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「俺ってこんなとこあるんだと自己発見できるのが
 “俳優”という仕事の魅力。
 今回演じた役はまさにそうだったね」
『四十九日のレシピ』石橋蓮司インタビュー

 『ふがいない僕は空を見た』で多数の賞を受賞し絶賛されたタナダユキ監督が、注目の女性作家・伊吹有喜の同名小説を映画化した『四十九日のレシピ』が、11月9日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開。本作は母が亡くなり、母から大切なことを聞きそびれてしまった娘(永作博美)と、妻に先立たれ放心状態の父(石橋蓮司)が、突然訪ねてきた少女(二階堂ふみ)と日系ブラジル人の青年(岡田将生)と共に、母の四十九日まで不思議な共同生活をおくる姿を描く。そこで、父親・良平役を務めたベテラン俳優、石橋蓮司にインタビューを行った。

――1年に4、5本ほど映画に出演されていて、石橋さんを見ない年は無いほど。その出演作を決めるポイントのようなものはありますか?

「まずオファーが来て、脚本を読む。そこで自分流にこなせるかどうかを考えますね。たとえ脚本が単純であっても、少しいじればもう少し深くなるかもしれない。自分の役でそれが出来ると思えるならば引き受ける。それと、この監督やスタッフたちの将来のために俺が力になれるならと思ったら引き受けることもあるね。あとは、徹底的に遊んでみようというものもやりますね(笑)」

 

――以前出演された『今度は愛妻家』(09/行定勲監督)でのオカマ役が真っ先に頭に浮かびました(笑)。今回オファーを受けたときはどのように感じられましたか?

「もともと原作を読んでいたところに、タナダ監督からオファーがあって。正直「え? オレで?」と思ったね(笑)」

 

――原作を読まれていたのですね。

「この物語の中で描かれている、永作さん演じる百合子が抱える不妊や離婚についての悩みそのものは普遍的で、僕の知り合いにも同じような悩みを抱えている人は実際におられる。だからとても身近な話だと感じていました。ただ、僕が今回オファーを受けた役は今まで自分が演じてきた役とは全く違ったし、難しい役がきたなぁと感じましたね」

 

――今までいろいろな役を演じてこられた石橋さんでも難しい役ってあるのですね。

「決断したり、飛び出したり、どちらかと言うとアクティブに仕掛けていく役を演じることが多いし、ひとつの場所に留まって粛々と生きていくという人生の選択は僕自身の生き方ともかけ離れている。小さな畑があり、家の前には川が流れ、(周りに何もないから)夜は本当に真っ暗になる。今回はそんな風景に自分が存在して、違和感がないように佇むのに苦労しました」

 

――今回の役以外ではどんな役を難しいと感じておられますか?

「サラリーマンの役とか難しいね。話にはたくさん聞いているし、小説は読んだりしているけど、実際自分が演じると上司にどこまで愛想笑いをするのか、それがリアルなのかリアルじゃないのか。自分が体験していない上下関係の在り方が難しいんだよね(笑)」

 

――なるほど。では、今回の役作りはどのようにされたのですか?

「どちらかというと、撮っていくうちに自分の居方はこれでいいのかなと、どんどん発見していったような感じでしたね。相手のリアクションを見ながら。まぁ、永作さんがあの繊細さを持った佇まいで帰ってきたら「やっかいな娘が帰ってきたな~」という気持ちに普通になれますよ(笑)。そんなに“作る”“演じる”という感覚なく溶け込んでいけたと思っています」

 

――二階堂ふみさんや岡田将生さんなど、今いろいろな映画にひっぱりだこの若い共演者たちの印象はいかがでしたか?

「もう素晴らしかったですよ。今回、淡路恵子さん以外は皆さん初共演ですから。撮影が順撮りだったのもあって、ふみちゃんが出てきたら、「なんじゃい、こいつは!?」と普通に感じたし、岡田くんが登場すると「明るい子だな~」と感じることができた。世代も立場も全然違うところから始まったけど、最終的にはほのぼのとした家庭のような雰囲気になれたので、初共演で良かったなと思いました」

 

――劇中の二階堂さんと石橋さんのやり取りは本当に面白かったです(笑)!

