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「ぼく…できれば働きたくないんです」(三浦)
三浦貴大&杉野希妃が出席した
映画『マンガ肉と僕』大阪会見レポート

女優兼プロデューサーとして世界でボーダーレスな活動を続ける杉野希妃の長編初監督作『マンガ肉と僕』が、2月13日(土)よりシネ・ヌーヴォ(大阪)、京都みなみ会館、元町映画館(神戸)にて公開される。本作は「女による女のためのR-18文学賞」で大賞を受賞した朝香式の同名短編小説を原作にドラマを膨らませた異色のラブ・ストーリーで、男社会に抗いながら自らを確立しようとする女性たちの不器用な恋の行方を描き出す。公開を前に、主演の三浦貴大&杉野が共に来阪。会見が開かれた。

――映画が出来た経緯について簡単に教えていただけますか?
 
杉野:2013年に開催された《沖縄国際映画祭》で、『おだやかな日常』(2012年)という作品で最優秀ニュークリエイター賞と女優賞をいただいたんですが、それをきっかけに新潮社さんが行っている「女による女のためのR-18文学賞」候補作の中からもし気に入った作品があれば、それを映画化しませんか? というお話を、吉本興業さんからいただきまして。そのときは、まだ大賞が決まっていない段階だったんですが、すぐに何作か読ませていただいて。その中から断トツに心惹かれた「マンガ肉と僕」は映画化すると面白いかもしれないと思ったのが始まりですね。
 
――原作を読んで感じた魅力とは?
 
杉野:内容も文体も朝香式さんのユーモアとセンスが散りばめられていて。男性に嫌われるために女の子が太るというモチーフがすごく捻じ曲がっていて、これを基に現代社会を投影して映画化したら面白そうだなと思いました。それでそのことを伝えた数日後に大賞を受賞したと聞いて、これは「映画化しなさい」という神のお告げかもしれないなと思って、準備期間を経て撮影に入ったという、何もかもとんとん拍子で進んで映画化に至りました。
 
――とてもユニークな作品ですが、オファーをいただいたときはどのように感じられましたか?
 
三浦:お話をいただいて、まず脚本を読ませていただいたんですが、(今回演じた)ワタベというキャラクターとぼく自身がメンタリティーの部分など、かなりリンクする部分があるように感じました。でも自分に近いということは、“演じる”とはまた違った、自分を出していく作業になるので難しいかもしれない、と、ある意味楽しみにして現場に入らせていただきました。
 
――杉野監督の演出はいかがでした?
 
三浦:年齢の近い監督とあまり仕事をしたことがないので、撮影に入る前から楽しみでした。しかも今回は監督をしながら役者として特殊メイクをして出演もされているので、想像を絶する大変さだろうなと、体調を壊したりしないかなと心配しながら見ていました(笑)。ぼくにはできないだろうと思うので、単純にスゴイなと思って見ていました。
 
――三浦さんは3人の美しい女性に囲まれての撮影となりましたね。
 
三浦:楽しかったですよ(笑)。
 
杉野:いやいや、苦労されたと思いますよ。三者三様、それぞれが濃いキャラクターばかりなので、相手をするのが大変だったと思います。三浦くんは吸収力が半端なくて、伝えたいことを10%話すだけで、全てを理解して、次のテイクでは完璧に演じられる人なんです。天性の才能なのか勘が鋭いのか、わたしには分かりませんがとにかくどんどん水を吸収するスポンジのような方だなと思っていました。わたし自身の演技に関しては客観的に見られないので毎回モニターチェックをしていたのですが、それも温かく見守ってくださり、同士として一緒に映画を撮れて本当に良かったなと思います。その場だけでは養えない、人間的な包容力をもともとお持ちな方だと思います。
 
――杉野さんは以前から監督をしたいという気持ちがあったんでしょうか?
 
杉野:2008年ごろからプロデューサーなどをしてきて、その頃から「30歳になるまでにできたらいいな」とぼんやり思ってはいました。自分の頭の中に描くものや問題意識を映画の中にたたきつけることができるのは監督だけですからね。プロデュース業をすればするほど、監督がうらやましくなってきていて。でも経験もないですし、まさかこんなに早くできるとは思っていなかったです。
 
――初監督で主演もご自身っていうのは大変そうですね。
 
杉野:当初は吉本の女性芸人さんを起用する案も出ましたが、わたし自身がサトミのキャラクターに共感する部分がありましたし、演じてみたいと思ったので自ら言って演じることになりました。最初は本当に30キロ太りたかったのですが、撮影期間が短く、太ったあと痩せるシーンもあるので特殊メイクで挑むことになりました。
 
――特殊メイクを経験したご感想は?
 
杉野:動くのは大変でしたが、今まで自分が演じたキャラクターの中で一番楽しかったです。一番アドレナリンが出ていた感じがしますね(笑)。
 
――三浦さんのキャスティングは杉野さんの指名ですか?
 
杉野:『東京プレイボーイクラブ』(2011/奥田庸介監督)という映画を観たころから面白い役者さんだと思っていて、いつかご一緒したいなとは思っていました。それで、今回は脚本を書いている段階から、「これを三浦くんが演じてくれたらいいな」と、ほぼ宛書のような形で想定しながら執筆を進めていました。先ほどご自身も仰っていましたが、リンクするところがあるとわたしも感じていたのかもしれません。
 
――三浦さんご自身は、どのあたりがワタベとリンクすると思ったのですか?
 
三浦:ワタベという男は、田舎から出てきて最初は人見知りで、うまくコミュニケーションが取れない人物なんですよね。自分ではまったく覚えていないのですが、小学校に入学したてのころ、「友だちができない」と言って、休み時間とかずっと机の下に隠れていたらしいんです。それを小学校のときの担任の先生から聞いて。元々持っているメンタリティーが近いなと。思い返せば、人づきあいも得意じゃなかったですし社交的じゃないところが似てると思います。
 
――作品を作るうえで前もって決めていたことはありますか?
 
