大人には懐かしく、子どもには新鮮!
瀬戸内海を舞台にした宝探しアドベンチャームービー
『瀬戸内海賊物語』大森研一監督インタビュー
2011年に開催された《瀬戸内国際こども映画祭》で、エンジェルロード脚本賞のグランプリを受賞した新鋭・大森研一監督が、故郷の瀬戸内海を舞台にメガホンをとった冒険映画『瀬戸内海賊物語』が、5月31日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開。日本最強と言われた大海賊・村上水軍が遺した埋蔵金をめぐって、その血を引く少女が自分たちが暮らす島を守るために立ち上がる。そこで、大森研一監督にインタビューを行った。
――監督は大阪芸大卒とのことですが、映像科ではなかったんですね。
建築学科なんです。昔から映画監督への憧れはあったんですが、大学に入るまで愛媛にいて田舎なので夢にリアリティがなくて。でも、大阪芸大に入ると急に身近に感じて、同期の熊切監督が撮った『鬼畜大宴会』を少し手伝ったりしていました。関わっていた人が多かったので、彼は僕のこと覚えてないと思いますけど(笑)。それで大学卒業後に、昼間は建設関係の業界紙の記者をして、夜は大阪ビジュアルアーツ専門学校の夜間の映画コースに通って基本を学びました。
――本作でその経験が活かされたところは?
今にしてみると、記者で結構しごかれたのが脚本を書くのに相当役にたっているんです。建築に関しても、単純に空間構成や画角だったり。今回、造形物など美術も相談させてもらいながらやらせていただきました。
――エンジェルロード脚本賞への応募のきっかけは何だったんですか?
この公募には「舞台は瀬戸内」「子どもたちが主役」という括りがあったんですが、もともとそういう映画を撮りたいと思っていたので、水を得た魚の状態でした。地元の村上水軍をモチーフにしたお話と、『グーニーズ』や『インディ・ジョーンズ』など、自分自身が映画監督を目指した原動力となった冒険映画の融合したようなものを撮りたいと、構想自体は20年くらい前からあったんです。小・中学校くらいから村上水軍についての文献を読み漁っていました。それを脚本に落としたような感じです。あとは、村上水軍がちょっとしたブームになる予感もあったので。
――ブームの兆しが分かっていたんですか?
なんとなくですが(笑)。陸の大名は出つくした感があったので、そろそろ海の大名が来るだろうなと(笑)。
――今回、その調べていた史実を映画に活かしたところはありましたか?
今回は現代劇なので冒頭のところしか船団のシーンは無いんですが、彼らが何百年も前に活躍していたころと今も変わらないのは潮流ですね。あれだけは、現代劇でも当時と同じで映せるということで、年代を超えての縦の軸での繋がりを出せたと思っています。あれだけは、どこの海でもいいというわけではないし、村上水軍の原点でもあるんですよね。今回は現代劇ですが、合戦も描きたいですし、時代劇も撮りたい。本作の続編もすでに構想はありますが。
――村上水軍を扱った映画は本作が初めてとなるんんでしょうか?
テレビドラマで『鶴姫伝奇』という後藤久美子さん主演のものがあったようですが、映画もドラマも含めてたぶんそれが唯一だったと思うんですよね。でも、それに関しては村上水軍の話というよりは、(本作に出て来る)村上武吉の時代の少し前の瀬戸内水軍の話なんです。
――同じようなタイミングで2014年度の本屋大賞を「村上海賊の娘」が受賞して、盛り上がってきていますね。
僕の映画も女の子が主役ですが、地元の人に「村上水軍の映画を撮る」と話すと誰もが「鶴姫の映画?」と返すくらい鶴姫が浸透しているんです。日本のジャンヌダルクと呼ばれている実在した人物なんですが「村上海賊の娘」も女性が主役で鶴姫の影響があると思いますね。
――グランプリ受賞の際、審査員からはどんなコメントをもらったんですか?
子どもたちに夢を与えるような作品を探していたので、是非これで、と。瀬戸内海国立公園選定80周年記念映画でもあるので瀬戸内を盛り上げようという意識はありました。
――映画化に向けてシナリオで変えたところはありましたか?
基本のベースは変わらないんですが、映画祭が行われる小豆島の要素を入れて、舞台が愛媛と小豆島、半分半分の話になりました。エンジェルロードという小豆島にある有名な道も映画の中には出てきます。1日2回、干潮時に海の中から現れる道で、その短い時間にしか撮影できないんです。
――映画の中に出てくるフェリー廃止のエピソードは実話なんでしょうか?
