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斎藤工&白石和彌監督登壇!
『麻雀放浪記2020』舞台挨拶&会見レポート

阿佐田哲也による人気小説を原案に、大胆な設定変更を取り入れて映画化した麻雀ドラマ『麻雀放浪記2020』の公開を記念し、公開2日目を迎えた4月6日(土)、主演を務めた斎藤工と白石和彌監督が登壇し、梅田ブルク7で上映前に舞台挨拶を行い、その後場所を移して会見を行った。

2020年の東京を舞台に、昭和20年の戦後の時代から時を超えてきた若き雀士、坊や哲の物語を映し出している本作。『凶悪』や『孤狼の血』の鬼才、白石和彌が監督を務め、全編をiPhoneで撮る機動力撮影に挑戦。1984年に製作された和田誠監督作『麻雀放浪記』のファンを公言する斎藤工が二十歳で童貞の坊や哲に扮している。東京オリンピックが中止になるという設定にクレームが入ったり、公開を約1ヵ月後に控えた3月13日に出演者であるピエール瀧が逮捕されるなど、様々な紆余曲折を経て公開を迎えた作品としても話題となっている。
 
まずは、午前中の上映だったこともあり、斎藤工が「この時間から見る映画ではないと思いますし、胸焼けを起こすと思いますが最高の映画です。楽しい時間を過ごしてください」と挨拶。白石監督も「毎回必ず、この映画の紹介の時には“一時公開が危ぶまれた”という枕詞がつくんですが、無事に公開できたことを嬉しく思っています。たくみ君がずっと温めていた作品に僕が乗らせて頂いて、一生懸命作りました。今日は楽しんでください」と挨拶し、舞台挨拶は始まった。そして、公開を迎えた現在の率直な感想を聞かれると斎藤は、「単純に嬉しいです。公開が危ぶまれたと言われますが、そういう意味では企画段階から危ぶまれていました。おそらく、僕もリスペクトし続けている和田誠版の『麻雀放浪記』をご覧になった方もいらっしゃると思うんですが、原作をリスペクトしている人たちからはどうしても止められてしまうというか、「なぜ映画化するんだ」と言われてしまうんです。それもまた正論なんですが、騙されながらも素晴らしい仲間がどんどん増えていって坊や哲が強靭になっていったプロセスが『麻雀放浪記』らしいなと思っていました。僕はこの日を信じていましたし、大阪の皆さんに愛される映画だと自負しております」と作品への思いを熱弁。白石監督も「公開を迎えて単純に嬉しいですし、たくみ君が血の滲むような努力で二十歳の童貞を演じているので、それを皆さんに届ける前になくなるというのは違うと思っていました。もちろん、たくみ君だけじゃなくて、他のキャストも変てこりんな役を本当に一生懸命やってくれました。最近は、僕も映画見ましたというよりは会見見ましたと言われることの方が多いんですが、一生懸命今の流れに逆らって何かを守らなきゃいけないと思って自分の思いを話させていただいたんですが、それがこの『麻雀放浪記2020』と言う映画だったことは何か運命を感じますし、僕の誇りになりました」と監督も熱い思いを語ってくれた。
 
また、構想10年とも言われる『麻雀放浪記2020』の映画化について聞かれると、斎藤は「阿佐田哲也さんご自身の自伝である『明日泣く』という作品を実写化した時に、僕が阿佐田さんご本人の役を演じさせていただいたご縁で、奥様である孝子夫人にお会いして、僕がいかに「麻雀放浪記」に影響を受けているのか、無頼の小説家阿佐田哲也さんの影響力について、また和田誠版の素晴らしい傑作について熱弁していたら、権利を全部持ってらっしゃる孝子さんが「じゃああなた映画にしたら」とおっしゃってくれて、今思えばふたりの雑談から始まったんです。その頃はまだ僕は、そんなに重い何かを背負えるキャパシティを持っていなかったので、すぐにどうにかすることはできなかったんですが、そこからいろんな方達がこの作品を具現化することに尽力してくださって、今日を迎えることができました。当初は僕が出演するつもりは全くなかったんですが、東京オリンピックの招致が決まったこともこの10年間での大きな出来事でしたし、J アラートが鳴っている頃に書かれた台本ですし、10年前とは違う状況が落とし込まれた台本になっているので、全てが必然だったんだと今となっては思います」と本作の映画化への道のりを話してくれた。一方、本作の監督依頼を受けた白石監督に、当初のことを聞いてみると「プレッシャーしかなかったです。和田監督の映画は邦画史に残る傑作なので、ただ阿佐田先生が戦後を舞台にして作った意義を考えた時に、脚本を作っていた時の状況を考えると、この時代に公開する意義が見出せるんじゃないかと思いました。阿佐田先生が「麻雀放浪記」で書かれていた魂みたいなものは、この映画の中にも落とし込めたんじゃないかと思っています」と語っていた。さらに、個性派キャストが揃った本作の撮影中の雰囲気について聞いてみると斎藤は「個性が渋滞していましたね(笑)。普通でいることが目立ってしまうような感じでした。「麻雀放浪記」感はキャスティングの段階からすごくあったと思いますし、贅沢な現場でした。妖怪大戦争って言ったら失礼ですが、坊や哲がすごくぶっ飛んだキャラクターなのに、哲が真っ当に見える瞬間が多々あるんですよね。それだけ皆さんが素晴らしかったと思います」と独特の言い回しで現場の雰囲気を表現してくれた。一方、そんな現場をまとめていた白石監督は「出来上がってきた脚本に、僕自身にも理解不能なことが書かれていたので、それをどうこなしていこうかと考えるので一生懸命でした。坊や哲だけじゃなくて、みんながやっていることをゲラゲラ笑いながら撮影した映画ですし、とにかく、めちゃくちゃ面白い現場でした」と笑いながら話してくれた。

