ホーム > インタビュー&レポート > 「物語の背景になっているカルチャーをとっかかりにして 全体像をつかむことで、映画として描くことができるかも…と」 多部未華子×綾野剛 出演『ピース オブ ケイク』 田口トモロヲ監督インタビュー
――6年ぶりのメガホンですが、女子主人公の映画を撮るというだけでちょっと意外な感じがしました。
最初にプロデューサーから話をもらったとき、ぼくも正直、「え? ぼくがラブストーリー撮るの!?」って思いました(笑)。でも、原作の冒頭に「わたしは植物を買っては枯らす」というモノローグがあって、その一文で、植物をモチーフに主人公の志乃という女性の過去と人格を全て表現していて、入口から素晴らしいなと思いました。
――恋愛映画を撮るために改めて観た映画とかありましたか?
イギリス系のシニカルな目線のラブコメが好きなのでいろいろ観ました。とくに好きなのは、『フォー・ウェディング』(94)、『ノッティングヒルの恋人』(99)、『ラブ・アクチュアリー』(2003) 辺りですけど、知らべてみたらこの3作とも脚本がリチャード・カーティスでした。なので、ぼくはこの人が好きなんですね(笑)。丁寧に書き込まれたキャラ設定やシニカルだけど温かみがあるのがイイんですよ。でもそれで学んだものを今回映画に盛り込んだというわけではないですけど(笑)。
――前2作はみうらじゅんさん原作で、文科系男子が主役。今回は女性原作で、いまどき女子が主役。映画化する上で前2作と大きく違ったところはありましたか?
前2作『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』は、原作の何もかもがもともと大好きで、そうでないとぼくは撮れないと思っていたんです。だけど今回の原作は最初に読んだとき、志乃のことを「めんどくさい人だな」「うざいな」「イタイな」と思ってしまいました。それで、こんなイラつく主人公をキュートに描くことができるだろうかという疑問が出てきて。最初は志乃のことを批判的に描いてしまうんではないか、志乃のことを好きになれるかという問題がありました。
――でも出来上がった作品からは田口監督の志乃への愛をすごく感じました。
ぼくが志乃に対して「うざい」と思った感情は、何度も原作を読むうちに若いときの自分を見ているような“同属嫌悪”だったと分かってきました。原作者のジョージ朝倉さんも自身で描きながら最初は志乃のことを好きじゃなかったけど、描き進めることが志乃を好きになっていく作業だったらしいんです。「ダメだった自分の20代を描いていた」とも仰っていました。
――志乃が働くレンタルビデオショップで、ちょっとした映画の話がでてきたり、劇団がリアルに描かれていたり、カルチャー寄りの世界観も含んでいるのが本作の面白さでもありますね。
原作を読んでいて、レンタルビデオショップでの話に出てくる監督名や作品名が、ぼく自身も影響を受けたものだったり、登場人物の名前が“梅宮”“菅原”“成田”“千葉”っていうのも、『仁義なき戦い』の出演者の名前なんですよね。それに気づいて、ジョージさんはぼくよりもずっとお若い方ですが、すごく興味がわきました。そういった物語の背景になっているカルチャーをとっかかりにして、全体像をつかむことで、映画として描くことができるかも…と思えました。
――いまどき女子の女ごころを理解するのはなかなか難しい部分もあったかと思いますが。
20代の男女が、現実と理想の間で絡まりあって空回りしてしまうという感情は普遍的だと思うんですが、やっぱりそこにも男女差があると思うし、まず、ぼくがその時代に経験したことと今の世代とではいろいろと違うところもあると思うんです。でも、現在進行形の話として描きたかったので、周りの知り合いやスタッフらを巻き込んで“今を生きる25歳の考え方”についてリサーチもしました。
――志乃を演じる多部さんともそういう話はされたんでしょうか?
しました。台本に違和感があるところがないか、行動に嘘があるような部分はないか。多部さんはもちろん、木村文乃さん、光宗薫さんにもリアルな感覚を求めて、しっかり確認してもらいました。
――志乃を演じる多部さんがとても魅力的だからこそ、うざくても愛せてしまうキャラクターになっていると感じたのですが、どのような思いでキャスティングされたんですか?
