「台詞を言えないという感覚は今回が初めて…」
井上剛監督&渡辺大知(黒猫チェルシー)が登壇した
『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』
大阪トークイベントレポート
NHKドラマから映画化もされた『その街のこども』やNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で知られる、井上剛監督の最新作『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』が、大阪・シネマート心斎橋、神戸・元町映画館にて16日(土)より先行上映中。初日は、井上剛監督と、本作で神戸出身の高校教師・岡里役を務める、渡辺大知(黒猫チェルシー)によるトークイベントが行われた。
映画は、故郷の福島を離れ、神戸で暮らす女子高生・朝海(石井杏奈)を主人公に、高校生4人が、高校教師の岡里(渡辺大知)を巻き込んで、母校の校庭に埋めた、タイムプカプセルを探しに行くというロードムービー。若者たちの揺れる思い、“あの時”と“いま”を、音楽が繋ぐ、瑞々しい作品だ。
本作は、2015年3月にNHKで放送されたTVドラマに、新たに26分のシーンを追加し再編集した全長版で、撮影自体は2年前だという。渡辺は、「監督も以前から映画館での上映を切望していたんですが、こうやって劇場公開できたことを嬉しく思います。今日はどうぞよろしくお願いします!」と感慨深げに挨拶し、トークイベントは開始された。
神戸を描いた『その街のこども』、東北を舞台にしていた「あまちゃん」、そして、神戸と福島を繋ぐ『LIVE!LOVE!SING!』。ひとつの流れを感じるこの作品たちについて、井上監督は「何の狙いもなく、『その街のこども』から始まった人の縁で生まれた作品」と話す。客席からの質問で答えたキャスティングの経緯についても、「やっぱり縁がある人を選びたくなるんですよね」と“人の縁”が結んだ作品であることを強調した。

その“縁”あって教師役として出演した渡辺は、神戸出身、年齢もほぼ同じという自分に近い設定の役どころだったこともあるが、「ちょっとだけ姿勢をよくしたくらい(笑)。あまり用意しすぎるのは違うと思った。それでは通用しない役だなと思ったんです」と役作りについて振り返る。
高校生4人と教師1人が初めて足を踏み入れ、想像を絶する景色と対面する場面など、演技なのか役者本人のリアルなリアクションなのか分からない、ドキュメンタリーのような作風も本作の魅力のひとつだ。
「普通はカメラが先に行って“人”を撮ろうとする。でも、それだと“初めて”の感情が見えづらいと思うんです。この子たちが初めてそこへ行く感覚を大事にしたかったので、ドキュメンタリーのような手法を使うしかなかったのかもしれません」と井上監督。渡辺も「スタートもカットもなく、ロケバスを降りたらカメラが回っていて。角を曲がったら、急に被害をたくさん受けた場所が目に入ってきたときは、言葉につまりました。台詞を言えないという感覚は今回が初めてで。それも含めて一瞬を捉えている。そういうところを大事にした作品だと思います」と解説した。
また本作は、神戸復興を願うシンボル曲「しあわせ運べるように」が使われる場面も印象的だ。小学校3年生くらいからずっとこの歌を学校で歌ってきたという渡辺は「“音楽”は、意味とかを超えて人の心を揺さぶることができるものでありながら、メッセージを乗せることも出来るもの」と話し、この曲を初めて聞いたときのムズムズして(この曲から)逃げたくなった感覚と、でもいつの間にか好きになって、気づいたら口ずさんでいたという当時のエピソードを披露。ミュージシャンでもある渡辺は改めて“音楽”について、「自分の気持ちと関係なく好きになれる。その分パワーがあるので扱うのが難しい」と語った。
井上監督は「しあわせ運べるように」について、「冒頭と最後では同じ曲なのに聞こえ方が違うようにしたいと思って撮りました」とこの映画の最大のポイントを明かし、「冒頭から最後に行くまでの間、人の気持ちを代弁する曲が流れて、いろんな場所をくぐり抜けた先に主人公の朝海の中で聞こえ方が反転するように気をつけた」と続けた。これから本作を観る予定の方は、どの曲にも注目して鑑賞していただきたい。
しかし、いつも大変な撮影だったわけではない。客席からの質問で「ほっこりエピソードはありますか?」と聞かれた井上監督は「緊張する場所なのに、ロケバスの中で、前田航基、柾木玲弥、木下百花がうるさかったので、真剣にやれって注意したんです。普通は俳優部のひとつのバスでみんな一緒に移動するんですけど、次の日から機材車に乗せたりしてみんなを離して。そしたら「ぼくたち、もう騒ぎませんから明日から一緒にさせてください」て丁寧に謝ってきて。あれはかわいかったですね」と微笑んだ。それを受けて、普段から先生と呼ばれていたという渡辺も「そうなると一斉に大人を頼るんですよ。先生、監督怒ってるよねぇ?どうしようって(笑)。それで、誰がどう言ったとかじゃなくて自分がそう思うなら謝ろうって言いました(笑)」。渡辺は、いつの間にか本当の教師にような役割を担っていたようだ。

最後に渡辺は「いろんな立場の人がいろんな考えを持っている。相手の意見を必ずしも理解しなくてはいけないことはなくて、いろんな意見があるということを考える機会を与える作品なんじゃないかと思います。映画を観て、自分の思ったことをまわりに伝えてもらえたらと思います」とメッセージを送りイベントは終了した。
(2016年1月18日更新)
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