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「うまくいかないことはいっぱいあるけど、
それでも幸せの道はいっぱい転がっている」
注目の女優・我妻三輪子の最新主演作『こっぱみじん』
田尻裕司監督インタビュー

 『恋に至る病』『ダンスナンバー 時をかける少女』などで圧倒的な個性を放ち、観る者を魅了してやまない注目の女優・我妻三輪子の最新主演作『こっぱみじん』が、9月27日(土)より第七藝術劇場、10月4日(土)より神戸アートビレッジセンター、10月25日(土)より京都みなみ会館にて公開される。我妻演じる主人公・楓は、幼いころから憧れていた拓也(中村無何有)がゲイであることを知り、今まで何をするのも中途半端だった自分と向き合っていく。楓を中心とした4人の男女が繰り広げる片思いの行方と彼らのちょっとした成長を描くチャーミングな青春映画だ。音楽や照明を排除し、若者たちの感情をすくい取るように映し出した田尻裕司監督に話を訊いた。

――観終わった後に幸せな気持ちになる不思議な魅力がある映画だと思いました。この映画を撮ることになったきっかけから教えていただけますか?
実は、2010年の9月に私事ですが、子どもが生まれたんです。それがきっかけです。子どもが出来ると子どもの将来を想像するようになって、それまでは考えても見なかったことですが、次世代のために映画を作りたい。子どもが自慢できるような父親になりたいと思うようになって。それで自分の人生を思い返したりして…。
 
――簡単に言うとどんな人生だったと思い返していらっしゃったのですか?
僕の人生ってうまくいかないことだらけだったんですよ。大学受験も就職も失敗したし、撮った映画も『ラブジュース』(1999)だけは少し評価されたけど、それ以外は全く評価されなかった。所属していたピンク映画の会社も無くなって、Vシネマの仕事をちょこちょこしていましたが、それが映画館で上映されることなんてめったにない。上映されたとしても1日だけとか1週間限定とかレイトショーのみとか。東京で少し上映されて次の日にはDVDで店頭に並ぶ。そんな状況に監督として落ち込んでいた時代が何年も続きました。それで「このままじゃダメだ!」と思って映像制作会社「冒険王」を作って。そこの第1作目としてこの話を思いついたんです。
 
――監督の人生と子どもの誕生で生まれたお話だったんですね。
うまくいかないことだらけだったのに、子どもを見ているだけで幸せなんです。それで人生って気の持ちようなんだなと改めて気づいて。ふられたり、裏切られたり、騙されたり、借金背負ったり、親や友達が亡くなったり…って、コレほとんど僕のことなんですが(笑)、うまくいかないことはいっぱいあるけど、それでも幸せの道はいっぱい転がっている。それでも生きてこれて幸せに感じられるというような、たわいもない映画を撮りたくなったんです。
 
――この印象的なタイトルはどこから発想されたんですか?
たわいもない話にどんなタイトルがいいかなと思ったときに、南Q太さんの短編漫画集「あたしの女に手をだすな」を読み返したんです。この中にある「こっぱみじん」という1編がもともと好きで。セックスフレンドのいる女の子が主人公で、相手の男がセックスが終わると彼女の元に戻ってしまい“こっぱみじん”になるというお話です。セックスフレンドなので男が去っていくのは当たり前なんだけど、女の子はこっぱみじんになる。でも、その男からまた連絡がくると女の子は再生する。それだけの短い話なんです。漢字で書く“木端微塵”って仰々しいけど、平仮名で書くと可愛らしくてインパクトがあるでしょう? それで「こっぱみじん」というタイトルで、昔から一緒に仕事をしている脚本家の西田直子さんに脚本を依頼したんです。
 
――成り立ちとして、たわいもない話だけど幸せな気持ちになる映画で「こっぱみじん」というタイトルというところまで分かりましたが、物語の内容についてはどのように?
受験、就職、親や友達の死で辛い思いをしたことがある人は限られてくるかもしれないけど、誰しも感じたことがある普遍的な感情ってやっぱり恋愛感情かなと。恋愛って、実はみんな片思いなんじゃないかと思うんです。“すごい好き”と“すごい好き”が出会って結婚するなんて奇跡に近い。だいたいはどちらかが“すごい好き”で、相手は“ちょっと好き”くらいから始まっていると思いません?
 
