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「こんなの映画じゃない!ってよく怒られたりするんですが(笑)、
誰が映画はこういうものだと決めたんだ、と(笑)」(中島)
『渇き。』中島哲也監督&役所広司&小松菜奈インタビュー

 『告白』の中島哲也監督が役所広司を主演に迎え、第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生の『果てしなき渇き』を映画化した『渇き。』が、6月27日(金)よりTOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。突然、失踪してしまった優等生の娘を、元刑事の父親が捜索するうちに想像もしていなかった事態に巻き込まれていく姿を描き、主人公の娘役をオーディションで抜擢された新人の小松菜奈が演じるほか、妻夫木聡、オダギリジョー、中谷美紀らが顔を揃えた話題となっている。本作の公開にあたり、中島哲也監督と役所広司、小松菜奈が来阪した。

――累計発行部数36万部を超えるベストセラーでありながらも、その一方で激しい暴力描写などで、映像化不可能だと考えられていたという『果てしなき渇き』。まずは、その原作を映画化しようと思った理由は?

中島哲也監督(以下、中島監督):この原作は、本当に血みどろなんですよね。暴力に次ぐ暴力で。まともな人間が一人もでてこない。小説といえども、読者が感情移入できるような人が一人ぐらい登場するのが普通だと思うんですが、この小説には全く出てこない。それでも、僕はこの小説に出てくる登場人物たちがものすごくエネルギッシュだと感じたんです。負のエネルギーかもしれないですけど…。この原作をこのテンションのまま映画化すれば、今まで観たことのない新しい人間ドラマができるかもしれないと思いました。今まで正しいと思っていた規制概念のようなものが崩れて、新しい人間理解の仕方ができるのではないかと。大変なことになることは最初からわかっていましたが、それでも映画にしようと決意したんです。

 

――「読者が感情移入できるような人が全く出てこない」小説を映画化されたということは、映画を観た反応として多く言われている、いわゆる“共感”を求めていないということですか?

中島監督:従来の映画のような“共感”というのは全くできないと思います。映画には相当変な人間たちが登場しますが、あそこまで変ではないにしても、ものすごく大切なものをなぜか瞬間的に破壊したくなるような、変な人間の本能というのは誰でも少しは持っているのではないかと思うんです。(主人公の)藤島に共感できなくても、藤島という男が持っている獣としての人間の本能というのは、ほんの少しは誰にでもあるような気がするんです。ただ、映画を観た後の感想として「藤島に共感した」と言うのは、周りにもひかれるだろうし、「共感できない」というコメントが出てくるのはわかりますが(笑)、ほんの少しでもいいし、誰にも言う必要はないから、この映画のどこかに共通点を見つけてもらえると嬉しいんですけどね(笑)。

 

――では、元刑事でありながら、失踪した娘を探していくうちに狂気を宿していく父親・藤島役という、なかなか“共感”しにくい役柄を役所さんにオファーした理由は?

中島監督:藤島は、ものすごく暴力的で凶暴な面がほとんどなんですが、その中にちょっと滑稽さを入れたかったんです。藤島って、汚い言葉を吐きまくって、暴力をふるいまくりながらも、わりと弱いじゃないですか(笑)。面白いだけでもだめだし、凶暴なだけでもだめなんですよね。口だけで全然だめ、という不甲斐なさというか人間らしさみたいなものを演じられる俳優さんというのは、なかなかいないんです。そういう切り替えも含めて、藤島という役を膨らませてくれるのは役所さんしかいないと思いました。でも、この役はすごくリスクの高い役なので、役所さんがまさか引き受けてくださるとは思いませんでした。だから、役所さんが引き受けてくださると聞いた時は、正直びっくりしました。

 

役所広司(以下、役所):台本を読んで、この映画を中島哲也監督が監督するなら出たいと思いました。日本映画を背負っていく監督ですし、日本映画界に喝を入れる映画のようにも感じましたし。こういった新しいことをやっていく監督の作品に参加したいと強く思いました。

 

中島監督:日本映画に喝を入れたいという気持ちはないですよ(笑)。映画というジャンルが豊かであるということは、いい映画が1本あるのではなく、ジャンルの幅の広さで決まると思うんです。どれだけクオリティが高い映画でも、似たような映画がたくさんある状態はあまり豊かとは言えないような気がして。だから、ものすごく暴力的で人間の嫌な部分しか描いてないような映画があってもいいと思うんです。僕が作った映画が正しいというわけではなくて、色んな映画がある状態が豊かなんじゃないかと。人があまり作ってないものを作ろう、似たようなものを作っても意味はないという意識はありますね。この映画が好きか嫌いかは、観た人の好みですから。

 

――役所さんは、自身初と言ってもいいほどの凶暴な役柄についてどのように感じていましたか?

役所:演じている時は藤島に共感しながら演じていました(笑)。「俺は藤島と同じ意見だ」と自分に言い聞かせたりして(笑)。でも実は、この映画の中で藤島が一番正直者だと思うんです。きっと監督が、藤島に微かな“善”の部分を注ぎ込んでくれたんだと思います(笑)。暴力まみれのバイオレンス映画ですが、究極は愛の物語なんですよね。登場人物みんなが愛に飢えている。そんな中で藤島がとった行動はますます悪い方向にいかせてしまいますが、唯一藤島の行動で誉められるところは、自分の命をかけて、娘の居場所に辿りつこうとする、その根性ですよね。それでも、普段口にできない言葉を口にしたり、藤島を演じることは、僕は面白かったです。

 

中島監督:確かに藤島は正直者ですよね。暴力的ではありますが、腹黒いところは全くない。この映画の他の登場人物たちはみんな嘘つきですから(笑)。それに、色んな俳優さんとお仕事をしていて、僕は不思議だと思うんですが、みんな悪役をやる時はイキイキしているんですよね(笑)。今回も妻夫木さんが演じた役なんて本当にひどいキャラクターですが、優しい青年役をやっている時よりも、イキイキしていましたよね(笑)

 

――本作が映画デビュー作でありながら、つかみどころがなく、周囲を翻弄する美少女・加奈子という難しい役を演じた小松菜奈さんについては?

