「わたしの体験した恐怖をみなさんも味わって!」
名匠ロン・ハワード監督の最新作『白鯨との闘い』
辛坊治郎が実体験を語ったトークイベントレポート
『アポロ13』や『ダ・ヴィンチ・コード』など、人間ドラマ、実録劇、サスペンスなど幅広いジャンルのヒット作を手がけている名匠ロン・ハワード監督の最新作『白鯨との闘い』。1月16日(土)より公開となる本作の特別試写会が大阪市北区・梅田ブルク7で実施され、ニュースキャスターの辛坊治郎氏がサプライズゲストとして登壇した。
辛坊氏は、全盲の男性とふたりで2013年6月にヨットでの太平洋横断に挑戦するも、マッコウクジラの衝突によりヨットが浸水、約10時間もの漂流の後、海上自衛隊に救出された経験を持ち、その遭難事故の話は当時ニュースなどでも大きく扱われた。
そして映画は、ハーマン・メルヴィルの名著「白鯨」の題材にもなった実話を基に、クジラ捕獲のために大海原に出向いた男たちが、太平洋沖4800キロの海域で巨大なマッコウクジラに遭遇、船を破壊され大海原に放り出されてしまい、想像を絶する極限状態に追い込まれていく姿を大迫力で描いている。
そこで、「この映画を語るのに一番ふさわしいと言っても過言ではない人物」として呼び込まれた辛坊氏は、開口一番に「なんでわたしがここに呼ばれたか。誰も知らない話をひとつしておきますと、実は私は2年半ほど前に船を沈めたんですよ…」と、自らをネタにしながら挨拶。今でも夢に見るほど鮮明に記憶に残っているという“そのとき”の体験を語り始めた。
「熟睡していたらガンッと大きな音が聞こえて、その後もうひとりの乗組員が「浸水!」と言っている声が聞こえましてね。その後すぐに船内の水位がみるみる上がって膝くらいまできて、これはもう15分で沈むと思った…」と沈没寸前の危機的状況を細かく説明。そして「そこで生き残る方法はひとつ。船は沈むんだから、救命いかだに飛び乗るしか選択肢がなかった」と話した。しかし、その救命いかだに移るのも簡単な話ではない。頑丈な紅白色のロープで船に固定された救命いかだをなんとか海に投げ入れ、そのロープを必死で握り締めるも、するするとすごいスピードで抜けていき、ロープの摩擦で手のひらが傷だらけに。このロープを離せば「“死”が確定」というすさまじい恐怖体験を生々しく語った。
そんな極限状態のとき、人は何を考えるのか。辛坊氏は「どうしてこのロープは紅白なんだ。全然めでたくない。でも白黒は縁起が悪いよな。白と黄色がいいんじゃないかと考えました!」と意外すぎるコメント。臨場感ある辛坊氏の語り口に前のめりで聞いていた観客は一気に緊張がゆるみ、爆笑していた。
またそのとき、「おまえひとりならそのまま救命いかだに飛び乗れば助かるぞ」という悪魔の囁きがハッキリ聞こえたという。それでも「その後の人生を損得勘定で考えたら、全盲の乗組員を見捨ててひとりで生き残るなら、ふたりで死んだほうがマシだと思った」と告白。全盲の人を救命いかだに乗せるのも大変だったとのことだが、「最後は信頼関係しかなかった」と話した。
「漂流の際に持ち出せたのは、SDカードと緊急持ち出し袋だけ。ただ、持ち出し袋の中に非常用食料と衛星携帯電話とGPS、航空無線とバッテリーがフルチャージで入っていたんです。何もかもが奇跡。ひとつでも歯車が違っていれば確実に死んでいました。わたしが助かった向こう側に何人の人がいたのか。“生きている”のではなく“生かせてもらっている”んですよね。みなさま、ありがとうございます!」と感謝の意を述べた。
その後、太平洋横断への“再チャレンジ”について聞かれると「マッコウクジラは怖いです。でもね、何であんなことが起きたか分かっているんですよ。実は、出航前の夜に鯨ベーコンを食べたんです」とクジラの祟り説を唱え、「それからはクジラ絶ちしているので復讐されることはないはず。次は大丈夫だろうと。準備も万端です。行こうと思えば今日でも明日でも行けます!」と意欲をのぞかせた。
最後に「この映画は本物です。史実に基づいている本当にあった話です。19世紀初頭の太平洋。海上自衛隊もGPSも衛星携帯電話もない時代です。この映画で、わたしの体験した恐怖をみなさんにも味わってもらえるのが本当に嬉しい。でも怖いだけではなく、深く、迫力のある映画ですから、どうぞ楽しんでください」と呼びかけた。
(2016年1月13日更新)
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