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「この物語は現代劇で撮ることは出来ない、
 時代劇だからこそ出来る物語なんです」
『蠢動-しゅんどう-』三上康雄監督インタビュー

 70年代半ばから80年代初頭にかけて自主映画作家として活動していた三上康雄監督が、約30年ぶりの新作として放つ本格時代劇『蠢動-しゅんどう-』(10月19日(土)よりTOHOシネマズなんばほかにて公開)。関西各地で全編オールロケを敢行し、時代劇ならではの緊迫感あふれる見せ場を追求。『たそがれ清兵衛』『必死剣・鳥刺し』の殺陣師、久世浩らのベテランスタッフが参加し、三上監督をがっちりと盛り立てている。そこで三上康雄監督にインタビューを行った。

――約30年前に自主制作で撮られた16mmの時代劇『蠢動』。その時代に自主で時代劇を撮るというのはなかなか難しかったのでは?

「確かにハードルは高いですが、剣道を長くやっていて殺陣が本当に好きだったんです。映画の学校に通ったこともなく全くの我流ですが、映画のことは映画で学び制作しました」

 

――影響を受けた作品とは?

「『切腹』(62年)や『上意討ち 拝領妻始末』(67年)ですね。それで自分でもこういう映画を作りたいと思って作ったのが『蠢動』(82)です」

 

――今回のはセルフリメイクということでしょうか?

「リメイクではなく、エッセンスを持ってきているだけであくまでも原案。“走る”“斬る”そして、“雪の中”というところを受け継いだ別の映画だと思っています」

 

――力のないものなどが騒ぎ動くことを意味する“蠢動”というタイトルに込めた思いは?

「人それぞれは激動の人生を送っているけど、それは周りからはどうでもいいことだったりする。この映画の中で起こっていることは激動のように見えて、俯瞰的に見たときに、それぞれの登場人物は激動していても、蠢動に見えると思ったのです」

 

――若い世代から観ると三上監督がこだわった伝統的な手法が逆に新鮮でもあると思うのですが、最近の時代劇にはないところ。この映画はどういうところが違うのか教えていただけますか?

「今の時代劇は明らかにセットと分かるものが多いけど、昔の時代劇はもっとリアルでした。未来のことは分からないのと同じで過去のことも分からないから作り物でいい“時代劇はSF”という考えが今の時代劇にはあるのかなと思ったりします。でも、僕は僕なりにこれがリアルではないかなというところを追求しました」

 

――ではセットは使っていないのでしょうか?

「そうですね。セットは使わないと最初から決めていました。雪の中での撮影は、雪の状況を見ないといけないので1年前にロケハンして、1対11の斬り合いのシーンは滋賀県の朽木で撮ったのですが、1年前は膝上まで雪が積もっていて、ここでは無理だなと思っていましたが、今年は雪が少なく撮ることができました」

 

――少なかったとはいえ、雪の中での殺陣は大変ですよね?

「雪は足跡が着いたらそれだけでダメなので一発勝負。あの1対11のシーンのために半年間も武術訓練を行いました。斬られに行っては意味がないので、斬られる役であっても斬り役である、何があっても続けろと言い続けました。あえてあのシーンは“殺陣”と言わず、最後の“斬り合い”と言っています」

 

――前半は「静」の緊迫感、後半は走る、斬るの「動」という構成になっていたかと思いますが、脚本でこだわった点は?

「ヒッチコックの映画などは前半ゆるくて後半たたみかけていく。前半できっちり見せると後半が締まるんですよね。それが“映画”だと僕は思っています。この映画の主人公は観た人が決める映画だと思っていて、観た人からはそれぞれの登場人物に感情移入したという感想を聞いています。それぞれに感情を託せる人物がいるということは、逆から見ればそれぞれの立場でそれぞれの正義を主張するという部分において、観る人もそれぞれの立場で主役を選んでいるのかなと思いますね」

 

――30年の間に機材の進歩があったと思いますが、その点で苦労はありませんでしたか?

「フィルムからテープ、そして今はデータ。フィルムをつなぎ合わせるのかテープをつなぎ合わせるのかデータをつなぎ合わせるのか。フォーマットは変わっても編集作業としては同じですね」

 

――色彩をぎりぎりまで落としたようなフィルム感。音楽も太鼓の音のみだったのが印象的です。

「登場人物の感情を音楽で表すのが僕は嫌で。役者さんの演技に対して失礼だし、自分の演出が下手だから音楽を足したとも言える。最近ではその人の感情をナレーションが説明したりするのもありますよね? 色も音楽もですが、台詞もそぎ落としています。実際の人間って、自分の気持ちをわざわざ喋らないですからね。この映画の後半はあまり喋らない」

 

――俳優陣の熱演が素晴らしかったです。ベテラン俳優やプロのスタッフはどのように集めたのでしょうか?

「プロダクションに企画書とシナリオを送って返事待ちをしました。若林豪さんはこの役にぞっこんで「男の中の男だ!」と言ってくださっています。目黒さんはご自身から「殺陣をやりたい」と言ってくださいました」

  

――では、今後は?

「“自分の観たい時代劇映画はない。だから、自分で創る”という信念で本作を撮り、観たい映画が出来ました。毎日でも観たいと思っています。この物語は現代劇で撮ることは出来ない、時代劇だからこそ出来る物語なんです。皆さんからの支持が得られたら、本格時代劇の第2弾も撮りたいと思っています。よろしくお願いします」




(2013年10月17日更新)


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三上康雄 監督 プロフィール(公式より)
みかみ・やすお●1958年、大阪市東区(現:中央区)生まれ。近畿大学商経学部経営学科卒業。1974年、高校時代に自主映画製作グループ「BJcc」を結成し、1979年までに8mmで数本の短編と時代劇やアクション映画を4本監督する。1982年、自主映画初の16mm時代劇『蠢動』を製作・監督する。その後、家業のミカミ工業株式会社(1909年創業)に入社し、2001年より三代目の代表取締役社長に就任、2011年の創業100年を期に自社の全株式をM&Aで売却。2012

Movie Data

『蠢動-しゅんどう-』 

●10月19日(土)より、 
 TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ鳳、
 ユナイテッド・シネマ岸和田、
 TOHOシネマズ二条、
 TOHOシネマズ西宮OS
 ユナイテッド・シネマ大津
 ほか全国ロードショー

監督・脚本:三上康雄
出演:平岳大、若林豪、目黒祐樹、
   中原丈雄、さとう珠緒、栗塚旭、
   脇崎智史
2013年/日本/カラー/102分
配給:太秦株式会社

【公式サイト】
http://www.shundou.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/162510/

Event Data

舞台挨拶決定!

【日時】10/20(日)
    10:00の回、上映終了後
【会場】TOHOシネマズなんば
【料金】通常料金
【登壇者(予定)】
三上康雄監督/若林豪/栗塚旭/
福場翔太/慎竜太郎/鶴井一矢/
森本真也/マット奥井

予告篇


三上康雄監督8mm作品の予告篇集