インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「都会で暮らしていては味わうことのない、ゆったりとした時間、 ファンタジックなようでリアルな大人のラブストーリーが撮れた」 「『がじまる食堂の恋』大谷健太郎監督、波瑠インタビュー

「都会で暮らしていては味わうことのない、ゆったりとした時間、
ファンタジックなようでリアルな大人のラブストーリーが撮れた」
「『がじまる食堂の恋』大谷健太郎監督、波瑠インタビュー

 大ヒット作『NANA』や『黒執事』など多くの話題作を手がける大谷健太郎監督が、波瑠を主演に迎え、沖縄県名護市を舞台に描くラブ・ストーリー『がじまる食堂の恋』が、第七藝術劇場、ユナイテッド・シネマ岸和田、109シネマズHAT神戸、T・ジョイ京都にて上映中。名護大通り商店街の一角にある“がじまる食堂”をひとりで切り盛する主人公と、彼女を中心に展開する男女4人の甘く切ない恋模様を、沖縄の美しい風景と共に映し出す。そこで、大谷健太郎監督と本作が初主演作となる女優の波瑠にインタビューを行った。

――本作は、市民で結成された組織「名護まち活性計画有限責任事業組合(LLP)」が企画・製作の映画とのことですが、監督はどの段階から関わっていらっしゃるのですか?

 

大谷健太郎監督(以下、大谷監督):町おこしの事業として映画人を全国から募集されていて、そのコンペに受かって今回参加しました。実は、別のシナリオがもともとあったのですが、それをもう少し明るい話にできませんかねと相談を受けて、思い切ってオリジナルのラブストーリーにしてみました。

 

――4人の男女の恋愛劇ということで、やはり監督の名作『avec mon mari/アベックモンマリ』『とらばいゆ』を思い出さずにはいられませんね。

 

大谷監督:この作品は僕にとって11本目にあたるのですが、10本撮ったら1本サービスみたいな感覚で、自分の好きなことが出来ると思っているところがありました。「名護の町おこしで映画を作ってくれ」という話ではなくて、「20代から40代くらいの旅行好きな方々が名護を訪れてみたいと思ってくれるような映画を作ろう」とするなら、やっぱりラブ・ストーリーでしょ。それで、千載一遇のチャンスかなと思ったのです。

 

――でも、『avec mon mari/アベックモンマリ』『とらばいゆ』とは違った印象を受けます。

 

大谷監督:オリジナルでゼロからキャラクターを作っていく上で、沖縄を舞台にするということについて考えました。『avec mon mari/アベックモンマリ』『とらばいゆ』は都会に生きる男女の話で、女性はバリバリ仕事していて、気が強く、恋愛に対してもアグレッシブ、男は僕の分身みたいな、なさけない感じ(笑)で描きました。でも、今回は舞台が名護。先代のおばあから受け継いだ食堂をひとりで切り盛りしている女性のもとに、旅行客の男性、元カレ、美女が現れ、騒動に巻き込まれていく。そういう中でヒロインは自分の生き方や恋心見つめなおして、運命の人をみつける。観客の方もヒロインの思いをひとつひとつ一緒に感じながら観られるような大人のラブストーリーがいいなと思いました。同じような“四角関係の恋愛”というスタイルで描いてはいますが、そういう点で『avec mon mari/アベックモンマリ』『とらばいゆ』とは全く違うんです。

 

――脚本は永田優子さんですが、監督からの提案はどういったものがありましたか? 

 

大谷監督:男性にももちろん観ていただきたいのですが、まずは女性の気持ちを捉えたいなという気持ちがありました。あとは、“ひんぷんガジュマル”というガジュマルの木ですね。木が寄生し合って大きくなる寄生樹という種類なのですが、根が伸びていつの間にか場所が動いていたり、木が歩いて移動しているかのような半端ない生命力があるのです。中でも大通りにある推定300年以上あるガジュマルの木は、地元の方が手を合わせてお供えしている。そこには、都会では感じえないようなパワーがあって、「これは絶対取り入れたい。この木の下でキスシーンを撮りたい」とお願いしたら、「この木の下では嘘をついてはいけない」とか、素敵なエピソードを永田さんが入れてくださって。女性心を丁寧に書いてくださったおかげで、冒頭からラストにうまく繋がっていけたと思っています。

 

波瑠:(ガジュマルの木は)根がすごく伸びていたり、枝も絡まるようにたくさんあって迫力がすごいんです。木として見たことない形ですし、圧倒されました。すごいパワーを感じましたよ。

(※注:映画の中に出てくるがじまるの木は、名護商店街のがじまるではなく、久志のがじまるです。)

 

――今までもたくさんの作品に出演されていますし、初主演という感じがしないですが、今回単独初主演とのこと。何か気持ちの上で違いはありましたか?

 

波瑠:特に初主演だからどうこうというのはなく、自分で自分のやるべきことを一生懸命やっていこうと思っていました。と、言うか撮影は1月末~2月に掛けて行われたのですが、寒い東京から逃れて、沖縄で2週間映画が撮れるというだけで無条件に嬉しかったですね(笑)。夜に名護へ到着したので、外灯もなく辺りは真っ暗で最初は不安でしたが、次の日からは天気も良くてすぐ居心地が良くなり、すぐに「いいなぁ、名護!」と思えました(笑)。

 

――監督から見た波瑠さん演じる主人公みずほはいかがでしたか?

 

大谷監督:やっぱりこの映画は20代から40代くらい、それより上でもかまわないのですが大人の女性の方に観ていただきたいという思いがありましたので、女性に支持される女優さんでないといけない。波瑠さんは幅広い層の女性に好感を持たれていますし、以前、ご一緒したこともあるので信頼感もありました。彼女にとっての初主演作でまたご一緒できるというのは魅力的な話だなと。この役にもすごくピッタリ合っているなと思います。

 

――波瑠さんはご自身が演じたみずほという女性をどのように捉えて演じられましたか?

