インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「ずっと憧れていた喜劇映画をやっと作ることができました」 大泉洋&新垣結衣が初共演を果たした 『トワイライト ささらさや』深川栄洋監督インタビュー

「ずっと憧れていた喜劇映画をやっと作ることができました」
大泉洋&新垣結衣が初共演を果たした
『トワイライト ささらさや』深川栄洋監督インタビュー

 ファンタジーとミステリーを融合させた加納朋子の小説『ささらさや』を『神様のカルテ』シリーズの深川栄洋監督が映画化した『トワイライト ささらさや』が、11月8日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開される。突然の事故で夫を亡くしてしまい、生まれたばかりの息子を一人で育てることになったヒロインと、色々な人の身体を借りて妻を助けようと奮闘する亡き夫の姿をユーモラスに描いた感動作だ。初めての母親役にチャレンジした新垣結衣が主演を務め、売れない落語家の夫に大泉洋が扮している。本作の公開にあたり、深川栄洋監督が来阪した。

――原作は2001年に書かれた加納朋子の小説『ささらさや』。原作を読んだ印象はどのようなものでしたか?

プロデューサーから原作を読んでみてほしいと言われたのが6年前だったと思います。今から13年前に書かれたものなので、印象としては少し懐かしい感じがしました。『ゴースト ニューヨークの幻』(1990)のような(笑)。プロデューサーがせっかく「僕に」とおっしゃってくださったので、お引き受けはしたのですが、なかなか脚本が出来上がらず、企画が立ち消えになりかけて…。そんな時に東日本大震災があって、プロデューサーから「今こそどうしてもやりたい」と連絡をもらったので、脚本を一から書き直して再開することにしたんです。そこで僕は、今だからこそ喜劇にしたいと思いました。30年くらい前の日本でよく作られていた“寅さん”のような人情喜劇だったら、うまくいくのではないかと思って、2年ぐらいかけて脚本を仕上げていきました。

 

――喜劇という点でもそうですが、映画は原作にはない要素もたくさん取り入れられていますね。脚本作りはどのように進められたのですか?

原作にはない喜劇の要素を入れるにあたって、原作は夫であるユウタロウの職業は普通のサラリーマンですが、それを落語家にしました。落語家だと一人何役もやるので、CGを一切使わずに、ユウタロウが乗り移るシーンを成立させられる。そう考えて脚本を書いていると、大泉さんが頭に浮かんで。全くオファーもしていない状態の時でしたが、大泉さんを頭に思い浮かべると、どんどん脚本が進んでいったので、改めて大泉さんのキャラクターってすごいと思いました(笑)。

 

――大泉さんと深川監督は、2010年に公開された『半分の月がのぼる空』以来のタッグですが、今回の大泉さんは監督の目にはどのように映りましたか?

大泉さんは、いい俳優になっていましたね(笑)。『半分の月がのぼる空』は、北海道から出てきて間もない頃に撮っていたので、本人も「ベテランに見えるけど、映画はほとんど経験がないので教えてください」と言われていましたから。今回は、親戚のおじさんのような感覚で「立派になったね」と思って見ていました(笑)。『半分の~』が終わった後、大泉さんには「渥美清さんやフランキー堺さんのような俳優になってほしい」という話をしていたんですが、そんな偉大な名優たちに近づいた、力強い俳優になっていました。これから40代、50代とどんどん面白い俳優になっていくと思います。

 

――そんな大泉さん演じる夫に死なれてしまった妻・さやを演じるのが新垣結衣さんですね。

この映画は、女性が母親に目覚めていく姿を描いているのですが、原作では母親になって大丈夫かと思うぐらい揺れているキャラクターなんです。でも、今回は女性に楽しんで観てもらえる映画にしたかったので、さやは凛とした強さを持った女優さんにお願いしたいと思って。新垣さんに母親役は早いかとも思ったんですが、お願いしました。僕は、さやの性格がいまいち理解できなかったので、新垣さんにお会いした時に「さやのキャラクターは理解できる?」と聞いたら、「わかります。さやは元々弱い人間ではなくて、強い部分は持っているけど、コミュニケーション能力が低かったり、自信がないだけなんだと思います。それが、母親になってなりふりに構わなくなって、色んな人と関わっていく中で強さがでてくるキャラクターなんだと思います」と言われて、なるほどと思って。僕もようやくさやのキャラクターをなんとなくつかめるようになったんです。

