インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 上野「釣りをすれば絶対マグロが釣れる場所みたいな撮影現場」 タナダユキ監督最新作『お父さんと伊藤さん』 に出演の上野樹里&藤竜也インタビュー

上野「釣りをすれば絶対マグロが釣れる場所みたいな撮影現場」
タナダユキ監督最新作『お父さんと伊藤さん』
に出演の上野樹里&藤竜也インタビュー

『百万円と苦虫女』『ふがいない僕は空を見た』などを手がけたタナダユキ監督の最新作『お父さんと伊藤さん』が、10月8日(土)より、梅田ブルク7、TOHOシネマズなんばほか全国にて公開される。本作は、中澤日菜子の同名小説を基に、上野樹里演じる彩(34歳)とリリー・フランキー演じる伊藤さん(54歳)という歳の差カップルが自由気ままに暮らす家に、藤竜也演じる彩の父親(74歳)が転がり込んできたことから始まる奇妙な共同生活と、そこから見えてくる家族の姿を映す作品。そこで、公開を前に来阪した上野樹里、藤竜也にインタビューを行った。

――面白そうに見えて、実際面白いんですが、考えさせられることも多くて、深い映画ですよね。完成作をご覧になってどんな風に思われましたか?
 
上野樹里(以下、上野):素直に面白かったです。自分がずっと出てくる映画はいい意味でも悪い意味でも最初は観るのが怖いんです。初めて試写で観たときなんて周りは関係者しかいないですし、楽しむために観るという感じではなく、言えば確認みたいな雰囲気だったんですが、ひとりの観客として、楽しんで観られました。
 
――これまでの作品とは挑み方が違ったということですか?
 
上野:今までとは役の向き合い方もアプローチも全然違います。今回はとても楽な気持ちで挑みました。だけど、マスコミ関係者の方々などが本作を観て褒めてくださったり、取材してくださる媒体が当初の3倍くらいになったり、思っていたより反響がどんどん大きくなっていて、今になって大丈夫かなぁと不安になってきています(笑)。でもそれって、完成作にそれだけの力があるのかなとも思うので公開が楽しみです。
 
――藤さんは本作を観てどんな感想をお持ちですか?
 
藤竜也(以下、藤):ぼくも面白く拝見しましたよ。映画で描かれる出来事に誰もが身につまされると思うんですよね。家族であることの良さもモチロンあるんだけど面倒くささ、家族の間で起こってほしくない、なるべく避けたいシチュエーション、でもありうるようなことが映されているからね。あまり人に見せたくないイライラした感情だとか、だれもがそうだよなと思うようなことをライトに楽しく見せているところがすごい映画だよね。
 
上野:人は表に見せる顔と家族にしか見せない顔を持っていて、それに違いがあるのは当然。父や母、兄弟に対して嫌だなと思うところがあってもおかしくない。実家を出て、今まで育ててくれた親のことを顧みず自立したつもりで自分たちの幸せを築いている。親のことを都合のいいときだけ頼って、都合の悪いときには無視したりしているような人もきっとたくさんいると思うんです。家族というのは本当に普遍的なテーマなので、この3人のシチュエーションじゃなくても、自分を投影して観ることができて楽しめる映画になっていると思います。
 
:今の時代、親子であっても数年ぶりに会うようなことってたぶんありますよね。ああいうときの気まずさも理解できるから面白いんだよね。さぁどうなるんだろうって。
 
上野:それでも家族にしか頼れないこともあるし、逃げるわけにもいかない。かと言って家族がみんな一緒に暮らせるようなゆとりもない。
 
――お父さんが突然転がり込んできたときの彩の気持ちを上野さんはどのように理解して演じられていたのですか?
 
上野:彩もお父さんの本当の姿を知っていたら尊敬したり、もっと違う接し方が出来たかもしれないけど、一面しか知らないで悪いイメージが膨れ上がって、いい娘とはいえない感じで接していますね。それでお父さんの行き場がどんどん無くなっていく…。だけど一緒に暮らすことでこんな一面もあるんだ、あんな一面もあるんだと見えてきて、ちゃんと向き合うことができてちょっとづつイメージが変わっていっています。
 
――本作をライトに楽しく見せている大きなポイントがリリー・フランキーさん演じる伊藤さんの存在かと思いますが、彩から見た伊藤さんはどんな存在ですか?
 
