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「二世ってたくさんいるけど、彼はちょっとタイプが違う」 (堀江)
青春ファンタジー『忘れないと誓ったぼくがいた』
村上虹郎&堀江慶監督インタビュー

 日本ファンタジーノベル大賞受賞作家である平山瑞穂の同名小説を『ベロニカは死ぬことにした』(05)、『センチメンタルヤスコ』(12)の堀江慶監督が映画化した感動の青春ファンタジー『忘れないと誓ったぼくがいた』が、3月28日(土)よりテアトル梅田ほかにて公開される。早見あかり演じる、なぜか周囲の人々の記憶から消えていく不思議な運命を背負った美少女あずさのことを忘れまいと奮闘する主人公の少年タカシを演じた今注目の新人俳優・村上虹郎と堀江慶監督に話を訊いた。

――まず、監督が最初に原作を読まれたときの印象から教えていただけますか?

 

堀江慶監督(以下、堀江):大前提として、人間は忘れていく生き物です。でも、例えば昔付き合っていた人や亡くなった人なんかは忘れてはいくけど思い出が残る。今って、スマホでいっぱい写真とか動画とか撮っても見もしないで、結局消すってこともあるでしょう? でも、忘れたくないものは写真を残さなくても記憶に残る。思い出は胸に刻まれているよということ。それを半強制的にファンタジーで取り扱うということが面白いかなと思ったんです。

 

――確かに“半強制的にファンタジー”にするってところが面白いです。

 

堀江:ネットで話題になってすごく拡散されたような話題や、ものすごく炎上したような話題でもいつの間にか忘れ去られていることってたくさんありますよね。人間が話題にしていくものって限界があると思うし、結局は何人かの人間関係しか残らない。そういうことも含めて“忘れる”っていうのが面白いテーマだなと。情報が垂れ流しになっていて、何でも話題にしたい時代だけどそれも忘れていくという。だからこそ、リアルに深い人間関係を築いたほうがいいぞって思いますね。

 

――虹郎くんも原作は読みましたか?

 

村上虹郎(以下、虹郎):はい。僕は「これ、どうやって映像化するんだろう」と正直思いました。でも、内容に関して自問自答しても始まらないので、とりあえずタカシってどういう男の子なのかを監督と話したいなとすごく思いましたね。

 

――それでタカシってどういう男の子だと思って演じたんですか?

 

虹郎:今どきの、何の変哲もない、とにかく優しくて良い子。嫌味も言わないし。無駄が無駄に見えないと言うか。そこで、タカシは何が好きなのか? とかイメージを重ねることで、僕自身の顔つきもそのイメージに変わっていきました。役者ってこれが面白いなって思います。

 

――共演した早見あかりさんの印象はいかがでしたか?

 

虹郎:初めて会ったときから、立ち振る舞いで人柄が分かって「この人とは話せるな」と感じました。同じ誕生日ってのも何かの縁を感じずにはいられません。

 

堀江:血液型も一緒だし、同じ人種なんでしょうね(笑)。

 

――早見さんが演じるあずさを“忘れる”という演技は難しかったのでは?

虹郎:僕自身まだまだお芝居がうまくないですし、タカシと一緒に、という感覚でした。「リアル」って言われるのは嬉しいですけれど、“忘れる”演技に関しては、実際は知っているわけですし難しかったです。なんとか想像して演じました。

 

堀江:忘れるって演技は難しいんですよ。変に誇張しすぎると濃くなるし。でも、観ているお客さんに伝えたいし。それで、虹郎に「ここは濃いめ(の演技)で」とか指示したりしました。すると「OK~!」って、サッと理解してこちらが求めている演技を見せてくれるんです。「自分の感覚とは違うけど、こう見せたほうがいいんだな」という、こちらの要望をすぐに理解してくれるので良かったです。

 

 

虹郎がアントワーヌ・ドワネルに重なるなと思って…

 

 

――劇中、レンタル店でタカシとあずさがそれぞれ借りる映画が印象的でした。あずさが選ぶ映画は「タイムトラベルもの」とだけ言って、タイトルは明確にしていませんし想像が膨らみますね。

 

堀江:あずさが借りた映画はなんでも良くて、自分と境遇の近い子が出てくる映画を見たくて借りたということです。一方で、タカシが「僕は何をしているんだろう」って、さまよい歩く様はまさにフランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』だなぁと。虹郎が主人公のアントワーヌ・ドワネルに重なるなと思って、彼の出演が決定してからタイトルも決めました。

 

虹郎:そういえば先日、(アントワーヌ・ドワネルを演じたジャン=ピエール・レオー)来日していましたよね。

 

――していましたね。虹郎くんは、普段からたくさん映画を見ているようですが、やっぱり、そういう古い名作や数々の映画から吸収しているものもあると思います?

