べて上映します。『CHAIN』では福岡芳穂監督、港岳彦さんに加え、霊山歴史館の木村武仁さん、映画評論家の山根貞男さんをお招きしてシンポジウムを開催しますのでお見逃しなく!」(高橋氏)


■ヒストリカ・ワールド(シアター上映後にオンライン配信)
~世界の新鋭による秀作歴史映画を目撃せよ!~

従来の時代劇のイメージを超え世界の新鋭が新しい視点で挑む歴史映画をセレクトし、映画ファンも注目のヒストリカワールド。今年は『モスキート』『魂は屈しない』『義理の姉妹』『荒地の少女グウェン』のヨーロッパや南米との合作4本がラインナップ、上映後はZoomによるQ&Aも予定されている。
「歴史映画といっても史実の再現ドラマではなく、第一次世界大戦以前、大衆消費社会が始まる前の格差社会、階級社会や現在とは桁違いの自然の脅威を描いた作品など、日本の時代劇にも応用できる視点を持った作品を選んでいます。今年は特に秀作揃い」と高橋氏が太鼓判を押す日本初上映の4本をご紹介!
 
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『モスキート』

『モスキート』(ポルトガル・フランス・ブラジル)
~ポルトガルの知られざる戦争の記憶と分断を超越する自然の凄み~
アフリカ・モザンビーク出身のジョアン・ヌノ・ピント監督が第一次世界大戦を舞台に描くのは、ポルトガルからモザンビークの最前線に派遣された少年兵士の危機的な状況とその先に訪れるどこかおおらかなカタルシス。人を分断する理由はたくさんあるが、それを超越する自然の凄みに目を奪われる、今の世界をまさに反映した戦争ロードムービー。2020年ロッテルダム国際映画祭オープニング上映作。
 
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『魂は屈しない』

『魂は屈しない』(キューバ・スイス)
~キューバの名匠と新星がタッグを組んで描く19世紀の強烈なヒエラルキー~
『永遠のハバナ』の名匠フェルナンド・ペレス監督と、キューバの映画学校で学んだスイス出身のラウラ・カサドール監督の共同制作。19世紀初頭、スイスから行方不明の息子を探すためキューバに渡った医師の目線で文明の衝突、性の問題、人種差別が描かれる、スペイン植民地時代のキューバで実際に起こったスキャンダラスな裁判を元に、どんな悲劇にも屈しない主人公を描いた、現代的テーマを内在する必見作。
 
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『義理の姉妹』
 
『義理の姉妹』(ウクライナ)
~ハプスブルク家末期のオーストリアで、美しく歪んだ義姉妹関係が波紋を呼ぶ!~
ウクライナのベストセラー小説、ソフィア・アンドルホビッチの『フェリックス・オーストリア』を見事に映像化。あることがきっかけで使用人と雇い主の関係ながら姉妹のように育てられた美しい娘たちが辿る皮肉な運命を、ファンタジックかつシニカルに綴るヨーロッパらしいひねりがある作品。ウクライナ出身のクリスティーナ・シボラップ監督初長編作。
 
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『荒地の少女グウェン』 Elen (Maxine Peake), Gwen (Eleanor Worthington-Cox)
 
『荒地の少女グウェン』(イギリス)
~ずばり、黒沢清調ホラー時代劇~
イギリス南東部の農村出身のウィリアム・マックレガー監督初長編作は産業革命の終盤を迎えた19世紀イギリス・ウェールズが舞台のフォークホラー。手付かずの美しい山々が鉱山会社の開発の標的となる一方、主人公グウェンの母の発作が悪化するにつれ不可解な出来事が襲いかかる。「人間の存在自体が不可解で不審さに溢れているという今の時代に特徴的な映画の流れは、時代劇にも今後取り入れられる可能性がある。人間の存在自体が今までの時代劇のようにすかっと割り切れないんです」(高橋氏)



■ヒストリカ・フォーカス
~松竹映画100年:時代劇で振り返る~(一部シアター上映とオンライン配信)

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『治郎吉格子』 (C)1952松竹株式会社

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『蛍火』 (C)1958松竹株式会社

2020年で映画制作100周年を迎えた松竹の時代劇のみ全30本をラインナップ。100年の間で松竹時代劇が培った庶民の生活感に寄り添って描く喜怒哀楽や、下級武士の悲哀に満ちた作品、さらに新たな挑戦を重ねた記念碑的作品を紹介する。また今の松竹を背負う時代劇職人のあり方、柔軟さを紹介するラインナップになっている。山田洋次監督と本木克英監督が語る松竹の歴史など、松竹時代劇の歴史を検証するスペシャル動画も配信予定だ。

