インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 馬鹿で、無様で、愛おしい。 大いなる勘違いからはじまる危ない純愛映画。 『ろくでなし』主演・大西信満インタビュー

馬鹿で、無様で、愛おしい。
大いなる勘違いからはじまる危ない純愛映画。
『ろくでなし』主演・大西信満インタビュー

『東京プレイボーイクラブ』『クズとブスとゲス』の奥田庸介監督が、渋谷の街を舞台に日本の裏社会で生きる人々の姿を描いた映画『ろくでなし』が第七藝術劇場ほかにて上映中。そこで『赤目四十八瀧心中未遂』(2003年/荒戸源次郎監督)で主演デビュー以来、『キャタピラー』(2010年/若松孝二)、『さよなら渓谷』(2013年/大森立嗣)などで特異な存在感を放つ、本作主演俳優、大西信満(おおにししま)にインタビューを行った。

――プロデューサーの村岡伸一郎さんは大西さんのデビュー作『赤目四十八瀧心中未遂』のころからのお知り合いですよね?
そうなんです。なので、村岡さんとアソシエイトプロデューサーの山本政志さんが奥田庸介という若い監督と共に映画を作ろうとしているという話は以前から聞いていました。暴力的で大柄な男を主人公にイメージしていて、プロの格闘家などで探していると聞いていたので、その時点では「みつかればいいね」なんて他人事として聞いていただけですけどね。
 
――ではオファーが来たときは驚いたでしょう?
ええ、自分には関係ないと思っていたので(笑)。『さよなら渓谷』のときは元運動部の役なので10キロくらい体を大きくしているし、『キャタピラー』のときは戦時中で食べ物も思うように無い時代ですから体脂肪率を下げたりしているのですが、それにはそれ相応の準備期間が必要で。今回は準備期間が1ヶ月も無い状況で、今から大柄の男になるのは無理だと言ったのですが、そこは「もちろん役の設定を出来る限り直す」とのことで。
 
――では一真というキャラクターは大西さんに寄せて作られていったという部分もあるんでしょうか。
中途半端にはやりたくないので、自分は一真だと思える台本にしてほしいという話を監督としました。自分の中にインチキ臭さを感じた途端にカメラの前に立てなくなってしまうと言うか、自己暗示できてないとそれが画面に映ってしまうので。もちろん芝居する以上はいつだって無理している部分はあるけれど、自分にとってのリアリティとお客さんに見えるリアリティだけは守りたいから。
 
――では出来上がった台本はいかがでしたか?
台本を見て、そこに書かれているようにやろうともちろん思って演じるんですが、実際に役として生きてみたら本当はそうじゃないんじゃないかと思うことはたまにあって。文章で二次元のものを生身の人間が演じることで三次元化されると微妙にズレが出てくることもあるんです。その現場のリアルを、奥田監督はとても大切にして撮っています。
 
――奥田監督と言えば作品にかける自身の個性を大事にされている印象がありますが、お話された印象は?
奥田監督とはこの作品で初めてご一緒したわけですが、彼の過去作を見たり、彼と話をしていると、内面がとても繊細で、というか繊細すぎると言っても良いくらいの人で。純粋で不器用なので、生き辛さを抱えている部分もあるのだろうなと思いました。彼がそれを映画で体現したいのなら、自分もそれに精一杯応えたいと思ってやりました。今回の役はとくにどうにでも演じられそうだけど、どう演じても矛盾が出てきてしまいそうな部分があって。一人の人物としての一貫性をどう持たせるか。なんでそういう風に生きているのか。なんで暴力を振るうのか。みたいなところを監督とすり寄せていきました。
 
――奥田監督は演出が熱いなんてことも聞いたことがありますがいかがでしたか?
自分自身の出演シーンしか分からないですが、“熱い”と言っても声を荒げたりすることはなかったですよ。彼は、ちょっとでも気持ちが動くのをちゃんと見たいという人なんだと思いました。必ずカメラ横に立ち、画面映りではなく人間の根っこの部分を見ているような。“眼差しの強さ”みたいなものは感じました。
 
――純愛映画でもありながら、希望の無い“今”という時代を映した映画でもあると感じました。
主人公の一真は、希望を持てない人間だけどそこで生きていかないといけない。そんな中で、たまたま自分と同じように生き辛さを抱える優子と出会う。そこでこの人に生きる意味を見出せないだろうか、と奔走する。簡単に言えばそういうお話ですね。
 
――大西さんは映画を中心に活動されていますが理由はありますか?
自分で思い定めて仕事を選んできたわけではないんですが、気づいたらこうなっていた。自分は僕に何かを期待して呼んでくれたところでそれに応えていきたい。それだけで精一杯なんです。それの繰り返しでしかありません。
 