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最後に、白石監督が「本当は坊や哲も東京に居場所がなくなって、大阪に流れる設定になっていて、今回の映画に出てくるくそ丸もどて子も本当は大阪のキャラクターなんです。ただ色々設定を変えすぎてしまったので、結局東京で撮ったんですが、もしこの映画が大ヒットして続編を作ることになれば大阪で撮ってみたいです。本当にいろんな気持ちを込めて作った映画です。昨日初日を迎えましたが、ようやく公開できたことが本当に嬉しいです。是非この映画を応援してもらえればと思います」、斎藤工が「二十歳の童貞を何の違和感もなく演じている斉藤です。僕は映画が好きで映画館に通って今の仕事を志したんですが、僕が映画館に求めているものは日常にはない、非現実の体験なんです。映画館は、その体験を経由して現実の自分に戻ってくるものが、自分の血となり肉となる経験ができる魔法の箱だと思っています。また、僕は白石和彌監督の作品というのは、他では出会えない、テレビでは見られない、映画館に来なきゃ出会えない、近年本当に少なくなってきた貴重なフィルムメーカーだと思っています。その白石さんと『麻雀放浪記2020』でご一緒できたことが本当に誇らしいですし、皆さんに今から体験していただく摩訶不思議な非現実、それが巡り巡ってこの劇場を出た後の日常に繋がっていくことを願っております。この作品は賛否両論真っ二つに分かれております。皆さんが今日観て何か感じたことを、否定的な意見でもいいので、皆さんに近い方に伝えていただいて、この作品を育てて頂けたら嬉しいです。『麻雀放浪記2020』をよろしくお願いします」と語り、舞台挨拶は終了した。
 
その後、場所を移して行われた会見では、まず斎藤工が「構想10年と聞くとなかなか長い道のりだったと思われると思いますが、白石監督がこのプロジェクトに参加してくださった頃から始まったと思っています。白石和彌監督が撮る『麻雀放浪記』をいち映画ファンとして観たい気持ちもありました。構想から撮影にかけては、何が起こるんだろうという好奇心の塊みたいな夢のような時間でした。準備、撮影、完成、公開を迎えるまで困難のない映画はないと思うんですが、この作品が倒れかけても立ち上がれたのは故・阿佐田哲也さんが導いてくれたんじゃないかと思います」と構想10年をかけた本作への思いを語った。そして白石監督も「「麻雀放浪記」は和田誠監督による邦画史に残る傑作がある中で、(監督を)断ろう断ろうとしていたんですが、なかなか解放してくれなくて。もうちょっと話しましょう、もうちょっと話しましょうと続いていったら、今回の設定が生まれて、これだったらやってみようかというのが始まりでした。僕らの想像の斜めを行く脚本が上がってきて、これは、今や映画そのもののオピニオンである斎藤工さんから NG が出るだろうなと思っていたら、すべてを許容して喜んでくれて、やりましょうと言ってくれたことが背中を押してくれた要因でした。これはとんでもない映画ができると思いましたし、映画そのものは楽しいものができたと思っているので公開を迎えて嬉しいですし、試写もやらなかったのでどんな反応が返ってくるのか楽しみにしています。それに何より去年の8月から僕とたくみ君にさえ映画を観せてくれなかったので、早くもう1回観たいです(笑)」と公開を迎えた心境を語ってくれた。
 
