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「怖いと思っても可愛いと思ってもいい。
昆虫を好きな人も嫌いな人も観て、楽しんでくれることが一番大事」
『アリのままでいたい』栗林慧インタビュー

 カブトムシ、クワガタムシ、スズメバチなど、様々な昆虫たちが森で繰り広げる熾烈な生存競争の様子などを捉えたドキュメンタリー『アリのままでいたい』が、7月11日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開される。本作で、“アリの目カメラ”と呼ばれる世界唯一の特殊カメラを使用し、撮影監督を務めた長崎県在住の世界的写真家・栗林慧さんに話を訊いた。

――映画への興味はいつごろからお持ちだったのですか?
ぼくは写真家で昆虫を50年近く撮り続けているのですが、やっぱり生き物ですからね、当初からいつかは昆虫たちの動きを映画で撮りたいなと思っていました。もっとも特徴的な一瞬を切り取り、永久に保存することができるという写真の素晴らしさもモチロンあるのですが、写真はそれがどういう状態なのか説明が必要なんです。しかし、映画の場合は説明がいらない。観た人がダイレクトに感じて説明なしに理解してもらえるところが映画の良さですよね。
 
――映画だからこその難しさもあったのでは?
昆虫たちの動きを撮りたいので、昆虫が驚いて逃げたりすると駄目なんですよね。昆虫はこちらがどんなに優しく接したとしても慣れてくれない。とにかく驚いたら逃げてしまったり、行動を止めてしまう。そうならないように気をつけて撮りました。
 
――昆虫たちが逃げないようにどんな工夫をされたんですか?
昆虫というのは、実は音は関係ないのですが振動と目の前に異質な物体が現れると驚いて逃げてしまいます。でも、今回撮影に使用したカメラであれば、レンズの先端だけを近づければいいのであまりぼく自身が近づかなくていいわけです。驚くというより「目の前になんか来たな」とでも思っているのかちょっと反応したりして、それも面白かったですね。
 
――栗林さんが作った世界唯一の“アリの目カメラ”。製作の経緯は?
この映画は撮影に約400日かかっているのですが、実は企画が上がってから3年以上の歳月を経ています。撮影にすぐに取り掛かれなかったのは撮れるカメラがなかったからなんです。3Dの技術がもうすでに世界的に知れ渡っていましたし、昆虫を3Dで撮れるカメラもあるだろうと思っていたら、なかったんですよ。
 

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――それで、「では作ってしまおう!」ということですか。
3D映像が撮れるカメラをいろいろと探していたら医者が使うドイツ製の内視鏡の3Dカメラをみつけて。でも、内視鏡だから広い範囲を撮るものではないんですよね。撮影位置が(レンズから)4センチに固定してあってピント合わせが出来ないものだったんです。それで昆虫の動きに合わせて4センチという一定の距離を保てるようにレールを作って撮影する訓練をして。内視鏡を外視鏡にしてしまったんです(笑)。
 
――この映画で初めて虫の放尿シーンを見ましたが、こういった場面も“アリの目カメラ”だからこそ撮れたものなんでしょうね。
虫がこちらを意識していないから撮れたんでしょうね。放尿もそうですが、食べたりする場面も。驚くと中断してしまいますからね。
 
――長い間昆虫を相手にしているとそれぞれの表情なんかも分かってきたりしますか?
4、5メートル離れたところから見ていても、「これから何をしようとしてるのかな」とか、「これ以上近づくと逃げるだろうな」とかは分かりますね。
 
――映画の中で昆虫たちの気持ちがいろいろな方々の声で話されますね。
もともとこの映画にはシナリオがないんです。まぁ、そのとおりにはいきませんからね(笑)。基本的には昆虫たちの姿を片っ端から撮っていって組み立てていったんですが、映画ですから娯楽性が必要だと思いまして(笑)。
 
――様々な効果音も入っているので子どもたちも楽しめるようになっていますね。
カメラの先にマイクをつけているので、実際の音も拾っているのですが、それ以外の周りの音も同時に入ってしまっているので、効果音をつけています。秋篠宮ご夫妻と長男の悠仁さまも先日この映画を観てくださり、昆虫好きの悠仁さまは身を乗り出して映画を観てくださいました。子どもたちが観て、いろいろなことを感じてほしいんです。「怖い」と思っても「可愛い」と思ってもいい。昆虫を好きな人も嫌いな人も観て、楽しんでくれることが一番大事です。
 