――共演された渋川清彦さんもどちらかというと映画中心の方ですよね。共演されていかがでしたか?
今までも同じ映画に出たことはあるんですが、ちゃんと絡んだのは今回が初めてなんです。ただ、昔から酒を一緒に飲みに行ったりする友人関係なので、全然苦労しないで連帯感みたいなものは出せたと思います。自然に生まれたかなと思います。
 
――本作は大和田獏さんの怪演も見ものですよね。
獏さんは誰よりも楽しんで芝居されていたし周りをものすごく盛り上げてくださっていました。それで若いスタッフらの緊張がとけていたように思います。あの役には1ミリも共感できないけど、演じるのは面白いでしょうね。共感できない役こそ思い切り遊べる部分もありますからね。
 
――怪演と言えば『キャタピラー』での手足舌を失った帰還兵の役は凄まじかったですね。
『キャタピラー』は設定が特殊ではありましたが、今回の一真役とどちらが大変かというと時間が経って振り返ってみるとあまり変わらないんです。自分とものすごく離れたキャラクターであろうが自分に近いキャラクターであろうが、距離感の違いだけでどちらにしろ自分とは違う人間だから。ただ『キャタピラー』は台詞を覚えなくて良かったという点では楽でしたけど(笑)。台詞を覚えるのには頭を使うけど、内面を出す演技は感情で動くからちょっと違う作業になるんです。その点で『キャタピラー』は内面だけに特化できた稀な作品でした。
 
――『キャタピラー』の寺島しのぶさんもそうですが、大西さんと共演した女優たちが次々と賞を獲っていますよね。
映画って一人で作るものではないから、映画全体はもちろん、どこかひとつのパートが評価されても嬉しいものです。共演した女優さんが評価されるということは、その人に関わった周りのすべての人への賛辞でもあると思うので。原田芳雄さんや荒戸源次郎さん、若松孝二監督など偉大な先輩方に囲まれてきたのでそういった話はたくさん聞いてきました。僕らの世代がギリギリ“昭和の映画の怪物たち”に直にいろいろと教わってきた世代になるんでしょうね。
 
――面白い監督の元で演技経験を積まれてこられたのは本当に財産ですね。本作は脚本を作る段階で山本政志アソシエイトプロデューサーと奥田監督の間に一触即発か という意見の相違があったことが東京での映画公開時にニュースになっていましたが。
クランクイン前の話なので、僕たち俳優や現場のスタッフには影響ありませんでした。撮影も終わり、公開のタイミングでそういったいろんな話が聞こえてきて「そんなことになっていたんだ」と知ったくらい。現場はみんなすごく集中していたし、そこはみんなプロなので俳優部にそれを感じさせないようにしていたんだと思います。現場のチームには一体感があったように僕は思いました。政志さんの批判も愛ゆえの批判であることは間違いなくて。いい大人ですから決して憎しみあっての喧嘩ではないはずです。
 
――最後に。
一見、B級のチンピラ映画かなと思われるかもしれませんが、台本の中には介護の問題だったり、セルフネグレクトなど“今の時代”を描いている部分があるので、それがお客様に伝わればいいなと思っています。金を盗もうとしたり、人を殴ったり。それはもちろん悪いことなんだけど、考えようによっては一真ではない別の誰かが“ろくでなし”なのかもしれない。観た人が「誰が“ろくでなし”なのかな」と考えながら観てもらえたらより楽しめるかもしれません。是非、劇場でご覧ください。



(2017年8月16日更新)


Check

Movie Data

©Continental Circus Pictures All Rights Reserved

『ろくでなし』

▼8月25日(金)まで
第七藝術劇場、京都みなみ会館、元町映画館にて上映中
▼9月9日(土)より
シアターセブンにて公開

【公式サイト】
https://www.rokudenashi.site/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/172328/


Profile

大西信満

おおにししま●2003年『赤目四十八瀧心中未遂』(荒戸源次郎監督)で主演デビュー。第58回毎日映画コンクールスポニチグランプリ、第13回日本映画批評家大賞で新人賞を受賞。同作はヒロイン役の寺島しのぶが日本アカデミー主演女優賞を受賞したほか、その年の各映画賞を総なめにする。2010年の若松孝二監督『キャタピラー』では再び寺島しのぶと主演を担い、ベルリン国際映画祭銀熊賞(主演女優賞)など多数受賞。以降も『さよなら渓谷』(2013大森立嗣監督)でモスクワ国際映画祭審査員特別賞を受賞するなど、数々の主演作が国内外で高い評価を得る。本作では、主人公の一真(かずま)という凶暴でありながら純粋で不器用な男を演じる。