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「何かを始めるのに準備とか要らない。
 まずは仲間を探すところからスタートしてみたらどうかな?」
映画『サムライフ』原作者・長岡秀貴インタビュー

 全財産725円の元教師が、理想の教育現場を実現させるためにまったく新しい学校を設立! そんな奇跡のような実話を描いた同名の自伝本を映画化した『サムライフ』が、3月21日(土)よりテアトル梅田、シネ・リーブル神戸、翌週の28日(土)より京都シネマにて公開される。そこで、本作の原作者であり、長野県上田市にある「侍学園スクオーラ・今人」の創立者の長岡秀貴に話を訊いた。

――全財産725円からスタートしたというのは、本当の話なんですか?
そうですそうです(笑)。学校を作る事業に関しては「今、やらないと!」という思いが強かったので、その自分の本気度を測るために、家を建てて、外車も2台買って。
 
――不安はなかったんですか?
お金に対する恐怖心は全くないですね。人の倍働けばいいと思っていますから。ただ、結婚した当初は無職だったので専業主夫をしていましたけどね。その期間は引きこもりの青年たちの心情を体験できるとても意味のある期間でした。
 
――長岡さんは学校に通えない子どもたちや引きこもりの若者の家庭を訪問してのカウンセリング活動も行っていますが、主夫として家にずっといることで、引きこもりになる気持ちって掴めました?
ええ、掴めましたねぇ。僕は大丈夫だと思っていたんですが、これが出ていけなくなるんですよ。27歳で教員を辞めて、家にずっといる…となると、嫌な噂しか立たないですから。地域の寄り合いみたいなのに出ても誰も「何で教員を辞めたの?」って聞いてこないし。こっちから「自分で学校作るために教員辞めたんですよ」なんて言うと、ますますいろんな意味で心配されて。
 
――引きこもると、周りの目が気になってくるんですね。
周りのみんなが僕のことを噂しているような気がしてきましたね。それで、引きこもりってこういう心境なんだなと。同情されたり、何かを提案されたり、励まされたりとか一切いらなくて、欲しいのは承認だけ。何もしていなくても認めてもらいたい。それさえあれば次へいけるのかなという気がしましたね。
 
――お金を作るためにまず飲食店を始め、そして自伝の執筆、集めたお金で、ついに学校の設立。この映画で描かれた物語が、「その後は映画化」へと続いていくような感覚で拝見しましたが、実際のところ映画化のお話はどのように進んだのですか?
自伝を自費出版した後、お手紙やメールでたくさん感想やご意見をいただいたんですが、ものすごい長文で熱量がハンパないのが1件あって、それが森谷雄(監督)さんからだったんです。その当時は全ての方に返事を書いていましたが、僕から森谷さんへの返信もかなり長文になりました。そこから自然な流れで一度お会いしましょうという話になって。
 
――森谷さんが数多くのテレビや映画を手がけているプロデューサーだとご存知だったんですか?
いえ。いただいたメールも一読者としての感想メールだったし、素性も明らかにしていなかったので全く知りませんでした。後々「実は映像をやってるんです」と打ち明けられて。そこで初めて「映画化したい」という話をされたんです。店を作る、本を出版する、学校を作るというのは、もともと自分の青写真の中にあったものですし、自分の中では特別なことをした感覚はないのですが、映画は自分で作れませんからね。考えてもみなかったので「この奇跡に掛けてみるか!」という感じでした。
 
――完成した映画を観てどう思われました?
初めて初号試写で観たときはファーストシーンから泣きっぱなしで内容が頭に入らなかったです。もうねぇ、ほぼそのままなんですよ。10年前の自分に対する自分への嫉妬ですかね。あのころは勢いあったなっていう(笑)。
 
――引きこもりの子たちに「友達になろう」と声を掛けるのが印象的でした。
面倒はみれないですもん。安心させるためではなく、こちらが覚悟をきめて「友達にならないと」という思いがありました。最初はいろいろ失敗もしましたが、それが全て僕の教科書になっています。会った家族全てが僕の教科書ですね。
 
