インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「藤野涼子という役は、何度もくじけそうになったけれども  なんとか乗り越えた山のようなもの」 『ソロモンの偽証』藤野涼子インタビュー

「藤野涼子という役は、何度もくじけそうになったけれども
 なんとか乗り越えた山のようなもの」
『ソロモンの偽証』藤野涼子インタビュー

 2015年上半期ベストワンとの呼び声も高い『ソロモンの偽証』。〔前篇・事件〕に続き、いよいよ〔後篇・裁判〕が、4月11日(土)より大阪ステーションシティシネマほかにて公開される。主役の藤野涼子を演じたのは、役名をそのまま芸名にした撮影当時14歳の女優・藤野涼子。今年の新人賞は確定の若き大器に話を訊いた。

――前篇に続けていよいよ後篇の公開、キャンペーンが続いて大変ですね。

いえ、毎日が充実していて楽しいので平気です。

 

――藤野さんが、オーディションで1万人の応募者の中から選ばれたというのも作品の話題の一つです。オーディションの様子から教えてもらえますか。

一次、二次選考が終わってから演技のワークショップが始まったんですが、一緒に受けてる人のなかには子役時代から演技をしている人など、演技経験の豊富な人がたくさんいるなかで、私はこれまで通行人の役しかやったことがなくて、カメラの前で芝居をするということがなかったので、ここでどうやって自分を出していこうか、自分の居場所をみつけるにはどうしたらいいのかと考えて、ともかく毎日毎日なにか一つは身に付けよう、吸収しようという思いでやりました。

 

soromon_a.jpg

――一緒にワークショップを受けた人たちとはどんな関係でしたか。

誰もが役をもらいたいと思っているライバルなのですが、半年近く一緒にいるので連帯感も生まれていました。ワークショップの合間にも候補者を絞っていくオーディションがあって、いつ落とされるのかわからない恐怖はずっとありましたが、もし自分が落とされたら、その分あなたが頑張って!という他の人を応援する気持ちは持っていました。普通の中学校生活では味わえない貴重な時間を過ごさせてもらったと思っています。この前も、完成試写をみんなで観て、そのあと中学生キャスト33人で「ソロモン同窓会」として集まり、感想を言い合ったりしました。しばらく会っていなかったので「髪形変わったね」なんてことも言って(笑)。そういう機会がこれからもあればいいなと思っています。

 

――トレーニングは具体的にどういったことをしたのですか。

「基礎を大切にしろ」とずっと言われていました。だから、体づくりから始めて、滑舌を鍛えたり。あとはエチュードとか、イメージ・トレーニングですね。

 

――そのとき監督やスタッフから言われたことで覚えているものはありますか。

品格ですね。「いい女優はみんな品格がある。女優を目指すなら君たちも品格を持ち、日々の生き方に責任を持ちなさい」と言われました。これは、これからもずっと心に刻んでおかなくてはと思っています。

 

――主役の藤野涼子役に決まったと知ったときの気持ちはどうでしたか。

家に連絡があって、私は父親から告げられたのですが、父親がわりと落ち着いた様子で伝えてくれたので私も冷静に聞けました。「ウソでしょ」とは思いましたが(笑)。その後トレーニングに行って、まだ決まってない役のオーディションに立ち会っていたら、そのときからもう涼子として扱われたので、「そうか、本当だったんだ」って思うようになりました。

 

solomon_g.jpg

――自分では、選ばれた理由はなんだったと思いますか。

選ばれたときからずっとそれを考えているのですが、正直いまもわからないんです。監督の舞台挨拶やインタビューを聞くと「声と目の強さがよかった」というふうにおっしゃっているんですが、それだったらもっと早く選ぶだろうって思うんですよね(笑)。私としては結局わかっていないです。

 

――声で選ばれたというのはあるような気がします。映画を観ていて、落ち着きがあっていい声だなと思いましたから。役柄も説得力が必要なもので、あの声にはその力があると思いましたし。抑え気味の低いトーンは意識してやったのですか。

ええ、監督の指示でそうしていました。監督は声のトーンには厳しかったです。撮影の途中からは音叉を渡されて、おかしいなと思ったらその都度確認しながら台詞を言うようにしていました。

 

――藤野涼子を演じるにあたって、監督から言われたことはほかにもありますか。

前後篇の映画と違って原作は一部が文庫本二冊ずつの三部からできているのですが、私、撮影に入る前に第一部だけ読んでいて撮影に入ってから二部・三部を読もうと思っていたんです。そうしたら監督から、原作の涼子と映画の涼子は同じ人物でもシーンごとの感情とかは違うので、原作は撮影が終わってから読みなさいって言われました。

 

――ぼくは原作も読みましたが、映画の涼子は原作の涼子のイメージをうまく肉体化しているなと思いました。それは原作に引きずられることなく、新たな涼子として創造したことが逆に功を奏したのかもしれませんね。

そういう意味で監督から言われたのが「君は演技経験もないし、演技もできないのだから、涼子を演じるな、涼子を生きろ」ってことでした。そこで撮影中はプライベートでも、こういう場合だと涼子ならどう行動するかな、というのをいつも考えるようにしました。すると撮影の中盤ぐらいからかな、自分のなかに劇中の涼子が染みついてきたように感じることはありました。