――分かるような気がします。。
付き合い始めなんて、“別れたばかりで寂しいから”とか、“言ってきてくれてるから”とかが実際のところ多いんじゃないでしょうか。そこから付き合いだしたり結婚したりしてだんだんと情がわいてくる。そういう意味で、だいたいが片思いなんじゃないかと思うんです。それを拒絶されたら“片思い”。そこから話を組み立ててみようと思って。そんな話を西田さんに相談して作っていただきました。
 
――映画の中では、無償の愛や自分だけではなく相手を思う心などがとても自然に描かれています。「ゲイだからって特別に思うな」とか、台詞のひとつひとつは何気ないのに心に響く台詞が多く感じました。
語尾や言い回しは役者が自由に変えていますが、そういった内容に関しては(脚本の)西田さんのおかげですね(笑)。でも、「ゲイだからって特別に思うな」と「恋愛は奇跡だ」というような台詞は僕がお願いして入れていただきました。
 
――台詞以外にも、我妻さんが自転車に乗っているシーンが印象に残りました。Uターンせずに両足をついて方向転換する。まっすぐにしか進まない自転車。楓の不器用だけどまっすぐな性格を現しているのかなと思ったんですが。
いや、あれは……。彼女、自転車に乗れないんですよ。他の映画でも自転車に乗るシーンが結構あって上手に乗ってるように見えますがね。器用にUターンが出来ないんです(笑)。 それでも、おかしかったらカットしますがいいなと思ったので使いました。
 
――そ、そうだったんですか(笑)。我妻さんはもちろん、キャストの方々の演技が本当に素晴らしく表情ひとつひとつに感情がこぼれ出ているように見えました。演出で気を配られたことはありましたか?
演出らしい演出をしたのは小林竜樹くんだけですね。彼、あがり症なところがあるので。他のキャストに関しては場所だけ与えて、「どう動いてもいいよ」と。ライトを置くと動きも制限されるけど、この映画はライト無しなので、座ってもいいし立ってもいい。それで「みんなが良ければ本番行こうか」と言っていました。極端なこと言えば、僕がカットをかけた後の役者の表情が納得いってないようだったら「もう1回!」なんです(笑)。こういうやり方だったので、演出はしていませんね。
 
――それはキャストに役について考えさせる演出をしたとも言えますね。
そうですね。昔の日本映画を観ていると、服装はもちろん、喋り方やちょっとした仕草など、いろいろな表現でその役柄の性格や職業が分かるような演技を当時の役者はされているんですが、最近の日本の俳優ってあまり役作りをしていないなと以前から強く感じていたんです。例えば美容師さんの役だとしたら美容師の格好をしていると美容師に見えるけど、普段着だと美容師に見えないとか。それで、まず俳優たちには考えることをしてほしかった。僕が指示すると監督が言うからこうするみたいな感じで短絡的な発想になってしまうし、最初から「何も言わない」と宣言して。だから不安そうなところもありましたし、苦しんだとは思います。
 
――とくにゲイの青年・拓也を演じる中村無何有さんは、今まで石井裕也監督作にたくさん出演されていて何度も拝見していますが、正直この作品ではじめて演技力あるんだなと思いました。
石井くんの作品ではどちらかというととぼけた感じの役が多いですもんね。
 
――そうなんですよ。だからちょっと初めは意外な役柄な感じがしたんです。中村無何有さんを拓也役にした理由は?
実は小林くんと中村くんは今回演じた役とは逆の役でオーディションを受けていたんです。でも採用後、「逆ですよ」と言ったら、キャスティングプロデューサーも脚本の西田さんにもすごい驚かれて「だってゲイってカッコ良くないとダメじゃん」って言うんです。同性愛を描いた映画って、『モーリス』や『太陽と月に背いて』とか、ゲイ=美しいみたいな印象があるんでしょうけど、実際にはゲイでもゲイでなくてもカッコイイ人って少数。中村くんをカッコ悪いとは思っていないんですよ。眼鏡をはずすと色気のある顔してるし。役者としてこのふたりを使いたいと思って、小林くんはあまりにも顔が整いすぎているから自動的にお兄ちゃん役。中村くんを拓也役にしたいと思ったんです。
 