中島監督:シナリオを書いている段階では、ぼんやりした加奈子のイメージしかなかったんですが、オーディションで小松さんに出会った時に、彼女のムードや不思議な目つきを見て、「加奈子ってこういう子かもしれない」と思ったんです。僕の中で加奈子が具体的にイメージできたのはその時でしたね。本当に運命的な出会いだったと思います。

 

――小松さんは、どのように加奈子というキャラクターを理解して演じていたのですか?

小松菜奈(以下、小松):加奈子には共感できるところがなかなかないし、自由で何を考えているかわからないキャラクターですが、私は、それでも人を惹きつける不思議な魅力を持った女の子なんだと感じていました。それよりも、すごく豪華なキャストの方が揃っていたので、その中で演技をするプレッシャーが、私の中では一番の壁でした。基本的には監督から「自由にやってみて」と言われていましたが、自由にやると言っても、やっぱりどうやって動いたらいいんだろうと考えてしまいましたし、どういう風にその自由さを出していけばいいのかわからなくて難しかったです。そうしたら、「あんまり考えすぎるな」と言われて、余計にどうしたらいいかわからなくて、初めての演技だったので苦労しました。でも、最後は素で楽しめるようになりました。

 

中島監督:はた目には全然悩んでいるように見えなかったけどね(笑)。周りのキャストが錚々たるメンバーだから、緊張してもおかしくないのに、普通に見えたから大物だな、と思っていました(笑)。

 

――たしかに、加奈子や藤島のキャラクターにも“共感”できるところを探すのは、なかなか難しいかもしれない。それも、監督が、この原作を映画化することで、今までの映画の「規制概念のようなものが崩す」ことを目指していたからですか?

中島監督:映画の中でも藤島が「何がルールだ。クソくらえ!」と言うシーンがある一方で、本当に悪事をはたらいている連中の方が「ルールがある」と言っていたりするんですよね。無意識のうちに僕は、心のどこかで、そういうルールを打ち破る側にいたいという気持ちはあったかもしれないですね。僕が映画を作ると「こんなの映画じゃない」ってよく怒られたりするんですが(笑)、誰が映画はこういうものだと決めたんだ、と(笑)。映画というものの可能性を小さくまとめる必要性はないと思うんです。僕は、そういう映画のルールみたいなものは決めないようにしています。

 

役所:映画会社にもヒットするルールみたいなものはあると思うんです。確かに、映画もビジネスなんですが、それだけに走っていくとだめなんじゃないかと。今回は、中島監督が自主映画でもいいから作ろうと思って作った作品をギャガさんが配給すると言ってくださいましたが、この作品が成功すれば、また変わっていくと思うんです。「自主映画でもいいから作りたい」という映画監督の熱い言葉を、我々演じ手もスタッフも本当は待ち望んでいるような気がします。こういう暴力もそうですが、暴力もだめ、煙草もだめ、お酒もだめというように、色んなものに制約があると、映画も面白くなくなりますよね。

 

中島監督:一番怖いのは、自分がそういう制約の中で生きていることを感じなくなることですよね。例えば、僕らみたいに映画を作る立場でもそうですが、みんなが喜びそうなそうな企画しか考えなくなって、それが自分の本当にやりたいことだと思い込んでしまうことが一番怖いですよね。ものすごい既成概念の中にいるのに、人間は「俺は、自由に生きている」って思っちゃうんですよね。そういう制約を外してしまうものが時にはないとだめだと思うんです。

 

 最後に中島監督が言っていたように、本作は、暴力的で人のことなんて全く考えていない腹黒い人間ばかりが出てくる映画だが、その一方で、そういう今までの映画にあった制約や既成概念を取っ払ってくれる作品なのだ。たまには自分の中にある“こうあるべき”というリミッターを外して本作を観ることで、また違った世界の見方ができるのかもしれない。また本作は、公開初日から7月18日(金)まで(当初4日(金)までが延長されました!)学生早割1000円キャンペーンを実施する。中島監督は、「この映画の受け取り方は人それぞれだと思うんですが、この映画を観て受け取ったことを観終わった後に皆で話すことで、それぞれについて深く知ることができるんじゃないかと。悪意に満ちたものや暴力的なものを閉じ込めて見せないというのは、逆に気持ち悪いと思うんです。こういうものを観て、免疫をつけて、ヘビーな人生だけど、負けることなく生きてほしいですよね」と学生たちにエールを送っていた。学生だけでなく、大人も頭のどこかにある既成概念を取っ払って、この映画を体験してほしい。

 

 (取材・文:華崎陽子)




(2014年6月26日更新)


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Movie Data





©2014「渇き。」製作委員会

『渇き。』

●6月27日(金)より、
 TOHOシネマズ梅田ほかにて公開

【公式サイト】
http://kawaki.gaga.ne.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164572/

Event Data

舞台挨拶決定!

【日時】7月6日(日) 15:45の回、上映前
【会場】TOHOシネマズ梅田
【料金】通常料金
学割キャンペーン延長中(学生1000円)
【登壇者(予定)】小松菜奈