 

soromon_f.jpg

――具体的に言うと、どのようなシーンでそう感じましたか。

物語のクライマックスである校内裁判のシーンです。私が、告発状を書いたと思われている同級生を救おうとしているのに、その少女に嘘をつかれてしまうところ。あそこで私、涙をこぼしているんですが、実は泣くことはシナリオに書かれていなかったんです。つまり、ほんとは泣くシーンじゃなかったんですね。ところが、知らないうちに涙が流れてしまっていた。あー、NGだなと思いました。でも、監督は「OK」と言ってくれて。

 

――涙が、演じている藤野さんの演技の涙ではなく、劇中の藤野涼子の涙だったと判断されたわけですね。

そうなのかな。実はよくわからないんですが、自然にこぼれていたのは確かです。

 

――両親役の佐々木蔵之助さんや夏川結衣さんのほか、津川雅彦さんや小日向文世さんなど、錚々たる顔ぶれと共演されたわけですが、現場で特に印象に残った人とかいますか。

現場では、私はほんとに自分のことで精一杯で、周りのことを見る余裕とか全然なかったです。だから、特にこの人が、という方はいらっしゃらないのですが、ベテランの方たちの演技を見ていて思ったのは、みなさん自分なりの、自分に合った演じ方をしているってことでした。私はまだ、自分にあった演じ方というのがわからないので、早く見つけたいなと思いました。

 

――共演者された人とは別に、どなたか目標にしている女優さんとかいますか。

この映画の撮影に入るまで、本とか映画にそんなに興味がなくて、あまり読んだり観たりしていないんです。なので、女優さんもほとんど知らなくて、目標にしている人というのは今はいないです。ただ、この映画に出演して、読書とか映画を観ることの大切さを知ったので、これからしっかり勉強していきます。

 

――演技のレッスンはいつごろからなさってるんですか。

小学校5、6年のころから、養成所のようなところに行ってるんですが、そのころは実は、将来女優になろうと決めていたわけじゃないんです。タレントとしてでも女優としてでも、ともかく芸能活動ができればいいやって感じでした。

 

――この映画に出演して気持ちは変わりましたか。

変わりました。ワークショップのときに「お前はまだ殻を破ってない」と言われたのが悔しくて、やってやろうじゃないかという気持ちで向かっていったのですが、そのうち演技をするってこんなに楽しいんだって改めて感じて、クランクアップのときにはもっともっと撮影が続けばいいのにって思っていました。いまは女優としてやっていくことしか考えていません。ほんとにいま、早く演技がしたくてしょうがないです。

 

soromon_d.jpg

――藤野涼子という役名をそのまま芸名にされたわけですが、そのことについてはどう考えていますか。

役名をそのままっていう前に、そうか私も芸名を考えなきゃいけない時期にきてるんだなと思いました(笑)。(佐々木)蔵之介さんや夏川(結衣)さんに相談したら、芸名にしておいた方が便利なときもあるよって言われて、そうかって思いました。役名を芸名にしたことについては、私にとって藤野涼子という役は、何度もくじけそうになったけれどもなんとか乗り越えた山のようなものだったので、そのことをいつまでも覚えておきたい、初心を忘れないようにしたい、という意味でいい名前をもらったと考えています。

 

――これからは舞台とか、いろいろなことに挑戦していきたいですか。

舞台はもっとたくさん、いろいろな経験を積んでからじゃないとだめじゃないかなって思うんです。今は映画の楽しさがわかり始めたところなので、しばらくは映像関係のお仕事で頑張りたいです。

 

――そういえば監督が、あなたの顔は「映画女優の顔だ」っておっしゃってるようですね。

「映画女優の顔」かどうかはわかりませんが、私、父からも「お前は昭和の顔だ」って言われているんです(笑)。そう言われるとちょっと複雑ですよね(笑)。やっぱり今風の顔が良かったなと思うし。でも、この顔だからこそ藤野涼子の役が演じられたのだったら、「昭和の顔」で良かったなって思います。

 

(取材・文:春岡 勇二).




(2015年4月 6日更新)


Check
藤野涼子役 藤野涼子 Profile
ふじの・りょうこ●00年生まれ、神奈川県出身。本格的な演技は『ソロモンの偽証』が初挑戦。本作への出演をきっかけに、役名でデビューを果たした。
 

Movie Data

©2015「ソロモンの偽証」製作委員会

『ソロモンの偽証 後篇・裁判』

●4月11日(土)より、
 大阪ステーションシティシネマ
 ほかにて公開

出演:藤野涼子
   板垣瑞生 石井杏奈 清水尋也
   富田望生 前田航基 望月 歩
   西畑澪花 若林時英 西村成忠
   加藤幹夫 石川新太
   佐々木蔵之介 夏川結衣 永作博美
   黒木 華 田畑智子 松重 豊
   小日向文世 尾野真千子
原作:宮部みゆき
   「ソロモンの偽証」(新潮文庫刊)
監督:成島 出
脚本:真辺克彦
音楽:安川午朗
撮影:藤澤順一
照明:金沢正夫
美術:西村貴志
録音:藤本賢一
編集:三條知生

企画・配給:松竹   
制作プロダクション:松竹撮影所

【公式サイト】
http://solomon-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164639/


 

©2015「ソロモンの偽証」製作委員会

『ソロモンの偽証 前篇・事件』

●大阪ステーションシティシネマ
 ほかにて上映中

【公式サイト】
http://solomon-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164234/

★中学生が見つけた“真実”とは? 藤野涼子&前田航基が語る映画『ソロモンの偽証』
http://cinema.pia.co.jp/news/164234/61728/