――教員時代の教え子がいろいろと手助けをしてくれるというのが素晴らしい。長岡さんには人を惹きつける魅力があるんでしょうね。子どもたちにとってどんな大人でいたいとお考えですか?
僕自身まだまだ子どもだなと思ってますが、子どもたちに「早く大人になりたい」と思ってほしいので、一番近い身近な大人としてそこは意識していますね。今ってみんな、子どものままでいたくて、大人になるための背伸びもしない。諦めと理解という言葉がすごくマッチングしているなと思うんです。でも、そこを「大人って楽しい」、「早く大人になりたい」っていう子どもたちを育てるには、大人がどうやって魅力的であるかが大事だと思います。同時に、孤立化している大人が多いし、大人の孤立にどう向き合っていくかが課題でもありますね。
 
――生徒たちはこの映画を観てどんな反応でしたか?
嫌がるかなと思っていたんですが、ちょっと誇りを持ってくれたような気がします。生徒たちは「自分たちが選んだ学校、意外とすごかったんじゃね?」って初めて気づいたみたいな感じです(笑)。だからか指導する側も、やりやすくなったと言っていました。入学希望の問合せも増えています。
 
――今回、映画化されたことで、今後期待することはありますか?
1つは、僕らのような活動を知らないで助けを求めている子どもたちや親御さんたちに、映画の持つエンタメの力で、“光”を届けたいということ。僕らの力だけでは届けることが出来ない、本当に苦しんでいる人に届いてほしいなと思っています。2つ目は、お金もコネもないけど、人のために生きようと覚悟さえすれば何でも出来るということを伝えたいです。僕は、今以上規模を大きくしたいとは思っていないので、僕らみたいな規模で「オレたちもサムライフしようぜ!」という声がいろんな場所から出てくるといいなと思います。
 
――では、最後にメッセージを。
何かを始めるのに準備とか要らない。でも、それを一人ではなく仲間を探すところからスタートしてみたらどうかな? 息苦しくて家にずっといる子たちと、それを支えている親御さんたちに大事なのはあきらめないこと。そして、自分たちで解決しようとしないこと。誰かにゆだねる覚悟を持つことですね。毎日がスタートラインと思えば、今が一番若いんだし何でもできる。そんな気持ちにさせてくれる映画なんじゃないかなと思います。今って、父親の無関心と母親の過干渉が多いんだけど、オヤジたちから「これからがんばろうと思います」みたいな感想が多くきていてすごく嬉しいんですよ。イクメンとかやってほしいわけではないんです。オヤジはオヤジの役目を果たしてほしいですね。そういう感想を見て、改めて、この映画はそういう力を持ってるんだなって気づかされました。明日からちょっと何かを変えてみようかなとか、今日帰ってから何かをちょっとがんばってみようかなとか思える作品だと思います。



(2015年3月20日更新)


Check
長岡秀貴 Profile(公式より)
ながおか・ひでたか●1973年4月25日生まれ。長野県上田市在住。高校生の時に、野球部で甲子園を目指すも、原因不明の左半身麻痺で車椅子生活に。担当医師に「歩く事は絶望的」と宣告されるが、恩師の小林有也氏の励ましとリハビリの結果、日常生活が送れるまでに回復。この時期に「命」というものの脆さ、壊れやすさに向き合い、人生観を大きく変える。教師を志した大学時代に、生き辛さに苦しむ若者たちの現状を目にする。「公教育で見放されがちな若者に手を差し伸べ、共に育ち、生きる力を手

Movie Data

©2015『サムライフ』製作委員会

『サムライフ』

●3月21日(土)より
 テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、
 3月28日(土)より京都シネマにて公開

監督:森谷雄 
原作:長岡秀貴
  (「サムライフ」HIDBOOKS/ポプラ文庫)
出演:三浦貴大、松岡茉優、加治将樹、
   柾木玲弥、山本涼介 

【公式サイト】
http://www.bitters.co.jp/samulife/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/165006/

★映画『サムライフ』
原作者・長岡秀貴のサイン入り 非売品プレスシートを2名様にプレゼント!
https://kansai.pia.co.jp/invitation/cinema/2015-03/samulife.html

3月28日(土)
関西3劇場にて舞台挨拶決定!

日程:3月28日(土)
会場:京都シネマ-12:20の回上映前
   テアトル梅田-13:45の回上映後 
   シネ・リーブル神戸-16:30の回上映後
登壇者:森谷雄監督
    本多力(ヨーロッパ企画)
    諏訪雅(ヨーロッパ企画)
    ※諏訪さんは京都のみ登壇
料金:通常料金

※詳細は各劇場へお問い合わせください。