 

波瑠:食堂をひとりで切り盛りして頑張っているしっかりとした女性なのですが、恋愛になるととたんに流されやすくなってしまう。過去の出来事で、恋愛に臆病になってしまっている部分もあるけれど、そういう不器用なところが可愛いなと思っていました。ただ、小柳友さん、桜田通さん、竹富聖花さん演じる3人のキャラクターが濃いので受け手に回ることが多かったので、何も考えていないような女の子にだけは見えないように気を配りました。

 

――みずほの揺れ動く気持ちが手に取るように伝わってきました。そんなみずほと波瑠さんご自身でどこか通じるようなところはありましたか?

 

波瑠:普段から自分が演じる役柄と自分自身が近いかというようなことは考えないのですが、不器用さは通じているところがあるかもしれません。あと、わたしも自然がすごく好きでノビノビと暮らすのが好きです。みずほのような生活がおくれたら、気持ちいいだろうなと思いますね。

 

――自然いっぱいの名護で波瑠さんが気に入った場所は?

 

波瑠:海や海沿いの道が、東京では絶対に見られない風景でやっぱり印象的でした。

 

――食堂が舞台ですし、いろいろな沖縄料理も食べられたのでは?

 

波瑠:フードコーディネーターとして地元の先生が振舞ってくださった“よもぎのジューシー”(注:“フーチバージューシー”という料理名です。)という雑炊が本当に美味しかったです。沖縄料理は以前から好きで東京でもよく食べるのですが、これは初めて知って大好きになりました。普段から料理は少しするんですが、あの味は絶対に再現できないですね。

 

大谷監督:名護にはオリオンビールの工場があって、工場の出来たては全く味が違ったのでビール好きは是非行ってみてほしいです。

 

波瑠:映画の打ち上げもその工場内でやったんです。工場内にレストランがあって、出来たてのビールを直接飲めるので鮮度がまったく違いましたよ!

 

――地元の方々の雰囲気はいかがでしたか?

 

波瑠:「あなた今映画撮っている子だねー」とみなさん気さくに話しかけてくださったり、撮影中でもまるで関係者のようにおばちゃんがスタッフと一緒に並んでいたり面白かったです(笑)。町の人みなさんが映画を撮っていることをご存知で、しかも歓迎してくださっているのが伝わってきて本当に居心地が良かったです。

 

大谷監督:ある日、撮影終わりでホテルに戻らずスタッフジャンパーを着たまま寿司屋に立ち寄ったことがあったのですが、カウンターで隣にいたおじいさんが「お前監督か。じゃ1曲やっておこうか」と三線を弾いて聞かせてくださって。しかも隣にいた奥さんが踊り出して「じゃ、監督も一緒に踊ってください」って(笑)。沖縄って、本当にこういうこと起こるのですね。本当に可愛がっていただいて、ありがたいなと思っています。

 

――素晴らしいですね。撮影がものすごく楽しかったのがよく分かります。逆に大変だったなと思うことはありましたか?

 

波瑠:やっぱり天気だけは、どうにもできないので大変でしたよね。

 

大谷監督:前半1週間はすごく晴れたんだけどね。

 

波瑠:前半1週間にもっと撮れば良かったのに、遊んじゃったんですよ(笑)。

 

大谷監督:前半は温かくて昼間はTシャツ1枚、夜はそれに1枚上着を羽織る程度だったけど、後半は少し寒い日もあったので「あ、冬だったな」と思い出していました(笑)。沖縄って夏のイメージが強いと思いますけど、日本で始めて桜が咲く場所で、1月2月って、名護の春なんです。馴染みは薄いかもしれないけど、春の沖縄の風景をカメラに抑えているのは結構貴重なのかなと思います。

 

――撮影を終えて、東京に戻ってきたときは寒かったのでは?

 

波瑠:1月2月の本当に寒い時期を沖縄で快適に過ごして、「みんなでまたご飯でも行けたらいいなぁ」なんて気分良く東京に帰ってきたら、雪が残っていて本当に寒かったです。現実に戻るのに苦労しました(笑)。自分の中の体内時間がゆるやかだったのに慣れすぎていたので辛かったです。夢から無理やり起こされたような感じでしたね(笑)。

 

――ハハハ! 最後にこれから映画を観る方々へメッセージをお願いします。

 

波瑠:名護だから撮れた映画だと思います。本当に感謝しています。その名護の気持ちいい空気の中で、わたしたちが演じた些細な気持ちの揺れ動きを観ていただいて、感想をお友達同士で話してくださったりしたら嬉しいです。よろしくお願いいたします!

 

大谷監督:都会で暮らしていては味わうことのない、ゆったりとした時間、名護の人たちの暮らし、豊かな自然に飛び込んでいったからこそ、ファンタジックなようでリアルな大人のラブストーリーが今回撮れたと思っています。この映画を観ると、名護に行ってみたいと思う方もいると思います。名護の方も暖かく迎えてくれると思うし、ガジュマルの木で運命の人に出会えるかもしれません(笑)。女子旅に名護、おススメです! 是非、映画館で『がじまる食堂の恋』ご覧ください。




(2014年9月28日更新)


Check

Movie Data



©2014名護まち活性計画有限責任事業組合

『がじまる食堂の恋』

●第七藝術劇場、
 ユナイテッドシネマ岸和田、
 109シネマズHAT神戸、
 T・ジョイ京都にて上映中

【公式サイト】
http://gajimaru-shokudo.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164992/