隣に引っ越してくる志乃という女の子をリアルにみせれる女優さんを誰か考えると、自然と多部さんがぴったりだなと思ったんです。近寄りがたい美女ではなく、どこか親しみがわく感じで、ちょっとだけモテるけどいろいろうまくいかず悩んでいる、そんなリアルな曖昧さが大事でした。もちろん、芝居に関しても申し分ないですしね。多部さんの素晴らしい演技のおかげで志乃のダメな部分をキュートに見せることができていると思います。
――では、綾野さんは?
多部さんと同じような理由ですが、彼も正統派の“The 男前”ではないと思うんです。なんだか近くにいそうな佇まいじゃないかなと。それと、これまではエッジのきいた役どころが多くて、能天気な役の印象はあまりない。そこで意外性を出せるのではないかと思いました。
――綾野さんがカッコイイ男ではなく、かわいい男を演じているのがイイですね。
綾野さんはしっかりとしたご自身の意見をぶつけて役を作ってくださる方なので、念入りに相談しながら京志郎というキャラクターを作っていきました。彼は体を使って動的な表現ができる役者さんですが、今回は逆に、体での表現は抑えて、太い幹のような大らかさを持った人物像を作りましょうという話をしながら作っていきました。
――同じ男として京志郎のことをどう思いますか?
本質的な人間としての大きさと優しさを持っている人だと思います。僕には全くないものを持っている(笑)。男友達が多くてリーダーシップが取れる、だけど隙もある。完璧な人ではないからこそ、男女問わず人として愛される。言わば、“裏”理想の男性像ですね。決して“表”ではなく。それが性別関係なく魅力的に見えるように心がけて描きました。
――キャストの話でいうと、田口監督作品3作に続けて出演しているミュージシャンの峯田和伸さんは監督にとってどんな存在なんでしょうか?
ぼくの中では必要不可欠な人です。異業種の峯田くんが映画の現場に入ることでそのシーンの彩りが豊かになると思っています。俳優さんのお芝居を語るときに「上手い」「下手」という言葉がありますが、もうひとつ「グッとくる」というのがあると思うんです。それを彼は体現していると思います。彼が持つ“人間力”とでも言うんでしょうか。それがプロの俳優の中に入ることで、さざ波のようなものが起こって、周りが活性化する。峯田くんが入ることで役者たちも、ちょっと変化すると思うんですよね。「なんだ、こいつの存在感は!」って。そういう、純度の高い刺激物のような存在で、常に出演してほしいと思っています。
――ジョージ朝倉さんの感想は聞かれましたか?
「今、出来うる環境の中で最高の作品を作ってくださいました。つまらなかったらどうしようと思っていたんですよ(笑)」と仰ってくださって、本当にホッとしています。もちろん「原作のおかげです!」と返しましたけど、原作者の方が喜んでくれるというのはやっぱり本当に嬉しいですね。お客様にも楽しんでもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします!
(2015年9月 7日更新)
●梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、
T・ジョイ京都、TOHOシネマズ二条、
OSシネマズミント神戸、
109シネマズHAT神戸ほかにて上映中
原作:ジョージ朝倉『ピース オブ ケイク』
(祥伝社 フィールコミックス)
監督:田口トモロヲ
脚本:向井康介
音楽:大友良英
出演:多部未華子、綾野剛、
松坂桃李、木村文乃、光宗薫、
菅田将暉、柄本佑、峯田和伸
【公式サイト】
http://pieceofcake-movie.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/166203/
たぐち・ともろを
1957年11月30日生まれ、東京都出身
【監督作品】
『アイデン&ティティ』(03年)、『色即ぜねれいしょん』(09年/新藤兼人賞銀賞受賞)
【主な映画出演作品】
『鉄男』(89年/塚本晋也監督)、『うなぎ』(97年/今村昌平監督)、『御法度』(99年/大島渚監督)、『MASK DE 41』(04年/村本天志監督)、『世界で一番美しい夜』(08年/天願大介監督)、『少年メリケンサック』(09年/宮藤官九郎監督)、『GANTZ』シリーズ(11年/佐藤信介監督)、『探偵はBARにいる』シリーズ(11年・13年/橋本一監督)
【主なテレビ出演作品】
『植物男子ベランダーseason1,2』(14・15年/BSプレミアム)、『プロジェクトX〜挑戦者たち』ナレーション(00〜05年/NHK)