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「監督・小谷忠典×写真家・石内都」が写し出す
新たな画家フリーダ・カーロが生まれる瞬間
『フリーダ・カーロの遺品―石内都、織るように』
小谷忠典監督インタビュー

 シュルレアリズムの作家としてメキシコを代表する女性画家、フリーダ・カーロ。身体の不自由さや時代の流れに翻弄されながらも、ひとりの女性として力強く生き抜いた姿は今もなお多くの人々の共感を呼んでいる。その遺品の撮影の依頼を受けたのは、世界的な写真家・石内都。彼女がメキシコを訪れ、フリーダ・カーロ博物館《青い家》で数々の遺品を撮影する現場に立会い、「記録」と「記憶」が交錯するすべてを映像に収めた、小谷忠典監督に話をきいた。

――監督はもともと石内さんの作品のファンだったということですが、どれくらい前から石内さんの写真に触れてこられたのですか?

 

学生の頃からなんで、もう十数年前からになりますね。最初は難波のヴィレッジヴァンガードで、「傷跡」という文章と写真で構成された書籍があったんですけど、それが一番印象的です。

 

――なるほど。そこから石内さんご本人にコンタクトを取るようになられたきっかけは?

 

『LINE ライン』(2010)という映画を石内さんに対するラブレターのつもりで作ったので、絶対に観てもらいたいと思って、コメントを寄せていただいたのが最初で、その後トークショーにも来ていただきました。お会いした瞬間にすごく素敵な方だと思いましたので、石内さんの映画を作ろうと、そのときに決めました。

 

――今回、その憧れの石内さんの仕事ぶりを、メキシコのフリーダ・カーロの遺品撮影に同行するという形で間近で見られていかがでしたか?

 

frida_1.jpg

今回、3週間ベタ付きで密着取材させてもらいました。よく石内さんに「ファンだ!大ファンだ!」と言うと、「そんな安っぽいこと言うな」って怒られてたんですよね(笑)。自分の制作にも影響を受けすぎていて、自分の新しい表現ができないんじゃないか…ってくらい影響を受けた人なんですよ。だからどこかで今回のプロジェクトを通じて、石内さんと“対決”じゃないですけど、写真表現の石内さんと映像表現の僕と対峙できたらなと思っていたので、とても緊張感を持って撮影しました。石内さんはフリーダだけじゃなくて、メキシコの文化や歴史、フリーダの背景にあるものを写真でも掬い取るように撮影されていました。その目に見えない、石内さんのまなざしみたいなものを可視化するのが僕が入った役目だと思っていたので、3週間の撮影が終わった一年後にまたメキシコへ行って、“死者の祭り”や刺繍家の方たちへ取材をしたんです。

 

――では、石内さんとフリーダの関係性はいかがでしょう? 石内さんは最初、フリーダにそこまで関心を寄せてらっしゃらなかったようなのですが…

 

そうですね。最初、石内さんはフリーダの偉人としての大きさをよくわかっていらっしゃって、しっかり捉えようという感じで緊張されていたようでした。でも、映像の中にも出てきますけど、フリーダの洋服に、針と糸で修繕された跡を見つけたときから、フリーダに親しみを持たれたようでしたね。石内さんが一人の生活者として、一人の女性としてのフリーダを写すことで、これまでのフリーダにあった重たいイメージがはがれていくように感じました。

遺品という“モノ”というよりもフリーダ自身と対話しているような感じがあって、時代も、国も超えて、写真家・石内都と画家・フリーダ・カーロが出会ってコラボレーションすることで、また新たなフリーダ像を二人が一緒に作っているような、そんな風に見えました。

 

――石内さんは撮り方にとてもこだわってらっしゃいましたよね。《青い家》の窓から入る自然光のみで撮影されたり、スカートのふくらみも微調整されたり。遺品のはずの衣装がとても生き生きとして見えました。

 

frida_2.jpg

石内さんがよく言っていることで「私は過去を撮っているんじゃなくて今を撮っている」っていう言葉が印象的なんですけど、過去を撮ると定着したイメージしかないと思うんですよね。ひとつひとつはやっぱり生々しくて、強烈に生きた人なんだな…ってひしひしと伝わってくるものがあったんですけど、石内さんは、フリーダの薬瓶や左右のかかとの高さが違う靴も「かわいい」と言って撮っていましたからね。もし僕が写真に撮っていたら、暗い、つらいイメージで撮っていたんじゃないかと思います。

 

――最後に、監督がおっしゃっておられた石内さんとの“対決”は、作品がこうして出来上がってみて、どんな結末になったとご自身は思われますか?

 

ファンを超えて執着までしていた人なので、自分なりには作品を作れて解放されているというか、すっきりしています。石内さんにも気に入っていただいて「これはあなたが見た私だし納得いくまでやってくれたらいいんじゃない」とおっしゃってくださったのでよかったと思います。

 

取材・文/米積園絵




(2015年9月 7日更新)


Check

Movie Data



©ノンデライコ 2015


Frida by Ishiuchi #34 ©Ishiuchi Miyako

『フリーダ・カーロの遺品-石内都、織るように』

●9月12日(土)より、シネ・リーブル梅田、
 9月26日(土)より、
 神戸アートビレッジセンター、
 順次京都シネマ にて公開

【公式サイト】
http://legacy-frida.info/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/167708/


Profile

小谷忠典 (公式より)

こたに・ただすけ●1977年大阪出身。絵画を専攻していた芸術大学を卒業後、ビュジュアルアーツ専門学校大阪に入学し、映画製作を学ぶ。『子守唄』(2002)が京都国際学生映画祭にて準グラン プリを受賞。『いいこ。』(2005)が第28回ぴあフィルムフェスティバルにて招待上映。初劇場公開作品『LINE ライン』(2008)から、フィクションやドキュメンタリーの境界にとらわれない、意欲的な作品を製作している。最新作『ドキュメンタリー映画100万回生きたねこ』(2012)では国内での劇場公開だけでなく、第17回釜山国際映画祭でプレミア上映後、第30回トリノ国際映画祭、 第9回ドバイ国際映画祭、第15回ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭、サラヤ国際ドキュメンタリー映画祭、ハンブルグ映画祭等、ヨーロッパを中心とした海外映画祭で多数招待された。