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「画面からはみ出る芝居をしてほしいとずっと言っていました」
綾野剛主演の超極悪エンタテインメント『日本で一番悪い奴ら』
白石和彌監督インタビュー

衝撃の実話を基に“日本警察史上最大の不祥事”を、笑いと驚きに包まれる最高のエンタテインメントに仕上げた映画『日本で一番悪い奴ら』が6月25日(土)より梅田ブルク7ほか全国にて公開される。稲葉圭昭の著書を原作に、警察というひとつの組織の中でのし上がっていくため、悪の道に手を染めていってしまう諸星(綾野剛)の壮絶な26年間を描く。そこで、前作『凶悪』でも数々の映画賞を獲得した白石和彌監督に最新作『日本で一番悪い奴ら』について話を訊いた。

――『凶悪』から『日本で一番悪い奴ら』、タイトルだけだと近いテイストですが、作品の肌触りはまったく違ったものとなっています。そもそも『日本で一番悪い奴ら』映画化の話はどのように始まったのですか?
『凶悪』の後、ギャング映画を撮りたいなと思ったんです。でも、日本ではギャング=ヤクザで“ヤクザ映画”だと、ぼくの思うギャング映画とはジャンルが違う。マーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』(1990)や『カジノ』(1995)みたいなギャング映画は日本で無理なのかなぁと思っていたときに、この原作を読んで「そうか刑事をギャングに見立てればギャング映画出来るな!」と発見したんです。
 
――原作というと、2002年に発覚した稲葉事件を描いた著書「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」ですね。
書いていることは拳銃200丁、覚せい剤130キロ、大麻2トンっていう数字もぶっ飛んでいて面白かったんですが、そのスキャンダラス性よりもすごくシンパシーを受けて。
 
――監督が原作に感じたシンパシーとは?
ぼくは学生時代から映画の世界に入って、若松孝二監督の下で助監督をしていたんですが、今とは違ってゲリラ撮影なんかもバンバン行われていたような時代で「社会のルールを守るのと映画を撮るのどっちが大事なんだ!」「僕らにとっては映画を撮ることが正義」だと団結して信じて疑っていなかった。そういう世界がぼくにとっては全てだったんです。でもそれって外から見ると狂気じみていただろうし、原作で描かれているようなことって意外とみんな同じなんじゃないかなと思うんです。
 
――若松さんはその精神を生涯貫いておられましたね。
『戒厳令の夜』(1980)の撮影時だったか、山下耕作監督が「高速道路で検問シーンを撮りたい」と言い出して、通常なら出来るわけがないんです。でも、それを若松監督と崔(洋一)監督と磯村(一路)監督が警官の衣装を衣装部から借りてきて高速に車を停めて検問シーンを撮影したそうなんです。その後はパトカーが来て「そら逃げろー!」て。こういう昔のエピソードを笑い話としていくつも聞いたことがあるんですが、みなさんこういった話をするときニコニコされているんですよ。青春ですよね。輝いていた瞬間。今だったらニュースになって終わるだろうけど、その時代は若松プロの中だけでもこういう話はゴロゴロあったんですよ。
 
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――まさに青春! こういう原作を笑える映画として描いたのも本作の面白いところです。
この内容であればシリアスな社会派映画にも出来るけど、背負っているもののほうが実はシリアスだったりするし、北海道警察を叩くような社会正義を描くつもりは全くなくて。あくまで実際にあったことを基にしたフィクションとして、組織と個人とか、主人公である諸星の一代記として、映画を面白く描きたいなと思って。エンタテインメント作品として笑いのある青春映画のような楽しめる映画にしたかったんです。
 
――日活と東映の2社配給というのも映画のテイストにベストですね!
前作の『凶悪』がありがたいことにご評価いただいたので、最初はやはり『凶悪』のチームである日活にお話して。でも話していくうちに日活のプロデューサー陣が「これ東映の三角マーク必要だね」って。その判断のもと2社になりました。やっぱりあの東映の三角マークはテンション上がりますよ!
 
