「映画を撮るのと旅に出るのは似ている」
サイクリングロードムービー『南風』
萩生田宏治監督インタビュー
日本と台湾のスタッフ&キャストのコラボレーションによって実現した爽やかな青春映画『南風』がシネマート心斎橋にて上映中。取材のため日本から台湾を訪れたファッション誌の女性編集者と、現地で出会った少女がひょんなことから旅の道連れになり、サイクリング旅行を繰り広げていく姿を描く。日本人の夏休みの渡航先で今年一番人気に輝いた台湾の魅力的なスポットを背景に、ヒロインたちの心の変化を綴った萩生田宏治監督に話を訊いた。
――今、空前の台湾ブームですが、企画自体はもっと前からあったんですよね?
台湾との合作でサイクリングロードムービーを作ろうという企画で、実は1ヵ月半後から撮影が始まるというタイミングでお声を掛けていただいたんです。その企画というのは、世界中のあらゆる場所でネットが繋がる時代に、肌身で人と人が繋がる環境を作っていきたい。日本だけに留まらずに海外との繋がりを作っていく波を提供していきたいというようなものでした。
――では、脚本もその段階で出来上がっていたということですか?
企画開発をしながら脚本もすでに5稿くらいになっていて、とりあえず全部読んでみてくださいという状況で。それで、1番最初の原型のものが「この映画を撮りたい」という衝動にかられたので「これで撮らせてください」とお願いしました。僕も高校生のときに自転車で旅に出た経験があったので、そのころの感覚を映画に持ち込めたら面白くできるかなと思いまして、参加しました。
――脚本を読まれてどう感じましたか?
悩めるアラサー女子のお話ではあるんですが、僕らがなんとなくイメージするアラサー女子を描くのではなく、主演の黒川芽以さんを藍子に反映させていくのがいいだろうなと思いました。黒川さんと会って、彼女自身の悩みや不安を聞いて台本に取り入れて、年齢も彼女に合わせて設定を変えています。
――黒川さんと言えば、『ぼくたちの家族』の好演も記憶に新しく、本作以降も『ドライブイン蒲生』など待機作が多数。順風満帆に見えても、いろいろ悩めるお年頃ですもんね。
彼女は8歳からこのお仕事をされているのでもう大ベテランなんですが、現場に新人の若い子なんかがいると相手に花を持たせてしまうようなところがあるんです。たくさんの現場を経験して、今後もやり続けるしかないという覚悟はあるけど、ちょっと控えめになってしまうというようなことを言っていました。技術も持っているし、演出家の求めることもすぐに理解するんだけど、自分は前に出ず相手を立てる。根っから優しくて面倒見がいい。仕事の出来る女の悩みですね。
――テレサとの日本語と中国語のやりとりにもそういうところが見えたかもしれないですね。
黒川さんは、ちょっとした台詞のやりとりでも相手の出方に対してどう答えるか、緻密な計算の上で演技をされる方なんです。でも、相手が中国語で来た場合はさすがにリアクションのタイミングが難しいので本読みの練習時から、いろいろ演技プランを組み立てようとしていました。でも、相手のテレサはかなり天然な子で、現場で台詞をふっ飛ばしちゃったりとかするんです。テレサにいろいろ話して「はい!」と答えながらも現場では全然違うことしたり(笑)。最初は黒川さんも不安だったと思います。
――テレサ自身もこの映画で演じた役柄そのままのキャラクターなんですね!
テレサはその場で感じた感性で動く自由人です(笑)。と言っても、どうしても通訳さんを介してのコミュニケーションなので、どこまで通じているのか分からず…。いろんなシーンでものすごく説明しました(笑)。
――では、演出は難しかったですか?
黒川さんに関しては、その場その場で黒川さん自身がどう変わっていくのかを撮っていきたいと思っていたので、ほとんど一発OKでした。テレサの方は彼女の天然を活かしながら、話をしながら作っていきましたね。台湾と日本ではやはり撮影に違いがあって、台湾は勢いで撮るところがあるようなんだけど、演技の溜めの部分とか間を置くところとかテレサにはかなり細かく指示を出しました。
――撮影時に感じた日本と台湾の違いって、ほかにもありましたか?
