「“謝罪”というのは、感謝の気持ちを忘れた罪」
『謝罪の王様』水田伸生監督インタビュー
――風刺コメディを描きたいと監督から宮藤さんに声をかけたとお聞きしましたが、そういった映画を撮ろうと思ったきっかけは?
「単純に言うと、僕自身がこの国や世の中に対して、少なからず憤っていることがあって。チャップリンや伊丹万作監督の作品のように人や世の中の愚かな部分を笑いで刺す喜劇を撮りたいと思ったんです。今の世の中の“幸せの尺度”を疑問に思っていて、幸せを経済で語るのってすごくおかしいなって思って、もちかけたんです」
――それを受けての宮藤さんの反応は?
「宮藤さんの才能は、そういう僕の憤りぐらいでは済まなかった。例えば、日本人は簡単に謝るけど外国人はなかなか自分の非を認めない。これは、日本人特有の、相手の立場に立ってものごとを考える国民性なんですよね。まず自分が譲って「申し訳なかった」と言えるということ。ただそれが最近だんだん薄れてきてないですかと。だから、僕自身の“風刺”というお題に対して、宮藤さんが包括的に「ハートを風刺してきた」ということです。素晴らしい脚本家ですね」
――では、その脚本を最初に読まれた時の感想は?
「本田圭佑の無回転フリーキックみたいなもんですね(笑)。つまり、どう曲がるか予想がつかない。1ページ目から10ページ読むと、もうとんでもないところに展開している。宮藤さんの脚本は毎回そうなんですが、予測のつかないスリルと、面白さと、なおかつそれが実はギャグではなくて伏線になっている。もうね、舌巻いちゃって、巻き舌になりそうという感じです(笑)」
――3作の中で1番笑いに徹した感があって、小ネタだらけですが、監督と宮藤さんで話し合っていろいろ入れているんですか?
「小ネタっていわゆる映画に不必要なものですよね(笑)。中野英雄さんが4時間かけて『アウトレイジ』的なメイクをしてるのに、横にいる六角精児さんは眉ペンで落書きしたみたいなメイクをしているとか(笑)。あんなのは宮藤さんに相談とかしてないですよ。勝手にやってるんです(笑)。いらないと言えばいらないんですけどね(笑)。『なくもんか』から4年経ち原点帰りしたいというか。『舞妓 Haaaan!!!』よりも笑いに徹して、まだまだ老けこんでないぞというのが見せたくて(笑)。あと、今年の映画ラインナップに爆笑コメディがないなと思って、途中でギアを上げたというのもありますね。原作ものでなくオリジナルなのでいろんなものを足せますし。映画館にいろんな映画があることがお客様にとって良いことだと思うので、笑える映画をひたすら目指そうと思いました」
――登場人物みなさん面白いんですが、セクハラで訴えられる沼田を演じた岡田将生さんが特に新境地を切り開いていますよね。
「あれだけのイケメンですから、なかなかこういう役のオファーは無いらしいです。でも、実は岡田さん以前「近所でパンツ一丁の人が走ってる」と聞いて見に行ったら『なくもんか』の撮影中で、阿部さんが白ブリーフで走ってるのをご覧になっていたらしいんです。それで映画も観ていただいていて。だからか、打診したところ「喜んで!」と快諾してくださいました。「いや~大丈夫ですか? 台本ちゃんと読みましたか? 事務所のチェックは入ってますか? 胸さわったり、おしりさわったりしますよ」と思わず確認してしまいました」
――すごい縁ですね。
「岡田さんは、ホントに撮影の最初のカットからフルスロットルでした。とあるシーンの撮影でこちらは普通に台詞を言うと思っていたところで突然ハイテンションで叫んだり(笑)。あと、プールに飛び込むシーンは12月に撮影していて衣装の下に着るウェットスーツも用意していたんですが「そのままでいい」と言ってバーンと飛び込んで。彼ね、顔がいいだけじゃないんです。ホントにすごいなと思いました。でも「寒いっ!」ってすぐ上がってきましたけどね(笑)」
――では、主演の阿部さんの魅力を教えてください。
「阿部さんの佇まいはずっと変わらないですね。とても謙虚で、シャイ。彼は、その場を取り仕切るタイプの座長ではないですが、みんなの気持ちを惹きつける、人間的な魅力がいっぱいの人です。それが、喜劇の主人公を演じる資格だと思うんですよね。でもそんなこと阿部さんの前では照れくさくて言えないですけどね」
――映画の終盤に出て来るマンタン王国について
「マンタン王国ってシナリオに書いてあっても、それが世界のどの場所にあって、どんな国なのかは何も書かれていなかった。だから、アラブでも東南アジアでもどこでもいいということなんですが、この国をこんな形にしようって辿りつくまでに、結構、時間がかかりました」
――海外で撮るプランも?
「最初は海外で撮るプランもありました。確かにタイや中国など海外で撮ればリアリティがあるかもしれない。でも、それでは反対に具体的な国を特定してしまう。親日感情が豊かにあるが、大事にしているものを傷つけられて謝ってほしいと…。謝ってほしいと思うことがストレートに通じなくて、日本的な謝罪は通じない。だけど、本来、日本人に対しては、悪い感情がベースにはないんだよという、“(少しややこしい)意図”をはっきり伝えられるエキストラさんに集まってほしいということを考えると、国内で撮った方がいいかもということで場所探しを始めたんですよ。意外に身近にありましたね。千葉ですからね(笑)。すごいお手軽な感じしますね(笑)」
――すごい人数のエキストラが参加していますよね。
「衣装や髪の毛などメーキャップをするには前日の夜からじゃないと間に合わないので合宿生活でした。正月開けてすぐの撮影で日照時間が短く、現場でエキストラワークが出来ないので、前年の年末にスタジオに集まっていただきフォーメーション作りのリハーサルをしたり」
――エキストラの方も大変だったんですね。
「ネットで募集をかけてお集まりいただいた方々で、関東圏だけでなく九州や名古屋、関西などいろんなところから来ていただきました。集まった方々の中にいる若い方々は映画を学んでいたり、将来、映画の道に進みたいというような方が多くて意欲がすごかったです。本当にありがたいですね」
――では、最後にメッセージを。
「老若男女、分かる内容だと思います。笑って楽しんでいただいて、テクニックではなく誠意でしか人の心に訴えることは出来ないんだってことをほんの少し感じていただけたらなと思います。“謝罪”というのは、感謝の気持ちを忘れた罪だと思うんです。「ありがとう」という気持ちがあれば、謝る必要がおこるようなことはないんじゃないかな」