上野:この映画を観た女性の多くが「伊藤さんかっこいい」と言ってモテモテみたいですね。歳は20歳上だけどお互いバイト暮らしだし、彩はおじさんっぽく感じてなくて同等なんだと思います。10代で母親を亡くした彩にとっては、ちょっと甘えられる母的な存在であり、ほかの人が言ってくれないようなことでも諭すように指摘してくれる大事な存在。まだまだ未熟な彩のことを可愛いと思ってくれるのは歳が離れているからではありますけどね。歳の差を感じさせないのに歳の差がうまく作用していて、細々とそれなりに自分たちの暮らしの中でささやかな幸せが築けたらいいやって感じなんだと思います。
 
:伊藤さんって、『ハリー・ポッター』に出てくる妖精みたいじゃない? 彩さんに付いている妖精。
 
上野:しますね! 何者か分からないフワフワニコニコした存在。でも、みんなが真剣な話をしているときにひとりで家を見て回ったり、この家いくらで売れるんだろうとか考えてそう。バイト暮らしの彩と伊藤さんはお金がそんなにないから、お父さんが「お金ならある」と言ったところで、伊藤さんは「お金出してくれるんだったら…」みたいなことをたぶん考えているんだと思う。そういういい具合にスルスルとうまく生きる人なんじゃないかなと思いました。
 
――リリー・フランキーさんが妖精っていいですね! 伊藤さんはそんな癒しキャラでありながら一方でミステリアスなところもありますよね。
 
上野:20歳も上なのでそれだけの経験をしてきています。でも伊藤さんが過去のことは話さないんなら彩も聞かない。伊藤さんが今まで歩んできた人生を知ったらイメージが変わるかもしれないから知りたくないんです。そこに伊藤さんをリスペクトしている彩の気持ちがあっていい関係だなと思いますね。伊藤さんが前妻との間に「子どもはいない」って話をしたとき、「へー」って軽く言いながら内心はホッとしている。彩がちょっと背伸びしている感じも自分で演じながらも微笑ましいなと思います。最初に設定を聞いたときは「こんな華のないヒロインいる!?」と思いましたけど、演じていくうちにどんどん楽しくなっていきました。
 
――タナダユキ監督とは役柄を作るうえでどんな話をされましたか?
 
上野:まずは衣装の話をしましたね。タナダ監督から「どんな服を着ているイメージがします?」て聞かれて。そういうディスカッションさせて頂きながら衣装合わせをしました。それと撮影に入る前に一回タナダ監督とお食事に行ってふだんどういう暮らしをしているかという近況報告から、それが彩だったらどうかなぁとか。彩はどんな女の子だろうとか。いろいろお互い想像して話してみたらふたりのイメージがけっこう近くて。そうやって彩というキャラクターを作り上げていきました。
 
――藤さんは今回どんな役作りをされましたか?
 
:元教師という役柄なのでね、そういう職業の方のことをいろいろと調べました。プロファイリングしたいんですよ。役者というのはその人間になりたいわけだからね、欲を言えば血液をその役柄と全部入れ替えたいくらい。その役になるためならなんでもするよ。
 
――タナダ監督の現場での演出はいかがでしたか?
 
上野:とくに現場で細かい演出はなかったです。監督の過去作を観ると役者さんのお芝居がイキイキとしているのでどんな細かい演出をして作っているのかなと思っていたんですが、実際は細かい演出はなかったです。スムーズにシンプルになるべく手を加えず、ありのまま生まれるお芝居のいい部分を掴む。脚本とロケーションとキャスティングとスタッフが決まった時点である程度出来上がっていて、ここで釣りをしたら絶対マグロが釣れる場所みたいな(笑)現場なんです。すべての調和が取れている現場だったような気がします。
 
:カット割りが監督の言語だからタナダユキという監督のシーンの切り方つなぎ方が彼女の視線で彼女の言語。それがこの映画を作っているんです。いい監督ですね、タナダさん。役者もモチロンいいけど(笑)。
 
上野:藤さんが演じるお父さん本当に良かったです。途中からお父さんが可愛く見えてくるというか切なく感じるというか。同情するような感覚になるんですが、観客を暗い重い気持ちにさせないんです。ギスギスした彩とお父さんの関係が愛しく思えなかったら楽しくないですもんね。この映画は、程よく滑稽な笑いが入っています。それが監督の視点だったり、観客それぞれの取り方で楽しんで観られる。人を笑わせる演技をしているわけではないですが、観る側は笑ってしまうと思います。どんどん笑ってください。そしてたまにグッともくるところも楽しんで欲しいです!
 
otoito_i2.jpg



(2016年10月 6日更新)


Check

Movie Data

©中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会

『お父さんと伊藤さん』

▼10月8日(土)より、梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸ほかにて公開

出演:上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也、長谷川朝晴、安藤聖、渡辺えり
監督:タナダユキ
脚本:黒沢久子  原作:中澤日菜子
エンディングテーマ:ユニコーン
音楽:世武裕子
<BR>

【公式サイト】
http://father-mrito-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/168851/

★『お父さんと伊藤さん』大阪舞台挨拶レポート
https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2016-09/father-mrito-movie.html