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ビンボー庶民がお上を相手に大勝負!?
驚きの実話に笑って泣ける映画『殿、利息でござる!』
中村義洋監督&阿部サダヲ インタビュー

今から250年前の江戸時代。重い年貢で破産寸前に陥った宿場町を救うため、藩に大金を貸付け、利息を巻き上げる、無謀な計画に挑んだ男たちがいた!? 「武士の家計簿」などの著作で知られる磯田道史の「無私の日本人」の一編「穀田屋十三郎」を原作に、人のため、町のため、私財を投げ打った男たちの奇跡と感動の実話を映画化した『殿、利息でござる!』。本作の中村義洋監督と主演の阿部サダヲが息の合った楽しいトークで撮影を振り返ってくれた。

――実話を基にした物語ですが、どこに惹かれて映画化しようと?
 
監督:原作を読みながら、僕は前半でもう泣いていました。人が変わる瞬間っていうのかな? 実はみんなが町のことを心配していたことがわかって、一人ひとりが仲間に加わってくる辺りで感動して。しかも萱場杢(かやばもく)という敵もいて、最後に殿様まで出てきたからお話として十分だと思ったんです。
 
――主人公・穀田屋十三郎役に阿部さんを選んだ理由は?
 
監督:当然、脚本の方が先にあるんだけど、キャスティングも同時に進んでいくような感じだったんです。原作は『無私の日本人』の中の「穀田屋十三郎」なんですが、十三郎は途中からほとんどいなくなっちゃう。だからこそ主役を十三郎にするかどうかから考えましたし、十三郎に決めてからも実際の年齢設定のことなど、いろいろあって。それに十三郎って本当につまらない役なんです。でもサダヲさんが演じると面白くなる。一生懸命なことで笑えるということも、サダヲさんから出てきたもの。十三郎は一途だけど、根深くてちょっとダークな面もある。サダヲさんは薄っぺらではなく(中身が)何枚もあるので本音が見えない。ブラックサダヲもありますからね(笑)。十三郎にサダヲさんの名前が出てきた時にホン(脚本)を読み返してみたら、震えるぐらいよかったんです。
 
――阿部さんがオファーを受けた時のお気持ちは?
 
阿部:たまたま監督とご飯を食べている時に、今度、やってもらうかもしれないと言われて。時代劇のいい人を…。
 
監督:サダヲさんは次の仕事ぐらいしか聞かされてないんだよね?
 
阿部:そうですね(笑)。
 
監督:僕らはかなり前から動いているからつい言っちゃったら、サダヲさんは全然知らなくて“へぇ俺、映画に出るんだあ”みたいな(笑)。
 
阿部:アハハ。台本を読んで決めましたっていう方もいますけど、僕にはできないです(笑)。ずっとそうやってきたので。
 

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――監督が先ほどおっしゃったように、十三郎は主役でありながら、途中からあまり出てこなくなってしまいますが…
 
阿部:いなくなっても、僕の話をしてくれる人もいるし(笑)。それに劇団出身で、誰が主役でもない舞台をずっとやってきているので、群像劇はすごく好きなんです。今回の映画では9人が中心になってはいますが、周りにはなんとかしようとする人足さんたちや、飯屋のおかみのおときさんがいて、それぞれが活躍しているのがいいなあと思ったので、自分がいなくなることは気になりませんでした。きたろうさんには主役らしくないとか、チクチク言われてましたけど(笑)。
 
――人物はどう捉えて演じたんですか?
 
阿部:長男なのに養子に出された理由がわかるまでは、ちょっと迷惑なぐらいの、お客さんがどうしたの?って疑問に思えるぐらいの人になったらいいなと。監督からは志村喬さんの目の芝居をと発注がありました(笑)。
 
監督:そう。『生きる』の志村喬さん。癌だと知って自暴自棄になって遊んで、だけど、命があるということは使命があると気付く。その後はお葬式になっちゃうんですけど、回想シーンで出てくる市役所なんかで、何度、断られても必死に相手を見ているっていう。あの辺りの志村さんです(笑)。ただね、床山さん(俳優のつけるかつらを結う職)に言わせると、サダヲさんは頭皮が柔らかいらしくて。役柄的に土下座が多いし、そこから顔を上げて志村喬をするから、(額のところが)グシャッてなっちゃって(笑)。
 
阿部:床山さんに「もう、やんなっちゃう!」って言われながら、額にコールドスプレーを当てられてました(笑)。
 
――阿部さんは本当に幅広い役を演じられていますよね。演じる時は自分の中にある部分を引き出しているんでしょうか?
 