そして、先ほどの舞台挨拶で「当初出演するつもりがなかった」と語っていた斎藤に、真意を聞いてみると「シンプルに映画版の『麻雀放浪記』を特に今の若い世代の人たちに観てほしいと思ったことと、原作にたどり着くきっかけになるような作品にしたいという一念だったので、サポートに徹するべきだと当初は思っていました。別の方が坊や哲を演じる脚本も当時はありましたし、本当に巡り巡って自分のところに坊や哲がやってきたという感覚です。僕が主演することで新しい坊や哲像に辿り着けるんじゃないかとは思いました」と話し、また「二十歳の童貞を何の違和感もなく演じた」と舞台挨拶で語ったことについて質問が及ぶと、「確かにそんなことを先ほど言いました(笑)。ひとつ救いがあったのは、かつての二十歳と今の二十歳の意味合いが違っていることですね。坊や哲という力強いアイコンは、年齢を超越したエネルギーの塊みたいな存在なので、二十歳という数字にとらわれるよりは童貞の方の役作りをしました」と恥ずかしそうに語っていた。すると白石監督が「苦しそうでした(笑)エロオーラがダダ漏れしてるんで」と助け舟を出していた。
 
最後に、出演者に逮捕者が出たことについて話が及ぶと斎藤は「もちろんショッキングではありました。公開が迫っていた『麻雀放浪記2020』のこともそうなんですが、ピエールさんが今まで出演されていた作品や公開前の別の作品やドラマ作品がどうなっていくのかというのを、とても客観的に考えていました。不思議と自分の構想10年の作品が、という思いはなかったです。禁止薬物については、絶対に許されることではありません。でも、この自主規制の流れは過剰だと僕は思っているので、この一件がどれだけの反応を起こしてしまうんだろうと言う危惧はありました。『麻雀放浪記2020』がどう転ぶかというのは、僕は何もできなくてただただ待つしかなかったです。ただ、今作をノーカットで公開するというこの決断ができたのは、東映さんと白石監督じゃなきゃこのタイミングではできなかったと思います。その彼らの決断が、多くの映画人、多くの映像業界の人へのひとつの選択肢、ひとつの希望に確実になると思います」と語った。今まで何作もの作品で監督と役者として対峙してきた白石監督は「ニュースの第一報を聞いた時は、自分にこういう事が起こるんだと思いました。気持ちとしてはノーカットで上映したいと思っていましたが、場合によっては手を入れなきゃならないんだろうなと思っていました。それでも、東映のプロデューサーから「なんとかノーカットでやれる方向で頑張りましょう」と言って頂けたので、会見の時も作品に罪はないと言いましたが、それは原則で。今回の瀧さんはコカインで逮捕されましたが、映画の中で瀧さん演じる役がコカインを吸引しているシーンや禁止薬物をやっているシーンがあったら、それは難しかったと思います。またどこかのワイドショーの取材で、「作品に罪はないと監督はおっしゃいましたが人殺しでも同じことを言えますか」と言われたんですが、そんなわけないじゃないですか。上映するという姿勢を常に持つことが原則で、特例でその時の状況で上映できないということがあるという風になってほしいです。上映中の作品や、上映待機作は仕方ないと思うんですが、過去の作品というのは世に放ったものなので、権利は配給会社や監督にあるかもしれないですが、それは公共の財産でもあるからそれを一律で観られなくするというのは違うと思います。賛否両論あるのは受け止めるしかないし、仕方ないと思っています。会見の時も言いましたが、僕たちはあくまでも禁止薬物反対の立場ですし、どれだけ危険なものなのかという啓発運動はこれからもしていかないといけないと思っています」と語っていた。続いて、ピエール瀧への思いを聞かれると斎藤は、「今後時間がかかることだと思いますが、ピエールさんがどう立ち直っていくのか見守る責務はあると思っています。それは容認したということではなく、もちろん猛省していただくべきだと思っています。いち共演者として、更生していくピエールさんの背中を見守りたいと思います」と語り、白石監督も「『凶悪』の時から一緒に映画を作ってきて、『凶悪』で僕を監督として大きく引き上げてくれたのは瀧さんなので。然るべきところに謝って罪を償ってほしいですし、社会的な事件になってしまったので、何らかの形で社会に貢献したりしなきゃいけないと思うので、そういう部分では友人として協力できるところは協力したいと思っています」と語り、会見は終了した。
 
取材・文/華崎陽子



(2019年4月 8日更新)


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Movie Data

(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

『麻雀放浪記2020』

▼梅田ブルク7ほか全国で上映中
出演:斎藤工、もも
   ベッキー、的場浩司
   岡崎体育、ピエール瀧
   音尾琢真、村杉蝉之介
   伊武雅刀、矢島健一
   吉澤健、堀内正美
   小松政夫、竹中直人
監督:白石和彌
原案:阿佐田哲也「麻雀放浪記」
脚本:佐藤佐吉、渡部亮平、白石和彌
主題歌:CHAI「Feel the Beat」

【公式サイト】
http://www.mahjongg2020.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/177172/