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ホーム > インタビュー&レポート > 『サウダーヂ』『Playback』の関係者や 直枝政広(カーネーション)も参加するメルマガの刊行を予定 2014年もその動きから目が離せない! 爆音上映の仕掛人でもある boid主宰・樋口泰人氏2014年の展望インタビュー【前編】

『サウダーヂ』『Playback』の関係者や
直枝政広(カーネーション)も参加するメルマガの刊行を予定
2014年もその動きから目が離せない!
爆音上映の仕掛人でもある
boid主宰・樋口泰人氏2014年の展望インタビュー【前編】

 このインタビューページに昨年幾度か登場した、爆音上映を主催するboid代表の樋口泰人氏。スクリーンの裏で映画を支えるキーパーソンのひとりで、今年も作品配給、Hair Stylistics(a.k.a.中原昌也)のCDのマンスリーリリースなど上映にとどまらない展開を準備している。そのひとつがメールマガジンの刊行。読まれなくなりつつある文字をどのように映画ファンと結びつけるのか、独自のプランを語ってもらった。

──以前からメルマガ刊行のアイデアはお持ちで、それが今年いよいよ実現するんですね。
色んな人からずっと「雑誌を出さないんですか?」と訊かれていて、そう言われるのが何となく分かるような分からない状態だったんです。
 
──boidでは書籍も出版していますし、樋口さんはかつて『カイエ・デュ・シネマ・ジャポン』誌を編集されていたので、そう言われるのも分かりますね。
自分にとっては、爆音上映自体が雑誌のような感覚でいたんです。1本の映画を地道に回していくのではなく、総体として浮かび上がってきたものを感じてもらう。全部でなくても、爆音で上映するうちの何本かを観てくれれば、それが像を結びはじめるんじゃないか? そんな気持ちでいたので、特に雑誌というか活字というメディアへ意識が向かわなくて。でも一昨年あたりから「本当に文字を読む人が少なくなった」と肌で感じることが増えてきた。ただ、そこで「昔のように、雑誌で何かが広がっていくか」と考えると、文字を使って何かをするイメージがなかなか膨らまなかったんです。でも危機感は延々とあって、昨年はさらにそれが強まって。
 
──何か具体的な出来事があったんでしょうか?
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーのインタビュー集(『ファスビンダー、ファスビンダーを語る』)を出したんですよ。皆から「無茶だ」と言われながらも出した。ドイツ語の原本は700ページくらいある分厚いものなので、日本語に翻訳すればたぶん800ページ超え、格安にしても6500円くらいになってしまう。それだともう若い人たちは簡単に手を出せないですよね。「だったら買い求めやすいように、3分割して1冊2000円強程度で」と考えて1巻めを出したんです。
 
──第1巻は演劇時代の話でしたよね?
うん。原本の順に沿ってでしたが、今考えると「やっぱり先に映画の話をしている方を出しておけばよかった」という反省も残るんです(笑)。第1巻はそれくらい、もう呆れるくらい壮絶に売れなかった。自分では、若い子たちに買いやすいように分割したつもりだったのが、それさえも手に取ってもらえないという状況で…。
 
──手にすると分かるんですが、よくあるインタビュー集と明らかに違う、面白い本なんですけどね。そこで文字をどうアウトプットするか、発想も転換されたんでしょうか?
ファスビンダーの映画に興味があっても、監督本人の発言を読むことに対してはどうなんだろう・・・感触としては、まったく興味がないわけではなくて、これだけ物が多いと「本を買う順番は2番め3番めとなって延々と買い逃がす」、そういうことなんじゃないかと思ったんです。だったら、そこをもう少し刺激する方法としてメルマガ、あるいはウェブマガジンみたいなものはどうだろう? と。手軽に、なおかつスピード感を出して情報を発信したり、あるいはその場その場の思いをまとめて伝えてゆく。読む側も毎日の暮らしの中で、ごはんを食べるように色んな動きを知っていくことができて、それがまた爆音上映につながったり、別の動きが生まれたり、思わぬことに発展すればいいなということから、メルマガぽいものを出してみようと思ったわけです。
 