「ふみちゃんは、いつもパワフルで機転も利くし、本当に面白い素敵な女優さん。撮影時は18歳くらいだったかな。若いけど、よく勉強なさっていて映画もたくさん観ている。俺の昔の映画も観ていてくれて質問されたこともあったね。俺はエログロなのにも結構出ているんだけど、そういう作品も観ていて「あの時はどうだったんですか?」みたいな話をしたり(笑)。あと、俺が観ないような単館上映の映画を「これ、面白いから観てください」と勧められたこともあって、たくさん勉強になりました」

 

――若者に圧倒される良平の姿は石橋さんそのものだったのですね(笑)。その一方で淡路さんの存在感もすごいです。

「淡路さんは女優さんとして情熱家でね。戦後からずっと女優を背負いこんできた人という雰囲気を現場でも自然と醸し出していて素晴らしかったですよ。現場では「蓮ちゃん、あんたいつも素直ね」なんて声を掛けてくれるので「はい!」とか恐縮して答えてね(笑)。可愛がってもらっていますよ」

 

――ははは(笑)! では、タナダ監督についても伺います。女性監督ならではの作品ではあると思いますが、良平という役柄についてなど女性監督ならではの視点を石橋さんは感じられましたか?

「監督も主人公の百合子と同じくらいの年齢だし、この作品を映像化したいということは百合子という役の中にご自身を投影しているものがあるのかなと思いました。だから現場には目の前にいる百合子(永作)と、向こうから客観的に観ている百合子(タナダ監督)がふたりいるような状態でやりにくかった(笑)。役柄については、タナダ監督の考える“父親像”と自分が演じる“父親像”との間に違いが出れば、タナダ監督のお父さんの話を聞いたり、現場で2、3回話し合ったことはありますね」

 

――いろいろな役を演じてこられた石橋さんにとって人生を変えた1作とは何ですか?

「人生を変えたというか役者を続けていこうと決断をさせられたのは『越後つついし親不知』(1964/今井正監督)という作品。児童劇団からはじめて、変声期を経て仕事も減り、20歳くらいでもう役者を辞めようかなと考えている時期に出演したんだよね。もうダメならこれで辞めようと本気で思っていたけど、監督に「満点ではないけど及第点はあげられる」と言われて。それが今の今まで俳優を続ける大きなきっかけになりました」

 

――俳優という仕事の魅力をどういうところに感じていらっしゃいますか?

「人の粗を探せるところかな(笑)。人の言葉と肉体と思考とのギャップをいかにして埋めるかが好きな仕事だと感じるひとつ。演じることで自分はこんなこと感じるんだとか、俺ってこんなとこあるんだと自己発見できたり。今回演じた役はまさにそうだったね」

 

――今回の役は難しいからこそのやりがいがあったのですね。本作で重要なのが、料理のこつや掃除の仕方など暮らしに関するアドバイスが書かれた“暮らしのレシピカード”の存在。そして遺言どおり行う四十九日の大宴会が素晴らしかったです。

「やっぱり“死”というのは残された人たちの問題。残された人たちが悲しみにくれても仕方がない。死を迎える側としても、せめて死んでからは楽しくいさせてよって感じだと思いますけどね(笑)」

 

――今、残された人たちのために書く“エンディングノート”など「終活」が注目されていますよね。

「自分にとっても現実的な問題がいっぱいある。毎日とはいわないけど、別れの儀への案内がものすごく多くなったからね。これが自分に巡ってくるのも間近なことで、フィクションでやりますというわけにはいかない問題。自分の女房はありがたいことに元気で一緒に楽しんでいますが、いつか別れがくるというのは特別なことでもないし、全然遠い話ではないと思っています」

 

――最後にこれから映画を観る方にメッセージをお願いします。

「ちょうど40歳くらいの“ロストジェネレーション”と言われる世代にとっては、永作さんが演じる百合子の中にたくさん良いアドバイスがあると思います。百合子を通して、こういう風に感じて、こういう風に処理して、というのをぜひ拾ってください」




(2013年11月 5日更新)


石橋蓮司 プロフィール
いしばし・れんじ●1941年8月9日生まれ。東京都出身。劇団若草、劇団青俳、現代人劇場などを経て、現在は劇団第七病棟主宰。演劇、映画、テレビにおいて、強い個性と演技力で異彩を放つ。 主な映画出演作に黒木和雄監督による原田芳雄主演作『竜馬暗殺』(74)、深作欣二監督の緒形拳主演作『火宅の人』(86)、市川崑監督による高倉健主演作『四十七人の刺客』(94)や横溝正史の同名小説の映画化『八つ墓村』(96)、三池崇史監督作『中国の鳥人』(98)や『DEAD OR ALIVE 犯罪者』

Movie Data




(C)2013 映画「四十九日のレシピ」製作委員会

『四十九日のレシピ』

●11月9日(土)より、
 梅田ブルク7ほかにて公開

出演:永作博美/石橋蓮司
   岡田将生/二階堂ふみ
   原田泰造/淡路恵子
監督:タナダユキ
撮影監督:近藤龍人
脚本:黒沢久子
原作者:伊吹有喜(ポプラ社刊)

【公式サイト】
http://49.gaga.ne.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161247/