――音楽や撮影の仕方、女性の存在感なんかも70年代の東映映画臭がして、明らかに意識しているなと感じました!
印象に残っている昔の映画と言えば、やっぱり「すごいもの観たな」「嫌なもの観たな」っていう映画のことばっかり覚えていて、感動して泣いたような映画のことはほぼ覚えていないんです。でも最近そういう映画って少ないんですよね。だからそういう映画を作りたいなという単純な気持ちはありました。女性の裸が写るような場面も本作にはいくつかありますが、そういう場面って無くても話は成立するんですよ。でも絶対にはずしたくなくて。「撮らなきゃいけない!」と歯を食いしばって撮っていますから(笑)。
 
――でもエロの中になぜかポップさもあるのが本作の魅力なのかなと思いました。
それは綾野くんの力なのかもしれないですけどね。エロの部分だけでなく、俳優部もこういった作品に飢えているんですよ。作品の内容は事前に伝えてありますし、それでも「出る」と言ってくれた方々は覚悟を決めてくれているわけですよね。役者によっては現場で「できない」と言うような人もいるのかもしれないけど綾野くんは全くそういうことはなかったです。
 
――綾野さんはこの映画で一人の男の26年間を演じていますが、そこで何か演出上気をつけたことはありましたか?
48歳で捕まるまで、この主人公ってすごく純粋でまっすぐで嘘をついていないんです。なおかつ刑事として優秀。違法捜査しているからではあるけれど、それにはそれだけの熱量がなかったら出来ないし、点数を上げていくことを素直に楽しんでいた。なので、ワンシーンワンシーン熱量を持って先のことは考えないようにして撮影していきました。
 
――前作『凶悪』で主演を務めた山田孝之さんと、今回の主演である綾野さん、お二人とも人気も実力も兼ね備えた間違いなく日本でトップクラスの若手俳優ですよね。
二人とも役者馬鹿ですね。それでいて良いライバル関係にもなっている。例えば、「製薬会社のCMに出ているから覚せい剤打つシーンはNG」とか「車のCMに出ているからシートベルトをしないのはNG」とか、実際は別に関係ないはずですがそういうのを気にする俳優さんもいるようだけど、山田くんも綾野くんもそこは「CMに出るために俳優をしているのではない」というスタンスでした。
 
――そう言われると当たり前のように聞こえますがそうではないケースも多いということですよね…。
とくに女優さんなんかはそうですね。でも映画よりCMの報酬のほうがいいわけですから、そこはわれわれの不徳の致すところではあります。
 
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――綾野さんの俳優意識が感じられたエピソードはありますか?
綾野くんのギョーザ耳。あれね、もちろん特殊メイクなんだけど、実は綾野くんから「ヒアルロン酸でああいう耳を作れるらしいからやりましょうか」って言われたんですよ。「いやいや特殊メイクで出来るから」と断ったけど、でもそれくらい役について真剣に考えてくれているということですよね。でも戻らなかったらぼくが本当に「日本で一番悪い監督」になっちゃうから(笑)。
 
――綾野さんにオファーした時点でそういった俳優としての意識やポテンシャルが高いことはご存知だったんですか?
そこは未知数でした。実は諸星のモデルである稲葉さんって柔道ばかりしていた格闘家のような人を想像していたんですが、実際お会いしてみたらどこか色気のある方だったんですよ。それで年齢的にも20代から40代を演じられる役者で色っぽくてピカレスクものができて今一番波に乗っている人は綾野剛だなと思ってお願いしたんです。
 
――綾野さんだけでなく個性的なキャストが揃っていますが、かなりアドリブもあったらしいですね。

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撮影時にイメージをあまり作っていかないで余白を相当残して望むようにしているんです。カット割りも決めていませんし。なんとなくこういう風に動いたら面白いなぐらいで一度やってもらって。それにアイデアが出たら足していくという積み上げ方だったんです。画面からはみ出る芝居をしてほしいとずっと言っていました。
 
――『凶悪』『日悪(にちわる)』ときて、“悪”続きで今後も気になるところですが…
普通の感動ものというよりは、やっぱり傷を持った人や底辺でもがく人を魅力的に撮りたいとは思います。人に対して白黒つけたくないんです。ダメなところがそのキャラクターの魅力になる。そこは意識しています。映画の題材を探すために小説を読んだりしているわけではないですが、いろいろと情報が耳には入ってくるんですよね。それで興味を持って読んでみたり。有名原作はぼくなんかより適任の方がたくさんいらっしゃるでしょうからそこは任せて。映画化できるかは分かりませんが、今も気になっている題材はあるので今後も楽しみにしてください!



(2016年6月25日更新)


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Movie Data

©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

『日本で一番悪い奴ら』

●6月25日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開

監督:白石和彌 
脚本:池上純哉 
音楽:安川午朗
原作:稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
出演:綾野剛
   YOUNG DAIS
   植野行雄(デニス)
   矢吹春奈 瀧内公美
   田中隆三 みのすけ
   中村倫也 勝矢 斎藤 歩
   青木崇高 木下隆行(TKO)
   音尾琢真 
   ピエール瀧
   中村獅童
配給:東映・日活

【公式サイト】
http://www.nichiwaru.com/

『日悪』ぴあ映画生活特設ページ
http://cinema.pia.co.jp/special/nichiwaru/


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