日本は台本を読み込んでそれぞれのスタッフがそれぞれの仕事に理解を反映させながら監督の演出を支えていくという形だと思うんだけど、台湾のスタッフは台本を現場に持ってきていないし、現場現場で「あ、ぼくがゼロから組み立てていくんだ」って(笑)。最初はそんな現場に驚きもありましたが、その場で少しづつ伝わっていく感覚が嬉しくて、いつの間にか説明するのが楽しくなってきました。
――それって反対に自由とも言えますね。
その場の発想で自由に撮れたのは、撮影監督の長田(勇市)さんが僕の師匠である林海象組のキャメラマンで天才的な方だったおかげでもあります。一度動きを見ればどう撮ればいいか理解されていましたから。意外とスピーディに旅をしながら撮っていく感覚を維持できました。
――やはり海外での撮影となるとスケジュールに限りがありますよね。
去年の7月1日から12日間くらいの撮影でした。長田さんが石垣島出身で、石垣島って台湾のすぐ横なので気候のことをすごくよく分かっていらっしゃって。なので、クランクインの日程も長田さんのご意見で決めました。「この時期って雨も降らないし、朝8時から10時くらいまでの空がものすごく綺麗」とおっしゃっていて。現場に行くまでに道に迷ったりもしましたが、比較的スムーズに撮れました。
――道に迷ったり、そういったアクシデントもロードムービーならではですね。
台湾の人たちはアクシデントがあって当たり前でアクシデントをアクシデントと思わないところがあるかもしれないです。日本は問題があるとそれを解決するために、問題の内側に入っていくところがあるけど、台湾では小さなことにこだわらない。
――その文化の違いで生まれる環境も面白いでしょうね。
こっちが絶対ではなく、いろいろある中のひとつだと分かるし、意外と日本のほうがマイノリティかもしれないなと感じました。「なんで時間通りじゃないんだ!」とか言っても、時間通りに動くのって海外どこ行っても僕らだけ(笑)。だからと言って、こちらのやり方を変える必要もないと思うけど、こっちを基準に考えず、客観的に見ることが出来るようになったというか。今回はそういったことを知るいい機会でした。自分たちのやり方だけが全てではなく、別の見方が出来るというか外側から見れるような感じ。これって、主人公の藍子と同じで旅して得られる視点と同じかもしれませんね。映画を撮るのと旅に出るのは似ているところがあるんだなと感じています。いろんな別の世界を知るということでね。
――台湾とはもともと何か繋がりがあったんですか?
僕の師匠である林海象監督の『海ほおずき The Breath』(96年)という原田芳雄さん主演の映画がありまして、当時エドワード・ヤンのスタッフらと一緒に助監督として1ヵ月半くらい台湾に来たことがあるんです。そのときも長田さんがキャメラマンでしたし、中には今では巨匠になられましたがウェイ・ダーション(『セデック・バレ』等)もスタッフにいました。そのときも台湾を縦断するロードムービーでポンコツ車で周った記憶があります(笑)。
――今回は車ではなく自転車で周るというところも大きなポイントですよね!
高校生のころに休みを使って自転車でいろんなところを周ったりだとかしたんですが、自転車のスピード感って、もちろん自分の足ですから気分によっても変わる。それによって風景も変わる。藍子も自分の力で風景が変わっていく、というか変えていく感覚が面白いのかなと。
――最後にメッセージを。
台湾の雰囲気、風、においを映画館で感じていただくにはどうしたらいいか考えながら撮りました。藍子を通して台湾を見る。外国への入口に少しでも触れていただければ。また、そこから様々なことを考えるきっかけになればいいなと思っています。楽しんで観ていただければ幸いです。よろしくお願いします。
(2014年7月23日更新)
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萩生田宏治 Profile
はぎうだ・こうじ●1967年生まれ。高校時代より8ミリ映画を作り始める。和光大学在学中より内田栄一、山本政志、林海象、河瀬直美作品の助監督を務める。93年に製作・監督・脚本を担当した『君が元気でやっていてくれると嬉しい』でデビュー。その後、テレビドキュメンタリー番組の演出を経て、J・MOVIE・WARS5『楽園』(98)がトロント映画祭、釜山映画祭等に出品され、00年芸術祭テレビドラマ部門優秀賞を受賞。西島秀俊を主演に迎えた『帰郷』(04)はナント三大陸国際映画祭、東京国
Movie Data
©2014 Dreamkid/好好看國際影藝
『南風』
●シネマート心斎橋にて上映中
8月23日(土)より、元町映画館
順次、京都シネマ
にて公開
出演:黒川芽以/テレサ・チー
郭智博/コウ・ガ
監督: 萩生田宏治
脚本: 荻田美加
【公式サイト】
http://www.nanpu-taiwan.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/165081/