関西をつないでいるフェリーが確か何本かあるんですが、阪神淡路大震災のときに何本か路線が無くなって、311を期に復活したりしたものもあるようです。
――『魔女の宅急便』のようなどこかファンタジックな景色と思ったんですが同じ小豆島の撮影なんですね。
僕らの撮影が終わったら入れ替わりで『魔女の宅急便』のクルーが来ました。公開はこちらが後になりましたが撮影は先にしていました。
――主演の柴田杏花さんのキャスティングの決め手は?
全国から1000人以上集めてオーディションを行ったんですが、目力ですとかこの子のブレない軸のようなものを強く感じて。実際の彼女は映画の中とはまるで別人です。わんぱくさのかけらも無くて清楚でおとなしい子なんです。オーディション時もそうで、周りからは大反対を受けました。でも、僕は「いける!」と思って突き通しました。結果、観ていただければ分かりますが正解だったと思っています。おとなしく見える中にも闘志や集中力を感じたんです。
――子どもたちの中で言えば、葵わかなちゃんは有名ですよね。
わかなちゃんも同じように周りからは大反対されて大変でした。説得して説得して戦いました。結果、今では売れっ子ですからね。選んで良かったと思います。
――子どもたちの演出はどのようにされましたか?
理屈を説明するより、まず演じてみせて真似してくれと。その繰り返しでしたね。吸収が早いので面白がりながら演じてくれて、途中からはニュアンスを分かってくれて、ものすごい集中力だったので撮りやすかったです。代役を立てる予定だったところも自分から進んでいろんな場面に挑戦してくれました。
――映画に出てくる洞窟は実在するのですか?
CGの場面もありますが、いろんな洞窟をつなぎ合わせて使っています。観光化が進んで手すりがついていたりするのが当たり前なので条件に合う洞窟を探すロケハンは大変でした。途中から、もう探検家みたいでした。脚本賞をいただいてから時間はあったので、シナハンも込みでロケハンに半年くらい掛けて。地元なので親にも手伝ってもらってギリギリまで探しました。
――映画にはたくさん素敵な場所が映っていますが、監督のオススメスポットはどこですか?
今治にある村上水軍博物館にはこの映画の中にも出てくる笛のモチーフになったものなどがあります。また、その博物館の前が海なんですが、そこから潮流体験が出来る船が出ていて、激しい渦潮を体験できるんです。実際、そこで撮影もしましたしその辺りは是非多くの方に訪れてほしい場所です。本屋大賞も重なって今観光客がかなり増えているらしいですよ。
――撮影時の愛媛の方々の反応は?
水軍の話になると目の色を変えて話し出す方が多いですね。「わしも子孫や~」から始まって(笑)。朝から、しまなみ街道で地元の漁船を借りて撮影をして、手伝ってくださる方がみなさん“村上さん”でしたからね。
――この映画は大人が観ると懐かしさがあるんですが、『グーニーズ』を観ていない子どもたちの世代には“新鮮”に写るのかが気になります。
本当にそうなんです。我々には懐かしいんですが、今こういう冒険映画ってないじゃないですか? 完成して1番最初に上映したのが昨年末のロサンゼルスの映画祭だったんですが、当時『グーニーズ』のメインスタッフで参加していた方が観に来てくださっていて、とても感激していただきました。キャストの子たちにも「『グーニーズ』観ろ」って言ってるんですけどね。まだ観てないようです。試写で観た大人の方々にも「子どもに観せたい」「家族で映画館へ観に行く」という声をありがたいことによく聞きます。子どもを主人公に描いてはいますが、完全な子ども向けではなく世代を超えて観ていただける映画だと思っています。どうぞよろしくお願いします!
(2014年5月31日更新)
Check
大森研一 Profile (公式より)
おおもり・けんいち●1975年、愛媛県出身。大阪芸術大学卒。映画を中心に幅広い分野で映像制作を続け、国内映画祭で多数の受賞歴を持つ。自身初の商業用長編映画『ライトノベルの楽しい書き方』(10)は小規模封切りにも関わらず多数の動員でロングラン上映を果たす。監督に留まらず、脚本をはじめ雑誌での小説連載など執筆活動もおこなっている。
Movie Data
©2014「瀬戸内海賊物語」製作委員会
『瀬戸内海賊物語』
●5月31日(土)より、
大阪ステーションシティシネマ
ほかにて公開
【公式サイト】
http://setokai.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/163940/