──受け取る方も気軽ですしね。書き手は樋口さんだけですか?
メルマガって比較的軽いメディアなので、基本的にひとりでできるし、ひとりの方が楽しかったりもしますよね。その人の特徴も出やすいし。そういうメルマガも多いんですが、そして試しに昨年は自分ひとりだけのひとり言のようなものもやってもみたんですが、どうもそれだけだと鬱々としてくる。だからそうではなくて、もうちょっと色んな人たちが入って来て、そこからひとつの場所、あるいは場所の姿が見えてくるようなものがよいかなと思っています。言ってみれば、爆音上映でまず何を上映するかを決めて、そこからひとつのパッケージを作るのとあまり変わらないスタイル。あとは、さっき言ったごはんの例えみたいに、“当たり前のやりとり”ができるものとして出していけたらいいなと考えています。
 
──他の執筆陣はどんな方たちでしょう?
色んな人たちに声をかけていて、今のところはっきりしているのが空族の連中。『サウダーヂ』(11)の次回作をタイで撮ろうと去年からロケハンに行っていて、たぶん今年中には撮影するスケジュールなので、それを追いかける。というよりも、彼らから届いた報告を順次掲載していく形ですね。雑誌って月刊だったり週刊だったり、まとまったものを買って、好き勝手にページを繰ってゆきますよね? でも今回目指しているのは、いわばDOMMUNEの文字版のようなもの。月曜から金曜までの平日、毎日ひとつかふたつのコンテンツが送られてきて、それを「あ、来た」という感じで暇な時間にちょっと読んで、「明日は何だろう?」と次の楽しみにしてもらいたいなと考えているんですよ。
 
──『ほぼ日刊イトイ新聞』に近い感覚でもありますか?
そうそう、その雑誌版(笑)。それで、届いたときというより、まとまったときが雑誌という感覚かな。あとは、『Playback』(12)の三宅唱監督のジョナス・メカス的なビデオ日記を予定しています。メルマガといっても、ウェブ上にコンテンツを置くつもりなので、送られてきたメルマガからそこへアクセスして観てもらう。それが1年分、あるいは2年分溜まったら再編集して1本の映画になると面白いねという話をこの間もしました。
 
──「まとまったときが映画」ですね。
うん。それと『Playback』のプロデューサーの松井宏くん。boid絡みでは、モンテ・ヘルマンのインタビュー集『モンテ・ヘルマン語る─悪魔を憐れむ詩』を翻訳してくれた人ですが、彼はフランス語が堪能なので、『カイエ・デュ・シネマ』などの映画雑誌からトピックを拾ってもらって、俺も含めてフランス語を読めない人たちへ何か発想のネタになるようなものを出してもらおうとお願いしているところです。
 
──現在のインディペンデント映画界隈で注目の人が中心となりそうでしょうか?
あとはね、土居伸彰くんという人もいます。《変態アニメーション・ナイト》という特集上映を組んだりしているおかしな人ですが(笑)。
 
──おかしな人ですが、立派な研究者でもあることも補足させて下さい(笑)。
ははは(笑)。土居くんはアニメーションをメインに世界中の多くの映画祭をまわっていて、そこで目立った面白い作品や、「注目しておいた方がいいだろう」という人たちにかなり取材をしています。でも、それを発表する場がない。今の日本の状況では載せる場所のないインタビューがいっぱい溜まっているんです。それを載せてゆく。日本のアニメ人気ってすごいけれど、世界の映画祭に出品されている、全然知られてないアニメーションがまだまだ沢山ある。たとえば爆音上映でもクレイ・アニメーターのブルース・ビックフォードなどを紹介しました。
 
──過去にドン・ハーツフェルトの作品も爆音上映されましたね。
そうそう。ハーツフェルトなんて、土居くんがあれこれ動かなければ誰も知らない人であったわけで、でも観てみるとすごく面白い。アニメーションではあるけど、今の日本の映画の動きの中で捉えても、とても刺激的な作品でした。それを単に上映だけでなく、インタビューも掲載してちゃんと紹介するのは大事なことだし、土居くんにはそういうことをお願いしています。映画祭で見つけたもっと変なものになるかもしれませんが(笑)。これからもうちょっと色んな人にも会うつもりでいるのと、俺自身も試写で観た良い作品のレビューや、爆音の報告などを書いていこうかなと思っています。あとこのメルマガをけしかけた張本人のふたりにも、当然あれこれやってもらいます。湯浅学さんと五所純子さんです。湯浅さんは今でも手書き原稿で、活字にするときは編集者がそれを全部入力していたのですが、今回はそんなことを私がもうやれるわけはないので、手書き原稿を写メしてそれをそのまま掲載とか、かなり乱暴なことを考えています。でも、湯浅さんの手書き原稿が読めるなんて、それはそれで楽しいと思いますよ。五所さんももしかすると原稿ではなく、もっと変なものになるかもしれません。あと私もやりますが五所さんも一緒に映画のレビューもやります。
 