<シアター上映作品> ※はオンライン配信あり
『忠臣蔵』(1932)監督:衣笠貞之助
『残菊物語』(1939)監督:溝口健二
『治郎吉格子』(1952)監督:伊藤大輔
『楢山節考』(1958)監督:木下恵介 ※
『蛍火』(1958)監督:五所平之助
『切腹』(1962)監督:小林正樹
『暗殺』(1964)監督:篠田正浩 ※
『忠臣蔵外伝四谷怪談』(1994)監督:深作欣二 ※
『御法度』(1999)監督:大島渚
『壬生義士伝』(2003)監督:滝田洋二郎
『武士の家計簿』(2010)監督:森田芳光
『超高速!参勤交代』(2014)監督:本木克英 ※
<主なオンライン配信作>
『雪之丞変化』(1935)監督:衣笠貞之助
『宮本武蔵』(1944)監督:溝口健二
『歌麿をめぐる五人の女』(1946)監督:溝口健二
『大江戸五人男』(1951)監督:伊藤大輔
『青銅の基督』(1955)監督:渋谷実
『歌う弥次喜多 黄金道中』(1957)監督:大曾根辰保
『三匹の侍』(1964)監督:五社英雄
『宮本武蔵』(1973)監督:加藤泰
『必殺!Ⅳ 恨みはらします』(1987)監督:深作欣二
『利休』(1989)監督:勅使河原宏
『女殺油地獄』(1992)監督:五社英雄
 
~スーパーヒーロー前史 子ども時代劇エボリューション~(オンライン配信)

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『笛吹童子』 (C)東映
 
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『快傑黒頭巾』 (C)東映

現在の仮面ライダーや戦隊ものの原点は、東映の子ども向け時代劇『笛吹童子』だった!大手映画会社が軒並み参入したという子ども時代劇の中で、ヒットの法則を作り同分野のトップカンパニーとなった東映。テレビに移行し、時代劇から仮面ライダーなどの現代劇になってもブレることなく子ども向けアクションヒーロー路線で各時代の子どもたちを虜にした。その原点となる懐かしの作品たちをオンラインで一挙45本公開! 『笛吹童子』『里見八犬傳』『紅孔雀』『百面童子』『快傑黒頭巾』から仮面ライダー初の劇場版作品『仮面ライダー対ショッカー』、京都映画村で撮影した『超忍者隊イナズマ!』までほとんどが今回初配信と非常に貴重な機会だ。
「団塊世代の皆さんには強烈な同世代体験を呼び起こすでしょうし、マニアにはたまらないはず。東映だけが成功したコアな部分と変遷した部分を浮かび上がらせるスペシャルトーク動画では、仮面ライダーシリーズの田﨑竜太監督やジャパンアクションエンタープライズ(JAE)の金田治社長にも登場いただく予定です」(高橋氏)


 
■京都フィルムメーカーズラボ、ヴェネツィア・ビエンナーレ– ビエンナーレ・カレッジ・シネマ提携企画、フェリーニ生誕100年記念も

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『カサノバ』 FELLINI'S CASANOVA (C) 1976 Alberto Grimaldi Productions S.A. All Rights Reserved.

毎年世界中から参加する若手育成プログラム「京都フィルムメーカーズラボ」は今年オンライン開催&日本の参加者のみのリアル開催となるが、同プログラム出身監督の作品を上映する「カムバックサーモンプロジェクト」では竹葉リサ監督の『オルジャスの白い馬』(主演:森山未來)を上映。
 
またベネチア国際映画祭の人材育成プログラム<ヴェネツィア・ビエンナーレ– ビエンナーレ・カレッジ・シネマ>よりキアラ・カンパラ監督の『愛することのレッスン』が上映される。さらに、イタリア文化会館大阪連携企画「フェデリコ・フェリーニ」ではヒストリカらしくフェリーニが遺した歴史映画『カサノバ』『サテリコン』の2本を上映。「チネチッタの5番ステージを根城に、チネチッタの職人とフェリーニ自身の華麗なイメージを映画にした強烈なイメージを持つ作品たちです」(高橋氏)
 
他にも
・あらたな時代劇企画のピッチコンテスト「京都映画企画市」
・歴史コンテンツのコスプレイベント&ショーケース「太秦上洛まつり」
・VR・ARを用いたエンターテインメント新潮流の紹介「ヒストリカ×XR」
など、オンラインを中心にイベントを開催予定なので、ぜひチェックしてほしい。



(2020年10月14日更新)


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《第12回
 京都ヒストリカ国際映画祭》

▼10月31日(土)~11月15日(日)
京都文化博物館(3Fフィルムシアター)
オンライン(MIRAIL<ミレール>https://mirail.video/)

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