「自分の家の冷蔵庫の中を見る目が変わり、
買い物の仕方も変わった。単なる偶然から出会った
このテーマに生活習慣がガラッと変わりました」
『もったいない!』バレンティン・トゥルン監督インタビュー
世界中の環境保護関連の映画祭で多数の賞に輝いたフードドキュメンタリー『もったいない!』が、11月2日(土)よりテアトル梅田にて公開。飢餓にあえぐ人々がいる中で、世界中で生産される食料の3~5割、約20億トンもの食糧廃棄物があるという現実とその裏に隠された真実に迫る。生産現場、流通、小売など食卓に届く以前にも多くの廃棄物がでている現状や、その影響について考えさせられる作品だ。そこで来日したバレンティン・トゥルン監督にインタビューを行った。
――この映画の日本タイトル『もったいない!』。この言葉は外国にはあまりないと言われていますが。
「そうですね。“もったいない”という言葉はドイツにはありません。この言葉は食料に対する価値観が表されていて、この映画の主旨がとてもよく現れていると思いますね」
――原題『TASTE THE WASTE』は「廃棄物を召し上がれ」という意味でいいんでしょうか?
「ちょっと挑発的なタイトルですが、でも「WASTE」という言葉には「ゴミ」と「無駄遣い」というふたつ意味があります。なので「ちょっと試してみて!ゴミじゃないよ」というニュアンスの意味なんです」
――この映画を見れば誰もが生活を改めなくてはと感じると思います。監督自身、本作を撮って生活に変化したことはありますか?
「私だけでなく映画に貢献したみんなそうだと思いますが、自分の家の冷蔵庫の中を見る目が変わったと思います。それと、買い物の仕方も変わりました。このテーマに出会ったのは単なる偶然でしたが生活習慣がガラッと変わりましたね」
――そのテーマに出会った偶然とは?
「この映画の冒頭にも登場する、廃棄された食品を日々の糧とする“ごみ箱ダイバー(the dumpster divers)”たちのドキュメンタリー番組を撮っていたんです。最初はその極端な生活スタイルに興味が沸いて紹介しようと思っていたのですが、作っているうちに彼らがゴミ箱を開くように私自身もこの問題に対して開眼していきました(笑)」
――その取材、調査で監督が感じたことは?
「最初に感じたのは怒り。「もったいない!」という怒りですが、よく考えてみると背景にあるのは企業で、そしてその背景にあるのは消費者の態度。消費者は常に新鮮なものを求める。それで、企業は競争が激しい中で常に新鮮なものを置かなければならない。だから古くなれば除けなければいけないことになるんですよね」
――監督の希望としてはどうなればいいと感じておられますか?
「一番大切なのは誰かひとりが全ての責任を追っているわけではないという理解で、社会的な問題だと思っています。ゴミはどこかひとつの場所から出るわけではなく、生産から消費者まで全ての人から発生します。そういう意味では全ての段階の方々が意識を変えることが必要。例えば、形の悪いきゅうりを買おうと思う意思があってもスーパーに並んでいなければ買えませんし、スーパーとしても買ってくださるお客様がいなければ置く意味がない。皆が協力し合えない限りこの問題は解決できないと思っています」
――ひとりひとりが意識を変えても始まらないのがもどかしいですね。
「政府が意識を変えるようなキャンペーンをやり、それをどんどん人々に広げる必要があると思います。そういったものの具体例としてイギリスはすでに取り組んでいて、6年ほど前に専門の施設を作り、いろいろなキャンペーンを行っています。その動きによって、5年間で消費者のゴミを13パーセント、2年間で企業の廃棄物も5パーセント減少させ、世界で唯一廃棄物の増加を抑えることに成功しました。こういうことは政府にしかできないことだと思います」
――それは素晴らしいですね。
「食料を捨てることにコストがかかる状況を作るというのもひとつありますが、それをできるのは政府レベル。ただ、これは企業への話で消費者への話ではありませんね。こういったキャンペーンはできると思いますが。政府だけでなく、町の小さな組織、例えば環境団体や農家の団体が大きな役割を果たせるのではないかと思います」
――ドイツは脱原発を決定して、この映画の中でもゴミをバイオエネルギーに変えることで原発を一基減らせるという言葉が出てきます。日本も原発の問題を抱えていて、とても興味深いところでした。
「エネルギーと食料の関係は、食料がゴミになった最後に出てくる話ではなく生産の時点からあります。今の近代的な農業の方法では多くのエネルギーを生産の段階で使う。ゴミになってから資源に戻してエネルギーにすること自体はもちろん悪いことではないのですが、あくまでもそれは後始末に過ぎない。本当は最初の生産の段階で過剰に作らないことがベストだと私は思います。農薬などでもエネルギーを大量に使っているので、過剰に生産しなければその分、農薬も減らせる。そうすると消費者も消費するものを考えて選ぶようになるので生活水準も低くはならないと思います」
――なるほど。調査の中で日本にも来られたんですね。
「この映画では“問題”を見せるだけではなく“解決案”を提示したかったんです。EUでは2006年から食料廃棄物が混ざっているものを畜産に飼料として与えることが禁止されていますが、それはたんぱく質の無駄だと私は思っています。それで日本の行っているリサイクル案にとても惹かれたのです。ヨーロッパもこういう方向に戻るべきだと私は思います」
――日本ではOKだけどヨーロッパではNGなんですね。
「ドイツでは豚を強制的に雑食からベジタリアンにし(笑)、たんぱく質はブラジルなど遠い国から飼料を輸入している。EUが食料廃棄物が混ざっているものを畜産に飼料として与えることを何故禁止したのかと言うと、それが原因で病気になったことがあったからですが、日本の例を見れば加熱すれば解決できると分かるはずなので考え直すべきだと思いますね。今、その話はEUで議論に上がってはいますが時間は掛かりそうです」
――映画に収められていない調査の一部だと思いますが京都で撮影したものがyoutubeに上がっているのを先日拝見しました。
「90分の映画でどうしても限りがあって本編には収められませんでしたが、自分自身とても惹かれたシーンだったので多くの人にも見てもらいたいと思いいくつかyoutubeにアップしました。日本で唯一の“ごみ箱ダイバー”として紹介された方と一緒に夜の京都を回って、そこでホームレスの方に出会うものですね。何故私がこの映像に惹かれたのかと言うと、世界のどこにでもこういった無駄があるのだなと感じたからです」
――この映画は12の賞をいろいろな国の映画祭などで受賞もされていますが、その様々なところで具体的にこの問題に対して動きがあったような国はありましたか?
「とくに中央ヨーロッパでは動きがあったような印象があります。とくに企業レベルではかなり動きがありまして、映画でも取り上げていますがスーパーの入口にあるパン屋が以前は契約上、閉店まで棚にいっぱい商品を並べていなければならなかったのが、ようやくその契約上の部分がカットにされました。オーストリアでは形が完璧ではない野菜を少し安く売るキャンペーンが始まり、それをブランド化して反響を得ているようです」
――学校などで子どもたちにも観てもらいたい映画だと思いました。
「ドイツの映画館での上映時の観客は1/4が学生でした。若い世代にも伝わりやすいようです。学校のために作った教育映画ではありませんが、下は字幕が分かるくらいのお子さんぐらいからでも、是非観ていただきたいですね」
(2013年11月 3日更新)
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