――音楽や効果音を後から足していないことで役者の個性をより浮かび上がらせていたのかもしれませんね。
音楽や効果音については、撮る前からそうするつもりだとは言っていて、撮り終えて編集も終わった後に入れないといけないなと思ったら入れるつもりではいましたが、いらないなと思ったので入れませんでした。
 
――そんな中、とあるシーンで警報が鳴り、とても驚きました。
西日本の人には分からない感覚かもしれないのですが、東北や関東では震災後の2ヶ月間くらい1日に何度も鳴っていたので、耳にこびりついている人も多いと思います。あの当時の僕は、半年前に子どもが生まれたので、警報が鳴る度に赤ちゃんを抱えて逃げ惑って。あの音が鳴ると現実に引き戻される感覚があるんです。普段は映画ばかり観ていて、現実か幻想か分からないフワフワした生活をおくっているんですが、あの音で現実に引き戻されて、生きていることを思い出すような。この映画って雇われ仕事でもなく自分の意思で作っていて自分が今強く感じていることを映画に入れずには作れませんでした。あのシーンは、脚本家に頭を下げて最後の決定稿に入れてもらったんです。
 
――唐突なので驚きましたが、そんな理由があったんですね。唐突といえば、エンドクレジットがない終わり方もとても印象的でした。 
オープニングにクレジットを入れるのを流行らせたいくらいに思っています。なので、今後、冒険王の映画はすべて頭にクレジットを入れます。あの方が映画を観終えた後に余韻が残るでしょう。
 
――そうなんです。この映画、本当に余韻がすごかったです。今後、冒険王はどういった動きをする予定なんですか?
ピンク映画を一緒にやってきた仲間4人で設立した会社なので、映画を第4段までは撮りたいなと思っています。それもこれも、この作品の結果次第ですので何卒宜しくお願いします!



(2014年9月26日更新)


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田尻裕司 Profile(公式より)
たじり・ゆうじ●1968年、北海道生まれ。 獅子プロダクションで佐藤寿保、瀬々敬久らの助監督を務めたのち、1997年に監督デビュー。代表作『OLの愛汁 ラブジュース』は日本映画プロフェッショナル大賞と「映画芸術」の年間ベストテンに選ばれ、イタリアのペサロ映画祭や湯布院映画祭など、国内外の映画祭で上映された。以後、ホラー映画や「艶恋師」シリーズ、「特命女子アナ」シリーズなど多彩なジャンルの作品を監督。2009年に制作会社「冒険王」を設立、『こっぱみじん』が第一回製

Movie Data





©冒険王

『こっぱみじん』

●9月27日(土)より
 第七藝術劇場
 10月4日(土)より
 神戸アートビレッジセンター
 10月25日(土)より
 京都みなみ会館にて公開

出演:我妻三輪子/中村無何有
   小林竜樹/今村美乃/ほか
監督:田尻裕司
脚本:西田直子

【公式サイト】
http://koppamijin.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/165220/

★『恋に至る病』我妻三輪子インタビューはこちら
https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2012-12/koiniitaruyamai2.html

Event Data

舞台挨拶&サイン会決定!

日時:9月27日(土)16:50の回上映後
場所:第七藝術劇場
料金:通常料金
ゲスト:中村無何有/小林竜樹/
    田尻裕司監督
  
日時:10月4日(土)18:50の回上映後
場所:神戸アートビレッジセンター
料金:通常料金
ゲスト:小林竜樹/田尻裕司監督

日時:10月25日(土)16:20の回上映後
場所:京都みなみ会館
料金:通常料金
ゲスト:今村美乃/田尻裕司監督

※サイン会はポスター又はパンフレットを買った人限定。