 

虹郎:自分が今いる時代の上の世代のスターたちが昔どんな芝居をしていたかが気になるから観ているというのもありますが、絶対あると思います。でも、浅野忠信さんとか森川葵さんみたいに映画を観ない人が桁違いの芝居をすることもあるから、映画をたくさん観ているかは演じることに直接関係ないと思います。演じることについては現場に行くしかないですし、あとはモチベーション次第。僕が自分のテリトリーの中で思うのは、どの役もそれぞれ違うはずだけれど、どこかが似通っている気がするということ。誰かが言ったこと誰かがやったことが組み合わさって役って成り立つのかなと。ありきたりのものを入れることも大事だと思っていますし、ありきたりばかりでもダメ。バランス感とアンバランス感の違いを頭の中で考えるのが個人的に好きなだけかもしれません。

 

 

落ち込んだり反省したりするのは希望があるから。絶望じゃないから。

 

 

――前作『2つ目の窓』で俳優デビューを果たして本作が2本目ですよね。役者になりたいと意識したのはいつごろからだったんですか?

 

虹郎:高校でカナダに留学して、表現することへの価値観の違い、表現することの楽しさを知ってからのような気がします。海外の人って、愛の表現も普段の会話も役者みたいにエンタテインメントに生きているような気がして。それで、自分の国を見直したときに、自分たちが面白いと思えるものも絶対にあるし、もっと作れる。そういったものを、役者として作っていきたいと思っています。

 

――留学するまでは興味もなかったんですか?

 

虹郎:自分では覚えてないんですが、祖母に「あんた、メディアに出たくないって言ってなかった?」と言われたことがあるので、小中学生のころは全然思っていなかったようです。

 

――デビューして1年くらいでしたっけ?

 

虹郎:いや、まだ1年経ってないんです。今の自分は総合的に見てもすごい速度で物事を見てると思います。2作目で主演をさせていただいて、1作目と2作目の違いが自分でなんとなく分かるんです。そこを今後も分かっていきたいという単純な好奇心で進んでいます。落ち込むことや反省することもありますが、僕には前しかない。落ち込んだり反省したりするのは希望があるからで、それは絶望じゃないから。

 

堀江:それを18歳で言えるのがすごいね。

 

――1作目と2作目の違いってご自身の演技についてですか?

 

虹郎:1作目は何を分かっていないかも分かっていなくて役にさせてもらっただけ。2作目では自分から自分が何を分かってないかを知りたかったんです。その進歩って大きなことだと思っています。

 

――前作『2つ目の窓』への出演が決まったころはどんなことを考えていたんですか?

 

虹郎:『2つ目の窓』に参加する前は「映画って何だろう?」って感じでしたが、その時オヤジに「もしかしたら虹郎が迷っている、自分って何者なんだろうって答えに近づけるかもしれないよ」と言われて。「じゃ、やる!」って返事しました(笑)。母親や祖母には反対されましたし、映画祭とかハデな場所に行くことより、母親との些細な会話も大事だって分かっているからいろいろ葛藤もしました。そのころは、「もう考えることが多すぎる!」と思っていましたね(笑)。

 

――では、『2つ目の窓』撮影中~撮影後に分かってくることもありましたか?

