関西在住ライターがオススメする良質作レビュー今観るべき映画3本！ [2016夏編]

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関西在住ライターがオススメする良質作レビュー
今観るべき映画3本！ [2016夏編]

当サイトはもちろん、様々な媒体で活躍されている、映画／音楽ライターの木津毅さんが、今夏観るべき映画を3本セレクト。数ある夏映画の中で「何を観るか」、これを参考にしてみてはいかが？

『ヤング・アダルト・ニューヨーク』　ノア・バームバック監督

いまのニューヨークをみずみずしく描く俊英の真骨頂がここに。

自由を求める若者たちと中年たちの、少しほろ苦い人間模様

ノア・バームバック監督といえば、近年では『フランシス・ハ』で描かれる、パッとしない青春に共感したひとも多いのではないだろうか。本作が描くのは「パッとしない中年」。共通するのは、背景にいまのニューヨークが生き生きと映されていることだ。バームバックは現代を代表するニューヨーク作家である。

ベン・スティラーとナオミ・ワッツ演じる停滞感のある夫婦が、アダム・ドライバーとアマンダ・サイフリッドが扮する「ヒップ」な若者夫婦と出会うことで、コミカルで少しばかりビターな交流がはじまる……という物語。「ヒップスター」とも呼ばれるオシャレな若者のライフスタイルを中年が苦々しく見つめるという話でもあって、ブルックリンやポートランド経由で最近流行中のサードウェーブ・カルチャーに興味があるひとはとくに観てほしい。そこには本当にあなたの想いはありますか？　という問いかけにもなっているのだ。音楽をLCDサウンドシステムのジェームズ・マーフィが手がけているのもジャスト。「ヒップ」なあなたは必見だ。

『トランボ　ハリウッドに最も嫌われた男』　ジェイ・ローチ監督

弾圧と真っ向から闘ったある脚本家の生き様を見よ！

いまこそ重みを持つ、表現と思想の自由を巡る前世紀からの大いなる遺産

反骨精神とはポーズのことではない。いまの世のなかに窮屈な想いを抱えながら、しかしどうしていいのか分からないという若者の胸を打つだろう実話がここでは描かれている。

共産主義者を排除しようとする＜赤狩り＞は1940～50年代にハリウッドを席巻し、思想の自由を訴えた脚本家のダルトン・トランボもまた弾圧されることとなる。『ローマの休日』、『黒い牡牛』、『スパルタカス』といった名作の脚本を手がけながら表舞台に出られなかった彼の誇りと不屈を真正面から捉えた本作。自由というのはただそこにあるものではなくて、闘い抜いてこの手にするものなのだ――という時代を超えたメッセージが響いてくる。ルイス・C・K、ジョン・グッドマンなど渋いおじさん俳優もいい味だが、『ブレイキング・バッド』で有名なブライアン・クランストンの主役力がやはり素晴らしい。彼の存在感が画面を支え続けている。

『イレブン・ミニッツ』　イエジー・スコリモフスキ監督

圧巻！　あなたの映画体験を更新する、めくるめく快感

78歳の巨匠の本気と底力をとくと味わえ！

今年もっとも刺激的な映画は何かと訊かれたら、僕は間違いなく本作を挙げる。映像、音楽、カメラワーク、編集、音響……すべてが実験的で、かつ洗練されていながら、しかしそれが内部から破壊されそうなスリリングさに満ちている。撮ったのは野心的な若手監督ではない。ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ、御年78歳。ここには映画を体験することの興奮と喜びが詰まっている。

物語と呼べるものはない。大都会で暮らす人びとのある11分を群像劇的に、断片的に描いていくのだが、そこではわたしたちの生がいかに脆く危ういものかが剥き出しになっているばかりだ。ラストはたしかに衝撃的だが、そこに至るまでの時間もじゅうぶんにゾクゾクさせてくれる。この快楽は映画でしか味わえない。ぜひ映画館へ。

（2016年7月25日更新）

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