タイの天才と称される、アピチャッポン監督の最新作
『光りの墓』がいよいよ関西でも公開!
今年の《大阪アジアン映画祭》で注目された
ナワポン監督も語った、タイのアート映画の現状とは
『あの店長』という一風変わったタイトルの映画が、今年3月に開催された《大阪アジアン映画祭》で上映され、アジアや映画に拘らず様々なカルチャーに興味を持つ幅広い層が詰め掛けた。
『あの店長』とは、タイ国内では見ることができない世界の秀作映画たちの海賊版ソフトを扱う伝説のビデオショップとその店長のことを、常連らが語り尽すといった異色作。観客は、映画の中で話される証言を聞いていくうちに、店長はどんな人なのか、その伝説のショップはどこにあるのか?とワクワクさせられ続ける、ミステリーのような風合いのあるドキュメンタリー作品だ。そして、その作品で、タイではゴダールやトリュフォー、ウォン・カーウァイや岩井俊二などの映画でさえ容易に観れなかった時代があったことを知る。
しかし、タイと言えば、日本でも有名なアピチャッポン・ウィーラセタクン監督がいるではないか。
初長編『真昼の不思議な物体』(00)が山形国際ドキュメンタリー映画祭優秀賞に輝いたころは「名前が覚えられない」なんて声も多く聞かれたが、その後の『ブリスフリー・ユアーズ』(02)でカンヌ国際映画祭ある視点賞、『トロピカル・マラディ』(04)で同審査員賞、『ブンミおじさんの森』(10)で、ついにパルムドール! と快進撃を飛ばし、今ではその名前も広く知られており、タイの天才と称されているほどだ。
しかし、『あの店長』を手がけたナワポン・タムロンラタナリット監督によると「アピチャッポン監督の最新作『光りの墓』もタイの劇場での公開予定はない」とのこと。現代タイの政治的な意味合いの描写や皮肉が交えられているアピチャッポン監督の作品は、タイ国内では上映禁止となっているのだ。タイではここ3、4年でやっとアート映画シーンが広まりつつあり、アピチャッポン監督についても「フランスや日本のほうが彼のファンは多いかもしれませんね」と話す。また、「フランスで公開されたアピチャッポン監督の映画が、タイでは海賊版コピーされていて、それをこっそり見るというのがタイ国内では彼のデビュー作から続いているんです」と続けた。
アピチャッポン監督の最新作『光りの墓』は、4月9日(土)よりテアトル梅田、その後、順次、京都シネマ、神戸アートビレッジセンターにて公開。そして、その関西公開を記念して、日本初公開作や短編作品などの特集上映《『世紀の光』とアピチャッポン特集》も4月30日(土)よりシネ・ヌーヴォにて開催される。そのほか福岡では日本の気鋭監督とのショートフィルム共同制作ワークショップ、さらに青森ERTH2016、さいたまトリエンナーレといったアートイベントでの作品展示も行われるなど、今年は日本全国的に「アポチャッポン・イヤー」と言われている。
これを機会にアピチャッポン監督作品に触れ、なぜタイで上映禁止となるのかを知ることで、タイがどのような現実を迎えているのか、上映禁止になろうとも信念を曲げずに撮るアピチャッポン監督の世界を感じてみるのも面白いかもしれない。
(2016年4月 8日更新)
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