 

虹郎:最初は、撮影でいろいろ苦労している役者や監督を「大変そうだな」と他人事のように見ていたけど、自分も役者として参加して、本当にいろいろ大変でした。1作目では2ヶ月、今回は2週間の撮影期間だったんですが、その期間ってスタッフみんなとすごく密な時間を過ごすんです。でも、撮影が終わるとみんなが散り散りになる。撮影でどんなに辛い思いをしても、そこで「寂しいな」と思う感覚が中毒みたいになって、またもう1回映画に参加したくなるんです。だからオヤジは続けているんだなって分かったような気がしました。

 

 

二世っていろんな業界にたくさんいるけど、彼はちょっとタイプが違う

 

 

――母親はミュージシャンのUAさん、父親は俳優の村上淳さん。ご両親とも数々の作品を残し、多くの人に影響を与えてきました。

 

虹郎:作品と言っても、音楽と映画ってまったく別物だと思います。役者って、生き様は映るけど、“いたこ”みたいなもので体や顔を貸しているようなもの。その役にどう寄せていくか、もしくはどう引き寄せるか。役者が人生の中で残す作品の数も、時代のタイミングやその時の気分なんかで全く変わってくるし。でも音楽って自我だから。

 

――今後どんな俳優になりたいとか考えます?

 

虹郎:作品を残すということは自分の成長を世間にあらわにするということ。見てもらうという自己承認欲求みたいなものもあるし、そこで自我を見つけたいというのもあるかもしれません。日常は普通なのに演技でどこまで跳ねられるかが役者のすごさなのかな。でも、もちろん実生活からぶっ飛んでいる人がぶっ飛んでいる役を演じて、本当にぶっ飛んでいるというのもカッコイイと思う。それも人それぞれの生き様で自由なんですよね。これから出会う作品によっても変わっていくと思うし、自分のやりたいこと自体が変わっていくかもしれないから、今自分で決める必要もないのかなと思っています。

 

――お父さんって、虹郎くんにとってどんな存在ですか?

 

虹郎:僕が小学2年生のころに親が離婚して、それからはずっと母親と暮らしていたので、しばらくオヤジとも会っていなかったんです。中学生のころはちょこちょこ遊びに行っていましたけど。それで、去年の3月から東京でオヤジと一緒に住むようになって、なんかこの1年で初めて「僕にもオヤジいるんだ」って感じています。半年くらい前に初めてオヤジとケンカもしました。

 

堀江:ケンカって、お父さんに怒られたの?

 

虹郎:まぁ。親子として、同業者として、ライバルとしての筋を通せと。もちろんこっちが未熟だからってこともあると思うけれど、いくら大人が「昔はこうだった」と言っても、僕らの世代のことは僕らのほうが分かっているはず。だから、技術的にどうこうとかは20年の差で、あとはオヤジが17歳のときに得たものと僕が今得るものはまったく違うから、比べられない。

 

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堀江:二世っていろんな業界にたくさんいますけど、彼はちょっとタイプが違うと思うんです。親の影響を受けているように見えて、意外と全然受けていないんじゃないかな。両親と結果的にいい距離感を保っているなって思います。親子関係がベッタリだったらまた違ったと思いますね。関係がベッタリでも言えないし、関係が悪くても言えない、良い距離感があるからこそ言える言葉ですよね。

 

虹郎:距離感に関しては自然と身についているかもしれないですね。でも今はまだ18歳だから、人生これからどうなるか分かりません。

 

堀江:今後の彼がどう成長していくのかが楽しみですね。いろんなものに影響されずに育っていってほしいなと本当に思います。だから、演出も頭ごなしにするつもりもなくて、虹郎はどう思うかを確認しながら撮影を進めました。結果、それが正解だったと思います。是非、そこもご注目ください。




(2015年3月27日更新)


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Movie Data


©2006 平山瑞穂/新潮社 ©2015「忘れないと誓ったぼくがいた」製作委員会

『忘れないと誓ったぼくがいた』

●3月28日(土)より、
 テアトル梅田ほかにて公開

監督:堀江慶
出演:村上虹郎/早見あかり
   西川喜一/渡辺佑太朗/大沢ひかる
   池端レイナ/ちはる/二階堂智
   山崎樹範/ミッキー・カーチス/他

【公式サイト】
http://wasuboku.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/166844/

【STORY】

大学受験を控えた高校生タカシ(村上)は、織部あずさ(早見)という美少女にひと目惚れし、デートを重ねるようになる。しかし彼女は「私に会った人たちは全員、数時間後には私の記憶が消えているの」と告白。最初は信じようとしないタカシだったが、彼女の言葉はやがて現実のものとなり……。