――とくに最近の都会に住む子どもたちは昆虫に触れる機会が減ってきていますしね。
昆虫と触れ合うことは、人間が成長する中で絶対に必要なことだとぼくは思います。子どものころ、逃げ回る昆虫を捕まえるのがすごく楽しかったけど、捕まえて箱に入れていたらいつの間にか死んでしまっていたり、カマキリを持って嫌がる女の子を追いかけていたら、カマキリの足がもげてしまったり。そういう経験から子どもながらにすごく悪いことをしたような気持ちになったりすることが大事だと思うんです。それで、生き物に対する接し方の加減が学べる。
 
――昆虫と人間の関係が薄れつつあるからこそ映画にする意義があったということですね。
昆虫というのは、地球上に生息する生き物として人間よりはるかに先輩なわけです。大昔から子どもたちにとってかかせない存在だったはずが、ここ50年ほどで人間と昆虫が触れ合う機会が、ぐっと減ったんではないでしょうか? 昆虫の住む環境を遠ざけて、昆虫と人間の距離が離れてしまった。
 
――自然が減ることで昆虫の居場所が無くなり、昆虫自体も減っていますね。
食事中に虫が飛んできたりしたらぼくだって嫌ですよ。でも、人間にとって役に立つ昆虫もいます。昆虫がいなくなると、果物ができなくなったり、花が咲かなくなったり、いろんな問題が当然出てきます。そんな生き物たちがわたしたちの足元で一生懸命に生きているということを映像をとおして子どもたちに知ってもらいたいですね。
 
――ちなみに栗林さんが一番好きな昆虫は何ですか?
一番好きな昆虫はアリですね。アリは家族や仲間と協力し合って生きています。それを観察していると人間に似ていて、ひとつひとつの行動を記録したいなと常々思っています。ところがアリは動きが早いので撮影するのが大変なんです。それを撮るための努力を続けていて、ずいぶん撮れるようにはなりましたが、まだまだ撮れていないところもたくさんあります。アリは世界中にいて、その種類も多く、まだまだ分からない部分も多くありますから、いつも新鮮な気持ちで接しています。
 
――長年、昆虫と接してきた栗林さんがまだまだ分からない昆虫の不思議なところってどういうところですか?
ちょうちょやカブトムシなんて、親と子どもの形が極端に違うでしょう? まったく違う姿に大変身する生き物は昆虫以外にいないんですよね。それが今でも不思議です。昆虫写真家になりたてのころは、もちろんアリを撮りたいという気持ちもありましたが、いろんな昆虫たちが変身する瞬間を撮りたいという思いもありました。
 
――今後、撮りたいものってどういうものですか?
今までいろいろなものを撮影してきましたが「完璧」と思っているものはいまだにないです。カメラなど撮影に使う道具は日々進歩していきます。以前は撮れなかったものが技術の進歩により撮影が可能になってきたりする。この映画の中でもハイスピードカメラを使って、バッタが飛ぶ瞬間やカマキリが獲物を獲る瞬間などを撮影して、時間を伸ばして見ることによって、その様子がよく分かる。あれを使っていろんな昆虫をもっと撮りたいなと思いますね。それと、今まで撮ってきたものをまた改めて3Dカメラを使って撮りたいとか。日本では見られないような色彩豊かな昆虫や形の変わった昆虫なんかも3Dで紹介できたらいいなぁ、というように夢はまだまだあります!
 
――最後にメッセージを。
この映画は3Dで設計した映画です。昆虫を立体的に見ていただきたいです。迫力が全然違いますからね。カブトムシの闘いぶりなんて本当に迫力があると思います。あと、ツバキシギゾウムシの長いくちばしはキリのように穴を開ける道具で、ドリルのようにくちばしを回すことはできないから自分が回るというのが面白い。ほかにも、カマキリが生まれるシーンだとか、アリは一匹ずつの力は小さいけれど、仲間がたくさんいますからね。ほかの昆虫は捕まると大変です。いろんな昆虫たちそれぞれの生活を見て楽しんでほしいです。よろしくお願いいたします!



(2015年7月10日更新)


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Movie Data





©2015「アリのままでいたい」製作委員会

『アリのままでいたい』

●7月11日(土)より、梅田ブルク7ほかにて
 <2D/3D>全国ロードショー

監督:鴨下 潔 
撮影総監督:栗林 慧 
音楽:菅野祐悟
主題歌:福山雅治「蜜柑色の夏休み 2015」
    (アミューズ/ユニバーサルJ)

【公式サイト】
http://www.ari-no-mama.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/167156/