杉野:クラシックな映画を意識した部分はあるので、カット割を激しくしてテンポを良くするというようなことは考えていませんでした。やはり役者さんの演技を活かすことが一番大事なので、演技をしていただいた上で修正していく。役者のみなさんが元々持っている素質をどうやって活かすかが監督としての仕事ではないかなと思っていました。
 
――英題が『Kyoto Elegy』ですし、意識したクラシック作品とは『浪華悲歌(Osaka Elegy)』など、溝口作品ですか?
 
杉野:そうです…というとおこがましいですが、あの年代の監督さんの中でもとくに溝口健二作品には共鳴する部分が多くて。“女が描かれている”という意味では、女性性みたなものをいつも意識して映画を作っているのでどうしても突き刺さる部分があるんです。「男に嫌われるために女が太る」という原作のモチーフ自体も、どこか溝口作品につながるテーマのような気がしまして。原作の舞台は京都ではないのですが、せっかく映画を撮るのなら映画の聖地である京都で撮ってみたいと主張させていただき、京都で撮るなら溝口作品に出てくる女性像を意識しながらも当時と今ではまた違うものとして描かせていただきました。
 
――『マンガ肉と僕』、そして先に公開した『欲動』と2作撮って、今思うことはありますか?
 
杉野:『マンガ肉と僕』と『欲動』は完全にスタイルが違う作品なので、自分のスタイルが何なのかはまだ確立はされていない、発展途上の最中だろうなと思います。ただ、自分自身が詰まっている作品と感じるのは『マンガ肉と僕』です。「これが自分の等身大です」と言えるような作品になっている気がします。
 
――では、その映画の聖地と言われた、京都で撮影した印象は?
 
三浦:役者として場所が与える影響はすごく大きくて、脚本の設定した場所で撮影できるのは気持ちを作るうえでひとつ手間が省けるんです。また、京都は歴史のある街並みで、こういう作品になるだろうというイメージがしやすい。京都は建物もあれば、道が一直線に抜けている場所もありますし、新しいところもあれば、歴史もあり、自然もあり…。なんて映画向きな街なのだろうと撮影をしながら思っていました。
 
杉野:どこか、街に見守られながら撮れている実感がすごく湧いていました。知恩院前のラストシーンは奇跡的なショットが撮れていて、ある動物が奇跡的な演技をしてくれたんです。後で分かったんですけど、まさに映画の神様が舞い降りてきたのかなと思える瞬間でしたね。
 
――ワタベが福島県出身という設定だったり、ちょっと社会的な話題が盛り込まれていたり、原作を膨らませていった部分について教えていただけますか?
 
杉野:今も溝口監督が撮られていた時代とは変わっていないと思うことが多々あって。人それぞれ色々な生き方があって当然なのに、例えば「子どもを産むのは当たり前」とか、いまだに女性を軽視するような言葉が普通に飛び交っていたり、そういう趣旨の発言が出てくるのをニュースなどで見て、釈然としない気持ちになったりしてて。福島の問題や慰安婦の問題もその時だけの問題ではなく、ずっと続いていく問題であると思いましたし、社会に抗う女たちをテーマにすると面白いなと思って進めていましたので、必然的に入ることになりました。映画は残るものですから社会問題や、自分自身がモヤモヤしているものを映画自身に入れるべきではないかと思っています。
 
――この映画には「寄生」という言葉が何度か出てきます。「寄生される側」「寄生する側」どちらも演じた三浦さんは「寄生」について何か感じましたか?
 
三浦:劇中でも言っていますが、「生態系を保つために、強いものに寄生して生きることは必要」だとぼく自身も思います。実生活でも思いますけど、女性の成長のスピードに男は置いていかれてしまうんですよね。ぼくは30歳になったんですが、同じくらいの女性らの成長具合に置いて行かれているなと感じることがあります。その気持ちをそのままこの作品でも演じました。あと、女性軽視の発言の話で言うと、昔から思っていたんですが、男も「働いて当たり前」というような決めつけがありますよね? 僕はそれが嫌ですね。そもそも、ぼく…できれば働きたくないんです(笑)。ぼく自身は結婚して子どもができたら主夫になってもいいなって思いますし。そういう社会的な男に対する目もあるなと感じるので、杉野監督がおっしゃった「女性に対する軽視の発言が今でも変わらず多い」という部分も理解しやすかったのかなと思います。
 
――では、最後に。
 
杉野:わたし、関西弁を頑張っております。女性が3人、順に出てくるごとにテイストが変わります。最初はポップだったのにシリアスになったり、ちょっとクスッと笑えたり。若い方も年配の方も楽しめる映画になっていると思います。ぜひご覧ください。



(2016年2月12日更新)


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Movie Data


©吉本興業

『マンガ肉と僕』

●2月13日(土)より、シネ・ヌーヴォ、
京都みなみ会館、元町映画館にて公開

出演:三浦貴大/杉野希妃
   徳永えり/ちすん
   大西信満/太賀/宮本裕子/徳井義実

【公式サイト】
http://manganikutoboku.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/169239/

Event Data

初日舞台挨拶決定!

登壇者(予定):杉野希妃監督/三浦貴大/長原成樹

日程:2月13日(土)

会場:京都みなみ会館
時間:11:50の回上映後

会場:元町映画館
時間:16:20の回上映後

会場:シネ・ヌーヴォ
時間:18:40の回上映後

※チケットぴあでの取り扱いなし。
※チケットに関するお問合せは各劇場まで。