──ではメルマガはニュース性を備え、捕まえた日々の動きがまとまってある形を成してゆくという方向性ですね?
そうですね。動きと文字が連動したものになっていけば。文字は文字で、批評や読みものとしてガッチリ固まった面白さもあると思うんですが、メルマガやウェブマガジンという媒体で考えると、じっくり読むということがしっくりこないかもしれない。だから動きと共にある文字が中心になるんじゃないかな。それからもうひとつ考えていることに、ずっと出すと言い続けてきた音楽評論家の湯浅学さんの『大音海』という本があります。湯浅さんが、子供の頃から20世紀の間に書いたすべての批評を集めるという、とんでもない企画。集めるとおそらく20冊分くらいの量になるだろうということから挫折しているんですけども(笑)。それを少しずつ載せていくのも面白いし、その挙句、何年かすると本になっているという。それなら実現できるかもしれない。動きとはちょっと違う形で、ひとりの人の歴史と、その人の目を通した20世紀の音楽史が見えてくるようなこともできれば、メルマガとしての役割を果たせるんじゃないかと思っています。そんなことを湯浅さんに話したら、じゃあ、『大音海』を整理しながら掲載する際に更に解説も書くよと。80年代、90年代の原稿なのでいきなりそれだけ載せても分からないことも多いだろうからって。ありがたい話なんですが、これはこれで更に完成が延びそうな気配なんですよね(笑)。
 
──メルマガをアーカイヴスペースにしていくわけですね。
「メルマガという“日々消えてゆくもの”にも関わらず、それがなぜかアーカイヴされて途轍もないものになるというね(笑)。DOMMUNEはすごく潔くて、以前はやっていたアーカイヴをもうやめちゃった。その場その場でいくという潔い姿勢が好きなんですが、文字はアーカイヴすると何か別のものになるという可能性がありますよね。その場ごとの動きと溜まったもの。その溜まったものから何かが浮かび上がってくる、そういう幾つかの段階を持つ何ものかとして、メルマガをイメージしています。
 
──ちなみに有料ですか?
有料です(笑)。さすがにこれは有料にしないとできないので。ただこれを有料にしたときに、どれだけの方が購入してくれるのか本当に不安ではあるんですが、物理的に有料でないと不可能なので宣言はしておいて、でも「読めば面白いし、自分が生きてゆく上でのヒントが転がっているものが生活の中にある。与えられたり、知識を得るものではなく、単に読んでいるだけで何か能動的な動きに結びつく」、そんなメルマガにしたいですね。
 
──『カイエ』誌の日本版を編集しておられた頃とは、方針もまったく違うでしょうか?
動きと共にあるのは、『カイエ』の方針でもあったので、近いものもあると思いますが、批評やインタビューが文章のメインだったし、発行も年4回くらいだったから、その間隔ゆえの充実感を持たせたかった。だから『カイエ』の場合は、「溜まったものとしての面白さ」をまず最優先していたと思うんですよ。今回のメルマガは「ゆるい」というと変だけど、構えなくてもいいし、続けて読んでいるうちに構えができてくるようなものとしてできればいいなと思っています。
 
 
メールマガジンは3月刊行予定。取材後には直枝政広(カーネーション)が最近の愛聴盤を語る連載企画も決定。これまでの媒体と異なる文字の広がりを期待したい。今後のboidの配給上映活動についても話を訊いているので続編は追って。また昨年スタートした、梅田クラブクアトロでの音楽映画の爆音上映も次回は2月9日(日)に開催。ボアダムス、レッド・ツェッペリン、MUSEの作品を1日で楽しむことができる。
                   
        
                       (取材・文/ラジオ関西『シネマキネマ』)



(2014年1月31日更新)


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Movie Data

爆音スクリーニング@クラブクアトロ

2月9日(日)
14:30~レッド・ツェッペリン
17:30~MUSE
20:00~BOREDOMS

会場:梅田CLUB QUATTRO

1作品券 前売1800円 当日2000円
3作品通し券 前売4500円 当日4800円
※ドリンク代別途要

●boid公式ホームページ
http://www.boid-s.com/

●爆音スクリーニング@クラブクアトロ スケジュール
http://www.club-quattro.com/umeda/schedule/?ym=201402

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