阿部:自分の中にあるものはあまり出さないです(笑)。現場にあるもの、台本の中にあるものを出せたらいいなという気持ちでやっています。自分の気持ちを消さないと、芝居はできないですから。ただ十三郎さんは思い込んだら一直線なところがある。自分と似てるとは思いませんけど、僕は思い込みが激しいんですよね。こういう人だと言われたらそうなっちゃう(笑)。
 
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――大人計画に所属して20年以上、俳優として活躍されていますが、どこに楽しさを感じていますか?
 
阿部:基本的に同じ役がないのはすごく楽しいし、今回のような時代劇だと現代の物がない場所に行って、1時間かけて着物を着て鬘を被ってやる。普通なかなかできないことをやれる喜びがすごくありますよね。
 
――では中村監督の現場の楽しさは?
 
阿部:お芝居をいっぱいできるのが楽しいです。今回は特にそうでした。1回でオッケーが出なかったりするんですけど、舞台では稽古をいっぱいするし、本番もいっぱいあるし、僕は苦じゃないんですよ。それに演出に説得力があるんです。耳元でダメ出しをされるんですけど、わかるわかるということばかり。あんまりいないんですよ。囁く監督さん。
 
――監督はいかがですか? クセのある面白い役者さんが多いだけに、現場が収拾つかなくなることもあったのかなと。
 
監督:収拾つかなくしているのも、収拾つかせているのもきたろうさんでした(笑)。ただ、きたろうさんはテストでしかふざけたことをしない。それがわかったので、途中からはテストのアドリブを本番でやってもらうよう、今のをお願いしますって言うようにしていました。まあ大概はやらなくていいことなんですよ(笑)。でもこちらが言わなければ本番ではやらないので、わかっていらっしゃるなあって。
 
――個性豊かなキャストの方と共演した感想は?
 
阿部:先輩たちが次々と登場してくるんですけど、色々と仕掛けてくるし、驚くようなテンションだったりもして。でもこれがリアリティなのかなって。貧しい集落だからこそ、そうでないとやってられない。貧しいから暗いというイメージを壊していく人たちが多いんです。そういうところがカッコいいなと思いました。
 
――共演者で特に刺激を受けたのは?
 
阿部:弟(妻夫木聡)ですね。弟の芝居のトーンというか、そうきたか!?って驚きましたし、後々わかる事実に繋がる芝居っていうのかな。(ポスターを見ながら)この顔がいいなって思いました。
 
監督:妻夫木くんには何も言ってないけど、あのお芝居が出てきたんだよね。あの声の小ささも僕は注文してないんですよ。
 
――十三郎たちは町のために奔走しながらも、偉そうにしないよう自ら“つつしみの掟”を作りました。おふたりが自分に課しているルールはありますか?
 
阿部:今までルールは決めたくない、なるべく枠からはみ出したいと思ってやってきたので、考えてなかったです。すみません(笑)。でもこの撮影後しばらくは、上座に座らなかったり、偉そうにしないように気を付けていました。普段からそんなに偉そうにしているワケではないんですけど(笑)。
 
監督:僕はルールではなくて、ジンクスになるかな。いい知らせは大体、予想してない時にくる。予想していい知らせになった試しが全然ないので、いいことを考えないようにしてます。最悪のことばかり。助監督の時の師匠の崔(洋一)さんがものすごく怖い人で、現場で今日は大丈夫だと思っていると怒られるから、いい方に考えないのはその辺りから始まったのかも。今回の現場に行く時も毎日“今日は最悪のことが起こる”って思ってやってました(笑)。
 
阿部:ホントですか!?(笑)
 
監督:で、起こらないから楽しくやってたんです。
 
 
インタビュー・文:尾鍋 栄里子
写真:田中 雄介(studio WORK)



(2016年5月18日更新)


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Movie Data


© 2016「殿、利息でござる!」製作委員会

『殿、利息でござる!』

●大阪ステーションシティシネマほかにて上映中

出演:阿部サダヲ 瑛太
   妻夫木聡 竹内結子 
   寺脇康文 きたろう 
   千葉雄大 橋本一郎
   中本賢 西村雅彦
   山本舞香 岩田華怜
   重岡大毅(ジャニーズWEST) 
   羽生結弦(友情出演)
   松田龍平 草笛光子
   山﨑努
監督:中村義洋
脚本:中村義洋 鈴木謙一
音楽:安川午朗
原作:磯田道史『無私の日本人』所収「穀田屋十三郎」(文春文庫刊)

【公式サイト】
http://tono-gozaru.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/168121/

★原作が語る『殿、利息でござる!』
http://cinema.pia.co.jp/news/168121/66849/