 

――脇を固める俳優陣も個性的なキャストが揃っています。大泉さん演じるユウタロウとの間に確執を抱える父親を演じた石橋凌さんは、強面の雰囲気を一掃させるような泣き顔を見せる役柄に挑戦しますね。

朝、石橋さんに会うたびに、「何回泣いたらいいんだ。今日は降水確率何%ぐらいだ?」と聞かれていました(笑)。父親の仕事も原作とは変えたんですが、それは僕の父親世代も石橋さんに演じてもらった父親のような感じだったので、昭和の男というか、昭和の家族の再発見をこの映画でやってみたかったんです。高度成長期の頃って、ほとんどの家は母親が家を守って、父親は外で働いて帰ってこないという感じだったと思うんです。それが原因で父親と息子の確執がうまれたりしているんだと思うんですが、そこから何かを再発見して、お客さまに何かを感じてほしいと思ったんです。

 

――また、ユウタロウがさやを心配するあまり、周囲の人々に乗り移ってしまう場面は、小松政夫さんや富士純子さん、中村蒼さん、撮影当時4歳だった(監督が天才子役と称賛する)寺田心くんの4人がユウタロウになりきって演じていてとても面白いシーンになっています。

皆さん、辛いとおっしゃっていました(笑)。今はCG全盛の時代ですが、僕は役者の力を信じて、あえてアナログな映画を作りたかったんです。人の温もりを大事にすることがこの映画のテーマでもあったので、お客さまが想像できる範囲で、驚くことをアナログな感覚でやってみたかった。選ばれた俳優さんたちは大変だったと思いますが、皆さん達成感は感じていたみたいです(笑)。

 

――では最後に、監督のフィルモグラフィーから見ても異質の「喜劇」というジャンルについてどのようにお考えですか?

お笑い芸人さんの人気の波が激しいように、笑いって時代ごとに変わっていくものですよね。僕は、ドリフターズを見て育ったので、今から見ると少し古いお笑いかもしれません(笑)。笑いってそのポイントは人それぞれ違うので、お客さまをのせるのが難しいんです。なので、監督の個人的なパーソナルな部分によって大きく左右されてしまうのが喜劇なんだと痛感しました。いつもはスタッフや役者の意見を聞いて、映画を作っていくのが僕のやり方ですが、今回は僕が説明して、みんなに納得してもらわないといけなかったので大変でした。でも、僕は子どもの頃から寅さんや今村昌平さんの喜劇が好きだったので、ずっと喜劇を撮ることに憧れていたんです。どうせ苦しむ映画撮影になるだろうと思ったので、逃げずに喜劇にチャレンジしてみようと腹をくくりました。でもこの映画を撮ってみて、改めて喜劇を作ることは本当に難しいと感じましたし、今までの映画作りとは全く違う経験をさせてもらいました。僕はあまり緊張することはないのですが、今回はお客さんに受け入れてもらえるのか、すごくドキドキして緊張しています。どうぞよろしくお願いします!

 

(取材・文:華崎陽子)




(2014年11月 7日更新)


Check
深川栄洋

Movie Data




©2014「トワイライト ささらさや」製作委員会

『トワイライト ささらさや』

●11月8日(土)より、
 梅田ブルク7ほかにて公開

出演:新垣結衣/大泉洋
   中村蒼/福島リラ/つるの剛士
   波乃久里子/藤田弓子/小松政夫
   石橋凌/富司純子/ほか
監督:深川栄洋 
脚本:山室有紀子/深川栄洋  
原作:加納朋子「ささら さや」(幻冬舎文庫)

【公式サイト】
http://www.twilight-sasara.jp

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/165147/